今回はPhillip Fraserのアルバム

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「Loving You」です。

Phillip Fraser(Phillip Frazer)は70年
代のルーツ・レゲエの時代から80年代の
ダンスホール・レゲエの時代にかけて活躍
したシンガーであり、プロデューサーでも
ある人です。
自身の主催するレーベルRazer Soundsや、
Errol 'Don' Maisの率いるレーベル
Roots Traditionなどで活躍をし、おもに
ジャマイカ国内の小さなレーベルから
アルバムを出している人なんですね。
ルーツからダンスホールの時代にかけて、
ジャマイカ国内ではかなり目覚ましい活躍
をしています。

ネットのDiscogsによると、共演盤を含め
て13枚ぐらいのアルバムと、188枚
ぐらいのシングル盤、2枚ぐらいの
コンピュレーション・アルバムをリリース
しています。

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Phillip Frazer ‎– Come Ethiopians (1978)

今回のアルバムは1982年にUKの
Silver Camelというレーベルからリリース
された彼のソロ・アルバムです。

プロデュースはPhillip Fraser本人で、
バックはSoul Syndicate Band、ミックス
はScientistとPrince Jammyが担当した
アルバムで、「Holding On」や「Lonely
Feelings」、「Life Is So Funny」、
「Tonight」など、このアーリー・ダンス
ホールの時代らしいスローなワン・
ドロップのリズムをバックとした、
Phillip Fraserらしいラヴ・ソングが堪能
出来るアルバムとなっています。

手に入れたのはレゲエレコード・コムで
購入した、Phillip Fraserのレーベル
Razor SoundからリリースされたLPの
新盤でした。
ジャケットはかなりボロっちいジャケット
で、表と裏にはかなり擦れたような跡が
あり、白くレコード盤の形がクッキリと
付いていて、ジャケットの下は半分ノリが
剥がれて空いていました。
一応レゲエレコード・コムで新盤として
買ったアルバムですが、見た目は完全に
中古盤といった体裁でした。
その辺の雑さはいかにもジャマイカ盤と
いった感じです。
ただ中のレコード盤は多少チリチリ音は
入るものの、問題はありませんでした。

Side 1が5曲、Side 2が5曲の全10曲。

ミュージシャンについては以下の記述が
あります。

Soul Syndicate Band:
Lead Guitar: Earl 'Chinna' Smith
Rhythm Guitar: Bingy Bunny, Tony Chin
Piano: Steeley
Organ: Gladstone Anderson
Hornes: Deadly Headley
Drums: Santa Davies, Style Scott
Bass: George Fullwood, Flabba Hold
Percussion: Scully

Recorded at Channel One Studio, Kingston, Jamaica
Voice and mix at King Tubby's Studio, Kingston, Jamaica
by Scientist & Prince Jammings
Produced by P.Fraser, B. Fraser, J. Fraser, & S. Fraser
for Razor Sounds Record
Distributed by Razor Sounds Record

Art work designed by Fred Allen

となっています。

バックはSoul Syndicate Bandで、
リード・ギターにEarl 'Chinna' Smith、
リズム・ギターにBingy BunnyとTony
Chin、ピアノにSteeley、オルガンに
Gladstone Anderson、ホーンにDeadly
Headley、ドラムにSanta DaviesとStyle
Scott、ベースにGeorge Fullwoodと
Flabba Hold(Holt)、パーカッションに
Scullyという布陣です。
メンバーにFlabba HoltやStyle Scott、
Bingy Bunnyなどが入っているので、
Roots Radicsでも不思議の無いメンバー
です。

レコーディングはジャマイカのキング
ストンにあるChannel One Studioで行わ
れ、声入れとミックスはキングストンに
あるKing Tubby's Studioで、ミックスを
Scientist & Prince Jammings(Jammy)が
担当しています。
プロデュースはRazor Sounds Recordの
P.FraserとB. Fraser、J. Fraser、
S. Fraserとなっています。

ジャケット・デザインはFred Allenと
なっています。
このRazor Sound盤はPhillip Fraserの
文字とハート型に入った顔写真という、
タイトルの「Loving You」通りにかなり
ラヴリーなジャケットですが、UKの
Silver Camel盤の方は白いスーツ姿で椅子
に座ったPhillip Fraserを2人の女性が
取り囲む写真が使われています。

さて今回のアルバムですが、この
アーリー・ダンスホールの時代らしい
スローなワン・ドロップのリズムに乗せた
Phillip Fraserのソフトな歌い回しが
とても心地良いアルバムで、内容は悪く
ないと思います。

このPhillip Fraserという人ですが、販売
サイトの評価などではルーツ・シンガーと
書かれている事が多いです。
ただ実際はルーツ期にはルーツ・レゲエを
歌い、ダンスホール期にになるとダンス
ホール・レゲエを歌ったシンガーで、
ジャマイカのローカル・シンガーという
色彩が強い人なんですね。

今回のアルバムはそのルーツ・シンガー
からダンスホール・シンガーへと変わって
行った初めの頃のアルバムのようです。
ちなみにこの82年には、このアルバム
よりももう少しルーツ色の強い「Blood
Of The Saint」という4曲入りのミニ・
アルバムもリリースしています。

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Phillip Fraser - Blood Of The Saint (1982)

Phillip Fraserがルーツ・シンガーという
評価になったのは、この「Blood Of The
Saint」や78年頃にリリースされたと
思われる「Come Ethiopians」という
ルーツ色の強いアルバムの影響が大きい
ようです。
ただ実際の彼は時代に合わせて、徐々に
スタイルを変化させているんですね。
それがローカル・シンガーとして生きる
彼の、生き残る術だったのかもしれま
せん。

今回のアルバムはそんな彼のアーリー・
ダンスホール・レゲエらしい楽曲を集めた
1枚で、タイトルからも解るようにラヴ・
ソングを中心としたいかにもこの時代
らしいアルバムです。
バックのSoul Syndicate Bandのスローや
ミディアムのワン・ドロップのリズムに
乗せた、Phillip Fraserのヴォーカルは
とても魅力的です。

哀愁のあるメロディのSide 1の1曲目
「Holding On」から始まり、Phillip
Fraserの泣きのヴォーカルが冴える2曲
目「You'll Be Sorry」、ソフトな
ヴォーカルが魅力的な3曲目は「Lonely
Feelings」、悲し気なキーボードに乗せ
た5曲目「Sad Movies」、ユッタリと
したワン・ドロップのメロディのSide 2
の1曲目「Life Is So Funny」、この
アルバムの中でも出色の歌唱の2曲目
「Tonight」、哀愁のあるメロディの3曲
目「Sharon」、ピアノに乗せて歌い込む
ようなヴォーカルが印象的な4曲目
「Drew」、この時代に大流行した「M16」
リディムのホーンに乗せた5曲目
「Raindrops Keep Falling」と、
アーリー・ダンスホール・レゲエらしい
ちょっと湿った空気感がとても魅力的な
アルバムとなっています。

またScientist & Prince Jammyのミックス
もとても素晴らしく、このアルバムの質を
さらに高めている印象です。
こういう音楽が普通にジャマイカ中に溢れ
ていた…。
それを思うとこのアーリー・ダンスホール
の時代がいかに凄い時代だったのか…。
あらためて思い知らされるような気持が
します。

Side 1の1曲目は「Holding On」です。
ギターとキーボードの哀愁のあるメロディ
のワン・ドロップに、Phillip Fraserの
ソフトで感情をうまく乗せたヴォーカルが
グッと来る曲です。

Phillip Frazer- Holding On (7inch) [By Samroots1980]


2曲目は「You'll Be Sorry」です。
漂うようなキーボードのワン・ドロップ
に、ソフトで力強いPhillip Fraserの
ヴォーカルが魅力的。

Phillip Fraser - You'll Be Sorry


3曲目は「Lonely Feelings」です。
キーボードとギターの優しいメロディに、
静かに語るようなPhillip Fraserのソフト
なヴォーカルが魅力的。

4曲目は「Still In Love」です。
ギターとピアノ、小鳥のさえずりの擬音
に、ソフトなPhillip Fraserのヴォーカル
がイイ感じの曲です。

5曲目は「Sad Movies」です。
悲し気なキーボードのメロディに、感情を
うまく乗せたPhillip Fraserのヴォーカル
が魅力的。

Phillip Frazer - Sad Movie


Side 2の1曲目は「Life Is So Funny」
です。
ギターとキーボードのユッタリとした
ワン・ドロップに、Phillip Fraserの
ソフトでノビのある歌声がイイ感じの曲
です。

Phillip Frazer - Life Is So Funny


2曲目は「Tonight」です。
ギターの刻むようなメロディに、Phillip
Fraserの伸びやかな歌唱が見事な曲です。
このアルバムの中でも特に白眉な1曲。

Phillip Frazer - Tonight


3曲目は「Sharon」です。
ギターの哀愁のあるメロディに、語りかけ
るような感情を乗せたPhillip Fraserの
ヴォーカルが光る曲です。

Phillip Frazer - Sharon


4曲目は「Drew」です。
ピアノとキーボードのメロディに、丁寧に
歌い込むようなPhillip Fraserのソフトな
ヴォーカルが魅力的な曲です。

5曲目は「Raindrops Keep Falling」
です。
リディムはLone Rangerの「M16」。
この時代らしいホーンのユッタリとした
メロディに、伸びやかで優しいPhillip
Fraserのヴォーカルがシビレる曲です。

ざっと追いかけてきましたが、Phillip
Fraserというシンガーのアルバムとして
聴いても、アーリー・ダンスホール・
レゲエのアルバムとして聴いても、とても
良い内容のアルバムだと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Phillip Fraser
○アルバム: Loving You
○レーベル: Razor Sound
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1982

○Phillip Fraser「Loving You」曲目
Side 1
1. Holding On
2. You'll Be Sorry
3. Lonely Feelings
4. Still In Love
5. Sad Movies
Side 2
1. Life Is So Funny
2. Tonight
3. Sharon
4. Drew
5. Raindrops Keep Falling

〈2019年04月17日修正〉

●今までアップしたPhillip Fraser関連の記事
〇Phillip Fraser「Blood Of The Saint Vintage: Phillip Fraser Showcase 79-80-81-82」
〇Phillip Fraser「Blood Of The Saint」
〇Phillip Frazer (Phillip Fraser)「I Who Have Nothing」
〇Phillip Frazer (Phillip Fraser)「Never Let Go」
〇Phillip Frazer「Come Ethiopians」