今回はScientistのアルバム

scientist_05a

「Meets The Space Invaders」です。

ScientistはKing Tubbyのもとでエンジニアの
修業を積んだのちに80年代に独立し、ダブの
スペシャリストとして活躍した人です。

Scientist(サイエンティスト)

今回の作品「Meets The Space Invaders」は
1981年の作品で、「漫画ジャケ・シリーズ」
の3作目です。
この頃のScientistは、Volcanoレーベルの
Henry 'Junjo' Lawesのもとで、80年から82年
までの3年間で「漫画ジャケ・シリーズ」のダブ・
アルバムを計6作品作っています。

scientist_03a
Scientist, Prince Jammy - Big Showdown (1980)

scientist_09a
Scientist - Heavyweight Dub Champion (1980)

scientist_01a
Scientist - Rids The World Of The Evil Curse Of The Vampires (1981)

scientist_08a
Scientist - Wins The World Cup (1982)

scientist_07a
Scientist - Encounters Pac Man (1982)

全10曲で収録時間は31分50秒。

裏ジャケにアルバムについての次のような記載が
あります。

Arranged Produced by Mickie 'Roots' Scott & Linval Thompson
Recorded at Channel One by Maxie, Barnabas, & Crucial Bunny
Mixed at King Tubby's by Scientist

Roots Radics Band:
Lead Guitar: Sowell
Rhythm Guitar: Bingy Bunny
Bass: Flabba Holt
Drums: Style & Santa
Percussion: Sky Juice & Scully
Organ: Steely & Winston Wright
Piano: Gladie

Cover: Tony Mcdermott

となっています。

今回のアルバムではアレンジとプロデュースをMickie
'Roots' Scott & Linval Thompsonが担当しています。
実はこのアルバムの4曲目「Cloning Process」は、
Wayne Wadeのアルバム「Poor And Humble」のタイトル曲
が使われていて、そのプロデューサーがDelroy Wright
& Linval Thompsonとなっていました。

wayne_wade_01a
Wayne Wade - Poor And Humble (CD-R)

Scientist - Cloning Process - Dub


「Poor And Humble」の方はクレジットが1982年と
なっているんですが、同じLinval Thompsonが
プロデューサーなので、同時期の81年に作られた
アルバムだと思います。
少なくともダブの方が先に作られるというのは変
ですからね(笑)。
どうも時間が経っているせいかこういう年号のズレは
よくあります。

実は今回のアルバムは私がまだ20代だった80年代に、
LPですでに買っていたアルバムです。
Scientistのこのアルバムと次のアルバム「Rids The
World Of The Evil Curse Of The Vampires」は、すでに
若い頃にLPで聴いていたんですね。

scientist_lp_01a
Scientist - Meets The Space Invaders (LP)

ちなみにこのLPのカヴァーのビニールはまだ張った
ままで、そこにTower Recordsの値段のシールが貼った
ままになっていて、1890円という値段が付いて
いました。
当時渋谷の東急ハンズを下ったところにあったのが、
Tower Recordsの日本進出1号店でだったんですね。
今はその場所にありませんが、それまで立てて置く
のが当り前だったレコードが平積みにドンと大量に
置かれていたのがとても印象的でした。
この時代から日本に輸入盤が安い価格で入って来る
ようになったんですね。
当時よく通ってレゲエのアルバムを買いました。

このScientistの2枚の「漫画ジャケ・シリーズ」は
当時からお気に入りで、今でも壁に貼って毎日眺めて
いるほど好きなんですが、正直なところ音はイマイチ
という感じに思っていました。
そこで今回「漫画ジャケ・シリーズ」が再発になった
こともあり、もう一度このScientistというアーティスト
を再検証してみようと思って、このアルバムを買って
みた訳です。

当時はイマイチ感があったScientistですが、久しぶりに
聴き直してみると、これが結構イイんですね(笑)。
ではなぜ当時はイマイチと感じたのかというと、どうも
ダブの「質」にあったような気がします。
私が当時馴染んでいたダブというのは、Lee Perryの
「Super Ape」に代表されるようなルーツ系のダブが
多かったんですね。
ところがこの80年代になると、時代はルーツ・レゲエ
からダンスホール・レゲエへと移行して行くんですね。
当然ダブを作る元の曲も、ルーツ・レゲエ→ダンスホール・
レゲエに移行して行く訳ですよね。
つまりScientistの作っているダブは「ダンスホール系の
ダブ」という事で、その音に当時若かった私は馴染め
なかったのではないかと思います。

この初期のダンスホール・レゲエでは、ワン・ドロップ
のリズムが流行っていたんですね。
このワン・ドロップは1拍目にアクセントがなく、3拍目
が強調されたドラミングとの事です。
80年代に入り、この初期のダンスホール・レゲエの時代
になると、それまでのルーツ・レゲエの時代より曲が
だいぶスローになり、さらにこの特徴的なドラミングの
リズムに変わっていくんですね。
その辺かに当時の私は追いていけなかったのかもしれ
ません。

実は私は20代の頃にレゲエ、特にルーツ・レゲエを
けっこう聴いていたのですが、その後長い中断があり、
5,6年前から再びレゲエを聴きだした人間です。
だから私はレゲエという音楽の認識にポッカリ穴が
空いちゃっているんですね。
恥ずかしながらダンスホール・レゲエがだいぶ理解
出来るようになったのも、まだここ2,3年といった
ところなんですよね(笑)。
当時の私はダンスホール・レゲエというものが、レゲエ
として全く認識出来ていなかったというのが正直な
だからなんとなくこの音は合わないなぁ、みたいな
感じだったんですね。

今回のアルバムはジャケットを見てもらえば解る
ように、当時日本でも大流行した「インヴェーダー・
ゲーム」をモチーフにした作品です。
こういうテーマをモチーフにしていることからも
解るように、この時代になるとルーツ・レゲエの
時代にあったような政治性や社会性が徐々に希薄に
なって行くんですね。
やっぱりダンスホールが流行る時代になると、少し
ずつ生活も豊かになって来ているので、難しい話は
だんだんしなくなって来るのかもしれませんね(笑)。
この時代になると、歌詞のテーマが徐々に下世話な
ものや恋愛などに変わって来る傾向が見られるよう
です。
ある意味思想性が後退して、思考が快楽的になって
来るんですね。

同時期に作られたアルバム「Rids The World Of The
Evil Curse Of The Vampires」と比較してみると、
エフェクトの違いがけっこう際立ます。
「Rids The World Of …」がヴァンパイアなどの
モンスターをテーマにしているので、エフェクトも
笑い声など人の声が多く使われているのに対して、
こちらはインヴェーダーがテーマなのでピコピコ音の
ような環境音が多く使われています。
まあ、それだけの違いといえばそうなのですが、
やっぱり人の声というのは聴く者を引き付けるもの
があるので、較べると弱冠「Rids The World Of …」
の方が面白く感じちゃうかなというのが正直なところ。
ただ当時としてはこうした「インヴェーダー・ゲーム」
のピコピコ音も、それまでに無かった音なので、
けっこう刺激的な音だったのかもしれません。
そうしたエフェクトを変える事で全く違う世界観を
描いているのは、面白いところです。

書いたように4曲目には同時期作成のWayne Wadeの
「Poor And Humble」が使われています。

また同年の81年のToyanのアルバム「How The West
Was Won」に、今回と似たようなエフェクトが使われて
います。

toyan_01a
Toyan - How The West Was Won

このToyanのアルバムは、プロデュースがHenry
'Junjo' Lawes、ミックスがScientist、バックは
Roots Radics、カヴァー・デザインはTony Mcdermott
というかなり似た構成のアルバムです。
はっきりと曲が使われているかは確認できません
でしたが、これもこの一連のScientistの作品群に
近いアルバムです。

今回聴き直してみてあらためて感じたのですが、この
80年代になるとイギリスでもJah ShakaやMad Professor
といったダブのクリエイターが活躍を始めるのですが、
このScientistを含めた新しいクリエイターがダブという
音楽を大きく変えていったんだなぁと思いました。
それまでのKing TubbyやLee Perryというクリエイターと、
全く違う音楽がこの80年代に次々に誕生しているん
ですね。

このアルバムについてはやっぱりカヴァー・デザイン
のTony McDermottについても、書いておかなくては
なりません。
とにかくこのカヴァー・デザインは素晴らしい!!の
一言です。
この人は他にもMad Professorの「Dub Me Crazy」シリーズ
など数多くのレゲエのアルバム・ジャケットを残している
けれど、そのエンターテイメントなジャケットはやっぱり
見るだけの価値があります。

この変化をけん引したのがVolcanoレーベルのHenry 'Junjo'
Lawesだったようです。
Scientistの「漫画ジャケ」やToyanのアルバムをはじめ、
彼の作ったジャケットには本当に素晴らしいものが多いん
ですね。
音楽性だけでなくジャケットも含めた総合的な質を高めた
という点で、このHenry 'Junjo' Lawesの功績はかなり高く
評価すべきものだと思います。

ともあれこのミックスがScientist、演奏がRoots Radics、
プロデュースがHenry 'Junjo' Lawe(Linval Thompson)、
そしてカヴァー・デザインがTony Mcdermottという
組み合わせは、この80年代初めのもっとも注目すべき
組み合わせのひとつだったと思います。
70年代のルーツのダブとは一味違ったダブを作り始めた
というのも、このScientistのひとつの功績だと思います。

ダブが好きな人、80年代あたりのレゲエが好きな人は
ツボのアルバムだと思います。
機会があれば聴いてみてください。

DUB LP- SCIENTIST MEETS THE SPACE INVADERS - Dematerialize


Scientist - Beam Down - Dub



○アーティスト: Scientist
○アルバム: Meets The Space Invaders
○レーベル: Mirumir Music
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1981

○Scientist「Meets The Space Invaders」曲目
1. Beam Down
2. Red Shift
3. Time Warp
4. Cloning Process
5. Pulsare
6. Laser Attack
7. De Materialize
8. Fission
9. Super Nova Explosion
10. Quasar