今回はWayne Smithのアルバム

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「Under Me Sleng Teng」です。

Wayne Smithは80年代のダンスホール・レゲエ
で活躍したシンガーです。
やはり彼の曲と言えば、今回のアルバムの
タイトルでもある「Under Me Sleng Teng」を
忘れる事は出来ません。
カシオトーンを使ったこの曲は、Prince Jammy
プロデュースによる、ジャマイカ初のデジタル
録音の大ヒット曲としてよく知られています。
これを機にジャマイカでは一気に音楽業界の
デジタル化が進んで、プロデューサーの
Prince Jammy改めKing Jammyを中心とした
デジタル革命「コンピューター・ライズド」の
大ブームが起きるんですね。
その初めのヒット曲を歌ったシンガーとして、
Wayne Smithの名前はレゲエ史に刻まれています。

アーティスト特集 Wayne Smith (ウェイン・スミス)

今回のアルバムはそのデジタルの初のヒット曲
「Under Me Sleng Teng」を中心とした、彼の
ソロ・アルバムです。
1985年に「Under Me Sleng Teng」は大ヒット
していて、その翌年の86年にこのアルバムは
作られています。

ちなみに初めに発売された時のこのアルバムの
タイトルは単に「Sleng Teng」で、曲順も
今回のアルバムとは異なっています。

今回手に入れたアルバムは、2004年に
Greensleeves Recordsが再編集したヴァージョン
で、書いたように曲順が変わっているほか、
オリジナル10曲にプラスしてヒット曲「Under
Me Sleng Teng」のPrince Jammyのヴァージョン
(ダブ)と(Remix)がプラスされた全12曲入り
のアルバムです。

ちなみにこのアルバムのダブがPrince Jammy名義
のアルバム「Computerised Dub」として、同年
86年に作られているようです。
また92年にこのアルバムとそのPrince Jammyの
ダブをまとめた2in1のアルバムも発売されています。

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Wayne Smith / Prince Jammy - Sleng Teng / Computerised Dub

全12曲で収録時間は48分31秒。

ミュージシャンについては以下の記述があります。

All Tracks Written by I. Smith exept 'Under Me Sleng Teng'
I. Smith / L. James / N. Davey

Produced & Arranged by: Prince Jammy
Recorded & Mixed at: Prince Jammy's Studio
Musicians: Wycliffe "Steely" Johnson, Cleveland "Clevie" Browne,
Wayne Smith, Super Power All-Stars

Design: Tony McDermott

となっています。

バックはSteely & ClevieとSuper Power
All-Starsが担当しています。
Prince Jammyのサウンド・システムの名前が
Super Powerなので、そのオールスター・
メンバーという事でしょうか。

ジャケット・デザインはTony McDermottです。
Tony McDermottはScientistの「漫画ジャケ」
シリーズやMad Professorの「Dub Me Crazy」
シリーズのジャケット・デザインなどでも知られ
ています。

さて今回のアルバムですが、レゲエの歴史の中
のエポック・メイキングな1曲が収められた
アルバムという事で、レゲエの好きな人なら
押さえておきたいアルバムだと思います。

このアルバムの作られた86年頃というのは、
70年代に流行したルーツ・レゲエがひと区切り
が付いて、80年頃に始まったダンスホールの
現場を中心とした「現場主義のレゲエ」、
ダンスホール・レゲエが流行っていた時代だった
んですね。
そしてそのダンスホール・レゲエをけん引して
いたのが、レーベルではHenry 'Junjo' Lawes
の率いるVolcanoレーベルであり、ミキサー
(プロデューサー)ではPrince JammyやScientist
といった若い感性を持ったミキサーだったん
ですね。

すでにこの80年代の彼らPrince Jammyや
Scientistのダブ・アルバムでは、デジタルの
ピコピコ音が効果音として使われ始めています。
今では当たり前に使われるこうしたデジタルの
効果音ですが、この80年当時はすごく目新しい
「現代的な音」だったんですね。
特に当時流行ったインヴェーダー・ゲームなどを
題材としたダブ・アルバムなどで効果的に使われ
ていて、Scientistの「漫画ジャケ」シリーズの
ダブ・アルバム「Meets The Space Invadors」や
Prince Jammyのダブ「Destoroys The Invaders
...」などに効果的に使われています。

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Scientist - Meets The Space Invaders (1981)

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Prince Jammy - Destoroys The Invaders... (1982)

ただそのPrince Jammyでさえ当初はそのデジタル
音で楽曲を作る事は考えていなかったようです。
この「Under Me Sleng Teng」という楽曲が誕生
したきっかけは、Wayne Smithの友人Noel Davey
がカシオトーンを買ったことがきっかけだった
ようです。
ある時カシオトーンを借りていたWayne Smithが
「Under Me Sleng Teng」の元となったフレーズ
を発見するんですが、それがなかなか再現出来ず
に苦労するんですが、持ち主のNoel Daveyがその
フレーズを作りだす事に成功し、Prince Jammyの
元に持ち込んでミックスし直して録音したのが
この曲なんだとか。
ただ当初はPrince Jammyもこの曲の良さに半信
半疑で、サウンド・システムの観客などのあまり
の反応の良さに発売する事にしたそうです。

Riddim | Wayne Smith / Under Me Sleng Teng - Overheat

結果的にこの楽曲はジャマイカ全土に「Sleng
Teng」の大ブームを引き起こし、レゲエをコン
ピューター・ライズド一色に変えてしまう事に
なります。

もちろんその功罪はいろいろあると思います。
ただWayne SmithとNoel Daveyという二人の若者
の発想が、レゲエの世界を一夜にして変えて
しまった事もまた事実なんですね。
そういうエポック・メイキングなアルバム
として、このアルバムはレゲエの歴史に欠かせ
ないアルバムなんですね。

1曲目は「Under Me Sleng Teng」です。
言わずと知れたモンスター・ヒットです。
この曲から今日のレゲエが始まっていると
言っても過言ではありません。
当時の楽器を演奏しているレゲエの中に、この曲
の入った衝撃は想像以上のものがあったと思い
ます。

Wayne Smith - Under me sleng teng


2曲目は「Under Me Sleng Teng Version」です。
この曲オリジナルのアルバムにはない、Prince
Jammyによるヴァージョン(ダブ)です。
時折入るWayne Smithのエコーの入ったヴォーカル
以外はすべてデジタル音というこの曲を聴くと、
今聴く以上の衝撃が当時はあったという事が、
想像できます。

3曲目は「Icky All Over」です。
重いオルガンのようなシンセ音をバックにした
Wayne Smithのヴォーカルを中心とした1曲です。
この曲なども特徴的なんですが、バックは比較的
無機質で、曲に表情を付けているのはヴォーカル
なんですね。
このアルバム以降のジャマイカのレゲエは、そう
いうバックは無機質でヴォーカルで表情を付ける
という音作りが主流になって行きます。

4曲目は「My Lord, My God」です。
Dennis Brownのデジタル期のヒット曲「The Exit」
のリディムが使われています。
このデジタルのダンスホール・レゲエ期になると
アナログ録音の手間が無くなって、曲が大量に
作られるようになるんですね。
ある意味曲作りが間に合わなかったのか、同じ
曲をアーティストを変えてヴォーカルだけを
入れ替えて作り直す事もよく行われています。

wayne smith my lord my god


5曲目は「E20」です。
楽曲に「Under Me Sleng Teng」に負けない
カッコよさがあります。

Wayne Smith - E20 - Greensleeves Lp


6曲目は「Like A Dragon」です。
ちょっと歌い方がセクシーで、いかにもダンス
ホールといった1曲です。
このデジタルの時代になると思想的にも音楽的
にも、それまであったルーツ・レゲエとは
まったく違う音楽になって行くんですね。

7曲目は「Leave Her For You」です。
こちらもデジタル音をバックにした、Wayne Smith
のヴォーカルを中心をした曲です。

8曲目は「Walk Like Granny」です。
こちらはデジタル音がちょっとコミカルな雰囲気
も醸し出す1曲です。

9曲目は「Hard To Believe」です。
こちらはデジタル以前のダンスホールの香りも
ちょっとする1曲です。

10曲目は「In Thing」です。
いかにもデジタルらしいリズム感に溢れた曲
です。

Wayne Smith - In Thing (Sleng Teng - 1986)


11曲目は「Love Don't Love Me」です。
こちらはWayne Smithのファルセット気味の
ヴォーカルが印象に残る曲です。
かなり聴かせるデジタル・サウンドを、うまく
作り上げています。

Wayne Smith - Love Don’t Love Me


12曲目は「Under Me Sleng Teng (Remix)」
です。
こちらもオリジナル・アルバムにはない
「Under Me Sleng Teng」の(Remix)ヴァージョン
です。
ダブで磨いたPrince Jammyの音作りのウマさが
光ります。

ざっと追いかけて来ましたが、Wayne Smithと
いうアーティストの才能とPrince Jammyという
プロデューサーの才能が、うまくぶつかり合って
コラボしたアルバムだと思います。

このWayne SmithとNoel Daveyという二人の若者
の発想が、それまでなかなか完全に開花出来
なかったPrince Jammyの才能を完全に開花させ、
Prince JammyはKing Jammyというレゲエ界を
支配する「王様」になって行くんですね。

このデジタルのダンスホール・レゲエの幕開け
を告げたアルバムは、やっぱり聴いておくべき
アルバムのひとつだと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Wayne Smith
○アルバム: Under Me Sleng Teng
○レーベル: Greensleeves Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1986

○Wayne Smith「Under Me Sleng Teng」曲目
1. Under Me Sleng Teng
2. Under Me Sleng Teng Version *
3. Icky All Over
4. My Lord, My God
5. E20
6. Like A Dragon
7. Leave Her For You
8. Walk Like Granny
9. Hard To Believe
10. In Thing
11. Love Don't Love Me
12. Under Me Sleng Teng (Remix) *
* CD Bonus Tracks