今回はVarious(オムニバス)ものの
アルバム

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「Razor Sound Presents Various
Artists」です。

まずはこのアルバムに関わった
アーティストを紹介しておきます。

Phillip Fraser(Phillip Frazer)は70年
代のルーツ・レゲエの時代から80年代の
ダンスホール・レゲエの時代にかけて活躍
したシンガーであり、プロデューサーでも
ある人です。
自身の主催するレーベルRazer Soundsや、
Errol 'Don' Maisの率いるレーベル
Roots Traditionなどで活躍をし、おもに
ジャマイカ国内の小さなレーベルから
アルバムを出している人なんですね。
ルーツからダンスホールの時代にかけて、
ジャマイカ国内ではかなり目覚ましい活躍
をしています。
ネットのDiscogsによると、共演盤を含め
て13枚ぐらいのアルバムと、188枚
ぐらいのシングル盤、2枚ぐらいの
コンピュレーション・アルバムをリリース
しています。

Tippa Lee(本名:Anthony Campbell)
& Rappa Roberts(本名:Robert Wilson)
は80年代頃から活躍する、ディージェイ
2人によるコンビのようです。
ネットのDiscogsによると、Tippa Leeは
共演盤を含めて5枚ぐらいのアルバムと
69枚ぐらいのシングル盤を残しており、
Rappa Robertsは共演盤を含めて4枚
ぐらいのアルバムと85枚ぐらいの
シングル盤を残しています。

Ashanti Waugh(本名:Glenmore Waugh)
は70年代後半から活躍するシンガーの
ようです。
ネットのDiscogsによると、2枚ぐらいの
アルバムと、25枚ぐらいのシングル盤を
残しています。

Devon Russell(本名:Devon Barrant
Russell)はロックステディの時代の
1968年にLloyd Robinsonとのデュオ・
グループLloyd and Devonとして「Red Bum
Ball」のヒット曲を持つ名シンガーです。
さらに2002年刊行の本「Roots Rock
Reggae」の記述によると、The Congosの
Cedric MytonとThe Royal RassesのPrince
Lincoln ThompsonとThe Tartansという
グループを組んでいた事もあるそうです。
Discogsで調べたところでは、おもに66~
70年頃に活躍したグループで、他に
The Congosにも参加したLindberg Lewisが
参加していたようです。
シングルの発売のみでアルバムのリリースは
なし。
80年代にはソロ・シンガーとして、数枚の
アルバムをリリースしています。
さらに1990年には80年代に活躍した
ルーツ・グループCultural Rootsに参加し
「Money, Sex & Violence」というアルバム
を残しています。
ネットのDiscogsによると、共演盤を含め
て9枚ぐらいのアルバムと、67枚ぐらい
のシングル盤を残しています。

Devon Russell - Wikipedia

Triston Palmer(Triston Palma)は
80年代のダンスホール・レゲエの時代に
活躍したシンガーです。
特に80年代前半の活躍は非常に顕著で、
Henry 'Junjo' LawesやJah Thomasといった
大物プロデューサーの元で、「Joker
Smoker」をはじめとする多くのヒット曲を
出して、このアーリー・ダンスホールの
時代に活躍しています。
ネットのDiscogsによると共演盤を含めて
22枚ぐらいのアルバムと、279枚
ぐらいのシングル盤をリリースしていま
す。

アーティスト特集 Triston Palmer (トリスタン・パーマー)

Daddy I Cock(本名:Anthony Stephens)
は、ネットのDiscogsを調べてみた
ところ、このアルバムに収められた曲
「World Power」以外の履歴がありま
せん。
なので非常にレアなアーティストのよう
です。

Frankie Jones(本名:Tony Palmer)は、
70年代の後半から80年代にかけて活躍
した、ダンスホール・シンガーです。
ネットのDiscogsによると、共演盤を含め
て11枚ぐらいのアルバムと、78枚
ぐらいのシングル盤を残しています。

Frankie Jones (reggae singer) - Wikipedia

今回のアルバムは1987年にジャマイカ
のPhillip FrazerのレーベルRazor Sound
からリリースされた、同じ「Death In The
Arena」のリディムをさまざまなシンガー
が歌った曲を集めたコンピュレーション・
アルバムです。

こういうひとつの曲をさまざまなシンガー
が歌ったアルバムを、「ワンウェイ・
アルバム」といいますが、今回のアルバム
には80年代後半らしいデジタルの入った
バックにした、Phillip Frazerをはじめと
してTriston PalmerやDevon Russell、
Frankie Jonesなど、80年代のダンス
ホール期に活躍したアーティストの曲が
収められています。

手に入れたのはRazor Soundからリリース
されたLP(新盤)でした。
ただ新盤といってもかなり擦れた跡の
ある、汚れたジャケットでした。
ジャマイカではもうLPは作られておら
ず、こうしたアルバムはだいぶ前にプレス
されたアルバムなので、特に弱小の
レーベルのアルバムは新盤でも汚れている
ものが多いんですね。

ちなみにこのアルバムですが、同じ87年
にTriston PalmerのレーベルSolidarity
Internationalから「Death In The Arena」
という名前で、2人の人物が戦っている
イラストのジャケットでリリースされて
います。
もしかしたらそちらのアルバムの方が有名
かもしれません。

Side 1が4曲、Side 2が4曲の全8曲。
7人のアーティストによる7曲と、最後に
そのヴァージョン(ダブ)が1曲収められ
ています。

ミュージシャンについては以下の記述があります。

Musicians:
Keyboards, Lead Guitar: Fabian Cooke
Rhythm Guitar: Earl 'Chinna' Smith
Drums: Squidey Cole
Backing Vocals: Tristan Palmer, Philip Frazer
Bass: Fabian Cooke

Recorded at: I & I Studio, Calfornia
Tuff Gong Studio, Kgn., Jamaica
Voiced & Mixed at: Tuff Gong
Mix Engineer: Tony Kelly
Produced & Arranged by: Philip Frazer, Beverly Frazer

となっています。

ミュージシャンはキーボードとリード・
ギターにFabian Cooke、リズム・ギターに
Earl 'Chinna' Smith、ドラムにSquidey
Cole、バック・ヴォーカルにTristan
PalmerとPhilip Frazer、ベースにFabian
Cookeという布陣です。

書いたように使われている曲は「Death
In The Arena」の1曲だけのワンウェイ・
アルバムで、この時代らしいデジタルな
ダンスホールの楽曲です。

リズム特集 Arena (アリーナ)

ただよく聴いてみるとシンセなどの
キーボードでデジタルらしさを演出して
いますが、ギターのEarl 'Chinna' Smith
などが参加しているところから見て、意外
とアナログな録音なのかもしれません。
この時代はKing Jammy(Prince Jammy)
から改名)によるデジタルのダンスホール
が大流行した時代で、ジャマイカの音楽界
は一気にデジタル化した時代ですが、弱小
のレーベルでは一気にデジタル化が出来
ず、シンセなどをかぶせてデジタルに見せ
る「疑似的なデジタル」の音源が多く作ら
れた時代でもありました。
今回のアルバムもそうした「疑似的な
デジタル」のアルバムかもしれません。

レコーディングはカリフォルニアのI & I
Studioとジャマイカのキングストンにある
Tuff Gong Studioで行われ、声入れと
ミックスはTuff Gong Studioで行われ、
ミックス・エンジニアはTony Kellyが担当
し、プロデュースとアレンジは
Philip FrazerとBeverly Frazerとなって
います。

アルバムジャケットに関する記載はありま
せん。

今回のアルバムに収められている
アーティストは、Phillip Frazer、Tippa
Lee & Rappa Roberts、Ashanti Waugh、
Devon Russell、Triston Palmer、
Daddy I Cock、Frankie Jonesという7組
のアーティストの曲が7曲と、最後に
使われている曲「Death In The Arena」の
ヴァージョン(ダブ)が1曲、計8曲が
収められています。

さて今回のアルバムですが、80年代後半
らしいデジタル感のあるバックの演奏に
よる「Death In The Arena」のリディムに
乗せた様々なアーティストのヴォーカルが
楽しめるアルバムで、内容は悪くないと
思います。

この80年代はそれまでのルーツ・レゲエ
からダンスホール・レゲエへと流行が変化
した時代でしたが、こうしたひとつの曲
だけを多くの歌手が歌う「ワンウェイ・
アルバム」や、LPの2つの面に違う歌手
の曲が収められた「クラッシュ・アルバム
(対決盤)」が多く作られた時代だったん
ですね。

もともと南国の小さな島国で産業も無く
貧しかったジャマイカでは、音楽の世界
でも弱小のプロデューサー(レーベル)が
多く、経費を節約する必要があったんです
ね。
そうした音楽を再利用する試みの中で生ま
れたのが、70年代に誕生したダブや
ディージェイという音楽だったんですね。
ラップの元祖となったディージェイや、
音楽を再構成してまったく違う音楽に作り
変えるというリミックスの元祖となった
かなり実験的な音楽ダブは、一度作った
音楽を再利用するという、音楽制作者達の
かなり切実な金銭的な問題から生まれた
ものだったんですね。

そしてそうした努力もあってレゲエという
音楽は世界的に認められて行きますが、
音楽プロデューサーたちの努力はこの
80年代になっても続いていて、こうした
「ワンウェイ・アルバム」や
「クラッシュ・アルバム」などの音楽を
再利用する工夫がされているんですね。

ちなみに「クラッシュ・アルバム」は、
元々は同じリディムの曲を片面ずつ別の
アーティストが歌うという対決形式でした
が、その形が徐々に崩れて違うリディムの
曲を歌ったものも「クラッシュ・
アルバム」と呼ぶようになって行きます。
もともとはバックの録音の量を半分に
して、コストを下げる試みだったんです
ね。

今回のアルバムは一見普通のコンピュレー
ション・アルバムですが、そうした「疑似
的なデジタル」の再現や、同じ音源を
使った「ワンウェイ・アルバム」という
弱小のプロダクションらしい工夫が垣間
見えるのがとても面白いところです。

さらにはAshanti WaughやDaddy I Cock
など、とてもレアなアーティストの曲が
入っているのも、今となってはとても
魅力的です。
特にDaddy I Cockは、ネットのDiscogsを
調べた限りでは、このアルバム意外には
リリースがなさそうなアーティストなので
とても貴重です。

Side 1の1曲目はPhillip Frazerの
「River Jordan」です。
裏ジャケに書かれているタイトルは
「River Joron」となっていますが、
「River Jordan」が正しいようです。
軽快なキーボードのメロディに、Phillip
Frazerのソフトなヴォーカルが魅力的。

2曲目はTippa Lee & Rappa Robertsの
「Too Bright」です。
こちらはこの時代に流行ったディージェイ
のコンビの掛け合い、ラバダブ・スタイル
の楽曲です。
華やかでコミカルな空気が楽しめる1曲。

Tippa Lee and Rappa Robert - Too Bright - Solidarity LP (Death In The Arena Riddim)


3曲目はAshanti Waughの「Steady Ready」
です。
軽快なデジタルなキーボードのメロディ
に、Ashanti Waughのナイスなヴォーカル
が魅力的。

Ashanti Waugh - Steady Ready


4曲目はDevon Russellの「Jah Children」
です。
Devon Russellは高音を生かした得意の
ファルセット・ヴォイスで、魅力的な歌声
披露しています。

Devon Russell - Jah Children


Side 2の1曲目はTriston Palmerの
「Jah On My Mind」です。
デジタルなバックにちょっとスウィートな
Triston Palmerのヴォーカルが魅力。

2曲目はDaddy I Cockの「World Power」
です。
非常にレアなアーティストのシング・
ジェイなトースティングです。

Anthony I Cock Stephens - World Power w/ Version - Solidarity LP (Death In The Arena Riddim)


3曲目はFrankie Jonesの「Seek Jah
First」です。
軽快なデジタルなリズムに、Frankie
Jonesのノビノビとしたヴォーカルが
イイ感じの曲です。

Frankie Jones - Seek Jah First - Solidarity LP (Death In The Arena Riddim)


4曲目はインストの「Version」です。
「Death In The Arena」のジャージョン
(ダブ)が収められています。

ざっと追いかけて来ましたが、この時代は
もうデジタルのダンスホール・レゲエが
流行っていた時代ですが、まだそこまで
時代の波に追いて行ききれていない弱小
プロダクションの苦心の跡が垣間見れるの
が、このアルバムの本当の面白いところ
なのかもしれません。
その分80年代前半のデジタル以前の
ダンスホール・レゲエの匂いも残っている
んですね。
時代は急に変わる訳では無く、徐々に
デジタルに移行していった事がこの
アルバムからも伝わって来ます。

機会があれば聴いてみてください。


○アーティスト: Various
○アルバム: Razor Sound Presents Various Artists
○レーベル: Razor Sound
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1988

○Various「Razor Sound Presents Various Artists」曲目
Side 1
1. River Jordan - Phillip Frazer
2. Too Bright - Tippa Lee & Rappa Roberts
3. Steady Ready - Ashanti Waugh
4. Jah Children - Devon Russell
Side 2
1. Jah On My Mind - Triston Palmer
2. World Power - Daddy I Cock
3. Seek Jah First - Frankie Jones
4. Version

〈2019年04月26日修正〉