今回はGlen Brown (Various)のアルバム

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「Boat To Progress!: The Original Pantomine
Vocal Collection 1970-74」です。

Glen Brownは70年代のルーツ・レゲエの時代
に活躍したプロデューサーであり、シンガー、
メロディカ奏者でもある人です。
彼のプロデュースする音楽はジャマイカでも
UKでもすぐ売り切れてしまうほどの人気を
博しましたが、経済的な理由からか多くプレス
されず、大きな成功には恵まれなかった人の
ようです。
その為か彼の作品には一度録音した音源を、
歌ものからダブやディージェイなど、何度も
使い回している作品が多いのが特徴です。
ただプロデューサーとしての評価は高く、
彼がサックス奏者のTommy McCookと作った
ダブ・アルバム「The Sannic Sounds Of Tommy
McCook」は、のちにUKで「Horny Dub」
という名前で少数だけプレスされ、マニアの
コレクターズ・アイテムになっているほど
有名なアルバムです。

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The Sannic Sounds Of Tommy McCook (1974)

また一時期Peter Toshの(おそらくツアーの)
料理人をしていたという変わった経歴もある
ようです。

そうしたGlen Brownですが、70年後半には
ニューヨークに移住してしまい、音楽世界から
遠ざかってしまったようです。

ただのちに彼の評価はより高まり、多くの
コンピュレーション・アルバムが作られて
います。
特にレゲエ博士Steve Barrow氏は彼のサウンド
がお気に入りだったようで、Blood & Fire
レーベルからは「Termination Dub (1973-79)」、
Hot Potレーベルからは「Rhythm Master Volume
One」と「Rhythm Master Volume Two」など、
多くのコンピュレーションを発売しています。

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Glen Brown & King Tubby - Termination Dub (1973-79) (1996)

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Glen Brown & Friends - Rhythm Master Volume One (2004)

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Glen Brown & Friends - Rhythm Master Volume Two (2005)

レーベル特集 Pantomine (パントマイン)/Dwyer/South East Music (サウス・イースト・ミュージック)

今回のアルバムは1987年にGlen Brownが
Greensleeves Recordsに版権を売った事で
作られた3枚のアルバムの1枚です。
今回はヴォーカルものを集めたアルバムです
が、他にディージェイものを集めた「Dubble
Attack」、インストものを集めた「Check The
Winner」というアルバムも同時に発売されて
います。
ただ残念ながらその87年には、好評価は
受けたものの営業的には大きな成果はあげられ
なかったようです。

そのアルバム3枚がまた再発となったので、
今回購入したわけです。

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Glen Brown - Dubble Attack: The Original Pantomine Dee-Jay Collection 1972-74 (1987)

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Glen Brown - Check The Winner: The Original Pantomine Instrumental Collection 1970-74 (1987)

全14曲で収録時間は45分51秒。

ミュージシャンについては以下の記述があります。

Produced & Arranged by Glenmore Lloyd Brown

Musicians:
Drums: Lloyd 'Tin Leg' Adams, Carlton 'Carlie' Barrett, Eric 'Fish' Clarke,
Carlton 'Santa' Davis, Winston Grennan, Lloyd Knibbs, Michael 'Mikey Boo' Richards
Bass: Aston 'Family Man' Barrett, Geoffrey Chung, Val Douglas, Clifton 'Jackie' Jackson,
Lloyd 'Sparks' Parks, Karl Pitterson, Robert 'Robbie' Shakespeare
Guiters: Bobby Aitken, Al Anderson, Winston 'Bo Peep' Bowen, Glenmore Brown, Lynford 'Hux' Brown,
Geoffrey Chung, Michael 'Mikey' Chung, Eric 'Rickenbacker' Frater, Alva 'Reggie' Lewis, Willie Lindo
Bertram 'Ranchie' McLean, Lorraine 'Ranny Bop' Williams, Lloyd 'Gitsie' Willis
Keyboards: Gladstone 'Gladdy' Anderson, Glenmore Brown, Ansel 'Pinkie' Collins,
Earl 'Wire' Lindo, Horace 'BB' Seaton, Joe White, Winston 'Brubeck' Wright
Melodica: Glenmore Brown, Joe White
Tenor Sax: Karl 'Cannonball' Bryan, Richard 'Dirty Harry' Hall, Tommy McCook
Alto Sax: Lennox Brown
Flute: Tommy McCook
Trumpet: Bobby Ellis, Winston 'Sparrow' Martin
Trombone: Vincent 'Do Drummond Junior' Gordon, Ron Wilson
Percussion: Christpher 'Sky Juice' Blake, Glenmore Brown, 'Bongo' Herman Davis,
Denzel 'Pops Laing, Eric 'Bingy Bunny' Lamont, Noel 'Skully' Simms

Recorded at:
Dynamic Sounds Recording Studio
Engineers: Sid Bucknor, Carlton Lee, Karl Pitterson
Federal Recording Studio
Engineers: Louis 'Buddy' Davidson, Al Iton, Paul Khouri, George Raymond
Harry J Recording Studio
Engineers: Sid Bucknor, Sylvan Morris
Joe Gibbs Recording Studio
Engineers: Joel 'Joe Gibbs' Gibson, Errol 'Errol T' Thompson
Randy'S Studio
Engineers: Dennis Thompson, Errol Thompson

Mixed at:
King Tubby's Studio
Engineer: Osbourne 'King Tubby' Ruddock

となっています。

ミュージシャンやスタジオの数がやたらと多い
のは、おそらく一度に録ったものではなく、
シングル用の録音を繰り返した為だと思われ
ます。
おそらくお金を貯めてはシングを録音して売って
は、またお金を貯めてはシングルをという事の
繰り返しをしていたんじゃないかと思われます。
当時のジャマイカではそうした弱小のプロデュ
ーサーがたくさん居て、自主制作のような
作り方をしていたんですね。
Glen Brownもそうしたプロデューサーの一人
だったようです。
彼の作品に一度録音した音源を何度も使い回して
いるものが多いのも、そうした弱小プロデュー
サーの苦肉の策という側面もあります。

さて今回のアルバムですが、このGlen Brownは
経済的には大きな成功は収められなかった人
ですが、音楽的には素晴らしい作品を多く残して
いる人なんですね。
その作品はやはり一聴の価値は充分にあると
思います。
特に今回のシリーズは歌もの、ディージェイ
もの、インストものとジャンルごとに分かれて
いるので、そのジャンルの中で彼がどういう
成果を上げたのか?が、具体的によく解る
アルバムになっていると思います。

その中で今回は「歌もの」を集めたアルバム
ですが、これがすごく面白いんですね。
こうして歌ものを集めると、彼の個性という
のはすごくファンキーなんですね。
この度を外れたほどのファンキーさは、レゲエ
レコード・コムの「レーベル特集」の文章など
を読むと、当時の同業者からもなかなか理解
されていなかったようです。
なんとあのLee Perryからは笑い者にされていた
という、Glen Brown本人の記述もあります。
確かに今回のアルバムなどを聴くと、ちょっと
並外れたファンキーさ、異常に陽気過ぎるほど
のエネルギーが今回のアルバムからは漂って
いるんですね。
当時としては異常過ぎるほどのサウンドだった
のかもしれませんが、今の時代に聴くと意外と
面白いレゲエのサウンドを作っているんですね。
内容は悪くないと思います。

1曲目はRitchie McDonald & Glen Brownの
「Realize」です。
独特のドラムの入りからちょっとソウルフルな
歌唱が強く印象に残る曲です。
リディムはサックス奏者Richard 'Dirty Harry'
Hallの、その名も「Dirty Harry」。
「Rhythm Master Volume One」を聴いた人なら
知っていますが、そのアルバムにはこのリディム
がなんと9パターンも収められているんですね。
このGlen Brownを代表するリディムのひとつ
です。

Glen Brown & Ritchie McDonald - Realise


2曲目はRoman Stewartの「Never Too Young To
Learn」です。
バック・コーラスに乗せたRoman Stewartの
ワザとなのか、ちょっとハズし気味のヴォーカル
がナイスな1曲です。

3曲目はLittle Royの「Father's Call」です。
このルーツの時代に活躍した名ヴォーカリスト
の、聴かせる1曲です。

4曲目はRitchie McDonaldの「Do Your Thing」
です。
Ritchie McDonaldのヴォーカルが、物凄く
ファンキーな1曲です。
バックの演奏はけっこうしっかりしているものの、
ある意味大げさなクレイジーさのある歌い方の
曲です。

5曲目はGlen Brownの「Take A Step」です。
実はこのGlen Brownのスタートはジャズの
ヴォーカリストだったという人なんですね。
他の歌手と遜色のない歌声を聴かせています。
8曲目のGregory Isaacsの「One One Cocoa」と
同じリディムの曲です。

6曲目はGlen Brownの「Tell It Like It Is」
です。
ちょっと跳ねるようなリズムに乗せた曲です。

7曲目はKeith Poppinの「Get Together」です。
こちらもどこかファンキーなノリを感じる1曲
です。

Keith Poppin - Get Together


8曲目はGregory Isaacsの「One One Coco」
です。
ファンキーなリズムでも難なく歌いこなす、
誰が聴いてもスゴイ!と感じさせる魅力が、
この人にはあります。

gregory issacs - one one cocoa


9曲目は表題曲のRitchie McDonald & Glen
Brownの「Boat To Progress」です。
さすがタイトルになった曲だけあって、
なかなか魅力的な曲です。

Glen Brown and Richard McDonald - Boat To Progress b/w Version (Dwyer)

↑ヴォーカル・アルバムなので、ヴァージョンは
付いていません。

10曲目はJohnny Clarkeの「You Really Got
A Hold On Me」です。
こちらも名ヴォーカリストによる1曲です。
時折入るメロディカも良い効果を出しています。

11曲目はTinga Stewartの「A Brand New Me」
です。
ピアノに乗せた優しい歌いぶりの1曲です。

12曲目はGlen Brown & Lloyd Parksの
「I'm Your Puppet」です。
オリジナルはLloyd Parksの「Slaving」。
名曲度の高いグッと来る1曲です。

Lloyd Parks & Glen Brown - I'm Your Puppet


13曲目はGlen Brownの「Away With The
Bad Forward The Good」です。
こちらも魅力的なメロディを持った曲です。

Glen Brown - Away With The Bad


14曲目はGlen Brown & Glenroy Richards
の「Save Our Nation」です。
こちらもなかなかしっかりした歌唱の、魅力的
な曲です。

ざっと追いかけて来ましたが、こうしてGlen
Brownのヴォーカルものの曲を見てくると、
レゲエとしてはかなりファンキーな陽性なノリ
を持った曲が多い事に気づかされます。
かなり大げさ目な曲もある事も事実ですが、
それでもレゲエの本道からはハズレてはいない
んですね。
むしろ彼の持つ音楽愛が伝わってきます。

このGlen Brownは今は残念ながら、かなり辛い
晩年を過ごしているんだそうです。

カリスマ的なプロデューサー、グレン・ブラウン(Glen Brown)の今とは…

これだけ素晴らしい音楽を残し、今は評価されて
いる人が辛い晩年を過ごしているというのは、
レゲエを聴く人間としてはとても残念に思います。

せめて彼の残した音楽だけは心にとどめておきたい
ものです。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Glen Brown (Various)
○アルバム: Boat To Progress!: The Original Pantomine Vocal Collection 1970-74
○レーベル: VP Records (Greensleeves Records)
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1989

○Glen Brown (Various)「Boat To Progress!:
The Original Pantomine Vocal Collection 1970-74」曲目
1. Realize – Ritchie McDonald & Glen Brown
2. Never Too Young To Learn – Roman Stewart
3. Father's Call – Little Roy
4. Do Your Thing – Ritchie McDonald
5. Take A Step – Glen Brown
6. Tell It Like It Is – Glen Brown
7. Get Together – Keith Poppin
8. One One Coco – Gregory Isaacs
9. Boat To Progress – Ritchie McDonald & Glen Brown
10. You Really Got A Hold On Me – Johnny Clarke
11. A Brand New Me – Tinga Stewart
12. I'm Your Puppet – Glen Brown & Lloyd Parks
13. Away With The Bad Forward The Good – Glen Brown
14. Save Our Nation – Glen Brown & Glenroy Richards

●今までアップしたGlen Brown関連の記事
〇Glen Brown & Friends「Rhythm Master Volume One」
〇Glen Brown & Friends「Rhythm Master Volume Two」
〇Glen Brown (Various)「Check The Winner: The Original Pantomine Instrumental Collection 1970-74」
〇Glen Brown (Various)「Dubble Attack: The Original Pantomine Dee-Jay Collection 1972-74」
〇Glen Brown And King Tubby「Termination Dub (1973-79)」
〇Glen Brown, King Tubby「Big Dub: Glen Brown Meets King Tubby 15 Dubs From Lost Tapes」
〇Tommy McCook「The Sannic Sounds Of Tommy McCook」