今回はScientist vs Prince Jammyのアルバム

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「Big Showdown」です。

Scientistはダブ・マスターKing Tubbyの元で
ミックスの勉強をしたのちに独立し、80年代
の初めから新しいダブのクリエイターとして
活躍した人です。

Scientist (サイエンティスト)

Prince JammyはKing Tubbyのもとでミックスの
勉強をしたのちに独立し、80年代の半ばに
Wayne Smithの「Under Me Sleng Teng」で、
コンピューターを使った「デジタル革命」、
いわゆる「コンピューターライズド」の大ブーム
を引き起こしたプロデューサーです。
彼はこの「Sleng Tengブーム」をきっかけに
Prince Jammy→King Jammyに改名しています。

Prince Jammy (プリンス・ジャミー)

今回のアルバムは1980年の作品です。
まだKing Tubbyの元に居た兄弟子のPrince Jammy
と弟弟子のScientistが、ダブで対決するという
趣向のアルバムです。
いわゆるScientistの「漫画ジャケシリーズ」の
一番初めのアルバムです。

このアルバムでダブ・マスターとして「勝者」に
なったScientistは、プロデュースがHenry 'Junjo'
LawesかLinval Thompson、演奏がRoots Radics、
カヴァー・デザインがTony McDermottがパッケージ
になった「漫画ジャケシリーズ」をその後5作品
リリースしています。
同年に「Heavyweight Dub Champion」、81年に
「Meets The Space Invaders」と「Rids The World
Of The Evil Curse Of The Vampires」、82年に
「Wins The World Cup」と「Encounters Pac Man」
と制作しています。
いわばこの初期のダンスホールの時代にScientist
とRoots Radicsの快進撃が始まったのが、この
アルバムだったんですね。

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Scientist - Heavyweight Dub Champion (1980)

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Scientist - Meets The Space Invaders (1981)

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Scientist - Rids The World Of The Evil Curse Of The Vampires (1981)

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Scientist - Wins The World Cup (1982)

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Scientist - Encounters Pac Man (1982)

この時代になるとこうしたHenry 'Junjo' Lawesの
ような「仕掛け人」が登場して、レゲエもかなり
戦略的な売り方がされるようになってくるんですね。
その分当初にあったような「思想性」は徐々に薄く
なって来るという側面もあります。

ちなみに今回のアルバムはBarrington Levyの
「Englishman」の音源が使われたダブだそうです。

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Barrington Levy - Englishman (1980)

全10曲で収録時間は38分25秒。

ミュージシャンにつては以下の表記があります。

Produced and Arranged by Henry 'Junjo' Lawes

Roots Radics Band
Bass: Erro 'Flabba' Holt
Drums: Carlton 'Santa' Davis
Keyboards: Gladstone 'Gladdie' Anderson, Ansel Collins
Rhythm Guitar: Bo Peep
Lead Guitar: Earl 'Chinna' Smith
Percussion: Christopher 'Sky Juice' Blake

All rhythm tracks laid at Channel One Studios
Mixed at King Tubby's by Scientist & Prince Jammy
MC- Jah Thomas
Cover - Tony McDermott

となっています。

この80年当時のRoots Radics Bandのメンバーは
ちょっと注目です。
ドラムにCarlton 'Santa' Davis、リード・ギターに
Earl 'Chinna' Smithといった人達が参加しています。
もともとこの当時のジャマイカのバンドは、プラスティック・
バンドで多少のメンバーの入れ替わりがあるのですが、
時代が進むとドラムはStyle Scottが務める事が多く
なり、リード・ギターはSwellやBingy Bunnyといった
名前が多くなります。
Roots RadicsといえばStyle Scottの重低音を効かせた
ビタビタしたドラムのイメージが強いのですが、この
アルバムではドラムを叩いていません。
そのあたりの音の違いは今回の注目ポイントですね。

またMCとしてJah Thomasの名前があります。
イントロに入っているトースティング(MC)は
Jah Thomas、曲の中に入っている歌はBarrington Levy
という事らしいです。
ボクシングのレフェリー的な役割なんでしょうか。

さて今回のアルバムですが、兄弟子のPrince Jammyと
弟弟子のScientistのダブ対決というのが売りのアルバム
ですが、おそらく実際には既にある程度ミキサーとして
の地位を確立しつつあったPrince Jammyが、あえて弟弟子
Scientistの売り出しの為に「負け役」を買って出た
アルバムという感じではないかと思います。
実際に聴いた感じとしてもどちらが良くてどちらが
悪いという程の事はないんですね、当たり前ですが…(笑)。

むしろこのHenry 'Junjo' Lawesというプロデューサー
の売り出しのウマさはある意味注目点です。
それまでのただ良いアルバムを作るという考え方から、
カヴァーまで含めたトータルなパッケージとして
「レゲエ」を売る、というビジネス的な発想は
少なくとも70年代のレゲエにはまだ無かったものです。
誕生から10年経ってレゲエはここまで発展していた、
その点が今回のアルバムの面白いところではあります。

結果的に「勝者」となったScientistは、その後
演奏Roots Radics、プロデュースがHenry 'Junjo' Lawes
かLinval Thompson、そしてカヴァー・デザインが
Tony McDermott、そしてドラキュラやインヴェーダー
などの数々のギミックというパッケージで、3年間の
間に他に5枚のアルバムを作り、ダブ・マスターの地位
を確立することになります。

そして「敗者」となったPrince Jammyは、この後
80年代半ばから「Sleng Tengブーム」をきっかけに
「デジタル革命」を起こし、王者として君臨すること
になります。

言わばこのアルバムをきっかけに2人はそれぞれの
道を歩み、レゲエという音楽に新しい時代を切り開いた
と言えるかもしれません。

アルバムを聴いてみた印象としては、Scientistは
ドスンと重い音、Prince Jammyはちょっと華やかな音
という傾向があるかなと思ったんですが、1曲目2曲目
を聴いた時にはそんな感じかなぁとも思いましたが、
やっぱり全体を通して聴くとそれほどハッキリした差異
は感じられませんでした。
それよりはまだKing Tubbyのもとに居た時期だと思うので、
ミックスの仕方がやっぱり似ているんですね。
むしろ1枚のアルバムとして聴いた場合には「対決色」
より、よくまとまったアルバムという感じです。

それよりはCarlton 'Santa' DavisとStyle Scottの
ドラミングの違いの方が印象に残りました。
この6枚あるシリーズのうち初めの2枚がSanta、
残りの4枚はSantaが参加しているアルバムもある
もののStyle Scottがメインでドラムを叩いている
ようです。
Roots RadicsというとこのStyle Scottのドスン
ドスンと小節ごとに区切るような重低音を効かせた
ドラムが印象的なんですが、Santaが叩くとRoots Radics
らしい重いドラムを叩いているもののあのブツブツ
切れる感じはあまり無くて、スムーズなドラミング
という感じがしました。
こういうドラミングの方がダブ・アルバムとしての
まとまりの良い印象があるのですが、Scientistは
けっこうあの特徴的なドラミングが好きだった
のかも…。

この時代のダブになると、70年代のダブとは違い、
音楽のベースがルーツ・レゲエ→ダンスホール・
レゲエに変化してきています。
なので当然ダブの音も必然的に変わって来るんですね。
今回のアルバムもBarrington Levyの「Englishman」
が元で作られたダブという事で、ダンスホール・レゲエ
がベースで作られたダブなので、空気感が70年代の
ルーツ系のダブとはまるで違うんですね。
ある意味このScientistとPrince Jammyが、ルーツ
以降の新しいダブの形を提示したと言えなくもあり
ません。
そう考えるとこの「漫画ジャケシリーズ」は、
ジャマイカの80年代のレゲエの歴史の中で貴重な
ムーヴメントであったと言えるかもしれません。

80年に入り時代は徐々にルーツからダンスホール
へと移行して行くのですが、この「漫画ジャケ・
シリーズ」は
その移行期の混沌とした時代に咲いた美しい華
とも言えるシリーズだと思います。
今回のアルバムはその「漫画ジャケ・シリーズ」の
始まりの1枚として貴重なアルバムだと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。

Scientist Vs Prince Jammy - Big Showdown at king tubby´s round 7


Scientist vs. Prince Jammy - Round 4



○アーティスト: Scientist, Prince Jammy
○アルバム: Big Showdown
○レーベル: Mirumir Music
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1980

○Scientist vs Prince Jammy「Big Showdown」曲目
1. Round 1 - Scientist
2. Round 2 - Prince Jammy
3. Round 3 - Scientist
4. Round 4 - Prince Jammy
5. Round 5 - Scientist
6. Round 6 - Prince Jammy
7. Round 7 - Scientist
8. Round 8 - Prince Jammy
9. Round 9 - Scientist
10. Round 10 - Prince Jammy