今回はKing Jammy'sのアルバム

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「Selector's Choice Vol.2」です。

King JammyことLloyd Jamesは80年代の後半に、
「Sleng Teng」のヒットをきっかけにレゲエに
「デジタル革命」を引き起こした大プロデューサー
です。
初めはPrince Jammyと名乗っていて、師匠
King Tubbyの元でダブなどのミキシングの仕事を
していたのですが、独立して飛ばした大ヒットが
Wayne Smithの「Under Me Sleng Teng」です。
このヒットをきっかけにジャマイカでは、
「デジタル革命」が起こるんですね。
そのヒットをきっかけにKing Jammyと改名し、
ジャマイカの音楽界を変えていったのがこの人
なんですね。

King Jammy(キング・ジャミー)

では「デジタル革命」とは何かというと、80年代
になるとコンピューター技術の進歩により音楽の
世界も劇的に変わった時代だったんですね。
ネットで調べてみたところ、1982年にいわゆる
CD(コンパクト・ディスク)が販売開始されて
います。
つまりそれまでテープに記録してビニールのLP盤、
EP盤などで販売されていた音楽がCDで供給される
ようになったのが、この80年代だったんですね。

そして音楽の制作方法も劇的に変わったのも、この
80年代だったんですね。
それまで楽器を使った「生演奏」でしか作れなかった
音楽が、パソコンの中で作れるようになっていった
んですね。
それがいわゆる「打ち込み」という方法です。
そのパソコンで作った音楽の早い時期のヒット曲が
この「Under Me Sleng Teng」だったんですね。

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Wayne Smith - Under Me Sleng Teng

さて今回のアルバムはそのKing Jammyのスタジオ
King Jammy'sのVPから発売されてるアンソロジーの
第2集「Vol.2」CD2枚組です。
「Vol.1」も紹介しましたが、このアンソロジーは
リディムごとに楽曲が整理されているので、とても
解りやすいです。
第4集(すべてCD2枚組)までありますが、これを
聴けばKing Jammyの「デジタル革命」の全貌が解る
という内容です。

Disc 1は全20曲で収録時間は60分50秒。
Disc 2は全20曲で収録時間は66分28秒。
2枚で2時間ちょっとというかなりのボリュームです。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

プロデュースはもちろんLloyd 'King Jammy' Jamesです。

今回はDisc 1が「Heavenless Riddim(10曲)」と
「Cat Paw Riddim(10曲)」。
Disc 2が「Far East Riddim(7曲)」と「Tonight
Riddim(4曲)」と「Sara Riddim(5曲)」と
「Fire Fire Riddim(4曲)」という構成になって
います。

「Vol.1」に入っていた「Sleng Teng」や「Tempo」
といったリディムは印象が強いので覚えているのですが、
このへんになると聴き覚えのないリディムもあります。
むしろこのあたりに「デジタル革命」の時代の空気が
あるのかもしれませんね。

正直私のようなルーツ・レゲエの好きな人間にとって、
この80年代後半からのレゲエというのはとても評価が
難しいです。
70年代のルーツ・レゲエと80年代のダンスホール・
レゲエでは、別の音楽といっていいほど音が変わって
いるんですね。
初めは抵抗のあったこの時代のダンスホール・レゲエ
ですが、聴きこんで行くうちに面白さもだんだん解って
来ます。
ただどちらが本当に好きかといえば、やっぱりルーツ・
レゲエなんですね、私の場合…(笑)。

やっぱり私ぐらいの世代にとって、70年代の原初的な
パワーを持ったルーツ・レゲエの登場というのは衝撃的
だったんですね。
それまで聴き慣れていた西洋の音階とは違う破壊力を
持った音楽、それがレゲエだったんです。
ところが80年代のレゲエになると音が洗練されて、
だんだんとまた西洋の音楽に近付いて来るんですね。
それと共にルーツ・レゲエの持っていたアフリカ回帰
などの社会性、宗教性、政治性なども薄れて行くん
ですね。
それはそれで良いとは思うのですが、今の時点で見ると
やっぱり混沌としていてマグマが一気に噴き出した
ような70年代のレゲエの方がちょっと面白いんですね。

ただ何だかんだ言っても、80年代のヒット曲を
量産していたKing Jammyの存在というのは無視できない
ものがあります。
この人の場合はそれ以前のKing Tubbyの元でダブを
作っていた時より、このダンスホールの音の方が
より彼らしさが出ていて面白いんですね。
今回のアルバムなどを聴いても、なぜ彼がジャマイカ
のダンスホールを席巻したのか?がよく解ります。
音楽の質が本当に高いんですね。

ただこの時代になると、アーティストがちょっと
小粒に見えてしまう感は否めません。
たぶんこの時代になると、もうアーティスト個人の
力では世に出られる時代ではないんですね。
それだけプロデューサーの力が強大になったんだと
思います。

Disc 1の1~10曲目までは(Heavenless Riddim)。
レゲエレコード・コムのこのリズムを掲載したページ
には、

「1968年ヴィン・ゴードン(Vin Gordon)によってリリース
されたグルーヴィーなインストゥルメンタル」

とかかれています。
という事で元のリディムは68年のトロンボー奏者
Vin Gordonによるインストゥルメンタルのようです。
ロックステディの頃のリズムをこのデジタルの時代に
なってからも使い続けているところが、いかにもレゲエ
らしいところです。

Reggae - Super Black - Deh Wid You (Jammys)


Heavenless (ヘブンレス)

11~20曲目では(Cat Paw Riddim)。
このリディムは調べたけれど、誰が元のリディムか
解りませんでした。

frankie paul,shame them


Disc 2の1~7曲目までは(Far East Riddim)。
「Far East」はBarry Brownで知られるChannel Oneの
名曲です。

King Everald - Dance Hall Business ( Far East Riddim )


Far East/Jah Sharkey (ファー・イースト/ジャー・シャーキー)

8~11曲目までが(Tonight Riddim)。
Keith & Texのロックステディのヒット曲が元の
リディムです。

Leroy Gibbons - Samfie Girl ( Tonight Riddim )


Tonight/Lots Of Sign (トゥナイト/ロッツ・オブ・サイン)

12~20曲目までが(Sara Riddim)です。
こちらもリディムが出て来ませんでした。
Frankie Paulのオリジナル・リディムか?

FRANKIE PAUL...SARA


やっぱりこの時代にれげという音楽の質がそれまでと
全く変わっているんですね。
それを成し遂げたKing Jammyという人は、やっぱり
レゲエに名前を刻むだけの事はある人なんですね。
このシリーズの楽曲を聴いていると、あらためてその事が
よく解ります。

レゲエのダンスホールとは何か?
それを知るにはこのアルバムは最適の1枚と言える
でしょう。
そして80年代に活躍したKing Jammyという素晴らしい
プロデューサーが居たという事を覚えて下さい。

機会があれば聴いてみてください。


○アーティスト: King Jammy's
○アルバム: Selector's Choice Vol.2
○レーベル: VP
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2006

○King Jammy's「Selector's Choice Vol.2」曲目
Disc 1
(Heavenless Riddim)
1. Deh Wid You - Super Black
2. Rock It Tonight - Johnny Osbourne
3. For Your Eyes Only - Pinchers
4. Horse Tonic - Admiral Bailey
5. Spanish Fly - Little Twitch
6. Crying Time - Cocoa Tea
7. Lovers Question - Leroy Gibbons
8. None A That - Tullo T
9. Melody 5 - Cocoa Tea
10. Ah Muder - Pad Anthony
(Cat Paw Riddim)
11. Come Again - Cocoa Tea
12. Shame Them - Frankie Paul
13. I Need You - Chuck Turner
14. Right Track - Johnny Osbourne
15. Bad Minded People - Anthony Malvo
16. Block Traffic - Little John
17. Champion Bubbler - Pinchers
18. Whole Heap - Josey Wales
19. Politician - Admiral Bailey
20. Were Yu Size - LT. Stitchie
Disc 2
(Far East Riddim)
1. Tune In - Cocoa Tea
2. Nice Up The Lawn - Ninja Man
3. Here I Am - Sanchez
4. Let Jah Arise - King Kong
5. Dancehall Business - King Everald
6. Footprints - Jah Mikey
7. The General - Josey Wales
(Tonight Riddim)
8. Young Lover - Cocoa Tea
9. Samfie Girl - Leroy Gibbons
10. Run Around Girl - Chuck Turner
11. Turn On The Heat - Eccleton Jarrett
(Sara Riddim)
12. Sara - Frankie Paul
13. Why Are You Going Away - Leroy Gibbons
14. Bits and Pieces - Gregory Isaacs
15. Loving That You Want - Pinchers
16. Can't Run Sax - Dean Fraser
(Fire Fire Riddim)
17. What The Hell - Echo Minott
18. Tell You What Police Can Do - Lady Junie
19. Fire Fire - Johnny Osbourne
20. Twist A Rock - Major Worries

ちなみにこのシリーズは第4集まであります。

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King Jammy's - Selector's Choice Vol.1

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King Jammy's - Selector's Choice Vol.3

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King Jammy's - Selector's Choice Vol.4

●今までアップしたKing Jammy関連の記事
〇King Jammy「King At The Controls: King Jammy Essential Hits」
〇King Jammy「King Jammys Dancehall 1985-1989 Part 1」
〇King Jammy's Presents「Dubbing With The Crew」
〇King Jammy's「Selector's Choice Vol.1」
〇King Jammy's「Selector's Choice Vol.3」
〇King Jammy's「Selector's Choice Vol.4」
〇King Jammy's「The Rhythm King」
〇Various「King Jammys Dancehall 2: Digital Roots & Hard Dancehall 1984-1991」
〇Various「King Jammys Dancehall 3: Hard Dancehall Murderer 1985-1989」
〇Various「King Jammys Dancehall 4: Hard Dancehall Lover 1985-1989」
〇Various「King Tubbys Presents Soundclash Dubplate Style」
〇King Jammy, Dennis Brown, Various「King Jammy Presents Dennis Brown: Tracks Of Life」
〇Various「King Jammy Presents New Sounds Of Freedom」
●今までアップしたPrince Jammy関連の記事
〇Scientist, Prince Jammy「DC Dub Connection」
〇Prince Jammy Presents「Strictly Dub」
〇Prince Jammy VS King Tubbys「His Majestys Dub」
〇Prince Jammy,Crucial Bunny「Fatman Presents Prince Jammy VS Crucial Bunny Dub Contest」
〇Prince Jammy「Destroys The Invaders...」
〇Prince Jammy「Prince Jammy's In Lion Dub Style」
〇Prince Jammy「The Crowning Of Prince Jammy」
〇King Tubby, Prince Jammy「Dub Gone 2 Crazy: In Fine Style 1975-1979」
〇King Tubby's (Prince Jammy) And The Agrovators, (Delroy Wilson)「Dubbing In The Back Yard / (Go Away Dream)」