今回はThe Upsettersのアルバム

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「Super Ape」です。

The Upsettersはレゲエのプロデュサーとして
よく知られているLee Perryのハウス・バンド
です。

60年代後半からレゲエのプロデューサーと
して活躍し始めたLee Perryは、The Upsetters
を率いて軽快なインスト・ナンバーの「スキン
ヘッド・レゲエ」のプロデューサーとしてUK
で人気となり、さらにはルーツ・レゲエの時代
には自身のスタジオBlack Arkで数々の名ダブ
を制作したり、Max RomeoやThe Congosなどの
プロデュースで活躍するんですね。

彼の作った「Blackboard Jungle Dub」は、
ダブを広めた初期の名ダブのひとつと言われ
ています。
そうしたレゲエのダブというジャンルで活躍
したのがこのLee Perryというプロデューサー
なんですね。

アーティスト特集 Lee Perry (リー・ペリー)

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The Upsetters ‎– Blackboard Jungle Dub (1973)

今回のアルバムは1976年に発表された
The Upsetters名義のダブ・アルバムです。
おそらくルーツ・レゲエの時代のレゲエが
好きで、このアルバムの事を知らないという
人はまず居ないんじゃないかと思われるほど
有名なアルバムです。
多くの人がダブやLee Perryといえばこの
アルバムを思い出すほど、レゲエの歴史の中で
金字塔的な位置にあるのがこのアルバムなん
ですね。

私自身もこのアルバムは、レゲエをはじめに
聴いていた20代の頃に聴いていて、おそらく
このアルバムが発売されてしばらくしたぐらい
にLPで買っています。

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The Upsetters ‎– Super Ape (LP)

再びレゲエを聴き始めた6年前ぐらいと較べ
れば、当時はそれほど深く聴いていた訳では
無いのですが、当時もっとも衝撃を受けた
レゲエのアルバムのひとつがこの「Super Ape」
だった事は間違いがありません。

全10曲で収録時間は38分28秒。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Rhythm Sction:
Bass: Boris Gardener
Drums: Mickey, Benbow
Guitar: Earl Smith
Piano: E. Sterling
Percussion: Lee Perry
Congas: Lee Perry, Skullying

Horns Section:
Bobby Ellis, Dirty Harry, H. Marquis, Vin Gordon
Flute: E. Evans

Engineer: Lee Perry
Recorded at Lee Perry's Studio

All tracks written and produced by Lee Perry

となっています。

The Upsettersのメンバーは「Rhythm Sction」
と「Horns Section」に分かれて記載されて
います。
「Horns Section」に記載されているVin
Gordonは、Lee Perryの「インスト3部作」の
ひとつと言われる「Musical Bones」でも
素晴らしいプレイを聴かせているトロンボーン
奏者です。

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Lee Perry & The Upsetters ‎– Musical Bones (1975)

すごく印象的なジャケット・デザインですが、
誰が書いたのかCDには記載はありません。
そこで若い時に買ったLPの方も調べてみた
ところ、ありました!

Illusratin Tony Wright

と書かれていました。
Tony Wrightという人がこのイラストを書いた
人のようです。
右手に太いマリファナ煙草、左手に樹木を持った
巨大猿人のこのイラストは、このルーツ・レゲエ
の時代の名ジャケのひとつだと思います。

さて今回のアルバムですが、販売サイトの
アルバム評でも「最高傑作盤!」とか「傑作中の
傑作!」、「ダブの大名盤」などの言葉が並ぶ
アルバムで、逆にクサしてやろうかと思うほど
なんですが(笑)、やっぱり聴いてみるとこれが
ケナしようの無いほど凄いアルバムなんですね。
おそらく当時と較べても音楽自体も進化している
ので、インパクトは以前よりも感じないかも
しれませんが、このLee Perryという人の
イメージの豊穣さは今聴いてもけっして色褪せる
事はありません。

このBlack Ark時代の彼の作品は、音楽と彼の
イメージが高い地点で融合した作品群であること
は否定が出来ません。
彼のカラフルなイメージが、レゲエに限らず
音楽の世界そのものを塗り替えて行った事は
否定が出来ない事実です。
特に今回のアルバムは多くの人が認めるように、
彼のイメージがもっとも結実した作品のひとつ
だと思います。

2002年シンコー・ミュージック刊行の本
「Roots Rock Reggae」には、このアルバムに
ついて「石川」さんという方の文章で、次の
ように書かれています。

「鬼才、変人、ブッ飛び等のパブリック・イメー
ジを彼の音楽に結びつけることに、この際”否”
を突きつけたい。自分の想像力の欠如を他人に
押し付けるのはいい加減止めにしよう。このアル
バムを聴いてみれば、いかにクールに彼が音楽と
対峙していたかバカでも認識できる。このサウン
ドは自由と抑制の両方を完全にコントロールして
作り上げられたもので、彼本人の世界観、音楽観
を実現する為にはその事は必要不可欠だったの
だ。」
(「Roots Rock Reggae」より「石川」さんと
いう方のアルバム評より。)

このアルバムを制作したのちもLee Perryは
自分のスタジオBlack Arkで素晴らしいアルバム
を量産しますが、このアルバムの続編
「Return Of The Super Ape」を作り上げた後の
79年に、スタジオを火事で失ってしまうん
ですね。

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The Upsetters ‎– Return Of The Super Ape (1978)

今ではスタジオの配線からの出火と言われている
ようですが、当時はその奇人ぶりからマリファナ
の吸い過ぎで気が狂ってスタジオに放火したなど
と言われていました。
彼の奇人ぶりは当時から有名だったんですね。

ただこの文章で書かれているように、Lee Perry
の音楽はただ感覚だけで作られている訳では
無く、ちゃんと抑制された理性や思考力から
その音楽が構築されている事は間違いあり
ません。
言い方を変えれば、もっとも狂気に近いところに
身を置きながらも理性がシッカリとコントロール
した音作りをしているんですね。
この時代のLee Perryの音楽にはその極限、
ハード・エッジなギリギリの最先端に立っている
ような、危うい魅力があります。
その魅力がもっとも結実したのが、今回の
アルバムという訳です。

1曲目は「Zion's Blood」です。
イントロの口笛から心地良い打楽器を中心とした
リズム、「超猿人世界」の入り口の曲として
多くの人が覚えている曲です。

Lee Perry and The Upsetters - Super Ape - 01 - Zion's Blood


2曲目は「Croaking Lizard」です。
トースティングを中心とした曲です。
いかにもLee Perryらしいエフェクト使いの
ウマさが魅力。

Lee Perry - Croaking Lizard


3曲目は「Black Vest」です。
どんどんドープな世界へと堕ち込んで行くよう
なエフェクト使いも素晴らしい1曲です。
普通ではしないような遠くで鳴り響くような
ホーン、Lee Perryの「罠」の仕掛け方の巧み
さが光ります。

4曲目は「Underground」です。
こちらは女性コーラスを中心とした、ちょっと
催眠効果のあるような1曲です。
こうした力を奪われ繰り人形のように操られる
感覚がタマリません。

Lee Perry and The Upsetters - Super Ape - 04 - Underground


5曲目は「Curly Dub」です。
印象的なフルートから始まる曲です。
Vin Gordonと思われるスモーキーなトロンボーン
が異世界へ誘います。

Lee Perry and The Upsetters - Super Ape - 05 - Curly Dub


6曲目は「Dread Lion」です。
印象的なメロディカの誘い込まれるような
リピートから、男性コーラスやフルートなど
が徐々にディープな深みへ深みへと誘い込む
ような曲です。
堕ちて行く感覚がタマリません。

Dread Lion - Lee "Scratch" Perry & The Upsetters


7曲目は「Three In One」です。
こちらはギターの軽快なフレーズに乗せた、
少し明るい曲です。

8曲目は「Patience」です。
奥行きのある音作りの曲です。
遠くで聞こえる意味不明の言葉…。
音のジャングルで彷徨うような曲です。

9曲目は「Dub Along」です。
落ち着いたピアノのメロディから女性
ヴォーカル。
淡々としていながらザワザワ…(笑)。

10曲目は表題曲の「Super Ape」です。
コーラスにピアノのメロディ、単調な笛、
男性ヴォーカル、ひとつひとつはバラバラな
ようで、全てがまとまるとこのLee Perryの
「超猿世界」になります。

Lee Perry - Super Ape


ざっと追いかけて来ましたが、今回あらためて
この有名なアルバムを聴き直してみると、この
アルバムがかなり計算された独特のヘヴィーさ
を持ったアルバムである事がよく解りました。

一見ユルく単調なメロディを繰り返しながら
どんどん呪術的な深みに引きずり込まれる
ような節が名感覚がこのアルバムにはあります
が、それはこのLee Perryという人の仕組んだ
巧みな罠で、陶酔しながらもすごく冷静に
見つめられているような冷たい視線が実は
存在する、それがこのアルバムなんですね。
狂気と正気、陶酔と冷静、そうした相反する
ものが混然一体となった魅力がこのアルバム
にはあります。

それはただ感覚的に熱狂しているだけでは、
絶対に作れないものなんですね。
呪術的な魅力がありながら知性的、それが
このアルバムの本当の魅力なんですね。
この時代のLee Perryが本当に素晴らしい
プロデューサーだった事は、このアルバムが
証明しています。

残念ながら夢のスタジオBlack Ark焼失後は、
まるで神通力を失ったかのように、あるいは
何かが壊れてしまったかのように、Lee Perry
はBlack Arkで作ったような高いテンションの
作品が作れなくなってしまいます。
ただ彼が作ったBlack Arkでの作品群は、今も
私たちレゲエを聴く者達にとっては大切な宝物
なんですね。
このアルバムはその宝物の中でも、とびきりの
宝物のひとつです。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: The Upsetters
○アルバム: Super Ape
○レーベル: Mango
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1976

○The Upsetters「Super Ape」曲目
1. Zion's Blood
2. Croaking Lizard
3. Black Vest
4. Underground
5. Curly Dub
6. Dread Lion
7. Three In One
8. Patience
9. Dub Along
10. Super Ape

●今までアップしたLee Perry (The Upsetters)関連の記事
〇Lee Perry & The Upsetters「Musical Bones」
〇Lee Perry & The Upsetters「Return Of Wax」
〇Lee 'Scratch' Perry「Mr Perry I Presume: Starring Lee Perry as The Upsetter」
〇Upsetters「Blackboard Jungle Dub」
〇Upsetters「Return Of The Super Ape」
〇Max Romeo & The Upsetters「War Ina Babylon」
〇Jah Lion (Jah Lloyd)「Colombia Colly」
〇Congos「Heart Of The Congos」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Love Thy Neighbour」
〇Mighty Upsetter (Lee Perry)「Kung Fu Meets The Dragon」