今回はThe Sons Of Negusのアルバム

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「A Psalm Of Praises To The Most High 1967-1972」です。

The Sons Of Negusは一般的にはRas Michael &
The Sons Of Negusとして知られる、レゲエの
中でも特にコアな「ナイヤビンギ」を演奏する
グループとして知られています。
この「ナイヤビンギ」は当時のレゲエのミュージ
シャンに多かったラスタファリアンの集会音楽
で、打楽器を中心とした瞑想に誘うような音楽
です。
そうしたラスタファリズムに身を捧げた、コアな
音楽を演奏するグループのひとつが彼らだった
んですね。

Ras Michael - Wikipedia

今回のアルバムは2016年に日本のDub Store
Recordsから発売されたアルバムで、タイトルに
「1967-1972」とあるように、1967年から
72年までのThe Sons Of Negusのジャマイカの
Zion Discというレーベルから発売された、
わずか少数しかリリースされなかったシングル盤
を集めたアルバムという事だそうです。

67年から72年というとジャマイカではまだ
ロックステディが流行していた時代から初期
レゲエという時代で、レゲエが世界に認められる
以前の時代の貴重な音源という事になります。
アルバムに付いていた帯には次のような言葉が
書かれています。

「キング・ニガス(ラス・マイケル)、60年代
ナイヤビンギ・ミュージックの極みここにあり!
わずかにプレスされジャマイカ国外に出ることが
決してなかった15曲の輝きしザイオン・ディス
ク・シングル全て収録」

当時はRas Michaelはキング・ニガス(King
Negus)と名乗っていたようです。

ジャマイカ国外に出る事の無かった音源の国外
初のリリースというのはスゴイですが、この
アルバムのリリースの記事をレゲエレコード・
コムで初めて見た時には、正直このアルバム
買う人居るのかなぁ?と思うほどでした。
このDub Store Recordsのリリースってとても
内容の良さそうなものが多いんだけれど、
ちょっとポピュラリティーにかけるかなと思う
リリースもけっこうあるんですよね。

そうした疑問もあったので、このアルバムを
新宿のDub Storeに買いに行った際に店員さん
に「このアルバム、かなりマニアックだけど
売れるんですか?」と、直接聞いてみました。
そうしたところ国内ではあまり売れないアルバム
もあるそうなんですが、海外などではけっこう
買ってくれるんだそうです。
なるほど!海外も視野に入れた販売だったん
ですね。
日本だけでは売れなくても海外まで視野に
入れれば、それなりに商売として成り立つ
ようです。
このDub Store Records、今残っているレゲエ・
リイシュー・レーベルの中でもPressure
Soundsと並んで素晴らしいリイシューをして
いるレーベルのひとつです。
こうしたレーベルには頑張って長くリイシュー
を続けてもらいたいですね。
それにしてもジャマイカの音楽レゲエが、
イギリスや日本やフランスやドイツといった
海外のリイシュー・レーベルに支えられている
というのは面白いところですね(笑)。

ちなみに今回のアルバム、某大手レコード・
チェーン店からはアルバムを置くのを断われた
そうです。
こういうアルバムを置く事こそ、レコード業界
の発展につながると思うんですけどねぁ…。
そんな事だと「No Music No Shop」になっちゃい
ますよ(笑)。

ちなみにRas Michael & The Sons Of Negus
関連のアルバムのリリースでは、1974年に
The Sons Of Negus名義で「Freedom Sounds」
というアルバム、同年にDadawah名義で「Peace
And Love: Wadadasow」というアルバムが出て
いるのが、もっとも早いアルバムのリリースと
思われます。

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The Sons Of Negus ‎– Freedom Sounds (1974)

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Dadawah – Peace And Love: Wadadasow (1974)

それ以前のRas Michael & The Sons Of Negus
の活動が解るアルバムとしてみても、また
早い時期のナイヤビンギのアルバムとしても
今回のアルバムは貴重なリリースなんじゃない
でしょうか。

Dub Store Recordsよりラス・マイケル(Ras Michael)の最初期の ...

全15曲で収録時間は45分58秒。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

Produced by Sons Of Negus
Recorded in Kingston Jamaica

という表記があるのみです。

このあたりはそのシングル盤を見つけて来る
だけでも大変な音源なので、致し方ないところ
か。
帯にあるようにKing NegusことRas Michaelが
参加していたのは間違いなさそうです。

ちなみにThe Sons Of Negus名義の「Freedom
Sounds」には次のような名前があります。

Vocal, 1st Repeater: Ras Michael (Testa Zion)
Percussion, Bass Drum: Ras Martin (I Marts)
1st Founder: Alvin Hewitt (I Jack)
String Bass: Paul Drysdall (Paulie)
Lead Guitar: Chinna
Harmony Voices: Brother Thomas (Jat), Brother Leroy
2nd Guitar: Bro Rupert McFarlane
Solo Guitar: Bro Clarence
Percussion: Jacob I, Jah D

今回のアルバムの一番新しい曲から2年以上
経ってからのアルバムなので、参考程度に
見ておいてください。
このアルバムの頃にはRas MichaelはTesta Zion
という別名も使っています。
同年のDadawah名義のアルバムも彼個人の
名義とも考えられるので、King Negusや
Testa Zion、Dadawahなど様々に名前を変え
て、Ras Michaelに落ち着いたのかなと思い
ます。

またこの「Freedom Sounds」には、リ-ド・
ギターにChinnaことEarl 'Chinna' Smith
の名前があります。
ジャケットの左端にはまだ短髪でピンクの
シャツを着てギターを持った'Chinna' Smith
の姿も写っています。
今回のアルバムにこのChinnaが参加して
いるかは解りませんが、意外とこのRas
MichaelのアルバムにはよくChinnaが
参加しているんですね。

さて今回のアルバムですが、これが意外なほど
に面白いアルバムなんですね。
ナイヤビンギというのはレゲエでも特にコアな
ジャンルで多くの人が聴くジャンルではないん
ですが、それゆえの独特の世界があり、かなり
面白いアルバムに仕上がっています。

このThe Sons Of Negusの中心人物Ras Michael
という人ですが、聖と俗を併せ持つ面白い
個性の持ち主なんですね。
彼の場合その聖の部分がよく出たアルバムは
すごくピュアで聴きごたえのある内容になる
んですが、俗の部分が強く出たアルバムは
何となく下心が見えてしまってイマイチ面白く
ない、そういう人なんですね。
今回のアルバムではそうした彼の聖の部分が
よく出ていて、聴き心地の良いアルバムに
なっています。

1曲目は「Run Come Rally」です。
初期レゲエらしい硬いドラミングと刻むような
ギターのリズムに乗せた曲です。
メインは女性ヴォーカルでそれに寄り添うような
Ras Michaelのヴォーカル。
そのデュエットが何とも言えないグルーヴ感の
ある美しい世界を作り上げています。

Negus Churchical Host (Feat.Ras Michael) - Run Come Rally


ちなみにこの曲74年のDadawah名義のアルバム
「Peace And Love: Wadadasow」にも1曲目に
入っています。
ただこちらは後の再演のようで、女性ヴォーカル
が無くRas Michaelのヴォーカルの曲になって
います。

2曲目は「Zion We Want To Go」です。
笛の値のイントロがらオルガンのメロディに
乗せたいかにもビンギという空気感を持った
インスト・ナンバーです。
YouTubeのこの曲の記述を見ると1968年の曲
らしいですが、完成度が素晴らしい1曲です。

RAS MICHAEL & THE SONS OF NEGUS - Zion We Want To Go [1968]


3曲目は「Ethiopian National Anthem」です。
ギターとパーカッションのイントロから
Ras Michaelの伸びのあるヴォーカルが魅力の
曲です。

4曲目は「All Ye Saints」です。
オルガンのメロディとパーカッションに乗せた
Ras Michaelのヴォーカルが冴える1曲です。
重厚なバックの打楽器が独特の世界観を構築
しています。

RAS MICHAEL & THE SONS OF NEGUS - All Ye Saints [1968]


5曲目は「Come Down」です。
こちらはギターと打楽器に乗せた1曲。
リズムを刻むギターが印象的な曲です。

Sons Of Negus Churchical Host - Come Down (Zion Disc blank)


6曲目は「Lion Of Judah」です。
こちらはパーカッションを中心に、Ras Michael
のヴォーカルとコーラス、そしてギターなどが
一体となったグルーヴ感を生みだしている曲
です。
どうやら1967年の曲のようですが、完成度が
素晴らしいです。

SONS OF NEGUS CHURCHICAL HOST - Lion of Judah 1967


7曲目は「Take Your Bible And Read It」です。
ヴォーカルに女性コーラス、打楽器、そして
オルガンとすべてが一体となった、素晴らしい
グルーヴ感に包まれているような曲です。
この世界観はかなり強烈です。

SONS OF NEGUS - TAKE YOUR BIBLE & READ IT


8曲目は「Run Agressors Run」です。
Ras Michaelと思われる語りから、打楽器に乗せた
Ras Michaelのヴォーカルとギター。
いかにもナイヤビンギという世界観を持った曲
です。

9曲目は「Volunteer Ethiopians」です。
伸びのあるヴォーカルからコーラス・ワーク、
打楽器のリズムへと展開して行く曲です。
ユッタリしたリズムに乗せた心地良いコーラス・
ワーク、レア・グルーヴ感たっぷりの1曲。

10曲目は表題曲にもなっている「A Psalm
Of Praises To The Most High」です。
打楽器のリズムに乗せた語りに近いヴォーカル、
ギターの音色が独特の世界に誘います。

11曲目は「Rejoice」です。
こちらもレア・グルーヴ感たっぷりの打楽器に
乗せたヴォーカルにコーラス・ワークといった
曲です。

12曲目は「Salvation」です。
こちらの打楽器から入る曲で、ソフトにユッタリ
と入って来るRas Michaelのヴォーカルが瞑想
空間に誘うような曲です。

13曲目は「King's Highway」です。
こちらも打楽器にタンバリンギターといった
ところがバックを務める曲で、ソフトなRas
Michaelのヴォーカルに徐々に惹き込まれて
行ってしまうような曲です。

Sons of Negus Churchical Host (Ras Michael) - King Highway


14曲目は「Time Is Drawing High」です。
こちらも打楽器からMichaelのヴォーカル
へと展開する曲です。
かなり印象的なギターの挿入があります。

15曲目は「There Is A Green Hill Far Away」
です。
こちらは明るいコーラス・ワークに打楽器、
ギターのメロディといった曲です。
最期を明るくシメています。

ざっと追いかけて来ましたが、ロックステディ
から初期レゲエという時代の音源にしては
構成もかなり複雑で、完成度も高い音源だと
思います。
正直こうした音源がどれだけ一般受けするかは、
ちょっと解りません。
ただ一つ言えることは、これらの音源がかなり
クリエイティブで、時間が経った今の時代に
聴いてもかなり面白い音源だという事です。

某大手レコード・チェーン店から販売を断られ
たらしいですが、「ナイヤビンギ?そんなの
ダメダメ、売れないよ!」そんな感じでもし
その担当者がこの音源を聴かずに断ったのだと
したら、それはかなりもったいない事をした
のかもしれません。
実際に耳で聴けば何かあると感じさせるものが、
この音源には確かにあるんですね。
多くの販売サイトに「ジャズやレア・グルーブ
好きにもおススメ」というような事が書かれて
いましたが、この音楽の魅力は出来れば心を
真っ白にして聴くと一番解るのかもしれません。

音楽を聴く、音楽をやるというのは、必ずしも
理屈ではないんですね。

感じること。

誰にでも出来て、誰にでも出来ない、それが大切…。
見つけるのはあなた次第です。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: The Sons Of Negus
○アルバム: A Psalm Of Praises To The Most High 1967-1972
○レーベル: Dub Store Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2016

○The Sons Of Negus「A Psalm Of Praises To The Most High 1967-1972」曲目
1. Run Come Rally
2. Zion We Want To Go
3. Ethiopian National Anthem
4. All Ye Saints
5. Come Down
6. Lion Of Judah
7. Take Your Bible And Read It
8. Run Agressors Run
9. Volunteer Ethiopians
10. A Psalm Of Praises To The Most High
11. Rejoice
12. Salvation
13. King's Highway
14. Time Is Drawing High
15. There Is A Green Hill Far Away

●今までアップしたRas Michael & The Sons Of Negus関連の記事
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Kibir Am Lak」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Live Ina Babylon」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Love Thy Neighbour」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Movements」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Rastafari Dub」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Rastafari」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Revelation」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Disarmament」
〇Ras Michael And The Sons Of Negus「Nyahbinghi」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus With Jazzboe Abubaka「Tribute To The Emperor」
〇18th Parallel「Downtown Sessions」