今回はBob Marley & The Wailersのアルバム
「Rastaman Vibration」から「Crazy Baldhead」を
紹介してみたいと思います。

今ではCDなどで歌詞の対訳が付いている事は稀
ですが、昔はよく日本盤のLPには歌詞の対訳が
付いていました。
私が若かった当時は、まだ「洋楽」という感じで
音楽を聴いていて、実際に英語が話せたり理解
できる人は稀にしかいなかったんですね。
そうした状況の中なるべく英語の曲を売る為に、
対訳が付いていたんですね。

私が買った初めてのレゲエのレコードが、この
Bob Marley & The Wailersの「Rastaman Vibration」
だったのですが、当時は東芝EMIからLPで
販売されていました。
中にはLP大の4ページのライナー・ノーツが付いて
いて、そこには山本安見さんという方の解説文、
Greg Starrという人の解説文の訳文、それに山本安見
さんの歌詞の対訳が載っています。

その中のGreg Starrのいう人の訳文には、この曲に
ついて「ボブ・マーリィは語る:」として、次の
ような事が書かれています。

「ニュー・アルバムの中に”クレージー・ボルドヘッド”って
いう曲が入ってる。そうだよ。”あのクレイジーな禿げ頭ども
を町から追い出すんだ”って歌詞の曲さ。この曲は社会の
システムや、ジャマイカでどんなことが起こっているかを歌った
ものなんだ。例えばオレたちはニュー・キングストンにでっかい
ビルを建てた。オレたちの仲間(ラスタ)はこの国の為に
必死で働いてる、そうだろ?なのに、奴らはオレたちを軽蔑した
ように横目で見る。オレたちの麦を片っぱしに食いつぶして
いってるのは奴らなんだぜ。この国を築き上げてるのはオレたち
だ。だけど、奴らはオレたちラスタを見てこういうのさ。
”アァ……ラスタなんて最低だ”」
(東芝EMIBob Marley & The Wailers「Rastaman Vibration」
よりGreg Starr氏による解説文の対訳より)

この当時70年代のジャマイカは、まだ60年代に
イギリスから独立したばかりで観光以外にはあまり
産業もなく、極貧国のひとつだったんですね。
その中でも奴隷として連れて来られた黒人層は、
最下層の生活を強いられていて、辛い生活をして
いたんですね。

そうした彼ら黒人の間で広まった信仰がラスタファリズム
であり、貧困から抜け出すための彼らの「武器」と
なったのがレゲエという音楽でした。

そうした当時のジャマイカの支配階級に居た白人や
中国人に向けて歌われた歌がこの「Crazy Baldhead」
です。


●クレイジー・ボールドヘッド(Crazy Baldhead)

クレイジーな奴ら クレイジーな奴ら
あのクレイジーなはげ頭どもを
町から追い出すんだ
あのクレイジーなはげ頭どもを
町から追い出すんだ
オレとおまえ(I & I)は小屋を建てる
オレとおまえ(I & I)はトウモロコシを植える
オレたちの先祖は
奴隷なんかじゃなかった
なのに おまえらは軽蔑の目で
オレたちを見る
そしてオレたちが育てたトウモロコシを
ひとつ残らず奪っていく

あのクレイジーなはげ頭どもを
オレたちの町から 追い出すんだ
気狂いどもはひとり残らず
追い出すんだ

おまえらの刑務所を立ててやった
おまえらの学校も立ててやった
そのお返しは
オレたちをひとり残らず阿保にする
洗脳教育なのか
愛の代わりに
おまえらは憎しみをくれた
おまえらが創りあげた神を
なんで オレたちが信じなきゃならない?

あのクレイジーなはげ頭どもを
オレたちの町から 追い出すんだ
気狂いどもはひとり残らず
追い出すんだ

オレたちを悪用しようと
また詐欺師がやってくる
オレたちを買収しようたって無駄さ
オレたちは 生きていたいんだ

あのクレイジーなはげ頭どもを
オレたちの町から 追い出すんだ
気狂いどもはひとり残らず
追い出すんだ

(東芝EMIBob Marley & The Wailers「Rastaman
Vibration」山本安見さんの対訳より)

Bob Marley - Crazy Baldhead



実はこのBob Marleyはジャマイカの黒人の母親と
イギリスの白人の父親との間に生まれたハーフ
だったんですね。
その為子供の頃は黒人からも虐められるという
辛い境遇で育ったんですね。
そして成人してから白人の父親に会いに行ったん
ですが、「お前は俺の子じゃない」と追い返される
という辛い経験をしているんですね。
その時から彼は黒人として生き、ラスタファリアン
として生きる道を選ぶようになるんですね。

そして彼は最期まで差別する人間と闘い続けます。

この曲にはそうした彼Bob Marleyの、差別する人間
に対する怒りが込められた曲なんですね。

なぜ白人が優等人種で、黒人が劣等人種なんだ?
なぜ俺たち黒人が差別されなきゃならない?
なぜお前達の神を俺たちが信じなきゃならない?

そうした黒人の持つ怒りをこのBob Marleyという人
は、素直にストレートに発言しています。
ちょうどこの70年代ぐらいからようやく黒人も
力を付けて来て、徐々に社会的に認められるように
なって来るんですね。
今の時代になると白人が優等人種で、黒人が劣等人種
なんて、人種に序列を付けるなどかなり頭のイカレた
考えのように思うのですが、当時は白人は優秀みたい
な考えがまだはびこっていたんですね。

今回調べていたらあのBob Marleyの「I Shot The Sheriff」
を歌ったEric Claptonも、トンでもない人種差別発言
をしているんですね。
トンでもないレイシスト野郎だったとは…。
彼にとっては黒人音楽のレゲエもブルースも単なる
商売道具に過ぎなかったようです。
まさに「Crazy Baldhead」は、彼のような人を指すの
でしょう(笑)。
それが発端であの「ロック・アゲインスト・レイシズム」
という運動が起きたんだそうです。

そうした差別に対するプロテスト・ソングとしても、
当時のレゲエは支持を受けたという側面もあります。

今の時代になってもそうした差別はまだまだ無くなって
いませんが、そうした差別と闘う「武器」として
音楽という手法は悪くない方法だと思います。

Bob Marley - Crazy Baldhead (Live)