今回はThe Viceroysのアルバム

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「Chancery Lane」です。

The Viceroysはレゲエの前身ロックステディ
の時代から活躍する3人組のコーラス・
グループです。
2002年シンコー・ミュージック刊行の本
「Roots Rock Reggae」にはこのグループに
ついて次のような解説文があります。

「キャリアのスタートは60年代末のスタジオ・
ワン。最初は”Voice Roys”と名乗っていた。
70年代に入るとウィンストン・ライリー(テ
クニクス)のもとへインターンズ(Inturnes)
名義で「Mission Impossible」などのヒットを
記録。70年代中期にはスタジオ・ワンに
戻ってまたヴォイス・ロイズ名義で吹き込むと
いうように、レーベルによって名義を使い分け
るという珍しいパターンのグループだった。
(後略)」

The Viceroys以外にもThe Inturnes名義でも
活動しているグループなんですね。

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Inturns ‎– Consider Yourself (1978)

その後も長く活動を続け、近年でもあの
Chinna Smithの「Inna De Yard」シリーズ
のアルバムも残しています。

The Viceroys - Wikipedia

今回のアルバムは1984年にGreensleeves
Recordsからリリースされたアルバムです。
60年代の後半から活躍していたThe Viceroys
ですが、アルバム自体のリリースは遅く82年
にようやくThe Viceroys名義のファースト・
アルバムがリリースされ、翌年83年にセカ
ンド・アルバム、このアルバムがサード・
アルバムという事になります。
78年にリリースされたThe Inturnes名義の
アルバムを入れても4枚目のアルバムなん
ですね。
それだけ遅咲きのグループと言えると思い
ます。

手に入れたのはGreensleeves Recordsから出て
いるLPでした。
CDが出ているかは調べたけれど解りません
でした。

Side 1が4曲、Side 2が5曲の全9曲入りの
アルバムです。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Produced & Arranged by Winston Riley
Recorded & Mixed at Channel One Studio
Mixed by Soldgie
Drums: Sly Dunbar
Bass: Lloyd Parks
Keyboards: Robbie Lyn
Lead & Rhythm Guitar: Dwight Pickney
Percussion: Morvin Brooks
Hornes:
Tenor Sax: Dean Frazer
Trumpet: Dave Madden
Alto Sax: Glen Da Costa
Cover: Tony McDermott

となっています。

プロデュースはTechniquesレーベルの
Winston Rileyで、ミックスはSoldgieが
担当しています。

ミュージシャンで目立つのはドラムのSly
Dunbarです。
叩いているドラムはシン・ドラムらしい
のですが、ビタンビタンとした印象的な
ドラミングを披露しています。

カヴァー・デザインはこの時代のGreensleeves
にジャケを多く担当しているTony McDermott。
Tony McDermottはScientistの「漫画ジャケ」
シリーズでも知られる、ゴチャゴチャっとした
イラストを得意とする人ですが、こうした写真
ジャケでも色遣いに彼らしさがあります。

さて今回のアルバムですが、80年代の
アーリー・ダンスホールの時代に発売された
アルバムですが、内容はとても良いです。
アーリー・ダンスホールらしいスローなリズム
に、Sly Dunbarのビタビタっとしたシン・
ドラム、美しいコーラス・ワークに乗せた
心に響くヴォーカルと、この時代のレゲエの
魅力をうまく伝えるアルバムに仕上がっている
と思いました。

シンコー・ミュージックの本「Roots Rock
Reggae」にはこのアルバムについて、「智」
さんという方の文章で、次のような事が書か
れていました。

「ルーツ・ロック・レゲエとダンスホール・
レゲエ、その流行の狭間に残されて、どうも
印象が薄くなってしまいがちな不遇なヴォー
カル・トリオ作品だが、内容はけっして悪く
ない。ウィンストン・ライリーのプロデュース、
スライのシン・ドラムをフィーチャーした
グルーヴ感のあるなめらかにウネるサウンド
に、腰の重いルーツ・レゲエ・ヴォーカルと
いう組み合わせ。…(後略)」
(「Roots Rock Reggae」より「智」さんと
いう方のアルバム評より。)

ある意味ちょっと不遇なイメージのある
グループのようですが、長年培って来た実力
とそのグルーヴ感は、聴く者を魅了する力が
あります。

またSly Dunbarを中心としたバックの演奏
も、大きな注目点です。
この80年代前半のアーリー・ダンスホール・
レゲエの時代になると、Style Scottの特徴的
なワン・ドロップのリズムを武器とした
Roots Radicsがバック・バンドとして大活躍
するんですが、Sly Dunbarのドラミングはもう
少し滑らかで、要所を押さえた演奏という印象
です。
そのRoots Radicsとの違いも、このアルバムの
面白さなんですね。

このThe Viceroysというグループのアルバム
ですが、こうした良い時代のアルバムがすごく
手に入りにくくなっている印象です。
今回のアルバムも聴いてみるとすごく内容が
良いのに、CDでは売られているのを見た事
が無いし、他この時代ののアルバムもあまり
売っていないんですね。
他のこうしたグループにも言える事ですが、
レゲエの良いアルバムが手に入りにくく
なっている現状はとても残念に思います。

ルーツ・レゲエとデジタルのダンスホール・
レゲエに挟まれて見過ごされがちですが、
この80年代前半のアーリー・ダンスホール・
レゲエはレゲエがもっとも成熟した時代で、
かなり面白い時代なんですね。
そういう面白い時代のレゲエが聴けなくなり
つつある現状には、危機感を覚えます。

Side 1の1曲目は「Take Care Of The Youths」
です。
いきなりトビ音のシン・ドラムから始まる曲
です。
このビタッビタッとしたワン・ドロップの
ドラムに乗せた、しゃがれたヴォーカルが
最高に心地良い1曲です。

THE VICEROYS - Take care of the youths (1984 Greensleeves)


2曲目は「Crime Don't Pay」です。
こちらはしっとりとしたヴォーカルと
コーラス・ワークで聴かせる曲です。
こうした陰影のあるメロディ・ラインが、
いかにもこの時代のダンスホール・レゲエ
らしいところ。

Viceroys - Crime Don't Pay - 84


3曲目は「Push Push」です。
こちらもシン・ドラムが効いた演奏に、陰影
のあるヴォーカルとコーラス・ワークが素晴
らしい曲です。

The Viceroys - Push Push


4曲目は「Tears Are Falling」です。
ホーン・セクションのイントロから、感情の
入ったヴォーカルが魅力の1曲。
途中の泣きのサックス・ソロ(Dean Frazer?)
も良い味を出しています。

Side 2の1曲目は「New Clothes」です。
ホーンのメロディにユッタリしたギターも
心地良い、グルーヴ感タップリの1曲。
微妙にルーツの香りを残しているところも、
このグループの魅力かもしれません。

Viceroys - New Clothes.wmv


2曲目は「Voice Like Thunder」です。
こちらはシンセか何かのメロディに乗せた曲
です。
そのあたりによくダンスホールの空気感が
出ていますが、ブレないヴォーカルとコー
ラス・ワークというところが、このグループ
の強みなのかもしれません。

The Viceroys - Voice Like Thunder


3曲目は「Life Is Not An Easy Game」です。
こちらもシンセらしい飛び音の入った曲です。
「人生は簡単なゲームではない」というタイ
トルからは、まだルーツの香りを感じます。
明るく歌いこなすところがレゲエ流のヤリ方
です。

4曲目は「Chancery Lane」です。
シン・ドラムのトビ音からギター・ソロ、
シブいヴォーカルにコーラス・ワーク、この
グループの持つ魅力がうまく詰め込まれた
1曲です。

5曲目は「Return」です。
こちらもトビ音のシン・ドラムから、シットリ
と歌い込むヴォーカルが心に沁みる1曲です。

The Viceroys - Chancery Lane - Return


ざっと追いかけて来ましたが、このコーラス・
グループThe Viceroysのしたい音楽は、どんな
に時代が変わろうとそれほど変わっていないん
ですね。
それがこのグループが長きにわたって活躍
出来た、一番の理由だと思います。

そうしたグループの個性に、うまくアーリー・
ダンスホールの色を盛り込んだWinston Riley
の手腕もさすがです。
この時代の空気感があるからこそ、彼らの輝き
もより増しているんですね。
変わらぬものと変わるもの、その両方が一致
してこそ素晴らしいものが生まれる、そういう
プロデュースをこの人はしています。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: The Viceroys
○アルバム: Chancery Lane
○レーベル: Greensleeves Records
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1984

○Viceroys「Chancery Lane」曲目
Side 1
1. Take Care Of The Youths
2. Crime Don't Pay
3. Push Push
4. Tears Are Falling
Side 2
1. New Clothes
2. Voice Like Thunder
3. Life Is Not An Easy Game
4. Chancery Lane
5. Return

●今までアップしたViceroys関連の記事
〇Viceroys「At Studio One: Ya Ho」
〇Viceroys「Ghetto Vibes」
〇Viceroys「Inna De Yard」
〇Viceroys「We Must Unite」