今回はThe Upsettersのアルバム

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「Return Of The Super Ape」です。

The Upsettersはダブの鬼才Lee Perryのハウス・
バンドです。
まだ初期レゲエの頃に、UKのスキンヘッド
(不良少年)を対象とした、乾いたドラミングと
オルガンの演奏を中心とした「スキンヘッド・
レゲエ」を演奏するバンドとして誕生しました。
もともとは軽快なインストを演奏するバンドで、
それがスキンヘッドにウケていたんですね。

その後Lee Perryがダブを作りだす頃には音楽性も
変化して、本格的なルーツ・レゲエのバンドに
なって行きます。
そしてLee PerryのスタジオBlack Arkで作られた
数々のダブは、このThe Upsettersが演奏している
んですね。
Lee Perryのコンセプトを実現するためのバンド
が、このThe Upsettersです。

アップセッターズ - Wikipedia

Lee Perryについても説明しておくと、レゲエの歴史に
偉大な足跡を残したプロデューサーであり、ダブの
クリエイターです。
The Upsettersでスキンヘッド・レゲエで人気を博した
のちに、1973年に最初期のダブのひとつと言われる
「Blackboard Jungle Dub」を発表します。
この73年は「ダブ元年」とも言える年で、この
アルバムの他にRandy's(Errol Thompson)の
「Java Java Java Java」、Herman Chin-Royの
「Aqarius Dub」などのダブ・アルバムが一斉に出た
年でした。
誰がダブを最初に生みだしたかは諸説あり、はっきり
とは解っていないのですが、その最も早い時期から
ダブを作り続けている一人が、このLee Perryなん
ですね。

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The Upsetters - Blackboard Jungle Dub (1973)

彼は76年にもっとも有名なダブ・アルバムの
ひとつである「Super Ape」を発表しています。
このアルバムはレゲエを聴く人で知らない人は
居ないほど有名なアルバムです。

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The Upsetters - Super Ape (1976)

ちなみに「Upsetter」というのはLee Perryの
あだ名です。
ミュージシャンのクレジットに「The Upsetter」
とある事がありますが、この場合はバンド名では
無くてLee Perry本人の事を指します。
ちなみに「Upsetter」の意味をネットで調べてみると、
「ひっくり返す人」「混乱を引き起こす人」「予期
せぬ勝利者」という意味なんだそうです。
どうやら彼の変わり者の性格から付いたあだ名らしい
です。

Lee Perry (リー・ペリー)

今回のアルバムですが1978年の作品です。
「続・Super Ape」というタイトルから解るように、
「Super Ape」の続編として作られたアルバムです。
ネットの販売サイトなどのアルバム評を見ると、
「ジャマイカ国内向け」に作られたアルバムなんだ
そうです。

このアルバムを作ったのちにLee Perryは、73年から
自身の拠点としていたスタジオBlack Arkを出火に
よって失ってしまうんですね。
この出火の原因は配線ミスの為だったらしいのですが、
この当時は彼が精神に異常をきたした為などと、いろいろ
噂されたほどでした。
ただそういううわさが出たのも、スタジオを失って
以降のLee Perryの作る音は、統一感を失ってまるで
別人のように荒れだすからなんですね。

Lee Perryの歴史を追いかけていくと、だいたい
3つの時期に分類できます。
初めの軽快なインストのスキンヘッド・レゲエを
作っていた時期。
この時期は統一感の取れた、オルガンを中心とした
軽快なインストを作っています。
自らのスタジオBlack Arkで歌手のプロデュースや
ダブを作っていた時期。
彼の最も充実していた時期で、多くのアーティストの
プロデュースや、それまでに無かったような創造的な
ダブを多く制作しています。
Black Ark焼失後。
何故かこの後以降のLee Perryは、まるで脳が壊れて
しまったかのように音が荒れだすんですね…。
今回のアルバムはその一番良かった時代のLee Perryの
「最後のアルバム」と言えるかもしれません。

今回のアルバムはVPから出ている中古のCDでしたが、
多少で気にならないレベルですが、ポツポツ音が入る
個所があります。
購入の際には注意してください。

全10曲で収録時間は35分20秒。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

All Tracks Composed by Lee Perry
Roroduced & Arranged by Lee Perry
Illustration & Cover Design by: Lloyd Robinson: 78

という記載があるのみでした。

さて今回のアルバムですが、実は若かった20代の頃に
LPで購入していたアルバムでした。

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The Upsetters - Return Of The Super Ape (LP)

聴いたのはおそらく80年代の初め頃だったと思う
のですが、当時「Super Ape」にすごく感動した私が
期待して買ったアルバムでした。
ただ正直なところ「Super Ape」ほどではないなぁと、
当時の私は思っていました。

たびたび書いていますが私はその後長いことレゲエを
聴かない時期があり、6年ぐらい前から再びレゲエを
聴き始めました。
再び聴き始めてからは、不思議とこのアルバムを聴いて
いなかったんですね。
そういえば今、このアルバムを聴いたらどうなんだろう?
そう思ってCDを買ってみたという訳です。

「Blackboard Jungle Dub」などもそうなんですが、
長い年月が経ってから聴き返してみると、実はそれが
素晴らしいアルバムだったという事に気付く事があります。
実は若い頃の音楽の良い悪いという判断は、まだ音楽の
経験値が少ない分「保守的」な判断になりがちなん
ですね。
それが歳とともにいろんな音を聴く経験値が増える
事で、今まで解らなかった音が解るようになるという
事もあります。
おそらく音自体は若い頃の方がよく聴こえるので
しょうが、必ずしも音楽の良し悪しまでよく解って
いる訳ではないんですね。
今回もそれを痛感しました。

ずいぶん久しぶり、おそらく初めて聴く感覚で今回の
アルバムを聴いてみると、これがけっこう面白い
アルバムなんですね。
若い時に聴いた時は、たぶん初めに聴いた「Super
Ape」のイメージに支配荒れていた為に、このアルバム
の面白さに気づかなかったのかもしれません。
このアルバムは「ジャマイカ国内向け」に作られた
アルバムと言われていますが、「Super Ape」のある程度
インターナショナルな誰にも聴き易いサウンドよりも、
ある程度絞られたリスナー、それが「ジャマイカ国内向け」
という事になるのでしょうが、よりLee Perryらしさが
出た自由度の高いアルバムになっている気がします。
販売サイトでは絶賛している記述が多いですが、おそらく
Lee Perryのダブの完成形ともいえるスタイルがここには
あります。

ただある意味けっこう難しいアルバムなんですね…。
若い頃の私がこの音を理解できなかった事を書き
ましたが、一見バラバラの音楽性を持った音楽が
微妙なバランス感覚で繋がっている印象です。
1曲目「Dyon - Anabwa」は女性コーラスで始まった
かと思ったら、次の2曲「Return Of The Super Ape」
は渋いインストのダブ、3曲目「Tell Me Something
Good」はLee Perryのヴォーカルと、一見繋がりの無い
異空間へと次々に飛ばされて行く感覚です。
まさに狂気と正気の間を何回も何回も彷徨い歩く
感覚なんですね。
これは若い頃の私の脳では、なかなか処理出来
なかったかなと今聴いても思います(笑)。

ただ一見支離滅裂のように見えて、まだこの時期の
Lee Perryには微妙なバランス感覚があるんですね。
よく聴くとエフェクトの使い方などが絶妙で、うまく
この「異空間」をコントロールしているんですね。
一見無秩序のように見えて、その裏には確かな理性が
あるんですね。
そうしたコントロールが効いているからこそ、こうした
凄みのあるサウンドが作れるんだと思います。

正直Lee Perryの歌はあまりうまくないし、時として
ひどくハズレて聴くに堪えないところがあるので好き
じゃないんですが(笑)、このアルバムでは○です。
このアルバムでもかなりハズシて歌っているところも
あるんですが、必ずしも悪い意味で際立っていない
んですね。
良く言えばちょっと頭のオカシイ人が歌っている
みたいで、面白いところがあります(笑)。

この後のBlack Ark焼失後のLee Perryは、書いた
ようにどうも脳がユルんでしまったような、ちょっと
理性的なバランスを壊してしまったような音作りを
するようになります。
一説にはこのBlack Arkの設備を作ったのは、電気
技師の仕事もしていたKing Tubbyだと言われて
いますが、このLee PerryにとってBlack Arkという
スタジオは、自身のサウンドを実現するために
本当に必要なスタジオだったのかもしれません。
今聴いても素晴らしいと思うLee Perryのサウンドは
ほとんどがこのスタジオから生まれています。

このアルバムはLee Perryのアルバムの中でも、特に
聴いておくべきアルバムのひとつだと思います。
ルーツ・レゲエの好きな人、特にダブな好きな人も
おススメの1枚です。

機会があればぜひ聴いてみてください。

Lee Perry and The Upsetters - Return Of The Super Ape - 04 - Bird In Hand


lee perry & the upsetters - return of the super ape.wmv


Lee Perry and The Upsetters - Return Of The Super Ape - 03 - Tell Me Something Good



○アーティスト: The Upsetters
○アルバム: Return Of The Super Ape
○レーベル: VP
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1978

○The Upsetters「Return Of The Super Ape」曲目
1. Dyon - Anabwa
2. Return Of The Super Ape
3. Tell Me Something Good
4. Bird In Hand
5. Crab Yars
6. Jah Jah Ah Natty Dread
7. Psycha & Trim
8. The Lion
9. Huzza A Hana
10. High Rankin Sammy


オマケにLee Perryのダブの原点とも言うべきアルバムを
紹介しておきます。
1970年にリリースされた

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「The Good, The Bad And The Upsetters (Jamaican Edition)」
です。
このアルバムはある意味いわくつきのアルバムで、当時
スキンヘッド・レゲエの人気に気を良くしたTrojanの幹部が
Lee Perryに内緒で、The Upsettersのメンバーだけでアルバム
を作ってしまったんですね。
それが「The Good, The Bad And The Upsetters」の普通の
ヴァージョンのアルバムです。

その事を後から知ったLee Perryが怒って作ったのが、この
「(Jamaican Edition)」です。
このアルバムはジャマイカだけでひそかに流通していて、
当時売られていたジャケットは、普通ヴァージョンと同じ
カウボーイ姿のThe Upsettersのメンバーのジャケットだった
のですが、中身の曲が全く違うLee Perryのアレンジした曲が
入っているアルバムなんですね。

このアルバムを聴くと、もうすでにダブという形態の
青写真がほぼ完成しているんですね。
(このアルバム自体はダブと認定されていないようです。)
まさにLee Perry恐るべし!といった内容です。
意外と今回のアルバムと似ているので、聴いてみると
面白いと思います。