今回はCarlton Patterson & King Tubbyのアルバム

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「Black & White In Dub」です。

Carlton Pattersonは70年代にBlack & Whiteという
レーベルを持っていたプロデューサーです。
このCarlton PattersonはKing Tubbyとも親交が深く、
この70年代に最も成功していながら最も知られて
いないプロデューサーなんだそうです。
今回手に入れたのは日本盤で、そこにSteve Barrow氏
の解説文の日本語訳もついていたのですが、それを
読むと彼はシングル・リリースを中心に行っていた
ようで、そのあたりがヒット曲もたくさん持っていた
ようですが知名度の低い原因になっているのかも
しれません。

King Tubbyはダブのミキサーとしてよく知られている
人です。
ダブというのは元の楽曲にエコーやリバーブなどの
エフェクトを過剰に付ける事で、別の音楽に作り変える
手法の事を言います。
70年代のレゲエの時代に始められ、73年にダブの
アルバムが一斉に発表されたことで一気にレゲエの
1ジャンルとして広まった音楽形態です。
誰が初めにこの手法を発明したかは諸説があり解って
いないのですが、King Tubbyがこのダブを完成させた
と言われています。

ダブ - Wikipedia

そのダブで70年代に最も実績を上げたのがこの
King Tubbyなんですね。
彼は自分のスタジオKing Tubby'sを持ち、多くの
プロデューサーの依頼を受けダブのミックスを
行っています。
ただ80年代の初め頃になるとそのダブのミックスの
仕事は助手だったPrince JammyやScientistに任せ、
自分は電気技師の仕事をメインにし、一時期ミックスの
仕事をあまり行わなくなります。
ところがその二人が独立して去ってしまうと再び現場に
戻り、当時大流行していたデジタルのダンスホール・
レゲエのプロデューサーとしてKing Tubby'sで指揮を
執り、「Tempo」などのヒット曲を飛ばして復活するん
ですね。
ところが89年に何者かに銃殺されて亡くなっています。

アーティスト特集 King Tubby (キング・タビー)

今回のアルバムはそのCarlton PattersonのBlack & White
レーベルの曲を、King Tubbyがミックスしたダブを集めた
アルバムです。
レゲエ・リイシュー・レーベルHot Potから2007年に
アルバムとして出されています。
このHot Potは、今は活動を休止しているBlood & Fire
レーベルのSteve Barrow氏が新しく起こしたリイシュー・
レーベルなんですね。
表ジャケが小冊子になっており、そこにSteve Barrow氏
によるCarlton Pattersonのインタビューをまとめた
解説文が付いています。
書いたように今回は日本盤だったので対訳も付いて
いました。

それを読むとこのCarlton Pattersonという人は手堅い人
だったらしく、レコード会社が軌道に乗るまでは製薬会社
で働いていたりしたようです。
その手堅い性格のせいかレコードもシングル・リリースが
ほとんどだったようで、今回のアルバム全21曲中15曲
が過去一度もLPやCDになった事の無い曲なんだそう
です。
そういう意味ではこのCarlton Pattersonの当時の仕事が
解る貴重なアルバムと言えるでしょう。

またKing Tubbyともかなり仲の良い関係だったようで、
日曜の朝食をKing TubbyとTubbyの奥さんと3人でとる
のが習慣になっていたほどで、King Tubbyを兄のような
存在に思っていた事が語られています。
King Tubbyの一番良い時期にミックスをお願いし、また
ラジオ番組「Dread At Controls」で人気だったMikey Dread
に引き合わせたのも彼だったんだとか。
このラジオ番組にKing Tubbyはかなり協力をしている
ようなんですよね。
そうした関係からMikey Dreadはミキサーやプロデュース
の能力を磨いていったようです。

このCarlton Pattersonの話からは、King Tubbyのかなり
温かい親切な人柄がうかがえます。

全21曲で収録時間は69分19秒。

ミュージシャンについては以下の記述があります。

Produced by Carlton Patterson
Mixed by Osbourne Ruddock aka King Tubby,
at King Tubby's Studio
Recorded at Randy's / Channel One / Dynamic Studios, Kingston
Musicians include:
Drums: Sly Dunbar
Bass: Robbie Shakespeare, Lloyd Parks, Errol 'Flabba' Holt
Organ: Ansell Collins
Piano: Gladstone Anderson
Percussion: Uziah 'Sticky' Thompson, Noel 'Skully' Simms
Guitar: Bertram 'Ranchie' Mclean
Trumpet: Bobby Ellis
Sax: Tommy McCook

となっています。

さて今回のアルバムですが、本当にKing Tubbyの一番
良い時期の演奏が集まっているといった感じで、
とても聴き心地の良いアルバムだと思いました。
Steve Barrow氏の解説文の訳などを読むと、Carlton
Pattersonは曲ごとの思い出などもけっこう丁寧に
語っていて、1曲目の「Psalms Of Dub」は道に立って
いたドレッドが聖書を持っていたので「聖書の中で
一番良い本は?」と聞いたところ「それは詩編
(Psalms)だ」と答えたのでタイトルに付けたという
話や、5曲目の「Watergate Rock」は当時アメリカ
で起きていた「ウォーターゲート事件」をタイトル
にした事などが語られています。
またジャケットの小冊子には「track Comments」と
して、曲ごとの短いコメントも掲載されています。
例えば3曲目「Locks Of Dub」には、

3 Locks of Dub
b-side of Can't You Understand by Larry Marshall

という記述があります。
これを読むと「Locks Of Dub」は、Larry Marshall
の「Can't You Understand」という曲のB面で、
おそらくそのダブであるという事が解ります。
こういう細かい記述は、曲を詳しく知りたい人には
嬉しいところだと思います。

1曲目「Psalms Of Dub」は、Carlton & Leroyの
「Not Responsible」が原曲のダブです。
書いたようにCarlton Pattersonがタイトルをどう
しようか考えている時に、道で出会ったドレッド
から付けたタイトルです。
この曲から彼とKing Tubbyとの親密な交際が
始まったようです。

Carlton Patterson & King Tubby - Psalms Of Dub


2曲目「Drum & Bass」は、ディージェイの
LizzyとDennis Alcaponeの「Angelique Collins」
という曲のダブのようです。

3曲目「Locks Of Dub」は、書いたようにLarry
Marshallの「Can't You Understand」が原曲のダブ
です。

4曲目「Clash Of Steel」は、Larry Marshallの
「Brand New Baby」が原曲のダブです。

Carlton Patterson & King Tubby - Clash Of Steel


5曲目「Watergate Rock」は、Larry Marshallの
「I Admire You」が原曲のダブです。
これも書いたように、当時アメリカで起こっていた
ニクソン大統領の起こした盗聴事件「ウォーター
ゲート事件」からタイトルを付けたものです。
メロディカが時々入って来るのですが、9曲目に
名前のあるBobby Kalphatか?

6曲目「Zone Dub」は、5曲目と同じ「I Admire
You」が原曲なんですが、こちらはAnsell Collins
を中心としたオルガン・ヴァージョンをダブにした
もののようです。

7曲目「Black Lash」は、原曲はCarlton Patterson
の「Dreadlocks Power」のダブです。

8曲目「Thunderball」は、原曲はLeroy Brownの
「Stand Firm」のダブです。

9曲目「Liberation Front」は、Leroy Brownの
「Stand Firm」のBobby Kalphatによるメロディカ・
ヴァージョンです。
この曲だけはA面で、名義もBobby Kalphatとなって
います。
そして10曲目「Sabotage」は、その9曲目
「Liberation Front」のダブ・ヴァージョンです。

Bobby Kalphat Liberation Front / King Tubby Sabotage


11曲目「Disco Dub」は、原曲はTrinityの
「Internal Feeling」のダブです。
この曲にはエンジニアとしてPrince Jammyの
名前があります。

12曲目「Iron Gate King」は、原曲はLeroy Brown
の「Give Thanks」のダブです。

13曲目「Psalms Of Rock」は、1曲目「Psalms Of
Dub」で使われたCarlton & Leroyの「Not Responsible」
のディージェイDillingerによるセカンド・カット
「Healing Stream」より作られたダブです。

14曲目「King At The Controls」は、原曲はRay I
の「Weatherman Skank」です。

King At The Controls - King Tubby/Mikey Dread/Carlton Patterson


タイトルからも解るように、この頃からMikey Dread
との付き合いも始まったようで、King Tubbyは
そのラジオ番組に作品を提供したりしているんです
よね。
この元の曲Ray Iの「Weatherman Skank」も
Mikey Dreadのラジオ番組でかけたところ大反響が
あって、AquariosレーベルHerman Chin-Royから
独占販売したいと電話があったことをCarlton Patterson
は語っています。

15曲目「Weatherman Style」は、その「Weatherman
Skank」のTrinityによるディージェイ・ヴァージョン
「Weatherman Cap」のダブです。

16曲目「Page One」は、オリジナルのリディムは
ロックステディ期のThe Techniquesのヒット曲
「You Don't Care」で、その曲をもとにディージェイ
のDillingerが出した「Stumbling Block」が元のダブ
です。
さらに17曲目はその「Page One」のロング・
ヴァージョン。

18曲目「Doctorman Skank」は、オリジナルは
ロックステディ期のPrince Busterなどで知られる
「PleaseMr Doctor」で、原曲はCarlton Patterson
の「Pressure & Slide」です。

Carl Patterson and King Tubby - Doctorman Skank ('81)


19曲目「Watchman Dub」は、オリジナルは
Prince Busterによるスカ・ナンバー「Old Man River」
で、原曲はCarlton Pattersonの「Wash Wash」の
ダブです。

King Tubby - Watchman Dub


20曲目「Problem Skank」は、オリジナルは
Ken Bootheの「It's Gonna Take A Miracle」で、
原曲はBarrington LevyとJah Waltonの「I Have
A Problem」のダブです。

ラストの21曲目「Ital Skank」は、原曲はCarlton
Pattersonの「Too Late To Tum Back」のダブです。

こうして聴いて行くとKing Tubbyの中でも基本に
忠実に作られたダブが多いのですが、1曲1曲
丁寧に作られたダブという感じで、すごく聴き心地
の良いアルバムなんですね。
こうした曲がシングルのみだった為に聴き逃されて
いたのは、もったいなかった気がします。
それを聴き易い形でまとめたHot Potのこのアルバム
は、とても良いリイシューだと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。

○アーティスト: Carlton Patterson & King Tubby
○アルバム: Black & White In Dub
○レーベル: Hot Pot
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2007

○Carlton Patterson & King Tubby「Black & White In Dub」曲目
1. Psalms Of Dub
2. Drum & Bass
3. Locks Of Dub
4. Clash Of Steel
5. Watergate Rock
6. Zone Dub
7. Black Lash
8. Thunderball
9. Liberation Front - Bobby Kalphat
10. Sabotage
11. Disco Dub
12. Iron Gate King
13. Psalms Of Rock
14. King At The Controls
15. Weatherman Style
16. Page One
17. Page One (Long Version)
18. Doctorman Skank
19. Watchman Dub
20. Problem Skank
21. Ital Skank