今回はI Royのアルバム

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「Musical Shark Attack」です。

I Royはルーツ・レゲエの時代に人気を博した
ディージェイです。

ジャマイカには前からサウンドシステムの会場
を盛り上げるディージェイという仕事があったの
ですが、あくまで曲の前奏や間奏部分に掛け声を
かけて盛り上げる「掛け声係」みたいな役割
だったんですね。
それを変えたのがU Royというディージェイの
登場です。彼は曲の前奏や間奏ではなくなんと!
曲のメインの歌が入るところでしゃべったん
ですね。
これは世界初の発明でした。
それまで歌を歌った人は居たけれど、曲の中で
しゃべった人は居なかったんですね。
このディージェイという形式は、後にアメリカで
ラップという音楽を生みだす事になります。
そのためこのU Royは「元祖ラッパー」と称される
事があります。

このU Royがヒット曲を飛ばした事で、ジャマイカ
ではディージェイの追随者が次々と現われ、
70年代の初めにディージェイの大ブームが起きる
んですね。
その追随者の一人が今回紹介するI Royです。
ちなみにU Royは「俺のマネをするな!」と、
追随者をすごく嫌がっていたようなんですが、
結果的に見るとこのI RoyをはじめDennis Alcapone
やBig Youthなど多くの追随者が現れた事で
ディージェイはレゲエを代表する音楽へと成長
して行ったんですね。

特にこのI Royの人気は凄まじく、10年連続で
トップ・ディージェイの地位を維持していた
んだそうです。
またPrince Jazzboとの間で行われた「伝説の
舌戦」はとても有名です。
そうした活躍をしたI Royですが、1999年に
心臓疾患の為に55歳で亡くなっています。

アーティスト特集 I Roy (アイ・ロイ)

今回のアルバムは1976年に当時一番勢いの
あったレーベルChannel Oneに残したアルバム
です。
Channel Oneといえばバック・バンドの
The Revolutionariesが叩き出す攻撃的な
ミリタント・ビートがウリのレーベルで、
今回のアルバムでも気持ちの良いビートを
聴かせています。

ちなみにこのアルバムのダブが、The Revolutionaries
の「Musical Dub Attack」として同年に発売
されています。

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The Revolutionaries - Musical Dub Attack (1976)

全11曲で収録時間は34分42秒。

ミュージシャンについては以下の記述があります。

All Tracks Written by I Roy
Produced by Joseph Hoo Kim at Channel One
Backed By The Revolutionaries
Desin and Photography by Cook Key Associates

となっています。

バックはThe Revolutionariesとなっていて、細かい
メンバーの記述はありませんでした。
(「Musical Dub Attack」にも記述はなし。)

ちなみにこの76年当時のThe Revolutionaries
のアルバムとしては通称「白ゲバラ」と言われる
「Revolutionaries」が有名です。

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The Revolutionaries - Revolutionaries (1976)

この頃はThe Revolutionariesに最も勢いの
あった時代なんですね。
その時のメンバーを移してみると、

Tenor Sax: Tommy McCook
Alto Sax: Marques
Trombone: Don D Junior
Drum: Sly
Bass: Ranchie, Robbie
Lead Guitar: Rad Bryan (Duggie), Tony
Keyboards: Ansel Collins, Tazan, ossie
Percussion: Sticky

となっています。
この当時のジャマイカではバック・バンドは
プラスティック・バンドだったので、実際に今回
のアルバムにこのメンバーが参加しているかは
解りませんが、参考程度に見ておいてください。

さて今回のアルバムですが、ディージェイとして
一番輝いていたI Royとバック・バンドとして
一番勢いのあった時代のThe Revolutionaries
という組み合わせで、内容はとても良いと思い
ます。
このルーツ・レゲエの時代のディージェイという
音楽がどういう音楽だったのか?それを知るには
最適なアルバムだと思います。

1曲目はの「Semi Classical Natty Dread」です。
I Royの切れ味のあるトースティングとバックの
ソリッドな演奏はやっぱり魅力的です。

I Roy - Semi Classical Natty Dread (stereo)


2曲目はの表題曲の「Musical Shark Attack」
です。
この曲はRiddimguideによると、「Rain From The
Skies」という曲のリディムが使われているよう
です。

I Roy Musical shark attack


3曲目はの「Drum Sound」です。
こちらはズンズンと腹に響くようなベースの音
に乗せたI Royのトースティングです。
Jackie Mittooの「Hot Milk」のリディムが
使われているようです。

4曲目はの「Is Love I A Deal With」です。
ちょっと「Drifter」に似たリディムの曲で、ピアノ
と少しダブワイズしたホーンが良いアクセントに
なっています。

5曲目はの「Social Development」です。
こちらも重いベースにドラムの刻むリズムが、
いかにもThe Revolutionariesらしい気持ちの
良いサウンドを叩き出している曲です。

6曲目はの「Jamboree」です。
こちらもベースを主体とした曲です。

7曲目はの「Skyjuice And Festival Dumpling」
です。
こちらもベースとドラムのリズム隊の刻むリズム
に乗せた曲です。
エンジニアのErnest Hoo Kimはあまりエフェクト
を使わない事で知られていますが、この時代の
彼はけっこうダブワイズした曲を作っているん
ですね。

8曲目はの「Run For Your Life」です。
一見メローでも実はコード・コアというこの時代の
レゲエの特徴がよく表れた曲です。
この曲もちょっとダブワイズしたバックのサウンド
になっています。

9曲目はの「Tribute To Michael Holding」です。
シンプルな刻むリズムに乗せたI Royのトースティング
が冴えまくる曲です。
Michael Holdingはネットで調べてみたところ、
どうやらジャマイカ人のクリケットの選手の
ようです。

I Roy - Tribute To Michael Holding


Michael Holding - Wikipedia

10曲目はの「Everybody Ballin」です。
こちらもベースの効いたリズムに乗せたI Roy
の軽快なトースティングといった曲です。

11曲目はの「Tribute To Marcus Garvey」
です。
こちらもベースの効いたリズムに乗せたMarcus
Garveyの賛歌です。
ルーツ・レゲエを聴いている人の多くが知って
いるでしょうが、Marcus Garveyは黒人のアフリカ
回帰運動を唱えた指導者であり、貿易商でもある
人です。
彼の思想がルーツ・レゲエの時代に流行った
ラスタファリズムの元になったと言われています。

I ROY - TRIBUTE TO MARCUS GARVEY


マーカス・ガーベイ - Wikipedia

ざっと追いかけて来ましたが、ズンと響くベース
を中心とした曲が多いのが印象的です。
そうした骨太のバックに支えられて、I Royらしい
切れ味のあるトースティングがとても良いです。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: I Roy
○アルバム: Musical Shark Attack
○レーベル: Virgin
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1976

○I Roy「Musical Shark Attack」曲目
1. Semi Classical Natty Dread
2. Musical Shark Attack
3. Drum Sound
4. Is Love I A Deal With
5. Social Development
6. Jamboree
7. Skyjuice And Festival Dumpling
8. Run For Your Life
9. Tribute To Michael Holding
10. Everybody Ballin'
11. Tribute To Marcus Garvey

●今までアップしたI Roy関連の記事
〇I Roy, Clint Eastwood, Jah Stitch「DJ Trilogy」
〇I Roy「Black Man Time」
〇I Roy「Don't Wake Up The Lion: 14 Toasting Classics From The Dancehall Master」
〇I Roy「Gussie Presenting I Roy」
〇I Roy「Heart Of A Lion」
〇I Roy「Sattamassagana」
〇Various「Once Upon A Time At King Tubbys」
〇Various「Can't Stop The Dread」
〇I-Roy「Don't Check Me With No Lightweight Stuff [1972-75]」
〇Niney The Observer「Deep Roots Observer Style」
〇Niney The Observer「Microphone Attack 1974-78」
〇I Roy「Many Moods Of I Roy」