今回はDennis Alcaponeのアルバム


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「Forever Version」です。

Dennis Alcaponeは初期のルーツ・ディージェイ
としてよく知られる人です。

それまでもジャマイカにはサウンドシステムの
会場で、曲を盛り上げるディージェイという
仕事はありました。
ただそれは曲の合間や前奏で掛け声をかける
「掛け声係」や「盛り上げ係」といった仕事
だったんですね。
ところが曲の中で歌う代わりにしゃべる、
いわゆる「トーク・オーバー」という技法を
発明した人が居るんですね。
それが70年代初め頃に登場したU Royという
ディージェイです。
それまで歌を歌う人は居ても、しゃべるという
人は居なかったんですね。
この世界的な発明から彼は、「元祖ラッパー」
などと言われたりします。

このディージェイはジャマイカ中でブームに
なり、追随者を次々に生みだしたんですね。
その一人が今回紹介するDennis Alcaponeです。
彼はデビューすると瞬く間に人気者となり、
他のディージェイの憧れの存在になるんですね。
あのDillingerの初めは、彼の名前を取って
「ヤング・アルカポーン」と名乗っていたそう
です。
それほど絶大な人気のディージェイだったん
ですね。

デニス・アルカポーン - Wikipedia

今回のアルバムは1971年にStudio Oneから
発売された彼のファースト・アルバムです。
この同年71年にU Royのファースト・アルバム
「Version Galore」もStudio Oneのライバル・
レーベルTreasure Isleから発売されているので、
ディージェイのアルバムとしてはかなり早い
時期のアルバムだったんじゃないかと思います。

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U Roy - Version Galore (1971)

ちなみにU Royは、彼を真似た多くのディージェイ
が誕生したことをかなり嫌がっていたようです。

レーベル特集 Studio One (スタジオ・ワン)

全12曲で収録時間は33分34秒。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

Produced by C.S. Dodd
Recorded by Jamaica recording Studio

という記述があります。

さて今回のアルバムですが、このルーツ期の
ディージェイが好きな人なら押さえておいた
方が良いアルバムだと思います。
このアルバムはU Royのアルバム「Version Galore」
と並ぶ最初期のディージェイ・アルバムだと
書きましたが、その誕生したてのディージェイ
という音楽のホットな魅力がうまく収められて
います。

この時代はまだ初期レゲエの時代で、そのせいか
今回のアルバムには元の音源としてレゲエの
前身のロックステディの名曲が多く使われて
います。
そのあたりも「Version Galore」と、ちょっと
似ている部分ではあります。
甘いロックステディのスローリズムに、スパイシー
なトースティングという組み合わせがすごく
魅力的なんですね。

1曲目は「Nanny Version」です。
元歌はLarry Marshallの「Nanny Goat」という
曲が使われているようです。
ロックステディ時代の明るい曲に「イェーー!」
といった明るいトースティング、それが彼の
持ち味なんですね。

Dennis Alcapone - Nanny Version


2曲目は「Run Run」です。
元歌はDelroy Willsonのヒット曲です。
エコーの効いた弾けたトースティングで、会場を
盛り上げる様子が浮かぶような曲です。

3曲目は「Riddle I This」です。
この曲には「Solomon」というリディムが使われて
います。

4曲目は「Baby Version」です。
元歌はThe Heptonesのロックステディ時代の曲
「Baby」が使われています。
甘いスウィートな曲が、違う曲に化けているのが
面白いところです。

5曲目は「Sunday Version」です。
元歌はAlton Ellisの「Sunday Coming」です。

6曲目は「Version I Can Feel」です。
元歌はJohn Holtの「A Love I Can Feel」です。
さらにその元歌はThe Heptonesのロックステディ
時代の大ヒット曲「Pretty Looks Is't All」。
名リディムに乗せたDennis Alcaponeのトースティング
が冴える1曲です。

Dennis Alcapone - Love I Can Feel(A Love I Can Feel Riddim)


7曲目は表題曲の「Forever Version」です。
元歌はCarlton & The Shoesのロックステディ
時代の大名曲「Love Me Forever」です。
その後の採算リピートされる名曲ですが、
甘いメロディにビターなトースティングが
これぞレゲエという世界観を作っています。

DENNIS ALCAPONE - FOREVER VERSION


8曲目は「Baby Why Version」です。
元歌はこれまたロックステディ時代のStudio One
の大名曲The Cablesの「Baby Why」です。
これまたトースティングがキマったシビレる
1曲です。

9曲目は「Dancing Version」です。
元歌はDelroy Willsonのヒット曲「Dancing Mood」
です。

10曲目は「Midnight Version」です。
この曲は有名映画「真夜中のカウボーイ(Midnight
Cowboy)」に使われ主題歌「うわさの男(Everybody's
Talkin)」のリディムです。
面白所から拾ってきたなぁという1曲です。

Dennis Alcapone - Midnight Version


11曲目は「Sweet Talking Version」です。
これまたThe Heptonesのロックステディ
時代の大ヒット曲「Sweet Talking」。

12曲目は「Version You To The Ball」です。
元歌はJohn Holtの在籍した事で知られるThe Paragons
のヒット曲「Wear You To The Ball」です。

ざっと追いかけて来ましたが、ロックステディ時代
の名リディムを生かしながらDennis Alcaponeの
ビターなトースティングが冴えるアルバムに
なっています。
何よりも魅力的なのは、このアルバムにはこの
ルーツの初めの空気感がすごく盛り込まれている
ところなんですね。
何か新しい音楽を生みだそうというエネルギーを
すごく感じるアルバムになっています。

このアルバムを聴くと、なぜ多くの後のディージェイ
が彼Dennis Alcaponeに憧れたのか?その秘密の
一端が解るような気がします。
彼のトースティングにはそれまでに無い新しい
世界があり、そのカッコよさに多くの人々が
シビレたんですね。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Dennis Alcapone
○アルバム: Forever Version
○レーベル: Heartbeat
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1971

○Dennis Alcapone「Forever Version」曲目
1. Nanny Version
2. Run Run
3. Riddle I This
4. Baby Version
5. Sunday Version
6. Version I Can Feel
7. Forever Version
8. Baby Why Version
9. Dancing Version - featuring The Wailers
10. Midnight Version
11. Sweet Talking Version
12. Version You To The Ball

●今までアップしたDennis Alcapone関連の記事
〇Dennis Alcapone「My Voice Is Insured For Half A Million Dollars」
〇Dennis Alcapone「Wake Up Jamaica」
〇Dennis Alcapone「Yeah Yeah Yeah Mash Up The Dance」