今回はVarious(オムニバス)もののアルバム

pressure_sounds_09a

「Harder Shade Of Black」です。

今回はオムニバスなので、まずは今回のアルバム
について説明します。
販売サイトなどの情報によると、今回のアルバム
はUKにLeonald 'Santic' Chinが設立した
レーベルSanticから1974年に発売された、
Augustus Pabloなどのアーティストを集めた
全10曲のコンピュレーション・アルバムが
元のアルバムなんだそうです。

そのアルバムを1995年にレゲエ・リイ
シュー・レーベルPressure Soundsがレーベル
第1作目のアルバムとして、元のアルバム
10曲に6曲追加した計16曲でリイシュー
したのが「An Even Harder Shade Of Black」
というアルバムなんだそうです。
このアルバムは第1作目で内容も良かった為
に、売り切れた後も再発を望む声が多かった
んだそうです。

そして2010年にさらにリイシューされた
のが、今回のアルバムという事なんだそうです。
つまりリイシューのリイシューというアルバム
で、リイシュー・アルバムの全16曲にさらに
5曲追加された全21曲というアルバムになって
います。
さらにジャケットもUKで74年に発売された
元のアルバムのジャケットに戻されています。

ちなみに今回の元のアルバムですが、ネットの
Discogsなどを調べると、Pressure Soundsから
リイシューされる以前の1980年に、UKの
Nationwideというレーベルから「Harder Shade
Of Black Pablo & Friends」というタイトルで
一度リイシューされているようです。

今回のアルバムに多く曲の入っているAugustus
Pabloについても、一言書いて行きます。
Augustus Pabloは70年代のルーツ・レゲエの
時代から活躍したメロディカ奏者、プロデューサー
です。
それまで練習用の楽器ぐらいにしか思われていな
かったメロディカを駆使して活躍し、レゲエに
特別なニュアンスをプラスした人なんですね。
数々のインストやダブのアルバムを残し、多くの
アーティストを育てたAugustus Pabloでしたが、
1999年に筋無力症のために亡くなって
います。

アーティスト特集 Augustus Pablo (オーガスタス・パブロ)

なおレゲエレコード・コムの「レーベル特集」
のSanticレーベルの記述を読むと、元のアルバム
「Harder Shade Of Black」は、ジャマイカで
ヒット曲を連発したLeonald 'Santic' Chinが
レーベル設立に際して、それまでのジャマイカ
でのヒット曲をまとめたアルバムとして出した
ものなんだそうです。

レーベル特集 Santic (サンティック)

全21曲で収録時間は61分06秒。
書いたようにオリジナル曲が10曲、CD
ボーナス・トラックが11曲というアルバム
です。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Produced & Arranged by: Leonald 'Santic' Chin

Musicians:
Drums: Lloyd 'Tin Leg' Adams, Carlton 'Carlie' Barrett, Calton 'Santa' Davis
Bass: Aston 'Family Man' Barrett, Alva 'Reggie' Lewis, Leroy Sibbles
Guitar: Alva 'Reggie' Lewis, Leroy Sibbles
Organ: Augustus Pablo, Ossie Hibbert
Piano: Theophilus 'Easy Snapping' Beckford, Augustus Pablo
Melodica: Augustus Pablo
Clavinet: Augustus Pablo

Recorded at:
Harry J Recording Studio
Engineer: Sid Bucknor
Joe Gibbs Recording Studio
Engineer: Errol 'Errol T' Thompson
Randy's Studio 17
Engineer: Errol 'Errol T' Thompson
Assistant Engineer: Dennis Thompson
King Tubby's Recording Studio
Engineer: Osbourne 'King Tubby' Ruddock

Original Cover Design: F & H Campbell
Photography: Leonald 'Santic' Chin

となっています。

ミュージシャンの中で目立つのはやはり
Augustus Pabloの活躍です。
演奏している楽器も多くメロディカの他に
苦ヴィネット、ピアノ、オルガンと演奏して
います。
特に目立つのがクラヴィネットを多く使用して
いる事で、メロディカよりちょっと野太い
クラヴィネットを使った曲がこのアルバムには
けっこう入っています。

エンジニアで目立つのはやはり'Errol T'こと
Errol Thompsonの存在です。
彼とAugustus Pabloというと、あの初期ダブの
有名なアルバムRandy'sのImpact All Starsに
よる「Java Java Java Java」を思い出します。

randy's_02a
Impact All Stars ‎– Java Java Java Java (1973)

Augustus Pabloの名曲「Java」が入っている
このアルバムですが、こうした功績から彼
Errol Thompsonが評価されて行ったのは間違い
のないところです。
彼は後にJoe GibbsとのコンビThe Mighty Twoと
してエンジニアとして活躍しますが、それ以前
の活躍がこのRandy'sでの活躍なんですね。
今回のアルバムの裏ジャケットにはその
Errol Thompsonの写真が使われています。

ジャケット・デザインは74年に発売された
当時のオリジナル・デザインに戻されている
そうです。
写真の撮影はLeonald 'Santic' Chinで、ジャケ
ットに写っている女性は当時の彼の妻なんだそう
です。

さて今回のアルバムですが、再発の要望があり
リイシューのリイシューのような形で出た今回
のアルバムですが、それだけ要望があっただけ
あって内容はとても良いです。

74年というとレゲエがようやく世界に認め
られ始めて、その成果を上げ始めた時期だった
んですね。
今回のアルバムはそれ以前の音源を集めた
コンピュレーションですが、初期レゲエの空気
も残しながら、そうした登って行く太陽のような
勢いを感じさせるアルバムになっています。
特に若き日のAugustus Pabloの活躍ぶりが、
とても印象に残るアルバムです。

ネットの「レーベル特集 Santic」のページを
見ると、このAugustus PabloとLeonald 'Santic'
Chinの出会いが'Santic' Chin自身の口で語られ
ています。
それによると「Java」を聴いて興味を持った
'Santic' ChinがAugustus Pabloに声をかけ、
初めて一緒に作った曲がこのアルバムの8曲目
「Pablo In Dub」なんだそうです。
それから彼らはヒット曲を連発し、'Santic' Chin
はヒット・メーカーのプロデューサーとして
認められて行くんですね。
この'Santic' ChinとAugustus Pabloの出会い
が、お互いにとって素晴らしい出会いであった
事がうかがえます。

1曲目はGregory Isaacsの「I'll Be Around」
です。
Augustus Pabloの演奏するクラヴィネットの
メロディのイントロから、Gregory Isaacsの
ソフトな歌声へと移っていく曲です。
ソフトな歌声でも、バックはけっこうコアです。
そのあたりがいかにもレゲエらしさ。

2曲目はAugustus Pabloの「One Thousand
Swords」です。
1曲目「I'll Be Around」のダブです。
Gregory Isaacsの歌声を抜いたダブですが、
全く印象の違うハード・コアな曲になって
います。
やはりAugustus Pabloのクラヴィネットが魅力。

3曲目は表題曲のAugustus Pabloの「Harder
Shade Of Black」です。
リディムはJackie Mittoo & Soul Vendorsの
「Darker Shade Of Black」です。
こちらもAugustus Pabloのクラヴィネットが
冴える1曲です。

リズム特集 Darker Shade Of Black (ダーカー・シェイド・オブ・ブラック)

4曲目はDirty Harry & Santic All Starsの
「Better Shade Of Dub」です。
3曲目「Harder Shade Of Black」のPabloの
吹いているクラヴィネットを、Dirty Harryの
サックスに替えたナンバーです。
クラヴィネットの茫洋としたサウンドから、
輪郭のハッキリしたサックスのサウンドに
なっています。

Dirty Harry and The Santic All Stars - Better Shade Of Dub b/w Harder Shade Of Dub

↑後半のダブは入っていません。

5曲目はRoman Stewartの「Peace In The
Valley」です。
こちらもイントロにPabloのクラヴィネットが
入る曲です。
ユッタリとしたリズムに、Roman Stewartの
ソフトなヴォーカルが冴える1曲です

Roman Stewart - Peace In The Valley (Santic)


6曲目はAugustus Pabloの「Columbo」です。
5曲目「Peace In The Valley」のPabloの
クラヴィネットを中心としたダブです。

7曲目はLeonard Santic All Starsの「Special
Branch」です。
こちらも5曲目「Peace In The Valley」の
別ヴァージョンのダブ。
こちらはオリジナル・アルバムにはない
CDボーナス・トラックのようです。

8曲目はAugustus Pabloの「Pablo In Dub」
です。
書いたようにこの曲が'Santic' ChinとAugustus
Pabloの出会いだったようです。
こちらはいかにもAugustus Pabloらしい、ノビ
ノビとしていながら懐かしいメロディの曲です。

augustus pablo - Pablo In Dub


9曲目はSantic All Starsの「Hell Boat」
です。
8曲目「Pablo In Dub」のメロディカを抜いた
ダブです。
こちらはオリジナルにはないCDボーナス・
トラックです。

10曲目はHorace Andyの「Children Of Israel」
です。
8曲目「Pablo In Dub」に詞を付けて歌った
という曲です。
Horace Andyの「カナリア・ヴォイス」で歌うと
またイメージが違うのが、面白いところです。

Horace Andy - Children of Israel


11曲目はHorace Andyの「Problems」です。
陰影のあるメロディを情感を込めて歌った曲
です。
いかにもルーツを感じる佳曲です。

horace andy-Don't Let Problems Get You Down


12曲目はAugustus Pabloの「Lovers Mood」
です。
11曲目「Problems」のメロディカ・ダブ。
Augustus Pabloらしい表情のある演奏が魅力
です。
こちらもオリジナルにはないCDボーナス・
トラックです。

Augustus Pablo - Lover's Mood


13曲目はBig Joeの「Jah Guide」です。
11曲目「Problems」のディージェイ・ヴァー
ジョンです。
レア・ディージェイによるトースティングが
すごくカッコいいです。
こちらもオリジナルにはないCDボーナス・
トラックです。

Big Joe - Jah Guide


14曲目はSantic All Starsの「Palace Of
Peace」です。
こちらはホーンを中心としたインスト・
ナンバー。

15~21曲目まではすべてCDボーナス・
トラックです。

15曲目はJah Wooshの「Chalice Blaze」です。
こちらもレア・ディージェイによる1曲です。

16曲目はKing Tubbys & Santic All Starsの
「One Heavy Duba」です。
15曲目「Chalice Blaze」のダブ・ヴァージョン
です。
King Tubbysらしい切れ味あるダブ処理が魅力。

17曲目はI Royの「Yamaha Ride」です。
日本のバイクYamahaを歌った曲のようですが、
スペイン語のようなおフザケのトースティング
が入った楽しい曲です。

18曲目はSantic All Starsの「Mexican
Rocking」です。
17曲目「Yamaha Ride」のダブ・ヴァージョン。
重いベースの音を軸に、遊び心のある曲になって
います。

19曲目はPaul Whitemanの「I Don't Want
To Lose You」です。
Pabloの陰影のあるメロディカに乗せた、思いを
こめたヴォーカルがイイ味を出している曲です。

PAUL WHITEMAN - I Don't Want To Lose You [1975]


20曲目はの「」です。
19曲目「I Don't Want To Lose You」の
ダブワイズも入ったディージェイ・ヴァー
ジョン。

21曲目はKing Tubby & The Santic All Stars
の「Santic Meet King Tubby」です。
19曲目「I Don't Want To Lose You」の
ダブ・ヴァージョンです。

ざっと追いかけて来ましたが、やはり人気が
出たのが解る、良い内容のアルバムです。
ただオマケに11曲も入れちゃったのは、
ちょっと入れ過ぎかも(笑)。
内容が濃くて、お腹がいっぱいになるような
アルバムなんですね。
それでもBig Joeの「Jah Guide」のような、
レアだけれど魅力的なディージェイの曲も
入っているので、聴く価値は充分にあります。
何よりもこのルーツ・レゲエの時代の
熱く沸騰した空気感はとても魅力的です。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Various
○アルバム: Harder Shade Of Black
○レーベル: Pressure Sounds
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: (1974)

○Various「Harder Shade Of Black」曲目
1. I'll Be Around – Gregory Isaacs
2. One Thousand Swords – Augustus Pablo
3. Harder Shade Of Black – Augustus Pablo
4. Better Shade Of Dub – Dirty Harry & Santic All Stars
5. Peace In The Valley – Roman Stewart
6. Columbo – Augustus Pablo
7. Special Branch – Leonard Santic All Stars (CD Bonus Track)
8. Pablo In Dub – Augustus Pablo
9. Hell Boat – Santic All Stars (CD Bonus Track)
10. Children Of Israel – Horace Andy
11. Problems – Horace Andy
12. Lovers Mood – Augustus Pablo (CD Bonus Track)
13. Jah Guide – Big Joe (CD Bonus Track)
14. Palace Of Peace – Santic All Stars
15. Chalice Blaze – Jah Woosh (CD Bonus Track)
16. One Heavy Duba – King Tubbys & Santic All Stars (CD Bonus Track)
17. Yamaha Ride – I Roy (CD Bonus Track)
18. Mexican Rocking – Santic All Stars (CD Bonus Track)
19. I Don't Want To Lose You – Paul Whiteman (CD Bonus Track)
20. Shouldn't Say No – Jah Woosh (CD Bonus Track)
21. Santic Meet King Tubby – King Tubby & The Santic All Stars (CD Bonus Track)