今回はVarious(オムニバス)もののアルバム

ska_01a

「Jazz In Jamaica」です。

今回のアルバムのリリースは1994年ですが、
元の音源は「between 1960 & 1967」とあるように、
1960年から67年までのもので、スカから
ロックステディの時代に一世を風靡したTreasure Isle
レーベルで活躍したアーティストのものが使われて
います。
表ジャケの下にはそのアーティストとして

featuring Duke Reid Group, The Skatalites, Tommy McCook & The Supersonics

の文字があります。
ちなみにDuke Reid Groupという名前がありますが、
Duke ReidはTreasure Isleレーベルの主催者として
有名な人です。
2丁拳銃を腰にぶら下げて、機嫌が悪いと天井に
ぶっ放していたという、ちょっと物騒な人だった
ようです(笑)。

全15曲で収録時間は42分52秒。

バックのミュージシャンの記載としては、「The Musicians of
The Skatalites」という記載があります。

The Musicians of The Skatalites
Trombone: Don Drummond, Rico Rodriguez
Tenor Sax: Roland Alphonso, Bobby Gaynair, Tommy McCook
Trumpet: Johnny Moore, Baba Brooks, Frank Anderson
Bass: Lloyd Brevett
Drums: Lloyd Knibbs
Guitar: Jah Jerry

となっています。

プロデュースはDuke Reidです。

実は今回のアルバム、下に載せた曲目とアーティスト
を見てもらえば解りますが、The Skatalites名義の
曲は無いんですね。
アーティストとして記載されている名前は、
Duke Reid Group、Baba Brooks、Don Drummond、
Tommy McCook、Roland Alphonso、Drumbago All Stars
といった名前なんですね。
おそらくDuke Reid GroupやDrumbago All Stars
といったグループ名義でない個人名義の曲の
バックがThe Skatalitesがバックを務めている
ものと思われます。
ただ表ジャケにTommy McCook & The Supersonics
というのも記載されているので、Tommy McCook
名義の曲は、The SkatalitesかThe Supersonics
どちらかまでは解りませんね(笑)。

実はThe Skatalitesというバンド名は、当時
Treasure Isleと人気を二分していたC.S Dodd
が率いるStudio Oneレーベルのバック・バンドの
名前なんです。
だからTreasure Isleで演奏する時は、仮に
メンバーが全てThe Skatalitesと同じだったと
しても、別のバンド名で演奏していたんですね。
おそらくアルバムにThe Skatalitesの名前を
入れたのは知名度があるからで、本来はその名前で
Treasure Isleで曲を出す事は無いんですね。
だからThe Skatalite名義の曲が無いのは、むしろ
当然だとも言えます。

まあ当時のジャマイカはバック・バンドは
ほとんどその時に集まれる人で録音するいわゆる
プラスティック・バンドだったので、Duke Reid Group
でもThe SkatalitesでもThe Supersonicsでもメンバー
がだいたい同じだったり、カブっていたりします。
そういう大雑把さも当時のジャマイカらしさなん
ですね。

さて今回のアルバムですが、60年から67年の
頃のジャマイカはレゲエの前身の前身のスカが
大流行していた時代だったんですね。
そのスカでもっとも人気があったレーベルのひとつ
が今回のTreasure Isleレーベルだったんですね。

スカというとThe Skatalitesのようにブラスの効いた
ジャズのビッグ・バンドのような編成をイメージ
しますが、もともとは必ずしもそういうバンドの
構成ではなかったようです。

イギリスの不良少年にウケた初期のスカを集めた
アルバムVarious(オムニバス)ものの
「The Story Of Blue Beat」などを聴くと、
そこで聴かれるのはジャズよりもむしろブルース
やR&Bに近いようなサウンドなんですよね。

ska_02a
Various - The Story Of Blue Beat: The Birth Of Ska

もともとジャマイカはアメリカのブルースやR&B
などがサウンド・システムでかけられるように
なったのが発展して、スカという音楽が生まれて
いるんですね。
意外と初期のスカからはジャズの匂いがしないん
ですよね。

それが今はスカというとブラスの効いたジャズっぽい
演奏というイメージがあるのは、やっぱりこの
The Skatalitesのイメージが強いからなんですね。
もともとジャマイカにも「ジャマイカ・ジャズ」
というものもあったのですが、スカという音楽が
ウケて仕事になるようになると、そういう
ミュージシャンもスカを演奏するようになった
ようなんですね。
特にThe Skatalitesは優秀なジャズ系の
ミュージシャンが揃ったスーパー・バンドだった
ようです。

Tommy McCookがジャズのJohn Coltraneの影響を
強く受けたミュージシャンだという事はけっこう
知られていますが、他にもDon Drummond、Roland
Alphonsoといった人達はジャズの素養のある
優秀なミュージシャンです。
特にトロンボーンのDon Drummondは、今回の
アルバムのジャケットにもなっていますが、
The Skatalitesのスター・プレイヤーだったよう
です。

ただこのDon Drummond、精神に異常をきたし、
1964年に恋人を殺してしまい投獄されて
しまうんですね。
そして69年に獄中死するんですが、一説には
マフィアに報復で殺された他殺説もあるようです。
彼の事件がオリジナルのThe Skatalites解散の
要因にもなったと言われています。

Don Drummond (ドン・ドラモンド)

話が長くなりましたが、今回のアルバムはそうした
60年代のスカの時代のジャズの要素が多く含まれた
曲を集めたアルバムです。
6曲目Tommy McCookの「The Saint」は、ジャズの
巨匠Louis Armstrong の名曲「When The Saints Go
Marching In(聖者の行進)」です。
他にも何曲かジャズの曲が収められているかも
しれません。

ただタイトルは「Jazz In Jamaica」ですが、曲の
印象としてはやっぱりスカの曲という感じです。
曲を聴いてもらうと解りますが、演奏のクウォリティ
はかなり高いです。
日本では戦後の復興期からかなり落ち着いて、歌謡曲
などを聴いていたこの60年代に、すでにこれだけの
クウォリティの音楽を作っていたというのは、かなり
驚異的な事なのかもしれません。

ジャマイカのスカ以前の音楽となるとメントやカリプソ
といったある意味「観光客向けの音楽」だったのですが、
このスカの時代になって初めて世界で通用する音楽が
誕生したと言えると思います。
その音楽のレベル・アップに大きく貢献したのが、今回
紹介したTreasure Isleであり、るStudio Oneであった
という訳です。
この二つのレーベルが互いに競り合う事で、音楽産業の
レベルが飛躍的に上がったんですね。

ちなみにカリプソは本当はジャマイカの音楽ではなくて、
トリニダード・トバゴの音楽なんですね。
ジャマイカ系のアメリカ人ハリー・ベラフォンテが
メントの曲「バナナ・ボート」をヒットさせた時に、
メントでなく通りの良いカリプソとしてしまった事から
いまだにカリプソがジャマイカの音楽という誤解が
あるんですね。

話を戻しますが、今でもファンのいるスカですが、
それだけではまだ世界的なブレイクとならなかった
ようです。
ジャマイカの音楽の歴史を見ていくと、60年代に
スカ→ロックステディと音楽を熟成させてきて、
70年代に入ってレゲエでようやく大ブレイクを
果たすんですね。
世界でブレイクするためにはこの60年代に、
まるで樽の中でウィスキーが熟成していくように、
じっくりとクウォリティやアーティストの成長を
待つ時間が必要だったようです。
そしてジャマイカの音楽界が極限まで内圧が高まった
時にレゲエで大爆発が起きたんですね。

今回のアルバムはジャマイカのスカにおけるジャズ
の役割をテーマにしたアルバムでしたが、実は
ジャズの影響はレゲエの時代になっても残り続けます。
その大きな役割を果たしたのが、今回のアルバム
にも曲のあるTommy McCookなんですね。
彼はレゲエの時代になっても多くのセッションに
参加しているのですが、彼の参加したアルバムには
少なからずジャズの匂いが「隠し味」として含まれて
いるんですね。
彼がレゲエという音楽をより豊かなものにした
プレイヤーである事は間違いのない事実だと
思います。

今回のアルバムはスカの時代のジャズの影響を垣間
見れるアルバムとして、なかなか面白いアルバム
だと思います。
またTreasure Isleのスカのアルバムとしても
内容は悪くありません。

機会があれば聴いてみてください。

The Saint - Tommy McCook


drumbago all stars - duck soup



○アーティスト: Various
○アルバム: Jazz In Jamaica
○レーベル: Esoldun
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年:

○Various「Jazz In Jamaica」曲目
1. Duke's Cookies - Duke Reid Group
2. Twilight Zone - Baba Brooks
3. Don De Lion - Don Drummond & Tommy McCook
4. Blackberry Brandy - Roland Alphonso
5. What Makes Honey - Duke Reid Group
6. The Saint - Tommy McCook
7. Yard Broom - Roland Alphonso
8. Joker - Duke Reid Group
9. Apanga - Tommy McCook
10. Sandy Gully - Roland Alphonso
11. Country Town [The Mood] - Baba Brooks
12. Starry Night - Tommy McCook
13. Real Cool - Tommy McCook
14. Duck Soup - Drumbago All Stars
15. The Clock - Baba Brooks