今回はVarious(オムニバス)もののアルバム

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「If Deejay Was Your Trade.」です。

これは今は活動を停止しているBlood & Fireレーベル
から出ているコンピュレーション・アルバムです。
ネットなどの情報によるとこのアルバムがBlood & Fire
から出された初めてのアルバムらしいです。
副題に「The Dread at King Tubby's 1974-1977」と
ありますが、1977年から79年までにKing Tubby's
Studioでミックスされたディージェイの曲を集めた
1枚です。

このKing Tubby's Studioはダブのミックス以外にも、
ディージェイやヴォーカリストの歌入れなどに、よく
利用されていたようです。
その理由としてプロデューサーのBunny Leeは、
「良いマイクがあったから」と語っているのを
別のアルバムの解説文の訳で読んだ事があります。
そういう理由からBunny Leeはじめ多くのプロデューサー
が、バックは別のスタジオで録ってヴォーカルや
ディージェイだけこのKing Tubby'sで録るという
使い方をしていたようです。

ちなみにそういうヴォーカルだけ録るスタジオは、
他のスタジオはかなり狭かったそうですが、この
King Tubby'sは少し広めに作ってあって、それも
録音する歌手などに好評だったというのも、何かの
記事で読んだ記憶があります。
そういう心配りや音響効果も、電気技師の技術を持つ
King Tubbyならではの心配りだったのかもしれません。

全16曲で収録時間は50分30秒。

今回のアルバムはいわゆる「Bunny Lee音源」が
使われています。
なのでプロデューサーは当然Bunny Lee、演奏は
Bunny Leeのハウス・バンドThe Aggrovatorsが担当
しています。
クレジットに楽器は明記されていませんが、参加
メンバーは以下。

Carlton Barrett, Sly Dunbar, Santa Davis,
Robbie Shakespeare, Aston Barrett,
Tony Chin, Earl Smith,
Ossie Hibbert, Keith Sterling,
Tommy McCook, Bobby Ellis, Lennox Brown,
Skully Simms

楽器ごとに改行しましたが、上からドラムス、ベース、
ギター、キーボード、ホーン、パーカッションと
いったところだと思います。

今回のアルバムに収められているアーティストは、
Big Joe、I Roy、Little Joe、Tappa Zukie、
Jah Stitch、Dr. Alimantado、Dillinger、
Prince Jazzbo、Prince Far Iといった人達です。
1977年から79年頃の音源なので、I Royの
ような第一世代のディージェイも居ますが、どちらか
というとTappa Zukieなど第2世代のディージェイが
多い印象です。

このアルバムは表ジャケが小冊子になっていて、例えば
2曲目I Royの「War And Friction」の原曲がYabby Youの
「Death Trap」など細かくクレジットされています。
その為すごく解り易いです。

さて今回のアルバムですが、これが本当に良い
コンピュレーション・アルバムなんですね。
この70年代後半に活躍したディージェイの魅力が、
うまく収められたアルバムだと思います。

1曲目はBig Joeの「In The Ghetto」です。
この曲はJohnny Clarkeの歌う「Satta Massagana」の
リディムが使われています。

Big Joe ‎– In The Ghetto – A1


Big Joeは数年前に限定ナンバー付きのLP「Keep
Rocking And Swinging」が販売されていましたが、
今ではCDもほとんど手に入らないレアなディージェイ
になっています。

big_joe_lp_01a
Big Joe - Keep Rocking And Swinging (1976) LP

そうしたディージェイが聴けるのも今回のアルバムの
魅力です。
原曲「Satta Massagana」の魅力もあり、シビレる
1曲です。

2曲目はI Royの「War And Friction」です。
書いたように原曲はYabby Youの「Death Trap」。

3曲目はLittle Joeの「Tradition Skank」です。
原曲はRonnie Davisの歌う「Tradition」で、この
曲はBurning Spearの有名曲です。
Big Joeが居ればLittle Joeも居るというのも、
いかにもレゲエらしいところですね(笑)。

4曲目はTappa Zukieの「Jah Is I Guiding Star」
です。
Tappa Zukieは「ニューヨーク・パンクの女王」と
呼ばれたPatti Smithにトースティングを教えた事でも
知られる、政治性の強いトースティングをする
ディージェイです。
タイトル通りの「Guiding Star」というリディムが
使われています。

Tappa Zukie - Jah Is I Guiding Star


5曲目はJah Stitchの「Set Up Yourself Dreadlocks」
です。
Cornell Campbellの「Please Be True」が使われて
います。

6曲目はDr. Alimantadoの「Chant To Jah」です。
原曲はSlim Smithの「The Beatitude」です。
この一番良い時期のDr. Alimantadoの凄さは、ダブに
トースティングを付けているところなんですね。
歌ものに付けるより、より複雑な構造のダブに
難なく付けているところにこの人の凄さがあります。

Dr Alimantado - Chant To Jah Jah


7曲目もDr. Alimantadoの「Mash It Up」です。
原曲はDelroy Willsonの「Mash Up Illiteracy」の
リディムです。
こちらもダブにトースティングで、のを揺さぶられる
感覚が強烈です。

8曲目はDr. Alimantado & Jah Stitchの「The Barber
Feel It」です。
原曲はJohn Holtの「Ali Baba」。

9曲目はJah Stitchの「Bury The Barber」です。
こちらは「Stealing」というリディムが使われています。

10曲目もJah Stitchの「Black Harmony Killer」です。
原曲はHorace Andyの「Just Say Who」です。

11曲目もJah Stitchの「Greedy Girl」です。
こちらも原曲はHorace Andyで「Don't Try To Use Me」
という曲が使われているようです。

12曲目はDillingerの「Regular Girl」です。
こちらはStudio Oneの「Mean Girl」というリディム
が使われています。

13曲目は同じくDillingerの「Daylight Saving Time」
です。
原曲はJohn Holtの「The Clock」という曲で、「The
Clock」はJohnny Aceという人のR&Bナンバーの
ようです。

14曲目はPrince Jazzboの「Gal Boy I Roy」です。
原曲はCornell Campbellが在籍したThe Eternalsの
ロックステディ期の名曲「Stars」です。
タイトルから解るようにディージェイのI Royを
「Gal Boy」とおちょくった曲で、この70年代のルーツ・
レゲエ期に行われたPrince JazzboとI Royの「伝説の舌戦」
の時に歌われた曲です。

Prince Jazzbo - Gal Boy I Roy


ちなみにPrince JazzboとI Royの間で行われた「伝説の
舌戦」ですが、実はこのケナし合いはBunny Leeの仕掛け
で、2人ともケナし合っているけれども曲はBunny Lee
の元から売り出しているんですね。
もともと録音の時にトースティングがうまくキマらない
Prince Jazzboを、そのお蔭で待たされていたI Royが
からかったのが原因と言われていますが、それをうまく
商売にして2人の人気を盛り上げたところにこのBunny Lee
の商売人としての才覚があります。

15曲目は同じくPrince Jazzboの「Good Memories」
です。
こちらの原曲はJohnny Clarkeの「Memories By The
Score」です。

Prince Jazzbo - Good Memories


ラストの16曲目はPrince Far Iの「Shuffle and Deal」
です。
原曲は「Deck Of Cards」という曲らしいです。

ざっと曲目を追いかけてみましたが、音源を豊富に
持っているBunny Leeだけあって、元の歌もJohnny Clarke、
Cornell Campbell、Horace Andyなど素晴らしい歌手の
名前が並びます。
それにトースティングが乗るのだから、文句の付けよう
がありませんね(笑)。

もともとこのディージェイというものが誕生したのも、
ひとつには一度録音した音源を再利用しようとした
「使いまわし」の発想から発展した部分があります。
ただそこをただの「カラオケ」にしないでダブや
ディージェイにしたところに、ジャマイカ人の音楽的な
インテリジェンスが垣間見えます。

ジャマイカで誕生したこのディージェイですが、もともと
はサウンドシステムをの会場を盛り上げる「掛け声係」が
発展したものなんですね。
それがU Royというディージェイの登場で、曲の中で
「しゃべる」という世界で初めての事をヤッちゃったん
ですね。
ラップの元祖とも言われる音楽を発明しちゃったん
ですね。

今回のアルバムもそうしたディージェイの面白さが、
うまく詰め込まれたアルバムだと思います。

機会があればぜひ聴いてみて下さい。


○アーティスト: Various
○アルバム: If Deejay Was Your Trade.
○レーベル: Blood & Fire
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1994

○Various「If Deejay Was Your Trade.」曲目
1. In The Ghetto - Big Joe
2. War And Friction - I Roy
3. Tradition Skank - Little Joe
4. Jah Is I Guiding Star - Tappa Zukie
5. Set Up Yourself Dreadlocks - Jah Stitch
6. Chant To Jah - Dr. Alimantado
7. Mash It Up - Dr. Alimantado
8. The Barber Feel It - Dr. Alimantado & Jah Stitch
9. Bury The Barber - Jah Stitch
10. Black Harmony Killer - Jah Stitch
11. Greedy Girl - Jah Stitch
12. Regular Girl - Dillinger
13. Daylight Saving Time - Dillinger
14. Gal Boy I Roy - Prince Jazzbo
15. Good Memories - Prince Jazzbo
16. Shuffle and Deal - Prince Far I