今回はMax Romeo & The Upsettersのアルバム

max_romeo_01a

「War Ina Babylon」です。

Max Romeoは初期レゲエの時代から活躍する
シンガーです。
1968年に彼がプロデューサーのBunny Lee
と制作した曲「Wet Dream」は、歌詞が
セクシーな内容で大スキャンダルを引き起こ
し、ジャマイカでは放送禁止、イギリスでも
1回放送されただけで放送禁止になったという
いわくつきの曲なのですが、それがUKの
スキン・ヘッド(不良少年)にウケて、放送禁止
にもかかわらず大ヒットしたという人です。

max_romeo_02a
Max Romeo - Wet Dream

その後はスラックネス(下ネタ)の歌手と
いうイメージが抜け切れずにいた彼ですが、
1976年にLee Perryのプロデュースで
The Upsettersをバックにした「War Ina
Babylon」で、コンシャスな正統派のルーツ
歌手というイメージを得る事に成功。
人気のシンガーとして活動した人です。

アーティスト特集 Max Romeo (マックス・ロメオ)

このアルバムのもう一人の主役Lee Perryに
ついても説明しておきます。
Lee 'Scratch' Perryは60年代後半から
活躍するプロデューサーです。
60年代後半に自身のハウス・バンド
The Upsettersを率いて軽快なインスト・
ナンバーの「スキンヘッド・レゲエ」の
プロデューサーとしてUKで人気となり、
さらにはルーツ・レゲエの時代には自身の
スタジオBlack Arkで数々の名ダブを制作
したり、Max RomeoやThe Congosなどの多く
のアーティストのプロデュースで活躍した
人として知られています。。

彼の作った「Blackboard Jungle Dub」
は、ダブを広めた初期の代表的なダブ・
アルバムのひとつと言われています。

lee_perry_01a
The Upsetters ‎– Blackboard Jungle Dub (1973)

そうしたレゲエのダブというジャンルで
活躍したのが、このLee Perryという
プロデューサーなんですね。

1978年に多くのダブやプロデュースを
したBlack Ark Studioを全焼し、以後は
Black Arkで作った作品ほどのクウォリティ
の作品は作れなくなってしまいますが、今
の時代まで活躍を続けているのがこのLee
Perryという人です。

アーティスト特集 Lee Perry (リー・ペリー)

今回のアルバムは1976年にBlack Ark
Studio時代のLee Perryがプロデュースした、
Max Romeoのアルバムです。

書いたようにそれまで初期レゲエの時代の
「Wet Dream」のイメージが強く、スラック
ネス(下ネタ)のシンガーというイメージに
苦しんだMax Romeoですが、このアルバムで
コンシャス(真面目)なシンガーという
新しいイメージを作る事に成功し、活躍の
幅を広げる事になります。

全9曲で収録時間は約38分。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

All titles written by Lee Perry and Max Romeo
except tarack 2 and track 6 written by Max Romeo

Male Harmony Vocalas: Barry Llewellyn, Earl Morgan
Female Harmony Vocals: Marcia Griffiths, Cynthia Scholas
Recorded and Mixed at Black Ark Studio
Produced andEngineered by Lee Perry
Ilustration: Tony Wright
Back Photograph by Kim Gottlieb

となっています。

プロデュースとエンジニアはLee Perry、作曲
は2曲を除いてPerryとMax Romeoの共同名義
になっており、2曲目「Uptown Babies Don't
Cry」と6曲目「Stealing In The Name Of Jah」
はMax Romeoの単独名義になっています。

残念ながらバックのミュージシャンThe
Upsettersの詳細な記述がありません。

ハーモニーか男性と女性で記されていて、
男性ハーモニーのEarl Morganは The
Heptonesのバック・ヴォーカルのひとり、
女性ハーモニーのMarcia Griffithsは
ソロでも活躍しBob & MarciaやBob Marley
& The Wailersの女性バック・コーラス
I Threeでも活躍しした有名な女性シンガー
です。

印象的な短髪の女性が泣いているイラスト
はTony Wrightという人が担当しています。
この人レゲエの有名なレコードでは、Bob
Marleyの「Natty Dread」やThird Worldの
「Third World」、Lee Perryの「Super Ape」、
Junior Murvinの「Police and Thieves」
などのジャケットを手掛けている人なん
ですね。

Tony Wright (artist) - Wikipedia

third_world_02a
Third World ‎– Third World (1976)

lee_perry_02a
The Upsetters ‎– Super Ape (1976)

junior_murvin_03a
Junior Murvin ‎– Police & Thieves (1977)

さて今回のアルバムですが、ルーツを代表する
アルバムの1枚ですが、内容はやはりかなり
良いアルバムだと思います。

このアルバはどうしてもLee Perryのプロ
デュースという事を強調して語られてしまう
アルバムなんですが、Max Romeoのスラック
ネス(下ネタ)という呪縛をといたアルバム
としても、すごく意味のあるアルバムなん
ですね。

「Wet Dream」でスラックネスのイメージが
付いたMax Romeoですが、実はこのアルバム
の以前にすでに70年以降はコンシャスな
シンガーとして活動していたんですね。
その素直な歌詞ゆえに苦しんだ彼ですが、
これ以降は自分の表現が出来るようになった
ようです。

このアルバムのプロデュースという側面が
強調されますが、実はこのアルバムのLee
Perryは自分の自我を抑えたMax Romeoを
立てたプロデュースで、そこがかえって
このプロデューサーの才能を光らせてい
ます。
自我の強さで語られる事の多いLee Perry
ですが、スキンヘッド・レゲエで人気を
博した初期レゲエの頃はむしろ禁欲的な
プロデュースをしており、このBlack Ark
Studioの時代になるとだいぶ自我が強くは
なるものの、まだ抑制のある音作りをして
いるんですね。
彼が本当に「壊れる」のは、Black Ark焼失
以降の事なんですね。

今回のアルバムではまだ統制のとれた
Max Romeoの歌声を生かした音作りがされて
います。
その期待に応えたMax Romeoの歌の才能も
また光っているんですね。
良いプロデューサーと良い歌手が出会って
初めて出来るアルバム、それがこのアルバム
です。

1曲目は「One Step Forward」です。
出だしの陰影のあるリズム、女性のコーラス・
ワークからのMax Romeoのヴォーカル、全てが
聴くほど胸に迫ってくるような1曲です。
この濃さこそルーツの持つパワーです。

Max Romeo War Ina Babylon 76) 01 One Step Forward


2曲目は「Uptown Babies Don't Cry」です。
浮遊感あるオルガンに明るいホーンのメロ
ディから始まる曲です。
ジックリ歌い込むMax Romeoのヴォーカルも
魅力。

3曲目は「I Chase The Devil」です。
このアルバムの中でも名曲度の高い1曲です。
The Upsettersのもっとも有名なダブ・アルバム
「Super Ape」の中の「Croaking Lizard」に
使われた曲です。
Max Romeoの濃い歌い方が強く印象に残る
1曲。

Max Romeo & The Upsetters - "I Chase The Devil"


マックス・ロメオ(Max Romeo) - Chase The Devil - リリック

4曲目は表題曲の「War Ina Babylon」です。
ユッタリしたリズムの中に、このBlack Ark
だからこそ作り得たサウンドの妙がある1曲。

Max Romeo & The Upsetters - War Ina Babylon


5曲目は「Norman」です。
こちらはヴォーカルの合間に心地良く入る
ホーンが、イイ感じに効いた1曲。
ユッタリしていながら、すごく緊張している
そういう音作りが出来るのが、良い時代の
Lee Perryの凄さです。

Max Romeo & The Upsetters - Norman


6曲目は「Stealing In The Name Of Jah」
です。
こちらはノビノビとしたホーン・セクション
から、高音を生かしたMax Romeoのヴォーカル
が魅力の1曲。
この時代のLee Perryはまだ抑制が効いていて、
シッカリ出しゃばり過ぎない歌手の能力を生か
したプロデュースが出来ています。

Max Romeo & the Upsetters - Stealing in the Name of Jah


7曲目は「Tan And See」です。
こちらはBob Marleyの「No Woman No Cry」を
思わせるような、イントロの曲です。
(おそらくバック・ヴォーカルはMarcia
Griffiths。)
そういう「遊び」も入れながら、ジックリと
聴かせる曲です。

8曲目は「Smokey Room」です。
こちらはトースティングも絡む、かなり複雑
なヴォーカルの1曲。
フルートも絡んだバックのサウンドのただ
ならぬ「気配」が、いかにもBlack Ark。

9曲目は「Smile Out A Style」です。
こちらはギターのリズムに乗せて、シッカリ
歌い込んだ1曲。
この曲も出しゃばり過ぎないプロデュース
が生きています。

Max Romeo & the Upsetters - Smile Out of Style


ざっと追いかけて来ましたが、やはりこの
Black Ark時代のLee Perryは、歌手の個性を
生かそうとした抑制の効いたプロデュースを
心がけています。
それに応えるようにMax Romeoのヴォーカルも、
魅力的な歌声を聴かせています。
そうした両者の魅力が並び立ったアルバム、
それが今回のアルバムなんですね。
このルーツ期の聴くべきアルバムの1枚である
ことは、間違いがないでしょう。

機会があればぜひ聴いてみてください。

JRS#02 Max Romeo - Chase The Devil (acoustic)



○アーティスト: Max Romeo & The Upsetters
○アルバム: War Ina Babylon
○レーベル: Mango
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1976

○Max Romeo & The Upsetters「War Ina Babylon」曲目
1. One Step Forward
2. Uptown Babies Don't Cry
3. I Chase The Devil
4. War Ina Babylon
5. Norman
6. Stealing In The Name Of Jah
7. Tan And See
8. Smokey Room
9. Smile Out A Style

●今までアップしたMax Romeo関連の記事
〇Max Romeo「A Dream」
〇18th Parallel「Downtown Sessions」
●今までアップしたLee Perry (The Upsetters)関連の記事
〇Lee Perry & The Upsetters「Musical Bones」
〇Lee Perry & The Upsetters「Return Of Wax」
〇Lee 'Scratch' Perry「Mr Perry I Presume: Starring Lee Perry as The Upsetter」
〇Upsetters「Blackboard Jungle Dub」
〇Upsetters「Return Of The Super Ape」
〇Upsetters「Super Ape」
〇Jah Lion (Jah Lloyd)「Colombia Colly」
〇Congos「Heart Of The Congos」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Love Thy Neighbour」
〇Mighty Upsetter (Lee Perry)「Kung Fu Meets The Dragon」