今回はScientistのアルバム

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「World At War」です。

ScientistことOverton Brownは、ミキサーや
ダブのクリエイターとして活躍した人です。
70代の後半にミックスやダブのスペシャリスト
King TubbyのスタジオKing Tubby'sで助手として
キャリアをスタートさせた彼は、そこで頭角を
現し、80年代のダンスホール・レゲエの時代に
なるとVocanoレーベルのHenry 'Junjo' Lawes
プロデュースの「漫画ジャケ・シリーズ」など
で人気のダブのミキサーになるんですね。
70年代のルーツ・レゲエの時代のダブとは
また一味違った、80年代のダンスホール・
レゲエのダブを創造したミキサーとして知られ
ています。

アーティスト特集 Scientist (サイエンティスト)

今回のアルバムはオリジナルは、1981年
にアメリカのBlack Ovation Recordsという
ところから発売されたダブ・アルバムです。
ネットの販売サイトなどの情報によると、
元になったアルバムはJimmy Rileyの「Put
The People First」というアルバムで、
プロデュースもJimmy Rileyが手掛けていて、
バックはSly & Robbieを中心としたメンバー
というアルバムです。

手に入れたのはDUB MIRというレーベルの
LP+CDという2つのメディアで聴ける
アルバムで、今年2016年にこのScientist
のダブ・アルバム3枚がLP+CDで発売
された中の1枚でした。

ちなみに他に同じ81年発売のダブ・アルバム
「Dub Landing」と「In Dub Volume 1」の2枚
が発売されています。

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Scientist ‎– Dub Landing (1981)

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Scientist ‎– In Dub Volume 1 (1981)

ネットのDiscogsなどで見ると、このScientist
はこの80年代前半の活躍がすごく目立つ人
なんですね。
彼名義のアルバムは80年頃から出始めて、
この81年は共同名義のアルバムも含めると
10枚以上のもっとも多い彼名義のアルバム
が発売されています。
その翌82年も次に多い枚数のアルバムが、
発売されているんですね。
ところが84年を過ぎると彼名義のアルバム
が、90年になるまでパッタリと無くなるん
ですね。

その後はまたボチボチとリリースされるように
なるんですが、何故一時期アルバムがリリース
されなくなったのか?
ハッキリとは解りませんが、どうもその時期は
デジタルのダンスホール・レゲエが大流行した
時期なので、その事が関係しているような気が
します。
彼のKing Tubby'sでの兄弟子Prince Jammy改め
King Jammyが引き起こした、デジタルのダンス
ホール・レゲエ「コンピューター・ライズド」
の大流行は、それまでのレゲエを根底から変えて
しまうような大変革をもたらすんですね。
その流れにScientist自身が追いていけない
ところがあったのかも…。

ただ見過ごされがちですが、そのScientistが
King Jammyが以前にレゲエという音楽の質を
変える先鞭をつけ、ダンスホール・レゲエという
新しいレゲエで光り輝く存在であったのは間違い
のない事実です。
特にこの81年は単に多くのアルバムを制作して
いるというだけではなく、「漫画ジャケ・シリー
ズ」の代表作「Scientist Meets The Space
Invaders」と「Scientist Rids The World Of The
Evil Curse Of The Vampires」などをリリース
している年であり、彼がもっともミキサーとして
充実した年であったのは間違いありません。

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Scientist ‎– Scientist Meets The Space Invaders (1981)

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Scientist ‎– Scientist Rids The World Of The Evil Curse Of The Vampires (1981)

全10曲で収録時間は33分36秒。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Musician:
Drums: Sly Dunbar, Lester Ming
Bass: Robbie Shakespear
Organ: Winston Wright
Percussion: Sky Juice, Scully
Guitar: Binkey Brice, Mikey Chung, Rad Bryan
Trumpet: Clive Hunt
Sax: Dean Frazer
Trombone: Nambo

Remastered by Hopetown Overton Brown

となっています。

表記はありませんが、プロデュースはJimmy
Riley、録音はChannel One、ジャケットの
デザインはLeslie A. Mooreという事が、
ネットのDiscogsなどに書かれていました。

さて今回のアルバムですが、やはり一番勢い
のあった時期のScientistとあって、内容は
悪くありません。
ScientistというとRoots Radicsとの組み
合わせが多い人ですが、今回はSly & Robbie
を中心としたメンバーというところが、この
アルバムの注目点です。

今回発売された他の2枚のアルバムはいずれも
バックがRoots Radicsで、その2枚と聴き
較べると同じワン・ドロップのリズムでも
ドラムやベースが微妙に違う印象があります。
Roots Radicsの演奏が硬いガシッとしたワン・
ドロップなのに対して、今回のワン・ドロップ
の演奏はもう少しまろやかな演奏なんですね。
ファースト・インプレッションはRoots Radics
の方が強いですが、今回のアルバムはそれは
それで悪くはなく、聴けば聴くほど味の出て
来る演奏といった感じです。
飽きの来ないドシッと落ち着いた演奏なん
ですね。

今回のアルバムは「世界戦争」というのが
テーマになっているようで、イラクやエチオ
ピア、ジンバブエやイランという地名が、曲の
タイトルに使われています。
これらは当時戦争のあった地域なんでしょうか?
イラクやイランという中東が入っているのが、
何か暗示的ですね(苦笑)。

1曲目は「Invasion Of Iraq」です。
「イラクの侵入」と題された曲です。
もうこの80年頃から中東には、不穏な空気が
あったんですね。
ピアノとベースを中心としたワン・ドロップの
曲です。
このアーリー・ダンスホールの時代になると、
薄い音が好まれたのかだんだん管楽器が使われ
なくなり、ダブも必然的にベースを中心とした
ダブになって行くんですね。
今回のアルバムでもRobbie Shakespearのベース
を中心とした、ワン・ドロップのダブが多く
収められています。
やはりRobbie ShakespearとFlabba Holtの
ベースでは、微妙にサウンドが違うんですね。

Scientist - Invasion of Iraq


2曲目は「Ethiopa Rock」です。
こちらはベースの刻むリズムを中心としたダブ
です。
ズンと重いベースの音にうまく表情を付けて
います。

3曲目は「Lam's Dub」です。
こちらはベースを主体に、エコーのかかった
ドラムにピアノ、ヴォーカルなどで表情を
付けた曲です。

4曲目は「Zimbabwe Dub」です。
こちらもずっしりと重いベースに、ピアノなど
で表情を付けたダブです。
スローでゆったりとしたリズムに、エコーの
効いたドラムにピアノ、ディープな世界観が
魅力です。

Scientist - Zimbabwe Dub


5曲目は「Dub Ovation」です。
こちらはSound Dimensionの「Rockfort Rock」
のリディムを使った1曲。
ロックステディの時代のキレのあるリズムに
乗せた、ホーンも入った魅力的な曲です。

Scientist - Dub Ovation


(ここからはLPではSide Bとなります。)

6曲目は「United Jam Dun」です。
派手なドラミングから、こちらもベースを主体
とした渋いダブです。
Scientistのエフェクト使いのウマさも光ります。

DUB LP- WORLD AT WAR - SCIENTIST - United Jam Dun


7曲目は「Jah Instruction」です。
こちらもベースを中心とした曲ですが、ちょっと
ユーモラスさも感じる様なオルガンのメロディが
流れる浮遊感のある曲です。

8曲目は表題曲の「World At War」です。
重いベースを中心としたダブです。
時折入るピアノがうまくニュアンスを付けて
います。

9曲目は「Iran Revolution」です。
「イラン革命」と題された曲です。
遠くで鳴り響くようなヴォーカル、リズミカル
なメロディと、ベースを中心としながらも
うまく彩りを添えた曲です。

10曲目は「Monkey Spanner」です。
リズミカルなメロディに乗せたダブです。

Scientist - Monkey Spanner


ざっと追いかけて来ましたが、曲調にもヴァラ
エティがあり、内容は悪くないと思います。
この時代になるとSly & RobbieもRoots Radics
に寄せた演奏をしている感もありますが、それ
でも自分たちの個性もしっかりと盛り込んで
いるのはさすがなところです。
聴けば聴くほど味が出る、そういう演奏が出来る
のも彼らSly & Robbieの強みなんだと思います。
その個性をうまく生かしてミックスしている
のも、この時代のScientistの魅力。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Scientist
○アルバム: World At War
○レーベル: DUB MIR
○フォーマット: LP+CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1981

○Scientist「World At War」曲目
1. Invasion Of Iraq
2. Ethiopa Rock
3. Lam's Dub
4. Zimbabwe Dub
5. Dub Ovation
6. United Jam Dun
7. Jah Instruction
8. World At War
9. Iran Revolution
10. Monkey Spanner


(2016年7月16年追記)
今回のダブ・アルバムの元となったJimmy Riley
のアルバム「Put The People First」をLPで
手に入れました。
ジャケットはこんな感じです。

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Jimmy Riley - Put The People First (1982)

このアルバムとScientistのダブを聴き比べて
みたのですが、どうも曲が一致しません。
ネットではこのアルバムがこのダブの元のアルバム
と書いてありましたが、ミックスにもScientist
の名前が無く、どうやら間違った情報だったよう
です。
バックのメンバーがほぼ同じだったので勘違い
したものと思われます。

●今までアップしたScientist関連の記事
〇Scientist vs Prince Jammy「Big Showdown」
〇Scientist With Force Of Music「International Heroes Dub」
〇Scientist_ Hempress Sativa「Scientist Meets Hempress Sativa In Dub」
〇Scientist, Roots Radics「Scientist Meets The Roots Radics」
〇Scientist, Prince Jammy「DC Dub Connection」
〇Scientist「...The Dub Album They Didn't Want You To Hear!」
〇Scientist「Dub In The Roots Tradition」
〇Scientist「Dub Landing」
〇Scientist「Encounters Pac-Man At Channel One」
〇Scientist「Heavy Metal Dub」
〇Scientist「Heavyweight Dub Champion」
〇Scientist「In Dub Volume 1」
〇Scientist「In The Kingdom Of Dub: The Legendary Original Album From 1980 Plus Nine Previously Unreleased Bonus Tracks」
〇Scientist「Jah Life In Dub」
〇Scientist「Meets The Space Invaders」
〇Scientist「Rids The World Of The Evil Curse Of The Vampires」
〇Scientist「Scientific Dub」
〇Scientist「Wins The World Cup」
〇Various「Rubadub Revolution: Early Dancehall Productions From Bunny Lee」