今回はJunior Murvinのアルバム

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「Inna De Yard」です。

Junior Murvin(本名:Murvin Junior
Smith)はその独特のファルセット・
ヴォイスが特徴的な70年代のルーツ期
から活躍するシンガーです。

若い頃からBilly EckstineやNat 'King'
Cole、Sam Cookeなどのアメリカのシンガー
達の影響を受けて高音のファルセット・
ヴォイスで歌っていた彼は、Junior Soulと
名乗って数々のタレント・コンテスト等に
出場していました。
60年代に首都キングストンに出た彼は
Derrick Harriottの元で録音した楽曲
「Solomon」が評判を呼び、ロックステ
ディの名曲として人気となります。
彼の最大のヒット曲は1977年の
Lee Perryプロデュースの曲「Police &
Thieves」で、この曲はUKのパンク・
グループThe Clashがカヴァーした事で
世界的に知られる曲となりました。

2013年に糖尿病による高血圧が原因で
死去しています。

アーティスト特集 Junior Murvin (ジュニア・マーヴィン)

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Junior Murvin - Police & Thieves (1977)

今回のアルバムは彼の晩年の2007年に発表
されたアルバムです。
ギターのChinna Smithを中心に、アコースティック
で往年の名曲をセルフ・カヴァーする「Inna
De Yard」シリーズの1枚として制作された
アルバムです。

全9曲で収録時間は38分26秒。

ミュージシャンについては以下の記載が
あります。

Recorded in China's yard, Kingston 10, November 2005, by Clive 'Dub King' Jeffrey & Earl Smith Jnr.
Produced & Arranged by Earl 'Chinna' Smith
Executive Producer: Soundicate

Guitars: Earl 'Chinna' Smith, Sangie Davis, Bertrel
Keyboards: Lloyd Palmer
Percussion: Jah Youth, Kiddus I, Burchel, Kush McAnuff, Ras Appa, Alphonso Craig
Drums: Makaruffin on 'Rescue The Children', Alphonso Craig

となっています。

アルバムのリリースは2007年だったよう
ですが、録音は2005年に行われたようです。

この「Inna De Yard」シリーズの魅力は、何と
いってもそのリラックスした空気感です。
「Chinna Smithの庭」に「昔の仲間」が集い、
打ち解けた空気の中で、まるで昨日も会っていた
かのように「昔の歌」を歌う。
そこには同じ「戦場」で戦ってきた仲間との、
変わらぬ「絆」があります。
何気ないんだけれど、聴くだけですごく心を
打たれちゃうシリーズなんですね。

このシリーズの特徴としては、まず演奏が
Chinna Smithの自宅で行われていて、演奏が
アコースティックだという事です。
そのアコースティックであるという事で、まず
メインである「大皿料理」を初めにボンと
出しちゃうような曲の構成にしているのが
特徴的です。

普通アルバムの構成って、メインの曲を最後の
方に持って来るんですよね。
例えばLPだったらA面とB面の最後の曲に、
メインの曲を持ってくるのが一般的な構成です。
ところが全編アコースティック・ギターがメイン
の演奏だと、曲調に変化が付けづらいので、
メインを最後に持ってくるとリスナーには重く
感じちゃうんですよね。
そこで初めの方に大皿料理=メインの曲を
ボンと持って来ちゃって、あとは小皿料理を
チョコチョコ出す、そういう構成にしている
のがこのシリーズです。

今回もその手法をある程度踏襲していて、彼の
代表曲である「Police & Thieves」が1曲目、
「Badman Posse」が3曲目と早めにキラーな曲
を持って来ています。
ただし今回はさらに変化をつけて来ていて、
ソウルの名曲なども入れて来ているので、もっと
長い曲もあり必ずしも彼のヒット曲だけが
聴かせどころという訳でもないんですね。

1曲目「Police & Thieves」は、Junior Murvin
といえばこの曲というほどの曲です。
イントロのトースティングはDanny Dread。
もったいぶらずに「メインディッシュ」を
バンバン出しちゃうのが、いかにも「Inna De
Yard」らしいところです。
それに対してJunior Murvinも持ち前の
ファルセット・ヴォイスを聴かせてくれて
います。
初めから良い空気感が出来上がっているんですね。

Jr Marvin police and thieves inna de yard


2曲目「Gipsy Woman (feat. next yard's dog)」
は、なんとソウル・グループThe Impressionsの
名曲「Gypsy Woman」です。
The ImpressionsはCurtis Mayfieldが在籍して
いた事でも知られるグループで、この
「Gypsy Woman」はラテン・ロックのSantanaが
カヴァーした事でもよく知られています。
このアルバムの中でもこの曲は白眉の出来で、
このJunior Murvinのシンガーとしての力量の
高さがよく解る1曲となっています。

Junior Murvin Inna De Yard 02 Gipsy woman


3曲目は「Badman Posse」は、彼Junior Murvin
の「Police & Thieves」に次ぐヒット曲です。

4曲目「Rescue The Children」は、このアルバム
の中でも一番長い5分53秒ある曲です。
この曲と「Gipsy Woman」が5分越えですが、
どちらも熱のこもった素晴らしい出来です。
こちらはChinnaのギターとの掛け合いが涙もの
の美しさ。

Junior Murvin Inna De Yard 04 Rescue the children


5曲目「Closer」もなかなかの名曲です。
こちらはJunior Murvinの素の声で曲に入って、
サビで裏声に変わるという展開の曲。
やっぱり素で歌ってもこの人はすごく歌が
ウマいんですね。

6曲目「Roots Train」では再び裏声に戻って、
7曲目「Salomon」では再び素の声で。
自在な使い分けでまるで二人の歌手の歌を
聴いているようです。

8曲目「World Inflation」と9曲目「Ain't
No Sunshine」は、「Inna De Yard」のセオリー
通りに3分に満たない長さで、軽く流し目に
「小盛り」になっています(笑)。
ただ「Ain't No Sunshine」はソウルのBill Withers
の超名曲で、完全にヤラレちゃう曲なんですねぇ。
「あいつがいないと,お日様だって出てこない」
去った恋人に対する「ウラミ節」なんですが(笑)、
最後にまたグッと来てしまう名曲を持って来て
いるのがニクイところです。

今回のアルバムでは「Gipsy Woman」や「Ain't
No Sunshine」というソウルの名曲を2曲入れる
事で、Junior Murvinというシンガーの魅力を
より引き出しています。

Junior Murvinはこのアルバムを録音した
8年後の2013年の12月に亡くなって
います。
「Police & Thieves」以外のアルバムがあまり
知られる事のない彼ですが、最後にとても美しい
「Inna De Yard」という華を咲かせていた事は、
覚えておきたい記憶だと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Junior Murvin
○アルバム: Inna De Yard
○レーベル: Inna De Yard
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2007

○Junior Murvin「Inna De Yard」曲目
1. Police & Thieves (intro by Danny Dread)
2. Gipsy Woman (feat. next yard's dog)
3. Badman Posse (intro by Chinna)
4. Rescue The Children
5. Closer
6. Roots Train
7. Salomon
8. World Inflation
9. Ain't No Sunshine


Junior Murvinのアルバムをもう1枚紹介して
おきます。

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「Muggers In The Street」です。
「通りの強盗」というタイトルから解るように、
「Police & Thieves」の続編として作られたアルバム
のようです。
プロデュースがHenry 'Junjo' Lawes、演奏が
Roots Radicsで、内容も「Police & Thieves」に
遜色のないアルバムだと思います。

●今までアップしたJunior Murvin関連の記事
〇Junior Murvin「Muggers In The Street」
〇Junior Murvin「Police & Thieves」
〇Junior Murvin「Bad Man Possee」