今回はRed Rose & King Kongのアルバム

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「Two Big Bull In A One Pen」です。

Anthony Red RoseとKing Kongは、80年代後半の
デジタルのダンスホール・レゲエで活躍した
シンガーです。

Anthony Red Rose (アンソニー・レッド・ローズ)

80年代になるとレゲエの世界も様変わりして
来るんですね。
それまで主流だったルーツ・レゲエが徐々に勢い
を失い、それに代わってダンスホール・レゲエが
人気の音楽になっていきます。
そして85年にPrince Jammyがプロデュースした
Wayne Smithの「Under Me Sleng Teng」が大ヒット
した事をきっかけに、ジャマイカ全土にコンピューター
を使ったレゲエ、コンピューター・ライズドの
大ブームが起きるんですね。

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Wayne Smith - Under Me Sleng Teng (1985)

そのブームをけん引したのがPrince Jammyから
改名したKing Jammyでした。

そうしたブームの中でもうひとつのヒット曲が
生まれるんですね。
それがAnthony Red Roseの「Tempo」です。
その「Tempo」を作ったのが、Prince Jammyの師匠
であるKing Tubbyです。
King Tubbyは70年代はダブのミキサーとして、
自分のスタジオKing Tubby'sで大活躍していて、
数多くの素晴らしいダブを作っていたんですね。
それが80年以降は助手だったPrince Jammyや
Scientistにダブやミックスの仕事は任せ、自分
は電気技師の仕事を中心にして、あまりダブや
ミックスの仕事をしなくなるんですね。
ところがその二人が独立してしまったこの80年
代半ばになると、再び音楽の現場に戻って来るん
ですね。
そうして飛ばしたヒットがこの「Tempo」だった
という訳です。
そして彼は鮮やかにカムバックするんですね。

King Tubby (キング・タビー)

今回のアルバムはそうした状況の1986年に
King TubbyのレーベルFirehouseから発売された
アルバムです。
Red Rose & King Kongとなっていますが、完全な
コンビという訳では無くて、アルバム10曲中
2曲が二人で歌っているもの、残りの8曲を
Red RoseとKing Kongが交互に歌っています。

今回のアルバムは今年2015年に日本の
Dub Store Recordsからリイシューされたアルバム
です。
このDub Store Recordsはこのアルバムと同時期に
同じくKing Tubby'sのデジタルのダンスホール期の
作品、Courtney Melodyの「Ninja Mi Ninja Showcase」
もリイシューしています。
他にもTommy McCookのダブ「The Sonic Sounds」や、
Lynn Taittや Ernest Ranglinのロックステディ期の
アルバムなど、今では手に入らなくなった貴重な
アルバムのリリースが目立ちます。こういう努力は
レゲエ・ファンとしては本当にありがたいところです。

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Courtney Melody - Ninja Mi Ninja Showcase (1988)

全10曲で収録時間は35分38秒。
もともとLPの時は片面5曲ずつに分かれていたようで、
1曲目が二人、2曲目以降はRed Rose→King Kongという
順で4曲、6曲目に二人、7曲目以降はKing Kong→
Red Roseの順で4曲という構成になっています。

ミュージシャンについては以下の記述があります。

Drums: Cleveland Brownie
Bass: Flabba Holt
Piano: Steelie Johnson
Keyboards: Steelie
Rhythm Guitar: Bingy Bunny
Lead Guitar: Dwight Pickney
Engineers: Peego, Fatman, Anthony Kelly
Edited at King Tubby's by Fatman and Peego
Photography: King Tubby
Concept: King Tubby
Art Work: Herman Cain

Produced By: King Tubby

となっています。

バックにSteely & ClevieやRoots Radicsの
メンバーなどが参加しています。

またこの時期のKing Tubby'sは、Prince Jammyや
Scientisの抜けた穴をPeego, Fatman, Anthony Kelly
といった人達が埋めて、King Tubbyは総監督的な
立場で指揮をとっていたようです。
「Concept」として名前があるのは、その為のようです。

またジャケットの写真をKing Tubby本人が撮っている
ようです。
このジャケットよく見るとけっこう面白いんですよね。
向かって左の「赤パン」がAnthony Red Roseで、胸に
「Firehouse」の文字とお腹のあたりに「Red Rose」
の文字。
向かって右がKing Kongで、胸に「Waterhouse」の文字
とお腹に「King Kong」の文字となっています。
知っている人は知っているでしょうが、Waterhouseは
King Tubbyが作ったFirehouseと並ぶもうひとつの
レーベルの名前です。
この二人をAnthony Red RoseはFirehouseレーベル、
King KongはWaterhouseレーベルから売り出そうと
していたんですかね?
何となく二人ともサッカーがうまくなさそうなのも
ご愛敬といったところです(笑)。

さて今回のアルバムですが、これが実に良いアルバム
なんですね。
この86年当時のKing Tubby'sは、まだ完全にデジタル
という訳では無くて、Roots Radicsのメンバーが参加
しているのを見ても解るように、多少アナログの
要素が残っているようです。
ただそこがかえって音にデリケートさが残っていて、
聴いていても隅々まで心配りがされたいる感じが
して良いんですね。

2002年刊行の本「Roots Rock Reggae」には
このアルバムが紹介されていて、そこには「孝」さん
という方の文章で次のような事が書かれています。

「演奏はスティーリー&クリーヴィーを含むルーツ・
ラディクスのヒューマン・トラック。」
(シンコー・ミュージック刊行「Roots Rock Reggae」
「孝」さんという方のアルバム評より)

つまり一見デジタルに聴こえるサウンドですが、
演奏はSteely & ClevieやRoots Radicsによる
「ヒューマン・トラック」であるという事が書かれ
ています。

確かにバックのサウンドを注意深く聴いてみると、
完全にデジタルのサウンドよりも少しデリケートで
演奏に表情があるんですよね。
今回のアルバムはそのデジタルと「ヒューマン」の
間のようなサウンドで、そこにこの時代の変わり目
ならではの面白さがあります。

これが同じKing Tubby'sの作品でも、88年の
Courtney Melodyの「Ninja Mi Ninja Showcase」
あたりになるとバックの演奏もKing Tubby'sの
バンドFirehouse Crewが担当していて、サウンド
も完全にデジタルな演奏になり、その分今回の
アルバムにあるような「ヒューマン」な感じは
少なくなっていきます。
それでもJammysのサウンドよりは表情のある
サウンドを作るのが、このKing Tubby'sは
すごくウマいんですが…。

このAnthony Red RoseとKing Kongはちょっと似た
声質の持ち主で、Anthony Red Roseがちょっとセクシー
で柔らかい印象なのに対して、King Kongは男らしい
印象という違いです。
そして二人とも歌がすごくウマいんですね。
今回のアルバムなどを聴いても、気持ちよく歌い
こなしている感じがあります。
「Roots Rock Reggae」のアルバム評でも
「リズムの乗りこなしは白眉」と書かれています。
その歌のうまさが、このアルバムをすごくグルーヴ感
のある気持ちの良いアルバムにしています。

1曲目表題曲「Two Big Bull In A One Pen」は、
二人の歌の掛け合いが見事にキマったこのアルバム
の中でも特に素晴らしい曲です。

Anthony Red Rose & King Kong - Two Big Bull Inna One Pen


2曲目はAnthony Red Roseの「Body Crazy」です。
この曲あたりはやはりちょっとヒューマン・トラック
の匂いがあります。

anthony red rose body crazy


3曲目はKing Kongの「Is It Love I'm Feeling」
です。
彼の男らしい個性が生きた曲です。

4曲目はAnthony Red Roseの「Tribulation」です。
このデジタルのダンスホールのグルーヴ感を持った、
浮遊感のある曲です。
今までのレゲエに無かった新しさがこの曲には
あります。

5曲目はKing Kongの「Riddle Me This」です。
これまたKing Kongの個性を生かした陰影のある
浮遊感が面白い曲です。

King Kong - Riddle Me This


6曲目はAnthony Red Rose & King Kongによる
「Follow Me Now」です。
この新しく誕生したリズムを、まるで自由に泳ぎ回る
2匹の魚のような、彼らの優れたリズム感覚がとても
魅力的な1曲です。

Red Rose & King Kong - Follow Me Now


8曲目はAnthony Red Roseの「Don't Touch My
Choo Choo」です。
リズミカルなノリのある1曲です。

9曲目はKing Kongの「Ain't Gonna Be No Loafter」
です。
King Kongというヴォーカリストの歌の資質がよく
解る1曲です。

ラスト10曲目はAnthony Red Roseの「Monkey
Sample」です。
これまたAnthony Red Roseという人の、歌の
乗りこなしのウマさがよく出た1曲です。

今回のアルバムでは二人の個性を強調するためか、
Anthony Red Roseの曲にはKing Kongのコーラスが
付いていたりしますが、King Kongはソロで歌う
形になっています。
全体にデジタルのダンスホールになった時代の
空気感がうまく収められている気がしました。
それでいてけっこうアナログも使っていて、
「ヒューマン」な感じをうまく取り入れている
ところにKing Tubbyという人の繊細過ぎるほどの
心配りが感じられます。
あの「Tempo」ほどの強烈な楽曲ではありませんが、
聴けば聴くほどこの時代の空気感が肌にジワジワ
染み込んでくるような、内容の濃いアルバムだと
思いました。

どうもデジタルのダンスホールというと、King Jammy
の作った作品の方ばかりに目が行ってしまい
ますが、それに匹敵する内容の作品をこのKing Tubby
も作っていたというのは、忘れたくない事実だと
思います。
そうしたKing Tubbyに焦点を当てた今回のDub Store
Recordsのリイシューは、本当に素晴らしい仕事
だと思います。
出来ればこうしたレゲエの素晴らしい1ページを
なるべく多くの人に聴いてもらいたいと思います。

King Tubbyはこの後1989年に、何者かに
自宅前で殺害されてしまうという残念な人生の
終わり方をしています。
もしも彼が生きていれば…レゲエの歴史はまた
変わっていたのかもしれません。
ジャマイカの音楽界では多くの人達がこのように
殺害されて亡くなっていますが、このKing Tubby
の殺害はもっとも残念な出来事のひとつだと
思います。
そうした彼のデジタルのダンスホール期の仕事を
切り取った今回のアルバムは、レゲエの歴史の
中の貴重な記憶のひとつだと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Red Rose & King Kong
○アルバム: Two Big Bull In A One Pen
○レーベル: Dub Store Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1986

○Red Rose & King Kong「Two Big Bull In A One Pen」曲目
1. Two Big Bull In A One Pen - Anthony Red Rose & King Kong
2. Body Crazy - Anthony Red Rose
3. Is It Love I'm Feeling - King Kong
4. Tribulation - Anthony Red Rose
5. Riddle Me This - King Kong
6. Follow Me Now - Anthony Red Rose & King Kong
7. Cater Fi She - King Kong
8. Don't Touch My Choo Choo - Anthony Red Rose
9. Ain't Gonna Be No Loafter - King Kong
10. Monkey Sample - Anthony Red Rose

●今までアップしたAnthony Red Rose関連の記事
〇Anthony Red Rose「Red Rose Will Make You Dance」
〇King Tubby's「King Tubby's Present Two Big Bull In A One Pen Dubwise」