今回はVarious(オムニバス)もののアルバム

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「Safe Travel With Phil Pratt & Friends
1966 - 1968」です。

今回のアルバムはロックステディの時代に、マイナー・
レーベルだけれど常に高品質な音楽を作り続けた
レーベルCaltoneの、そのレーベルで活躍した
Phil Pratとその仲間のミュージシャンの音源を
中心に集めたアルバムです。
Phil Pratはのちに自分のレーベルSunshotを作って
いて、プロデューサーとして高く評価されています
が、この時代はシンガーとして活躍していたんですね。

ちなみにロックステディとは、ジャマイカで
60年代に流行っていたスカの次に流行った音楽で、
1966年から68年というわずか3年間だけ
爆発的に流行した音楽です。
その中心人物はSkatalites解散後にStudio Oneの
バック・バンドとして活躍したSound Dimensionなど
でリーダーとして活躍したJackie Mittoと、トリニダッド・
トバコ出身のギタリストLynn Taittでした。

アーティスト特集 Lynn Taitt (リン・テイト)

ふたりはそれぞれにこのロックステディのちょっと
甘美なメロディを作り続け、ブームをけん引したん
ですね。
ところがそうした中心人物だった彼らがカナダ移住を
決めてしまった事で、ブームはわずか3年で終わって
しまいます。
そのロックステディの後の60年代後半に誕生した
音楽が、レゲエだったんですね。

今回のアルバムにはそのロックステディをけん引
したLynn Taittの楽曲も多く収められています。
他に今では国民的歌手とまで言われるHorace Andy
(本名Horace Hinds)の初の録音と言われる曲など、
なかなか面白い曲がたくさん収められたアルバム
です。
レゲエ・リイシュー・レーベルPressure Sounds
からの2005年のリイシューです。

全23曲で収録時間は60分46秒。

ミュージシャンについては以下の記述があります。

Musicians:
Lynn Taitt & The Jets:
Guitar: Nerlyn 'Lynn' Taitt, Lynford 'Hux' Brown
Bass: Bryan Atkinson
Drums: Joe Isaacs
Piano: Gladstone 'Gladdy' Anderson, Theophilus 'Easy Snapping' Beckford
Organ: Winston Wright

Tommy McCook & The Supersonics:
Guitar: Nerlyn 'Lynn' Taitt
Bass: Clifton 'Jackie' Jackson
Drums: Winston Grennan, Hugh Malcolm, Arkland 'Drumbago' Parks, 'Wade' From Los Caballeros
Piano: Gladstone 'Gladdy' Anderson
Organ: Winston Wright
Tenor Saxophone: Tommy McCook, Herman Marquis
Trombone: Vincent 'Don D Junior' Gordon
Trumpet: Johnny 'Dizzy' Moore

Recorded at:
Federal Record Studios
Engineer: Louis Davidson
Treasure Isle Recording Studio
Engineer: Byron Smith
West Indies Records Limited
Engineers: Sid Bucknor, Carlton Lee
Transferred from Disc Mastered at:
Hiltongrove Multimedia, London, England
Engineer: Dave Blackman
Produced by: Phil Pratt for John Tom Records
Arranged By: Lynn Taitt

となっています。

バックの演奏はLynn Taitt & The JetsとTommy McCook
& The Supersonicsが担当しています。
Tommy McCook & The Supersonicsは、このロックステディ
の当時はDuke Reidが率いるTreasure Isleレーベル
の専属バンドとして活躍していました。
なのでTreasure Isle Recording Studioの録音の
ものが、このTommy McCook & The Supersonicsが
バックを務めたんじゃないかと思います。

メンバーを見てもらえば解りますが、Lynn Taitt
やGladstone Anderson、Winston Wrightなどメンバー
がけっこうダブっています。
当時はジャマイカのアーティストの数の限られて
いて、さらに入って来るお金は1回の演奏代だけ
だったので、ミュージシャンを続ける為には数多く
のセッションをこなさなければならなかった
んですね。
その為ミュージシャンはいろいろなバンドで演奏
していたんですね。
バンドもある程度メンバーは決まっているに
しても、その時に集まれる「プラスティック・
バンド」だったんですね。
その状況は70年代のルーツ・レゲエの時代ぐらい
まで続きます。

さて今回のアルバムですが、本当に良いアルバム
だと思います。
よくここまで素晴らしい楽曲を揃えたものだと、
ちょっとシビレるアルバムです。
このたった3年間という短い時間しか流行を作れ
なかったロックステディですが、このたった3年
間の時間の濃厚さがよく解るアルバムになって
います。
もしもこの3年間が無かったら…、レゲエは誕
生していなかったのではないか?そこまで思わせる
完成度や濃厚さが、この3年間にはあります。
このロックステディの楽曲はその後も20年以上
経ってもたびたびリメイクされていますが、
そうしてたびたび使われる背景にはその時代に
作られた楽曲の濃厚さと心を捉える親しみ易い
メロディ・ラインにあるんですね。
その事が実感できるアルバムです。

1曲目表題曲のPhil Prattの「Safe Travel」は、
プロデューサーとしてして知っている彼の歌の
うまさにちょっと衝撃を受ける1曲です。
この歌のウマいセンスあっての、彼のプロデュース
能力なのでしょう。

Phil Pratt - Safe Travel


5曲目は国民的歌手として知られるHorace Andyの
デビュー曲と言われる「Black Man's Country」です。
この時に彼はまだHorace Hindsと名乗っています。
それがStudio Oneで「Skylarking」を吹き込んだ当時に
C.S. Doddから、当時人気だったBob Andyの「Andy」を
取ってHorace Andyと命名されるんですね。
実はこの当時はHorace AndyよりいとこのJustin Hinds
の方が有名な人気歌手だったんですね。
理由は彼のあまりにも高すぎるファルセット・ヴォイス
にあります。
今回の曲などを聴くと、あまりにも声が高すぎて
「え?!これがHorace Andy?!」と思うほど、まるで
女の子の声か?と思うほど声の音域が高いんですね。
多くのプロデューサーが引いちゃうほど、声が
高かったんですね。
今回の曲を聴くと、その事がよく解ります。

Horace Hinds - Black Man Country


後にこのHorace AndyはPhil Prattとともに、レゲエの
時代に「Get Wise」という素晴らしいアルバムを残して
います。
その出会いがこの頃だったのかもしれませんね。

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Horace Andy - Get Wise (1974)

14曲目はVincent 'Don D Junior' Gordonの
「Dirty Dozen」です。
のちにLee PerryのバンドThe Upsettersの
「Musical Bones」などで名演を残すVin Gordon
ですが、このロックステディの時代ぐらいから
活躍をし始めるんですね。
トロンボーンの素晴らしい演奏を聴かせています。

Vincent Gordon - Dirty Dozen


ちなみにDon D JuniorやDon D Jr.あるいは
Don Durummond Junior、Don Drummond Jr.などと
表記される事のあるVincent Gordon(Vin Gordon)
ですが、The Skatalitesで活躍したDon Drummond
とは別人です。
The Skatalitesで活躍したDon Drummondは同じ
トロンボーン奏者ですが、精神に異常をきたし
1965年に恋人を殺害し、69年に獄死して
いるんですね。

スカタライツ - Wikipedia

17曲目The Clarendoniansの「Bye Bye Bye」は、
Studio OneのC.S. Doddのあまりにひどい待遇に
The Clarendoniansがバイバイを告げる曲なんだとか。
こうしてレゲエを調べてるとよく出て来ますが、
C.S. Doddはすごく労働に対する支払いが悪い人だった
らしく、たびたびその事が出て来ます。
その事がルーツ・レゲエの後半以降のStudio Oneの
衰退を招いたようです。

THE CLARENDONIANS - BYE BYE BYE.wmv


18曲目はTommy McCookの「Caltone Special」です。
タイトルかも解るようにこのCaltoneレーベルの賛歌の
ような曲です。

TOMMY Mc COOK - CALTONE SPECIAL


ざっと曲を紹介してきましたが、どの曲も本当に
素晴らしい曲が揃っていてこのロックステディという
時代の魅力がよく伝わって来るアルバムだと思い
ました。
書いたようにこのロックステディの時代に作られた
楽曲というのは、その後20年以上経ってもたびたび
使われ続けるんですね。
ひとつは当時は版権が曖昧で使ってもあまり訴えられる
心配がないというかなり現実的な理由もあったと思い
ますが、やっぱりその時代のスウィートなメロディに
とても魅力があったという事もひとつの理由だと
思います。

時代というものはけっして戻って来ませんが、レゲエ
以前にこれだけ輝く時代があったという事は、音楽ファン
としては忘れたくない事実です。
その魅力を収めた今回のアルバムは、とても素晴らしい
アルバムのひとつだと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Various
○アルバム: Safe Travel With Phil Pratt & Friends 1966 - 1968
○レーベル: Pressure Sounds
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2005

○Various「Safe Travel With Phil Pratt & Friends 1966 - 1968」曲目
1. Safe Travel – Phil Pratt
2. No One To Give Me Love – Larry Marshall & Alvin Leslie
3. I Used To Be A Fool - Milton Boothe
4. Sweet Song For My Baby - Phil Pratt & Ken Boothe
5. Black Man's Country - Horace 'Andy' Hinds
6. Time Is Getting Harder - Peter Austin
7. Reach Out - Phil Pratt
8. What Kind Of Man - The Cool Cats
9. Little Things - Hemsley Morris & Phil Pratt
10. Bigger Things - Tommy McCook
11. Money Girl - Larry Marshall
12. You Left The Water Running - Ken Boothe
13. Book Of Books - Charlie Ace
14. Dirty Dozen - Vincent 'Don D Junior' Gordon
15. Love Is Strange - Hemsley Morris
16. The One I Love - Ken Boothe
17. Bye Bye Bye - The Clarendonians
18. Caltone Special - Tommy McCook
19. Suicide (Hang My Head & Cry) - Alva 'Reggie' Lewis
20. Your Love - Peter Austin
21. I'm Restless - The Thrillers
22. Baby Baby - The Clarendonians
23. Victory - Phil Pratt All Stars