今回はPrince Far I & The Arabsのアルバム

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「Dub To Africa」です。

Prince Far Iはルーツ・レゲエの時代から活躍
したディージェイで、プロデューサーでもあった
人です。
自ら「チャンティング」と称した、独特の朗読
するようなトースティング・スタイルで知られて
います。
またUKのパンクとレゲエを融合したような
レーベルOn U Soundsレーベルの白人の主催者
Adrian Sherwoodとも交流が深く、On U Sounds
のユニットSingers & Playersなどにも参加して
います。

A href="https://en.wikipedia.org/wiki/Prince_Far_I">Prince Far I - Wikipedia

1983年に銃により殺害されています。
ジャマイカでは多くのミュージシャンが銃に
よって殺害されているんですね。

ジャマイカ・レゲエ音楽史における銃事件に迫る…

今回のアルバムは1979年にHitrunという
レーベルから発表された、Prince Far Iと
そのバック・バンドThe Arabsのダブ・アルバム
です。
HitrunはOn U SoundsのAdrian Sherwoodが
On U Soundsを作る前に作ったレーベルで、その
時代からこのPrince Far Iとの協力関係が続いて
いるんですね。

その79年のアルバムを、1995年にレゲエ・
リイシュー・レーベルPressure Soundsが
リイシューしているんですね。
手に入れたのはそのPressure SoundsのCD
でした。

このダブに使われている音源も調べてみたの
ですが、表題曲の2曲目「Dub To Africa」は
同79年に発売されたPrince Far Iのアルバム
「Free From Sin」の中の「I And I Are The
Chosen One」という曲のダブのようです。
なのでその「Free From Sin」というアルバムの
ダブの可能性が高いと思うのですが、残念ながら
そのアルバムは持っていないので、ハッキリと
した事は解りませんでした。

全10曲で収録時間は39分47秒。
オリジナルは8曲で残りの2曲はCDボーナス・
トラックです。

ミュージシャンについては以下の記述があります。

All Tracks Produced and Arranged by: Prince Far I
Recorded at: Harry J's & Dynamic Studios, Jamaica

Musicians:
Drums: 'Style' Scott
Bass: Errol Holt
Guitar: Melchezenik, Sowell
Violin: Sowell
Percussion: 'Style' Scott, Prince Far I

Designed by: Lisa Miller, David Nimmo

となっています。

ダブなのでミックスは誰か知りたいところです
が、残念ながらミックスの記述がありません。
おそらくPrince Far I本人かAdrian Sherwood
あたりなんだと思います。
ちなみにHitrunレーベルの初めてのアルバム
Creation Rebelの「Dub From Creation」では、
あのDennis Bovellがミックスを行っています。

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Creation Rebel - Dub From Creation (1978)

この時代のレゲエに詳しい人は解るでしょうが、
The Arabsのメンバーは'Style' ScottにSowell、
Errol Holtと、80年代にジャマイカで
Roots Radicsとして活躍するメンバーが揃って
います。
彼らはジャマイカでダンスホールのバンドとして
演奏する時にはRoots Radics、Prince Far Iの
バック・バンドとして演奏する時にはThe Arabs、
Adrian SherwoodのOn U Soundsで演奏する時
にはDub Syndicateなどと、名前を使い分けて
いたんですね。

さて今回のアルバムですが、Errol 'Flabba' Holt
のズッシリしたベースを中心としたダブで、聴き
心地はなかなか良いです。
Prince Far Iという人、その見かけと特徴的な
ダミ声とは裏腹にすごくセンスのある音作りを
得意とする人なんですね。
そのセンスは白人のAdrian Sherwoodと仲が
良かった事からも解るように、レゲエとパンクや
ニューウェーヴの中間的なサウンドに近く、
ダブを聴いてもいくぶん軽めのサウンドを得意
としています。
その辺は人によって多少好き嫌いの分かれる
ところかもしれません。
ただこのルーツ期の終わりに近い70年代後半
から80年代にかけて、魅力的なダブを作った
人であることは間違いありません。

特に今回のアルバムでは、まだ初期のRoots
RadicsであるThe Arabsの多少荒々しい演奏が
すごく魅力的です。
完成されてはいないけれど何か若々しい
エネルギーが胎動し始めた、そんな予感を
感じさせる演奏になっています。
この時期はPrince Far Iの代表的なダブ・
アルバム「Cry Tuff Dub Encounter Chapter 1」
が前年の78年に同じくHitrunから発表された
ばかりぐらいの時期で、彼Prince Far Iも一番
脂の乗り切っていた時期と思われます。

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Prince Far I & The Arabs - Cry Tuff Dub Encounter Chapter 1 (1978)

その良い空気感がこのアルバムからも感じ
られます。

1曲目は「Bass Ace」です。
イントロにPrince Far Iのダミ声で「ジャマイカ
NO.1ベース・プレイヤーFlabba!」という
Errol 'Flabba' Holtの紹介が入ります。
そして重いベースの音を中心としたダブという
展開の曲です。

2曲目は表題曲の「Dub To Africa」です。
こちらはレゲエとしては珍しいヴァイオリンが
入った曲です。
ヴァイオリンを演奏しているのはギタリストの
Sowell。
あまりうまいヴァイオリンではありませんが、
一種の変な空気感があり(笑)、面白い曲に
なっています。
書いたように元歌はPrince Far Iの同年に
発表したアルバム「Free From Sin」の中の
「I And I Are The Chosen One」という曲
です。

Prince Far I And The Arabs - Dub To Africa, 1979


3曲目は「Good Music Brother」です。
こちらもズシッと重いベースを中心とした曲
です。

Prince Far I & The Arabs - Good Music Brother


4曲目は「Glory To God」です。
リディムはThe Heptonesの「Love Won't Come
Easy」です。
こちらもベースを中心としたダブで、良い感じ
で入るギターやパーカッションが良いアクセント
になっています。

5曲目は「Hello, Love Brother」です。
こちらは女性シンガーDawn Pennの大ヒット曲
「No No No」のリディム。
ベースを軸にパーカッションなど奥行きのある
サウンドのダブになっています。

Prince Far I - Hello, Love Brother DUB.flv


6曲目は「Cry Tuff + The Originals」です。
こちらはオルガンを軸とした演奏のダブです。
ベースを中心とした重いダブが続いていたので、
この曲でホッとする部分があります。

Prince Far I, The Arabs - Cry Tuff And The Originals


7曲目は「Give Love」です。
こちらもオルガンにギターといったサウンドが
入って来るダブ。
こちらもDawn Pennの「No No No」のリディムの
ような繰り返しがあります。

8曲目は「Big Fight Dub」です。
こちらは重いベースを軸に、ドラムやギターが
イイ感じに入って来るダブです。

Prince Far I & Arabs - Big Fight Dub


残りの2曲はオリジナルにはなかったCD
ボーナス・トラックです。

9曲目は「Internal Dub」です。
こちらはホーンも入ったちょっと華やかさの
あるダブ。
しかし軸はベースのズンと重いサウンドです。

10曲目は「Out Of The Abyss」です。
こちらはメロディカ・ダブです。
このメロディカはOn U Sounds系のアルバム
という事を考えると、Doctor Pabloあたり
なのか?

ざっと追いかけて来ましたが、良い時期の
Prince Far Iのアルバムという事もあって、
内容はとても良いと思います。
多少On U Sounds系のアルバムなので、ルーツ
ど真ん中というアルバムではありませんが、
こうした試みもレゲエという音楽を進化させた
という側面は否定できません。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Prince Far I & The Arabs
○アルバム: Dub To Africa
○レーベル: Pressure Sounds
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1979

○Prince Far I & The Arabs「Dub To Africa」曲目
1. Bass Ace
2. Dub To Africa
3. Good Music Brother
4. Glory To God
5. Hello, Love Brother
6. Cry Tuff + The Originals
7. Give Love
8. Big Fight Dub
9. Internal Dub *
10. Out Of The Abyss *
* Previously Only Available as Dub Plates

●今までアップしたPrince Far I関連の記事
〇Prince Far I「Jamaican Heroes」
〇Prince Far I & The Arabs「Cry Tuff Dub Encounter Chapter 1」
〇Prince Far I & The Arabs「Message From The King」
〇Prince Far I & The Arabs「Cry Tuff Dub Encounter Chapter Ⅳ」
〇Prince Far I「Cry Tuff Dub Encounter Chapter 3」
〇Prince Far I「Dubwise」
〇Prince Far I「Health And Strength」
〇Prince Far I「Psalms For I」
〇Prince Far I「Silver & Gold 1973-1979」
〇Prince Far I「Voice Of Thunder」