今回はThe Well Pack Bandのアルバム

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「The Workers Speak To Their Slave Masters With Strike」です。

The Well Pack Bandはレゲエレコード・コムの
このアルバムの紹介ページによると、「Winston
EdwardsのStudio 16でBrown Sugar等のバック
トラックを演奏していたバンド」だそうです。
ギターのJohn Kpiayeという人を中心とした
バンドらしいんですが、今回のアルバムと
レゲエのガイド本「Roots Rock Reggae」に紹介
されているWinston Edwards & Blackbeard
(Dennis Bovell)のダブ・アルバム「Dub
Conference」のバックを務めていたバンドです。
(ちなみにBrown Sugarは、UKのラヴァーズか
何かの女性ヴォーカル・グループのようです。)

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Winston Edwards & Blackbeard - Dub Conference: Winston Edwards
& Blackbeard at 10 Downing Street (1980)

ついでにWinston Edwardsについても書いて
おくと、UKのレーベルStudio 16の主催者で、
上記のアルバムの他「Natty Locks Dub」など、
素晴らしいダブなどをプロデュースしている人
なんですね。

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Winston Edwards - Natty Locks Dub (1974)

このWinston Edwardsの仕事はVP Recordsと
Greensleeves Recordsの出している「Evolution
Of Dub」シリーズの「Volume 7」に収められて
いて、上記の「Dub Conference」と「Natty
Locks Dub」も4枚組の中のひとつです。

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Various – Evolution Of Dub Volume 7: Creationist Rebel (2012)

他にKing Tubbyのアルバム「King Tubby
Surrounded By The Dreads At The National
Arena」と、King TubbyとLee Perryのアルバム
「At The Grass Roots Of Dub」が収められて
います。

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King Tubby - King Tubby Surrounded By The Dreads At
The National Arena (1975)

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King Tubby, Lee Perry - King Tubby Meets The Upsetter
At The Grass Roots Of Dub (1974)

プロデューサーとして、なかなか面白い仕事を
残している人なんですね。

今回のアルバムは1980年にWinston Edwardsの
レーベルStudio 16から発表されたThe Well Pack
Bandのインスト・アルバムです。
プロデュースはWinston Edwardsで、アルバムの
タイトル「The Workers Speak To Their Slave
Masters With Strike」をネットの「Weblio翻訳」
で翻訳してみると、「労働者は、ストライキで
彼らの奴隷の主人と話します」という訳文が出て
来ました。
まあ「労働者はストライキで彼らの奴隷監督と
対話する」みたいなタイトルなんだと思います。

Side Aが4曲、Side Bが4曲の全8曲。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

All Tracks Played by the Well Pack Band

という表記があるぐらいなんですね。

ただネットのDiscogsなどを調べると、「Special
thanks」として、John Kpiaye, Vin Gordon,
Jah Bunny, Noel Fish, Michael "Bami" Rose,
Dennisという名前が書かれていました。
John KpiayeはThe Well Pack Bandのギタリスト、
Vin Gordonはトロンボーン奏者、Jah Bunnyは
Dennis Bovellが在籍したバンドMatumbiの
ドラマー、DennisはおそらくDennis Bovellの
事だと思います。
(あとの二人ははっきりと誰だかは解りません
でした。)
おそらくはこういう人達が参加していたものと
思われます。

さて今回のアルバムですが、202年シンコー・
ミュージック刊行の本「Roots Rock Reggae」に
も紹介されているアルバムで、そこには「瀬戸
口」さんという方の文章で次のように書かれて
います。

「RM58号掲載、ジョン・カパーイ(ギター)
のインタビュー記事を読む限り、”このアルバム
は資本主義、帝国主義と闘争する労働階級に基づ
いて作られた”とあるスリーヴ・ノートは、レー
ベル経営者のウィンストン・エドワーズがメンバ
ーの同意なく記したことになる。不況や失業と
いった社会事情を反映したコピーなのか。穏やか
なインスト曲ばかりだが、管楽器の響きや音の
立ち方に、デニス・ボーヴェルらしきセンスを
感じる。」
(「Roots Rock Reggae」より「瀬戸口」さん
という方のアルバム評より。)

確かにかなり聴き心地の良いインスト曲が揃った
アルバムなんですが、アルバム・ジャケットには
「Sleeve note written by Winston Edwards」と
いう事で宣言文のような文字が書かれています。
試しに「Weblio翻訳」でこの英文を自動翻訳に
かけてみたのですが、これが意外なほどちゃんと
した文章になったので、その英文と自動翻訳を
ここに載せてみます。

This album is based upon the working-class
struggle against capitalism and imperialism.
(このアルバムは、資本主義と帝国主義に対して
労働者階級の闘いに基づきます。)
For many many years the slave master's
children have been called the 'Upper-class'
or the 'lower-class'.
(多くの多くの年の間、奴隷マスターの子供たち
は、『上流階級』または『低級な』ものと呼ばれ
ていました。)
The 'Working-class' people had to mobilise
themselves into a strong force to combat the
slave masters with 'strike'.
(『労働者階級の』人々は、『ストライキ』で
奴隷のマスターと戦うために、強い力に自分自身
を動員しなければなりませんでした。)
This album will tell you all about the
Capitalist system and their behaviour towards
the workers.
(このアルバムは、労働者の方へ資本主義体制と
彼らのふるまいについてあなたにすべてを話し
ます。)

多少おかしいところがあるかもしれませんが、
だいたいの文章の内容を読むと、「労働階級」
の人からの「支配階級」の人に対する宣言文
という体裁の文章のようです。

「Roots Rock Reggae」の解説文などを読むと、
Studio 16の主催者Winston Edwardsがメンバー
の同意なしに勝手に付けちゃった文章らしい
ですが、こういう文章が付いているのもいかにも
この80年頃のUKらしいところです。
アルバム自体はとてもセンスの良い心地良い
インスト・ナンバーが揃ったアルバムという
感じなんですが、この一文が付いている事で
ずいぶん違ったアルバムに見えるのがこの
アルバムの面白いところです。

Studio 16というレーベルは、どうもラヴァーズ
系のレーベルと見られているようなんですが、
主催者のWinston Edwardsはこういう反骨精神
のようなものを持った人なんですね。
メンバーの同意なくというのは多少問題かも
しれませんが、インスト・アルバムにこういう
色付けをしてしまうのも一種のプロデュースと
言えるかもしれません。

「Roots Rock Reggae」のアルバム評などを読む
と、Dennis Bovellがミックスを担当している
ようなんですが、実際にこのアルバムを聴いた
感想としても、今の時代に聴いても全く遜色の
ないとてもセンスの良いインスト・ナンバーが
揃ったアルバムという感じがしました。
「Roots Rock Reggae」に載っているアルバム
だけあって、内容はとても良いです。

Side Aの1曲目は「New Approach To Workers」
です。
「労働者への新しいアプローチ」と題された曲
ですが、ユッタリしたリズムに時折入るトロン
ボーンやサックスが良い味を出している曲です。
このトロンボーンはVin Gordonなのか?

2曲目は「More Power To The Workers」です。
「労働者へのより多くの力を」と題された曲で、
こちらもサックスの感出るメロディにギターの
メロディなど、オシャレ感一杯の曲です。
アルバムを通してですが、かなりジャズ的な要素
も盛り込まれていて、それがジャマイカでなく
UKらしさを醸し出しています。

Well-Pack Band - More Power to the Workers


3曲目は「Bad Management」です。
こちらはズバリ「放漫経営」と題された曲です。
心地良いピアノのメロディにサックスという曲
です。
こちらもVin Gordonと思われるトロンボーンが
活躍している曲です。後半に入って来るフルート
もグッド!

4曲目は「Management Attitude To Workers」
です。
「労働者に対する管理態度」と題された曲で、
軽快なギターのサウンドに時折入るホーン・
セクションも良い味を出している曲です。
このギターのリズムがすごくジャズっぽい印象。

Side Bの1曲目は「Better Working Conditions
For Workers」です。
「労働者のためのより良い労働条件」と題された
曲です。
頭にちょっとメッセージが入って、そこから
ホーン・セクションが心地良いメロディを奏でる
曲です。
ここでもVin Gordonと思われるトロンボーンが
活躍しています。

Well-Pack Band - Better Working Conditions For Workers (1980)


2曲目は「Union And Management」です。
「組合と経営陣」と題された曲です。
こちらもホーン・セクションが活躍する曲です。
ピアノにトロンボーン、そして乾いたドラムが
一体感のある心地よい音楽を作りだしています。

3曲目は「More Opportunity For Worker's
Children」です。
「労働者の子供たちのより多くの機会を」と
題された曲です。
心地良いジャズ・ギターから、茫洋とした
トロンボーンという曲です。

4曲目は「Stop Victimisation」です。
「犠牲にすることを止めて」と題された曲です。
こちらはフルートの音色を中心とした曲です。
フルートらしいトンがったメロディが耳に残る
1曲です。

DUB LP- WORKERS SPEAK TO THEIR SLAVE MASTERS WITH STRIKE - WELL PACK BAND - Stop Victimisation


ざっと追いかけて来ましたが、かなりジャズ的な
要素が入った洗練されたインスト・ナンバーが
収められたアルバムという感じがしました。
その辺がジャマイカとは違うUKらしさを感じ
ます。
とても良いインスト・ナンバーが多く収められた
アルバムですが、このアルバムが生き残っている
理由の一つとしては、やはり「支配階級と労働
階級」といったキャッチ・コピーが付いている事
も影響しているかもしれません。
実際のサウンドとはかい離しているかもしれ
ませんが、そういうプロパガンダが付いている
事で心惹かれる部分があるのもまた事実です。
結果的に見ればWinston Edwardsは良いプロデュー
スをしたという事なんだと思います。

例えば今の日本で普通のインスト・ナンバーに
「支配階級に我々労働者階級は抗議する」という
タイトルを付けたとしたら、そのアルバムは
レコード店の店頭に置く事が出来るでしょうか?
もしも置けないとしたら、今の日本はこの80年
代のUKより自由が無い国なのかもしれません。
気を付けて目を見開いて生きていないと、いつの
間にかあなたは、檻の中の自由で満足している
のかも…。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: The Well Pack Band
○アルバム: The Workers Speak To Their Slave Masters
With Strike
○レーベル: Studio 16
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1980

○The Well Pack Band「The Workers Speak To Their Slave
Masters With Strike」曲目
Side A
1. New Approach To Workers
2. More Power To The Workers
3. Bad Management
4. Management Attitude To Workers
Side B
1. Better Working Conditions For Workers
2. Union And Management
3. More Opportunity For Worker's Children
4. Stop Victimisation