今回はKing Jammy'sのアルバム

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「Selector's Choice Vol.3」です。

King Jammyは70年代はKing Tubbyのもとで
エンジニアとして活躍し、80年代に入ると
ダンスホール・レゲエのプロデューサーとして
大活躍した人です。
この人初めはPrince Jammyと名乗っていたん
ですが、80年代の半ばにWayne Smithの
「Under Me Sleng Teng」という曲で大ヒットを
飛ばします。
これがレゲエでコンピューターを使った曲、
いわゆるコンピューター・ライズドの初めての
大ヒットだったん
ですね。そこでPrince Jammy→King Jammyに
改名するんですね。
そこから「Sleng Teng」ブームに乗ってレゲエに
「デジタル革命」を起こしたのがこのKing Jammy
です。
80年だ後半のダンスホール・レゲエはこの人の
独壇場だったらしいです。
言わば80年代のレゲエを支えた最重要人物が
このKing Jammyなんですね。
ちなみに「King Jammy's」といった場合には、
King Jammy個人ではなく、彼を含めたスタジオの
仕事を指します。

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Wayne Smith - Under Me Sleng Teng

King Jammy(キング・ジャミー)

さて今回のアルバムですが、そんなKing Jammy's
の仕事を集めた「Selector's Choiceシリーズ」
の4集まであるシリーズの第3集です。

Disc 1が全20曲で収録時間は69分45秒。
Disc 2が全20曲で収録時間は72分09秒。

バックのミュージシャンの詳細な表記はあり
ませんが、Musicians」として次のような表記が
あります。

Musicians: Roots Radics, High Times Band, Noel Davey,
Steely & Clevie, Mafia & Fluxy

EngineersKing Jammy, Bobby Digital, Beckett, Squeengine,
Soljie, Fatman, Snakie, Genius

Produced By: Lloyd 'King Jammy' James

となっています。

この時代になると、Steely & ClevieやMafia
& Fluxyという人達が大活躍する時代になるの
ですが、Roots RadicsやChinna Smithのバンド
High Times Bandなども頑張っているのも嬉しい
ところです。

今回のアルバムに収められているアーティスト
は、Leroy Gibbons、Admiral Bailey、Tiger、
Frankie Paul、Little Twitch、Colin Roach、
Little John、Sister Charmaine、 Lt. Stitchie、
Horace Andy、Admiral Tibet、Al Campbell、
Echo Minott、Josey Wales、Shabba Ranks、
Trevor Sparks、Anthony Malvo & Daddy Lizard、
Lecturer、Gregory Isaacs、Courtney Melody、
Home T、Dean Fraser、Dominic、Red Dragon、
Flourgon、Chaka Demus、Daddy Lizard、Ninja Man、
Steely & Clevie、Don Angeloといった人達です。
70年代のルーツ好きからするとHorace Andyや
Gregory Isaacsといった70年代から頑張って
いる人が居るのは嬉しいところです。

一見アーティストが小粒になったような見方を
してしまいがちですが、アーティストが小粒に
なったというよりは、プロデューサーの権限が
強くなってアーティストの出来ることが限られて
きたという方が正しいような気がします。
何でもプロデューサーやエンジニアが出来る
ようになると、アーティストに出来ることは
歌う事だけなんですね。
その辺は70年代のアーティストと較べるのは、
ある意味フェアではないのかもしれません。

さてこのシリーズの良いところは曲がリディム
ごとにキレイに分類されているところです。
今回もDisc 1に「Magic Moment Riddim」、
「Head To Toe Riddim」、「African Beat Riddim」、
「Be Mine Tonight Riddim」、「Nah Lef Ya Riddim」、
「Top Celebrity Man Riddim」の6つのリディムが、
Disc 2に「China Town Riddim」、「Fresh Riddim」、
「Duck Dance Riddim」、「Conqer Me Riddim」の4つ
のリディムが収められています。
このシリーズを聴けば80年代後半を席巻したダンス
ホール・レゲエのリディムの全貌が解るという、
かなりマニアに嬉しい構成になっています。

この80年代後半のKing Jammy'sの作ったダンス
ホール・レゲエを聴くと、King Jammyという人の
持つ、アメリカ音楽への憧れのようなものを感じます。

ジャマイカの音楽の歴史を見ていくと、スカ→ロック
ステディ→レゲエと発展していくのですが、スカや
ロックステディの時代にはジャズやブルース、ロカビリー
といったアメリカ音楽の影響が色濃くあるのですが、
70年代のルーツ・レゲエの時代になるとそうした
アメリカ音楽に対する幻想を一旦捨てて、自分たちの
ルーツに根差したアフリカ回帰を、音楽的にも思想的
にも目指すようになるんですね。
「アメリカ音楽に対する憧れ」でなく「ルーツに根差した
独自性」を思考したところに、レゲエの大ブレイクの
要因があったような気がします。
ある意味70年代のレゲエは、「バビロン」である
アメリカ音楽に似ていてはいけなかったんですね。

ところが80年代になってダンスホール・レゲエ全盛
の時代になると、レゲエという「反米的」だった
音楽は、またアメリカに接近してくるんですね。
それはこのKing Jammyというアメリカ音楽が大好きな
人の影響も大きいと思います。
ただ70年代のルーツ・レゲエから学んだアフリカ
音楽の影響も残しているので、アフリカ系アメリカ人
の音楽みたいになって来るんですね。

それはたぶんKing Jammyという人が、自分の持っている
ものを出し切ったらこういう音楽になったという事なの
で、良いとか悪いとかいう事ではないのでしょう。
ただ歴史の中で同じレゲエという名前でも、70年代の
ルーツと80年代のダンスホールというかなり質の違う
音楽がひとつのカテゴリーで語られているのは、かなり
面白い事だと思います。
そういうカオスを内包しているところもレゲエの面白さ
なのかもしれません。

Disc 1の1~9曲目までは(Magic Moment Riddim)。
これはレゲエレコード・コムの「リズム特集」では
「Jump Up/Kuff (ジャンプ・アップ/クフ)」に分類
されているリディムのようです。
このアルバムにもLeroy Gibbonsの「Magic Moment」
という曲と、Admiral Baileyの「Jump Up」という曲が
ありますが、どちらもリディム名として使われるほど
ヒットした曲なのでしょう。

Jump Up - Admiral Bailey


Jump Up/Kuff (ジャンプ・アップ/クフ)

10~11曲目は(Head To Toe Riddim)。
これはどうもFrankie Paulの同名曲のリディムらしい
です。

Frankie Paul - Head To Toe


12~14曲目は(African Beat Riddim)。
このリディムはロックステディ時代のStudio Oneの
リディムです。

Little Twitch - Devil Send You Come ( African Beat Riddim)


African Beat/Under Mi Sensi (アフリカン・ビート/アンダー・ミ・センシ)

15,16曲目は(Be Mine Tonight Riddim)。
このリディムもAdmiral Tibetのヒット曲のリディム
のようです。

ADMIRAL TIBET - BE MINE TONIGHT(MODERN GYAL RIDDIM)


17,18曲目は、(Nah Lef Ya Riddim)。
こちらも調べたけれど今ひとつよく解りませんでした。
ただJosey Walesの「Nah Lef Ya」のリズムがレゲエ
コレクター・コムでは「Hill & Gully」と書かれていたので、
そういう名前でも呼ばれるリディムなのかもしれません。

Nah Lef Ya - Josey Wales


19,20曲目は、(Top Celebrity Man Riddim)。
これもAdmiral Tibetのヒット曲のリディムのようです。

Little John - Gimme No Bun ( Head To Toe Riddim )


Disc 2の1~9曲目までは(China Town Riddim)。
こちらも残念ながらリディムが出て来ませんでした。

Trevor Sparks Bye Bye Love


10~13曲目は、(Fresh Riddim)。
こちらはJammy'sの大ヒットリディムなんだそうです。

Shabba Ranks - Fresh!


Fresh/Four Seasons Lover (フレッシュ/フォー・シーズンズ・ラバー)

14~19曲目は、(Duck Dance Riddim)。
レゲエレコード・コムの記述によると、
「Steely & Clevieによって作られたコンピュータ
ライズド・リズム」とのことです。

Red Dragon - Duck Dance


Duck (ダック)

そして20曲目に入っているのが、
(Conqer Me Riddim)。
こちらもリディムが出て来ませんでしたが、Delroy
Wilsonがロックステディの時代にStudio Oneで
同タイトルの曲を歌っているので、クラシック・
リディムか?

Don Angelo - Can't Conquer Me


このJammy'sのアルバムも3集目になると、かなり
マニアックなリディムも増えてくる印象です。
このコンピューター・ライズドの時代になると、
レコーディングの手間がかなり無くなるので、
その分大量に曲が作られたようです。
そうすると曲もいろいろ必要になるという事も
あったのか、けっこうロックステディの時代の
曲を使っていたりするんですよね。
そういう使い回しのウマさもまた才能だという
事です。

今回のアルバムもKing Jammyの世界観が堪能
できるアルバムになっています。
ダンスホール好きにとってはツボのアルバムだと
思います。

機会があれば聴いてみてください。


○アーティスト: King Jammy's
○アルバム: Selector's Choice Vol.3
○レーベル: VP
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2006

○King Jammy's「Selector's Choice Vol.3」曲目
Disc 1
(Magic Moment Riddim)
1. Magic Moment - Leroy Gibbons
2. Jump Up - Admiral Bailey
3. Bam Bam - Tiger
4. Cassanova - Frankie Paul
5. Respect Due - Little Twitch
6. Champion Sound - Colin Roach
7. Discuss Dem Man - Little John
8. Wake Up - Sister Charmaine
9. Great Ambition - Lt. Stitchie
(Head To Toe Riddim)
10. Head To Toe - Frankie Paul
11. Kill Dem Wid It - Admiral Bailey
(African Beat Riddim)
12. I'm A Don - Pinchers
13. Must Haffi Get It - Horace Andy
14. Devil Send You Come - Little Twitch
(Be Mine Tonight Riddim)
15. Be Mine Tonight - Admiral Tibet
16. Ain't Too Proud To Beg - Al Campbell
(Nah Lef Ya Riddim)
17. Emmanuel Road - Echo Minott
18. Nah Lef Ya - Josey Wales
(Top Celebrity Man Riddim)
19. Top Celebrity Man - Admiral Bailey
20. Gimme No Bun - Little John
Disc 2
(China Town Riddim)
1. Get Up Stand Up And Rock - Shabba Ranks
2. Bye Bye Love - Trevor Sparks
3. Greatest Gal Lover - Anthony Malvo & Daddy Lizard
4. No Where No Better Than Yard - Admiral Bailey
5. DJ A Look Fi Mi - Lecturer
6. Let's Give It A Try - Gregory Isaacs
7. My Lady - Courtney Melody
8. Don't Throw It All Away - Home T
9. Dean In China Town - Dean Fraser
(Fresh Riddim)
10. Fresh - Shabba Ranks
11. Four Season Lover - Leroy Gibbons
12. X Rated Country - Admiral Bailey
13. Boy George - Dominic
(Duck Dance Riddim)
14. Duck Dance - Red Dragon
15. Bounce - Flourgon
16. Bad Bad Chaka - Chaka Demus
17. Dibbi Dibbi Girl - Daddy Lizard
18. More Reality - Ninja Man
19. Duck Riddim - Steely & Clevie
(Conqer Me Riddim)
20. Conquer Me - Don Angelo

ちなみにこのシリーズは第4集まであります。

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King Jammy's - Selector's Choice Vol.1

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King Jammy's - Selector's Choice Vol.2

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King Jammy's - Selector's Choice Vol.4

●今までアップしたKing Jammy関連の記事
〇King Jammy「King At The Controls: King Jammy Essential Hits」
〇King Jammy「King Jammys Dancehall 1985-1989 Part 1」
〇King Jammy's Presents「Dubbing With The Crew」
〇King Jammy's「Selector's Choice Vol.1」
〇King Jammy's「Selector's Choice Vol.2」
〇King Jammy's「Selector's Choice Vol.3」
〇King Jammy's「Selector's Choice Vol.4」
〇King Jammy's「The Rhythm King」
〇Various「King Jammys Dancehall 2: Digital Roots & Hard Dancehall 1984-1991」
〇Various「King Jammys Dancehall 4: Hard Dancehall Lover 1985-1989」
〇Various「King Tubbys Presents Soundclash Dubplate Style」
〇King Jammy, Dennis Brown, Various「King Jammy Presents Dennis Brown: Tracks Of Life」
〇Various「King Jammy Presents New Sounds Of Freedom」
●今までアップしたPrince Jammy関連の記事
〇Scientist, Prince Jammy「DC Dub Connection」
〇Prince Jammy Presents「Strictly Dub」
〇Prince Jammy VS King Tubbys「His Majestys Dub」
〇Prince Jammy,Crucial Bunny「Fatman Presents Prince Jammy VS Crucial Bunny Dub Contest」
〇Prince Jammy「Destroys The Invaders...」
〇Prince Jammy「Prince Jammy's In Lion Dub Style」
〇Prince Jammy「The Crowning Of Prince Jammy」
〇King Tubby, Prince Jammy「Dub Gone 2 Crazy: In Fine Style 1975-1979」
〇King Tubby's (Prince Jammy) And The Agrovators, (Delroy Wilson)「Dubbing In The Back Yard / (Go Away Dream)」