今回はI-Royのアルバム

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「Don't Check Me With No Lightweight Stuff [1972-75]」です。

I Royは70年代から活躍したルーツ・ディー
ジェイの中でも、もっとも人気を博したディー
ジェイです。
その鋭いトースティングで、デビューから
10年間常にトップ・ディージェイの地位を
維持し続けたという人気者でした。
75年にI RoyとPrince Jazzboの間で起きた、
公開喧嘩「伝説の舌戦」はあまりにも有名です。

1999年に心臓疾患のため他界しています。

アーティスト特集 I Roy (アイ・ロイ)

今回のアルバムは1997年にレゲエ・リイ
シュー・レーベルBlood & Fireからリリース
された、そのI Royの名トースティングを
集めたコンピュレーション・アルバムです。
タイトルに[1972-75]とあるように、72年から
75年というI Royの初期の音源が集められた
アルバムです。

レーベル特集 Blood & Fire (ブラッド・アンド・ファイア)

全16曲で収録時間は48分27秒。
最後の2曲は、CDボーナス・トラックです。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Produced by Clive Chin, Winston Edwards, Keith Hudson,
Bunny Lee, Jimmy Radway, Rudolph Redwood, Roy Reid,
Errol Thompson, Pete Weston

All tracks written by Roy Reid except 14 written by Jimmy Radway
and Roy Reid, 15 written by Bernard Collins / Lynford Manning /
Donald Manning with additional Lyrics by Roy Reid, and 16 written
by Robert Marley with aditional Lyrics by Roy Reid.

Voiced and mixed by Errol Thompson at Randy's Studio,
and by King Tubby at King Tubby's Studio

Compiled by Steve Barrow

Design by Matthew Rudd at Intro London

となっています。

Randy'sのClive ChinやUKのレーベルStudio 16
のWinston Edwards、Keith HudsonにBunny Lee、
Jimmy Radwayと多くのプロデューサーの名前が
あります。
それだけ多くの曲から選ばれた、コンピュレー
ションという事なのでしょう。
ちなみにリストにあるRoy ReidはI Royの本名
です。

表ジャケットが小冊子になっていて、そこには
レゲエ博士Steve Barrow氏の解説文と、曲ごとの
解説がついています。
例えば1曲目「Sidewalk Killer」には以下の
ような記述があります。

1 Sidewalk Killer
The deejay version of Sidewalk Doctor by Tommy McCook, this
was produced by Rudolph 'Ruddy' Redwood in 1972. The first
cut of this rhythm is Woman Of The Ghettoo by Phylis Dillon
for Ruddy's favourite producer Duke Reid.

これを読むとこの曲がTommy McCookの
「Sidewalk Doctor」のディージェイ・ヴァー
ジョンとして、1972年にRudolph 'Ruddy'
Redwoodのプロデュースで作られたこと、この
リズムのファースト・カットは、Duke Reid
プロデュースのPhylis Dillonの曲「Woman Of
The Ghettoo」である事が解ります。
こうした細かい仕事は、曲を深く知りたい人
には嬉しいところです。

さて今回のアルバムですが、レゲエ・リイシュー・
レーベルBlood & Fireのアルバムの中でも16番
目と比較的早い時期のアルバムで、レーベルの
意気込みが伝わってくるような選曲のアルバム
です。
どの曲も思い入れが詰まった、聴きごたえ充分
なアルバムになっています。

このI Royは10年間もトップ・ディージェイ
を維持していたという人ですが、その切れ味
鋭く、ウィットに富んだトースティングは
当時のジャマイカの人々を虜にしただけあって、
今聴いてもすごく魅力的です。

1曲目は「Sidewalk Killer」です。
Tommy McCookの「Sidewalk Doctor」、Phylis
Dillonの「Woman Of The Ghettoo」というのも
間違いではないのですが、Jackie Mittoo &
Brentford Allstarsの「Sidewalk Doctor」
として知られている曲です。
当時のジャマイカは版権がしっかりしていな
かったので、曲がヒットするといろんな人が
自分の曲のように使い回すんですね(笑)。
特徴的なメロディの曲を、I Royは味のある
トースティングで聴かせます。

I Roy - Sidewalk Killer


2曲目は「Hot Stuff」です。
プロデュースはKeith Hudsonで、彼の同名曲の
トースティングです。
浮遊感のあるメロディに、I Royらしい切れ味
鋭いトースティングといった曲です。

I Roy - Hot Stuff


3曲目は「Buck And The Preacher」です。
プロデュースはPete Weston。
The Abyssiniansの「Leggo Beast」を使った
トースティングです。

4曲目は「Ken Boothe Special」です。
こちらもプロデュースはPete Weston。
偉大なシンガーKen Bootheを偲んだ曲で、
「Moving Away」や「Puppet On A Sting」などが
メドレーで使われています。

5曲目は「Black Talk」です。
リディムはKen Bootheの「Your Feeling And
Mine」の、73年の曲です。
重いベースを軸とした曲に乗せて、余裕のある
トースティングを聴かせています。

6曲目は「Look A Boom」です。
こちらもプロデュースはPete Weston。
リディムはThe Heptonesの「Tripe Girl」です。
陰影のあるリズムに乗せて、味のあるトース
ティングを聴かせています。

I Roy - Look A Boom


7曲目は「Don't Get Weary Joe Frazier」
です。
プロデュースはWinston Edwardsで、74年の
曲です。
リディムはThe Melodiansの「Don't Get Weary」。
歌われているJoe Frazierは、Muhammad Aliと
ヘヴィー級王座を争ったボクサーです。
「疲れたジョー・フレーザーを捕まえないで」
というタイトルから解るように、彼を小馬鹿に
した曲のようです。
当時のジャマイカでは懲役を拒否してタイトル
を剥奪されたMuhammad Aliが圧倒的な人気で、
その敵役のJoe Frazierはかなりコキ下ろされ
ていたんですね(笑)。

8曲目は「Sound Education」です。
プロデュースはJimmy Radway で、73年の曲
です。
リディムはErrol Dunkleyの「Black Cinderella」
です。
時折ホーンの入る楽曲にのせて、I Royの気持ち
良さそうなトースティングが光ります。

I-Roy - Sound Education


9曲目は「Noisy Place」です。
73年のBunny Leeプロデュースの曲です。
リディムはDennis Brownの「Man Next Door」
です。
こちらもDennis Brownの有名リディムに乗せて、
I Royののノリノリのトースティングです。

10曲目は「Fire Burn」です。
こちらは74年のRandy'sでのErrol Thompson
プロデュースの曲です。
リディムはSoul Vendorsの有名リディム
「Swing Easy」です。
ロックステディの名リディムを、余裕のトース
ティングで歌いこなしています。

I Roy - Fire Burn


リズム特集 Swing Easy (スウィング・イージー)

11曲目は「Sufferer's Psalm」です。
こちらも10曲目と同じリディム「Swing Easy」
です。
同じ曲の別ヴァージョンを見つけて来るところ
に、いかにもBlood & Fireらしい選曲のセンス
があります。

I Roy - Sufferer's Psalm


12曲目は「Superfly」です。
オリジナルのリディムは、ソウルのCurtis
Mayfieldの「Give Me Your Love」です。
それにメロディカが入りさらにトースティング
が乗ると、オリジナルとは全く違う楽曲に
なっているのが面白いところです。

13曲目は「Hospital Trolley」です。
リディムはご存じAugustus Pabloの「Java」。
これぞレゲエ!といった、魅力全開の曲です。

リズム特集 Java (ジャバ)

14曲目は「Double Warning」です。
リディムはDesmond Youngの「Warning」です。
ガツンと来るルーツ曲に、I Royの切れ味鋭い
トースティングが光ります。

I Roy- Double Warning


残りの2曲はCDボーナス・トラックです。

15曲目は「Holy Satta」です。
75年の曲でプロデュースはBunny Lee。
リディムはThe Abyssiniansの名曲「Satta
Massagana」です。

リズム特集 Satta Massa Ganna (サタ・マサ・ガナ)

16曲目は「Straight To The Heathen Head」
です。
73年のJimmy Radwayプロデュースの曲です。
リディムはBob Marley & Wailersの名曲
「Talking Blues」です。

ざっと追いかけて来ましたが、やっぱりこの
ルーツの時代のI Royのトースティングは一聴
の価値があると思います。
Blood & Fireの選曲も本当に聴きたい曲を
選んでいて、なかなか良いです。

このルーツの時代にひときわ輝きを放ち、
トップ・ディージェイ君臨した男I Roy。
そんな彼を知るには、とても良いアルバム
だと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: I-Roy
○アルバム: Don't Check Me With No Lightweight Stuff [1972-75]
○レーベル: Blood & Fire
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1997

○I-Roy「Don't Check Me With No Lightweight Stuff [1972-75]」曲目
1. Sidewalk Killer
2. Hot Stuff
3. Buck And The Preacher
4. Ken Boothe Special
5. Black Talk
6. Look A Boom
7. Don't Get Weary Joe Frazier
8. Sound Education
9. Noisy Place
10. Fire Burn
11. Sufferer's Psalm
12. Superfly
13. Hospital Trolley
14. Double Warning
(CD Bonus Tracks)
15. Holy Satta
16. Straight To The Heathen Head

●今までアップしたI Roy関連の記事
〇I Roy, Clint Eastwood, Jah Stitch「DJ Trilogy」
〇I Roy「Black Man Time」
〇I Roy「Don't Wake Up The Lion: 14 Toasting Classics From The Dancehall Master」
〇I Roy「Gussie Presenting I Roy」
〇I Roy「Heart Of A Lion」
〇I Roy「Musical Shark Attack」
〇I Roy「Sattamassagana」
〇Various「Once Upon A Time At King Tubbys」
〇Various「Can't Stop The Dread」
〇Niney The Observer「Deep Roots Observer Style」
〇Niney The Observer「Microphone Attack 1974-78」
〇I Roy「Many Moods Of I Roy」