今回はRico Rodriguezのアルバム

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「Man From Wareika」です。

Rico Rodriguezはジャマイカやイギリスで
長く活躍したトロンボーン奏者です。
トロンボーン奏者として数多くのセッションに
参加したほかに、多くのソロ・アルバムを出して
います。
イギリスでネオ・スカのブームが起きた時には、
その中心グループであった白人と黒人の混成グループ
The Specialsのサポート・メンバーに参加した事
でも知られています。
今年2015年9月4日にロンドンで、80歳で
亡くなっています。

今回のアルバムはルーツ・レゲエの時代だった
1977年の作品で、彼の代表作とも言える
アルバムです。
さらにオリジナル9曲にプラスして、ボーナス・
トラックが9曲というサービス満点のアルバム
です。
手に入れたアルバムは発売元はユニバーサル・
ミュージックで、Islandレーベルの日本盤
だったのですが、ジャケットの内側に鈴木智彦
さんという方の解説文が付いているのですが、
それによるとボーナス・トラックは「Man From
Wareika」に続くアルバムとしてタイトルや
レコード番号まで決まっていながらお蔵入りと
なってしまった『ミッドナイト・イン・エチオピア』
というアルバムで発売されるはずだった音源
なんだとか。
9曲+9曲で、ほぼアルバム2枚分もある
豪華盤です。

全18曲で収録時間は79分51秒。

ミュージシャンについては以下の記載が
あります。

Trombone: Rico
Drums: Sly Dunbar, Jacko*
Bass: Ras Robbie Shakespeare, Bunny McKenzie*
Lead Guitar: Duggie Bryan, Karl Pitterson, Junior Hanson Maroin*
Rhythm Guitar: Lloyd Parks, Phillip Chen*
Keyboards: Tower Harvey, Ansel Collins, Tarzan Nelson, Karl Pitterson, Tony Washinton*
Wood Drum: Skully
Percussion: Karl Pitterson, Tony Utah*, Satch Dixon*
Fussy Tambowine: Flick
Backing Vocals on Africa: Ijahman, Candi McKenzie
Flugelhorn: Dick Cuthell
Trumpet: Uw Talent Hall, Bobby Ellis, Eddie Thornton*
Tenor Sax: Dirty Harry, George Lee, Keith Gemmel*
Alto Sax: Herman Marquis, Ray Allen
* played only on "Africa"

Recorded at Joe Gibbs and Randy's Studios
Engineers: Karl Pitterson, Errol Thompson, Dick Cuthell
Assisted by Flick
Africa was recorded at Island Hammersmith Studios May 1976 by Dick Cuthell
All tracks mixed at Island Basing Street Studios by Karl Pitterson and Dick Cuthell
Assisted by Kevin Dallimore
Produced by Karl Pitterson
Executive Producer: Chris Blackwell

となっています。

ここに載っているミュージシャンは、おそらく
「Man From Wareika」に関するもので、
『ミッドナイト・イン・エチオピア』の方は
含まれていないんじゃないかと思います。

今回のアルバムの中で4曲目「Africa」のみが
Island Hammersmith Studiosの録音です。
実はこの曲はバック・コーラスのIjahman Levyの
曲なんですね。
このIjahmanはかなり宗教性の強い曲を作る人
なんですが、彼の個性とRicoのトロンボーンが
抜群の相性を見せています。

実は今回調べてみるまで知らなかったのですが、
このRico Rodriguezはけっこう早くから活躍して
いる人なんですね。
あのThe Skatalitesで活躍したDon Drummondなど
と同じアルファ・ボーイ・スクールで学んだ経験
を持っているのですが、Don DrummondがThe Skatalites
でスカのブームをけん引したのに対して、Ricoは
その60年代に早くもイギリスにわたり、なかなか
うまくいかずに苦労しているんですね。
その当時にイギリスでもスカ=ブルー・ビート・
ブームが起こっていて、当時イギリスで「スキン
ヘッド・レゲエ」で人気を博したLee Perry
率いるThe Upsettersを模したバンドRico &
The Rudiesで、「Blow Your Horn」と「Brixton Cat」
という2枚のアルバムを残しています。

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Rico & The Rudies - Blow Your Horn / Brixton Cat

ただこの2枚のアルバムはRico自身の志向する
音楽とは齟齬があったような事が、解説文には
書かれています。
彼自身が自分を目指す音楽を作れたのは、それから
ずいぶん経ったジャマイカで録音したこの
「Man From Wareika」だったようです。

実はこのアルバム私がまだ若かった20代の頃に、
すでにLPで購入しています。
たぶん80年代の初めぐらいに購入しているん
じゃないかと思います。

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Rico - Man From Wareika (LP)

その時のこのアルバムのイメージというのは、
何だかボワ~っと温かい優しいアルバムだな~
という感じでした。
5,6年前から再びレゲエを聴き始めてからも、
やっぱりCDで持っておきたいアルバムだなと
思って買っていたんですが、今回また久しぶりに
じっくり聴いてみると、確かにボワ~っと温かいア
ルバムという事に間違いがないのですが、一見
ユルく作っているように見せながらも、かなり
緻密な計算がされた緊張感のある良いセッション
の中で作られたアルバムなんですね。
驚くほど隙や欠点の見当たらないアルバムだと
思いました。

音のイメージは曇り空なんですね(笑)。
ただしイギリスのように年中雨が降っていて
ジメッとして肌寒い曇り空ではなくて、ジャマイカ
のような明るくて雲で見えないけれど太陽の熱が
皮膚に感じる暑い気候の曇り空なんですね。
晴天よりかえって太陽の存在をリアルに感じる
曇り空が、今回のサウンドのイメージです。
そのジワジワした熱が、リスナーの心をジワジワ
焼いていくんですね。

このRicoの吹くトロンボーンというのは、管楽器
の中でもある意味すごく特殊な楽器なんですよね。
テナーやアルトサックスがキリっと輪郭のハッキリ
した音が出せるのに対して、トロンボーンや
トランペットは少し滲んだ音が特徴の楽器です。
特にトロンボーンは、トランペットよりさらに滲んだ
ボワ~っとした音が特徴的な楽器なんですね。
例えればテナーやアルトが細かい描写が出来る
「細筆」で、トランペットが「中太筆」だとすると、
トロンボーンは完全に「太筆」といった感じの
楽器なんですよね。
しかも濃い墨でキリっと書くのではなく、薄墨で
ボヤっと滲ませて書くイメージです。
つまり細かい表現が得意でない分「脇役」としては
栄えるけれど、「主役」としては描写が難しい
楽器なんですよね。

それでもこのスカからレゲエに至るまでの
ジャマイカの音楽界では、このRicoをはじめ
としてDon DrummondやVin Gordonなど、素晴らしい
トロンボーン奏者を多く輩出しているんですよね。
そして今回の「Man From Wareika」というアルバム
は、このトロンボーンという楽器がちゃんと
「主役」を張れる楽器であるという事を見事な
くらいに証明しているアルバムだと思います。
ただ「主役」になるためには、意見ボワ~っと
した優しい音に聴こえたとしても、その裏では
かなり緻密な演奏をしないと「主役」は張れない
という事も、このアルバムはよく教えてくれて
います。

このトロンボーンという「太筆」で描かれた世界は、
やはり他のレゲエとはまた少し色合いの違う世界観
があります。
いきなり野太く色をポンポン置いていくような
トロンボーンの音色には、他の楽器では得られない
ような包み込まれるような快感があるんですよね。
この「Man From Wareika」にはある種の荘厳さすら
感じるほどの音の魅力に満ち溢れています。

10曲目以降の『ミッドナイト・イン・エチオピア』
の音源もなかなか良いです。
11曲目「You Really Got Me」はUKのロックバンド
The Kinks、14曲目「Take Five」はジャズ・
ピアニストDave Brubeck、そしてラストの18曲目
「Ska Wars」は映画スター・ウォーズのテーマ曲と、
カヴァー曲も多く演奏しています。
10曲目「Children Of Sanchez」は6分を超える力の
入った演奏だし、どうしてこの作品がアルバムに
ならなかったのか?ちょっと不思議な気さえする
内容です。

このアルバムはルーツ期に作られたインスト・
アルバムの中でも、特に聴いておくべきアルバムの
ひとつだと思います。
今年の2月に惜しくも亡くなってしまいましたが、
それでも彼の残したこのアルバムはレゲエの大切な
「宝物」です。

機会があればぜひ聴いてみてください。

Rico Rodriguez Man From Wareika 77 04 Africa


Rico Rodriguez Man From Wareika 77 01 This day



○アーティスト: Rico
○アルバム: Man From Wareika
○レーベル: Universal Music
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1977

○Rico「Man From Wareika」曲目
1. This Day
2. Ramble
3. Lumumba
4. Africa
5. Man From Wareika
6. Rasta
7. Over The Mountain
8. Gunga Din
9. Dial Africa
Bonus Tracks
10. Children Of Sanchez
11. You Really Got Me
12. Midnight In Ethiopia
13. Free Ganja
14. Take Five
15. Fat East
16. No Politician
17. Firestick
18. Ska Wars

「Rico関連」のアルバムで、彼を知るために聴いて
もらいたいアルバムを1枚紹介しておきます。
アルト・サックス奏者のDeadly Headley Bennettの
アルバム

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「35 Years From Alpha」(1982年)です。
え!?なぜDeadly Headley??と思う方も居るかも
しれませんが、このアルバムにRicoが客演している
んですね。
このアルバムのタイトル曲「35 Years From Alpha」
と「Two From Alpha」でDeadly HeadleyとRicoが共演
しているんですが、この二人のアルト・サックスと
トロンボーンの掛け合いが凄まじいといえる程スゴイ
んですね。
Deadly HeadleyのアルトとRicoのトロンボーンで
フルボッコにされる快感があります(笑)。
Ricoというと多くの人は「優しい」というイメージを
抱いていると思うんですが、このアルバムでのRicoは
全く別の「こわもて」の顔を見せています。
こういうRicoもまた魅力的だと思います。