今回はBob Marley & The Wailersの曲
「One Drop ワン・ドロップ(崩壊のとき)」を
紹介してみたいと思います。

この曲はBob Marley & The Wailersの1979年
のアルバム「Survival」に入っている曲です。
このアルバムは日本では東芝EMIから発売されて
いて、ライナー・ノーツには英語の歌詞と
山本安見さんという方の訳詩が載っています。
今回はその訳詩から「One Drop ワン・ドロップ
(崩壊のとき)」を紹介してみたいと思います。

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Bob Marley & The Wailers - Survival (1979) LP


● ワン・ドロップ(崩壊のとき)One Drop - Bob Marley

今は崩壊のとき
だが 俺の心は冷静だ
ジェネレーション・ギャップが
俺たちをとどめさせる
魂の奥から響き渡る
このドラム・ビートが聞こえるか?
システムへの抵抗を刻んだ
このリズムが聞こえるか?

Jahは俺たちを貶めるわけがない
不正の中から
俺たちの権利を引き出してくれる
Jahは俺たちを貶めるわけがない

奴らは世の中を
ますます厳しいものにしていく
来る日も来る日も
俺たちは闘わなければならない
奴らは世の中を
ますます厳しいものにしていく
毎日 多くの人々が死んでゆく
俺たちDread(ドレッド)は飢餓に苦しんだ
俺たちDread(ドレッド)は悲嘆にくれる
Dread(ドレッド)よ 
ヨハネ黙示録を読むがいい
必ず 救いを見いだせる

お前たちは
偽神の教えを説くが
俺たちは悪魔の哲学など用はない
お前たちは
偽神の教えを説くが
俺たちは悪魔の哲学など用はない

今は崩壊のとき
だが 俺の心は冷静だ
ジェネレーション・ギャップが
俺たちをとどめさせる
魂の奥から響き渡る
このドラム・ビートが聞こえるか?
リズムを刻んだ心臓の鼓動が聞こえるか?
これは分裂したシステムへの抵抗のリズムだ
これは神への深い信頼の賛歌だ

(東芝EMIのLP Bob Marley & The Wailers「Survival」より
「 ワン・ドロップ(崩壊のとき)」山本安見さんの訳詩より)

One Drop - BOB MARLEY



今回この曲を取り上げたのは、この曲がタイトル
通りに「ワン・ドロップ」というリズムの代表曲
だという事もあります。
このワン・ドロップはこのThe Wailersのドラマー
Carlton Barrettが開発したリズムで、ネットの
Wikipediaの情報によると、「1拍目にアクセントが
なく、3拍目のみがスネアドラムのリムショットと
バスドラムによって強調される」リズムという
事です。

レゲエ - Wikipedia

このワン・ドロップは80年代に新しく流行した
初期のダンスホール・レゲエで、本当によく使われて
いるリズムなんですね。

この70年代から80年代のレゲエでは本当に多く
のビートが開発されていて、他にもSly Dunbarが
開発したロッカーズ(ミリタント・ビート)と
ステッパーズ、Carlton 'Santa' Davisが開発し
74~75年の短期間だけ流行したフィライング・
シンバルなど多くのビートが開発されたんですね。
こうしたビートが開発されたところからみても、
この70年代と80年代がレゲエが最も生き生き
と輝いていた時代だったのかもしれません。

歌詞の内容は「お前たちは 偽神の教えを説くが 
俺たちは悪魔の哲学など用はない」という、
キリスト教=バビロニアン(悪徳に染まった人々)
対ラスタファリアン(善良な心を持った正しく
生きる人々)といった内容です。
ラスタファリアンにとってはキリスト教徒なんて
「悪魔の哲学」だと言っているんですね。
ジャッジメント・デイ(審判の時)が訪れ、
悪徳に染まった人々は滅びると言っている訳
なんですが、このあたりは現在のキリスト教徒と
イスラム教徒の一部ISとの対立を連想させます。

ただBob Marleyは悪徳に染まった文明で生きて
いるバビロニアンは神(Jah)の裁きで滅びると
言っているだけで、武力で滅ぼすと言っている訳
では無いんですね。
彼が訴えているのは人として正しく生きる事で
あり、自分たちに対する迫害とは闘うけれど
異教徒だからという理由で彼らを殺すことでは
無いんですね。
そこがただの狂信者との違いです。

余談ですが、イスラム教徒をアメリカに入国
させないという考えは、結果的にISを支持して
いるのと同じことなんですね。
彼らの挑んでいるのは、キリスト教対イスラム教
という宗教戦争です。
宗教が共存する社会ではなく、対立する社会。
結果的にそういう社会にする事に、トランプという
候補は賛成しているんですね。
ある意味ISの熱烈な支持者と言えるかもしれ
ません。

ナショナリズムという考えの中には、そうした
他者を強烈に排除する志向があるんですね。
日本対中国、日本対韓国という対立構図にある
ナショナリズムも、根底にはそうした根深い
民族差別意識があることは否定できません。

このBob Marleyの歌詞は、そうした武力で世界を
変えるという事ではなく、正しく生きるという
事に重きが置かれていることは間違いありません。

間違ったことには絶対に服従はしない。
けれど裁きの日まで自分たちはけっして罪は
侵さない。
それがこの70年代に、彼が大きな支持を受けた
一番大きな理由です。

Bob Marley - One Drop Zimbabwe Santa Barbara Live 1979