今回はHenry 'Junjo' Lawesのアルバム

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「Volcano Eruption」です。

Henry 'Junjo' Lawesは80年代のダンスホールで
活躍したプロデューサーです。
タイトルにもなっている自身のレーベルVolcanoで、
数々のヒット曲を飛ばした事で有名な人のようです。

今回のアルバムはそのHenry Junjo LawesのVolcano
での仕事を集めたアルバムです。
VPレーベルから出ている「Reggae Anthologyシリーズ」
の1枚で、CD2枚組に特典DVD映像60分が
付いた豪華盤です。

Disc 1は全20曲で収録時間は77分11秒。
Disc 2は全20曲で収録時間は79分58秒。
Disc 3は特典ボーナスDVDとして、「Play Feature」
というタイトルで関係者のインタビューが約42分、
「Live at Skateland」というタイトルでダンスホール
のライブの模様が約22分、さらにVolcanoから
リリースされたアルバムの写真が50枚映像として
付いています。
一通り全部聴いて全部見ると、約3時間40分ぐらい
かかる計算です。

詳細なミュージシャンの表記はありません。
ただネットの情報などを見ると、初めはChannel One
のThe Revolutionariesをバックでよく使っており、の
ちにもっとサウンドに重量感のあるRoots Radicsを
よく起用していたようです。
ミキサーとしてはScientistをよく起用したという事で、
そのScientist+Roots Radicsという組み合わせの
重量感があるサウンドがVolcanoというレーベルのウリ
だったそうです。

HENRY "JUNJO" LAWESと〈VOLCANO〉

さて今回のアルバムですが、付いていた小冊子によると
Disc 1がVolcano Singers)となっていてシンガーもの、
Disc 2が(Volcano Deejays)となっていてディージェイ
ものが集められています。
こうしてはっきり分類してあると、とても聴きやすい
ですね。

収録してあるアーティストはDisc 1の(Volcano Singers)
がFrankie Paul、Barrington Levy、Leroy Smart、
Michael Prophet、John Holt、Don Carlos、Barry Brown、
Wayne Jarrett、Junior Reid、Hugh Mundell、Johnny Osbourne、
The Wailing Souls、Tony Tuff、Little John、Cocoa Tea、
Linval Thompson、Al Campbellとなっています。
さらにDisc 2の(Volcano Deejays)が、Ringo、Nicodemus、
Yellowman、Josey Wales、Early B、Eek-A-Mouse、
Eastwood & General Saint、Captain Sinbad、Lee Van Cliff、
Charlie Chaplin、Ranking Trevor、Michigan & Smiley、
Toyan、Billy Boyo、Sister Nancyとなっています。
多少知らない名前もありますが、当時ダンスホールで
活躍した名シンガー、名ディージェイの多くを網羅した
内容です。

ネットなどの情報を総合してみると、このHenry 'Junjo'
Lawesの「全盛期」というのは、King Jammyが「Sleng
Teng」などで「デジタル革命」を起こす以前の1980
年代の前半ぐらいのようです。
70年代後半に大手レーベルGreensleevesから資金を
得た彼は、それまでのルーツ・レゲエからダンスホール・
レゲエへと時代を大きく動かす役割を果たすんですね。

Volcano (ヴォルケイノ)

彼が優れていたのはそのたぐいまれなプロデュース能力
です。
この時代はそれまで10年続いたルーツ・レゲエにも
陰りが見え、Bob Marleyに変わる新しいスターが求め
られていた時代でした。
そうした時代の風に乗って登場してきたのが、ダンスホール
でかけるためのレゲエであるダンスホール・レゲエ
だったんですね。
そのダンスホール・レゲエの新しいスターとして登場して
きたのがBarrington Levyで、Henry 'Junjo' Lawesは
彼をカンフーやロビン・フッドの格好などをさせて売り
出すんですね。
さらにそのBarrington Levyの楽曲をScientistのミックス
で、Tonny MacDermottの「漫画ジャケ」という有名な
「漫画ジャケ・シリーズ」として売り出すんですね。

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Scientist - Rids The World Of The Curse Of The Vampires (1981)

こうした戦略が成功して時代はそれまでのルーツ・レゲエ
からダンスホール・レゲエの時代へと一気に動き出す
んですね。
勢いに乗ったHenry 'Junjo' Lawesは、Yellowmanなどの
ダンスホール・ディージェイなど、多くのアーティスト
をこの時代に売り出しています。

ちなみにジャマイカ国内はVolcano、それ以外は
Greensleevesが販売するという「住み分け」があった
ようです。

その後Henry 'Junjo' Lawesはアメリカで刑務所に
入ったり、最期は1999年にイギリスで銃殺された
そうで、かなり波乱万丈の人生の人だったようです。
ただレゲエのダンスホールに偉大な足跡を残した事は、
否定のしようのない事実だと思います。

今回のアルバムも1980年代前半ぐらいの音源だと
思われるのですが、明らかに70年代のルーツ・レゲエ
とは音が違うんですね。
70年代のルーツ・レゲエがラスタファリ思想に根ざした、
西洋に無い土着的な音階を目指したのに対して、この
80年代のダンスホールの音はより洗練された「オシャレな
音」を目指している感じがあります。
つまり簡単に言うと快楽的な「エロい音」を志向して
いるんです(笑)。
その傾向は特にディージェイでは顕著で、この時代に
「アウト・オブ・キー」や今回のアルバムにも入っている
Eek-A-Mouseなどにも見られるような意味不明な言葉の羅列
など、ルーツが生きる意味を言葉に込めたのに対して、
この時代から下ネタなど歌詞自体は徐々に快楽的な思考に
なっていくんですね。
ともあれ70年代のルーツと80年代のダンスホール
では、レゲエがまったく別の音楽になったと言えるほど
の変わり方をして来るんですね。

ではレゲエがダメになったのか?というと、案外そんな
事はないんですね。
今回のアルバムでもシンガーを集めたDisc 1の(Volcano
Singers)などを聴くと、意外とすんなり聴けちゃう曲が
多く、けっこうイイ曲も多いんですね。
レゲエの歴史の中では70年代のルーツ、ディージェイ、
ダブと次々に新しい音楽が生み出された時代がひとつの
ピークですが、一度失速しかけたところでこのダンスホール・
レゲエが誕生して全盛になり、続いて「デジタル革命」も
起きてもうひとつのピークが出来ているんですね。

またディージェイを集めたDisc 2の(Volcano Deejays)
などを聴くと、ディージェイの形態もダンスホールで
変わって来るんですね。
この時代になるとルーツ・ディージェイの思想的な
トースティングから、スラックネス(下ネタ)中心の
トースティングへと変化が見られます。
この80年代のダンスホール以降のジャマイカは、
ずっとこのスラックネス中心の世界観で音楽が推移して
いるんですね。
それが良いか悪いかはちょっと微妙なところです(笑)。
まあ、得たものもあれば失ったものもあるという事
でしょう。

Disc 1の1曲目はFrankie Paulの「Worries In The Dance」
です。
このFrankie Paulは盲目のシンガーで、「ジャマイカの
スティービー・ワンダー」と形容されるほどの実力者です。

2曲目はBarrington Levyの「Prison Oval Rock」です。
書いたようにBarrington LevyはHenry 'Junjo' Lawesが
売り出した人で、その独特のファルセット・ヴォイスは
「カナリア・ヴォイス」と称されて人気のあった人です。

Barrington Levy - Prison Oval Rock


3曲目はベテラン・シンガーLeroy Smartの代表曲
「I Am The Don」です。
ルーツから活躍する人ですが、彼の歌声はやっぱり魅力が
あります。

5曲目はこれまたベテラン・シンガーのJohn Holtの
ヒット曲「Police In Helicopter」です。
ロックステディの時代から活躍するこの人ですが、
なんとこの時代にまた人気を博しているんですね。

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Police In Helicopter - John Holt (1983)

8曲目はWayne Jarrettの「Chip In」です。
今手に入るアルバムとしてはWackiesのアルバムが知られて
いる彼ですが、実はこのHenry 'Junjo' Lawesの元でも
活躍していた人なんですね。

Wayne Jarrett - Chip In


11曲目は、Johnny Osbourneの「Ice Cream Love」です。
ロックステディの時代から活躍するベテランですが、
意外とこのダンスホール期に大活躍していて、その活躍は
King Jammyの「デジタル革命」以降も続くんですね。

Johnny Osbourne - No Ice Cream Love


15曲目はLittle Johnの「Dancehall Style」です。
Little Johnもこのダンスホール期に活躍したシンガーで、
この時代にはこうした若いシンガーが次々に登場して
来たんですね。

18曲目はCocoa Teaの「Lost My Sonia」です。
彼がこのHenry 'Junjo' Lawesの元に残したアルバム
「Weh Dem A Go Do...Can't Stop Coo Tea」は、
このダンスホール期の隠れた素晴らしいアルバムの
1枚です。

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Coo Tea - Weh Dem A Go Do...Can't Stop Coo Tea (1985)

Disc 2にはディージェイものが収められています。

1曲目はRingoの「Flash It Inna E」です。
こういうちょっとマイナーなディージェイものが収め
られているのも、コンピならではです。
当時の空気感が解ります。

Johnny Ringo Flash it inna E


3曲目は当時一世を風靡したYellowmanの「Nobody Move,
Nobody Get Hurt」です。
アルビノで苦労して這い上がって来た彼は、そのルックス
を逆手に取り、キザな伊達男キャラで人気を博したん
ですね。

Yellowman - Nobody Move Nobody Get Hurt


6曲目は当時独特の意味不明の言葉の羅列で人気を
博したEek-A-Mouseの「Anarexol」です。
誰も真似が出来ない…の究極系です。

eek a mouse - anarexol


10曲目はCharlie Chaplinの「Bubbling Telephone Chalice」
です。
Charlie Chaplinは、「元祖ディージェイ」として
知られるU Royの育てたディージェイの一人です。
こうしたルーツ・ディージェイの血を引く硬派な
ディージェイも混在していたのが、この80年代前半
の特徴的なところです。

Charlie Chaplin - Chalice ( Bubbling Telephone)


13曲目はClint Eastwood & General Saintの
「Another One Bites The Dust」です。
彼らはほかのディージェイとは一線を画すコミカルな
スタイルで人気を博すんですね。

Another One Bites The Dust - Clint Eastwood & General Saint


16曲目はJosey Walesの「Bobo Dread」です。
このJosey Walesは、Yellowmanと人気を二分するほど
の人だったんですね。
この曲は彼の代表曲のひとつです。

Josey Wales - Bobo Dread


他に女性ディージェイのSister Nancyの曲など、
なかなか面白い曲が収められています。

さて今回のアルバムで意外に侮れなかったのが、
「オマケ」で付いているDVDです。
まずは「Play Feature」となっている、今生き残って
いる人に対するHenry 'Junjo' Lawesについての
インタビューが42分ちょっと。
出演しているのはGeneral Saint、Linval Thompson、
Yellowman、Little John、Dwight Pickney、Chris Chin、
Errol 'Flabba' Holt、Michael Prophet、Cocoa Tea、
Jah Screwといった人達です。
Linval Thompsonなんかはサングラスにドレッド・
ロックスで今もオシャレです。
逆に衝撃的なのは今のYellowmanの姿。
口が右に曲がってしまって、ちょっと痛々しい感じ
もあります。
他にCocoa Teaあたりはドレッド・ロックスを中に
収めた大きなピンクと白の網あげの帽子がオシャレ
です。
話の内容は英語なのでイマイチよく解りませんが、
みんな楽しそうにHenry 'Junjo' Lawesについて
語っています。

このDVDで一番面白かったのが、「Live at
Skateland」というタイトルの付いたダンスホール
のライブ映像です。
これはインタビューのバック映像としても使われて
いるのですが、実際のダンスホールの様子がよく
解ります。
場所は「Skateland」という事から考えると、どうやら
アイススケート場か何かにサウンド・システムを
持ちこんで、それに合わせてディージェイがトースティング
を行っているんですが、なんと観客も複数のディージェイ
もぎっしり入り混じって、特別なステージも無く、同じ
目線に立って曲に合わせてトースティングとダンスを
しているんですね。
バックもバンドでは無くちょっとAugustus Pabloに
似た男性が、ビニールのレコード盤を入れ替えて、
それに合わせて即興でマイクを回しながらトースティング
を行っている模様。

その場の閃きでトースティングを行っているので、
自然に下ネタなども多くなったのでしょう。
映像に映っているアーティストは、Papa Toyan、
Josey Wales、Lee Van Cliff、Louis Lepke、
King Yellowmanです。
Yellowmanは「King」の冠付きで、しかも「D.J.
King of Jamaica」という形容詞までついて紹介
されています。
この時代は間違いなく彼Yellowmanが王者として
君臨していた時代だったんですね。

回りを腰をくねらす男女に囲まれながら、5人ぐらい
のディージェイがひとつのマイクを回しながら
トースティング、これが当時のディージェイの
スタイルだったようです。
意外とディージェイというのは身近な存在だった
のかもしれません。
Yellowmanなどはそばで踊る女の子と囁きあったり
しています。
YellowmanとLouis Lepkeはあまり仲が良くないのか、
マイクを奪い合う様子も見られます。

この時代あたりからジャマイカも豊かになって来た
のか、着ている洋服なども徐々にオシャレになって
きている印象です。
ハンチングや帽子など身につけるものにも凝って
来ている感じ。
ルーツの時代とはだいぶ様変わりして来ているん
ですね。
当然求められる音楽も様変わりするのは、むしろ
当然だったのかもしれません。
たぶんその時代のニーズにあったプロデューサーの
ひとりが、Henry 'Junjo' Lawesだったのかもしれ
ません。
インタビューの方の映像にはディージェイと手を
叩きあうHenry 'Junjo' Lawesの姿も見られます。

一番面白かったのは踊りが異常にエロいんです
よね(笑)。
男女が抱きあって腰を振っているんですが、
お互いに腰をグイグイグイグイ押しつけ合って
振っているんです。
スゴイ奴になると、両手でお尻を胸を揉むように
揉みまくっている(笑)。
さすがにこれはヤリ過ぎだと思ったのか、女性が
手をバシバシ叩いて止めさせようとするんですが、
止めないんですねこれが…。
逆に盛りのついた犬状態で、もっと激しく揉み
まくってる…。
あまりにスゴ過ぎて逆に笑っちゃいました(笑)。

映像を見てあらためて思ったのですが、70年代
には「思想」の道具だったレゲエという音楽が、
この80年代になると完全に「快楽」の道具へと
変質して来るんですね。
この80年代のダンスホールの音楽に感じる
ある種のエロティックさは、時代のニーズだった
のでしょう。
それが一概にダメとは言えないと思います。
「思想」でも「エロ」でも何でもパワーにして
しまう、それがレゲエという音楽が長きに渡って
愛し続けられている理由かもしれません。

今回のアルバムは特典映像なども充実していて、
80年代のダンスホール、デジタル革命直前の
熱いジャマイカの様子がよく解るアルバムだと
思います。
かなり楽しめる充実した内容のアルバムです。

機会があれば聴いてみて下さい。


○アーティスト: Henry Junjo Lawes
○アルバム: Volcano Eruption
○レーベル: VP
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2010

○Henry Junjo Lawes「Volcano Eruption」曲目
Disc 1 (Volcano Singers)
1. Worries In The Dance - Frankie Paul
2. Prison Oval Rock - Barrington Levy
3. I Am The Don - Leroy Smart
4. Gunman - Michael Prophet
5. Police In Helicopter - John Holt
6. Hog & Goat - Don Carlos
7. Give Another Israel A Try - Barry Brown
8. Chip In - Wayne Jarrett
9. Lover's Affair - Junior Reid
10. Jacqueline - Hugh Mundell
11. Ice Cream Love - Johnny Osbourne
12. 21 Girls Salute - Barrington Levy
13. Fire House Rock Aka Waterhouse Rock - The Wailing Souls
14. Come Fi Mash It - Tony Tuff
15. Dancehall Style - Little John
16. Pass The Tu Sheng Peng Aka Pass The Kushempeng - Frankie Paul
17. Love I Can Feel - John Holt
18. Lost My Sonia - Cocoa Tea
19. Look How Me Sexy - Linval Thompson
20. Last Dance - Al Campbell
Disc 2 (Volcano Deejays)
1. Flash It Inna E - Ringo
2. Boneman Connection - Nicodemus
3. Nobody Move, Nobody Get Hurt - Yellowman
4. Woola Woope - Josey Wales
5. Bible Story - Early B
6. Anarexol - Eek-A-Mouse
7. Two Bad DJ - Clint Eastwood & General Saint
8. Fisherman - Captain Sinbad
9. Bam Salute - Lee Van Cliff
10. Bubbling Telephone Chalice - Charlie Chaplin
11. Some A Halla - Ranking Trevor
12. Wa-Do-Dem - Eek-A-Mouse
13. Another One Bites The Dust - Clint Eastwood & General Saint
14. Diseases - Michigan & Smiley
15. Spar With Me - Toyan
16. Bobo Dread - Josey Wales
17. Zungguzungguguzungguzeng - Yellowman
18. Wicked She Wicked - Billy Boyo
19. Dance Pon The Corner - Sister Nancy
20. How The West Was Won - Toyan
Disc 3
1. Bonus DVD

●今までアップしたHenry 'Junjo' Lawes関連の記事
〇Various「Junjo Presents A Live Session With Aces International」