今回はKing Jammy'sのアルバム

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「Selector's Choice Vol.1」です。

King Jammyは初めはPrince Jammyと呼ばれていて、
King Tubbyのスタジオでミキサーとして活躍した
のちに独立し、「Sleng Teng」リディムの大ヒット
で80年代にデジタル革命を起こした大プロデューサー
です。
この「Sleng Teng」リディム、Wayne Smithの
「Under Me Sleng Teng」の大ヒットののちに
彼はPrince Jammy→King Jammyに改名しています。

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Wayne Smith - Under Me Sleng Teng (1985)

もともとはスカ→ロックステディ→(ルーツ)
レゲエと発展したレゲエですが、80年代半ば
に音楽の大革命であるコンピューターを使用
した音楽の動きが起こるんですね。

実はこうした動きは音楽だけにとどまらず、
例えば事務処理であったり画像処理であったり
全ての事に、それまで手作業であったものが
コンピューターを使った作業に切り替わって行く、
そういう時代だったんですね。

レゲエで言えばちょうど80年代の後半がその
時期にあたるんですね。
それまでスタジオ・ミュージシャンを集めて録音
していた「生録」が、コンピューター上で音が
作れてしまう「デジタル処理」という生産方法に
なって行くんですね。
それまでの「生音」→「打ち込み」の時代に切り
替わるんですね。

どの世界でもそうですが、「手作業」→「デジタル
処理」に変わるというのは、初めはものスゴイ
抵抗も混乱もあったと思います。
それまで経験値の積み重ねで作っていたのが、
いきなり経験値の要らないデータによるもの作り
に変わる訳ですから…。

私はルーツの時代ぐらいの頃にレゲエを聴いていた
のですが、その後長い中断があり6年前ぐらいに
再びレゲエを聴きだした人間です。
だからこのダンスホール時代のレゲエを、再び聴き
だすまでは全く知らなかったんですね。
再び聴きはじめた動機も、今ではルーツと呼ばれる
レゲエ(当時は単にレゲエと呼んでいました。)を
聴きたいと思ったからなんですね。

だから初めてWayne Smithの「Under Me Sleng Teng」
を聴いた時も、すぐにはこの音楽の良さが解りません
でした。
なんか軽くて演奏に濃厚さが無い感じに聴こえました。
ネットなどで調べるとこの「Sleng Teng」リディムが
コンピューター・ライズドのブームを引き起こしたと
いう事なんですが、なぜこの音がそういうブームを
引き起こしたのかもすぐには理解出来ませんでした。
「生音」の演奏の面白さにハマっていた私には、この
「打ち込み」の面白さが解らなかったんですね。

ただレゲエをずっと聴いて行くうちに、この時代に
起こった事の意味が解って来ると、やっぱりこの
「デジタル革命」というのはスゴイ事だったんだなぁ
という事が解ってきます。
そうなるとこの時代の音の面白さも徐々に解って来る
んですね。

レゲエというのはもともとダブやディージェイや
様々な形態を生み出し続けて行く音楽なんですが、
この80年代後半からのダンスホール・レゲエと
ルーツ・レゲエでは、全く別の音楽と言えるほどに
思想やスタイルが違います。
今でもこの二つを聴く時に頭の切り替えが必要な
くらいです。
ただそれだけ違ってもやっぱりレゲエなんですね。
そこがレゲエの面白い所かもしれません。

70代のルーツ・レゲエが西洋的な音階で無い文字
通り黒人としてのルーツに根ざした根源的な音作りを
目指しているのに対して、この80年代のダンスホール・
レゲエはある意味音楽的に行くとこまで行っちゃった
感があり、テクニカルで高度な音作りを目指している
感じがあります。

個人的にはやっぱりルーツの音が好きなんですが、
まるで別の音楽のようであってもこのダンスホール
の時代の音楽もそれはそれで面白い音楽なんですね。

このレゲエという音楽は70年代のルーツ・レゲエと
80年代のダンスホール・レゲエという、音楽的に
二つのピークの時期があるんですね。
普通は1回でもピークの時期があればたいしたもの
なのですが、2度も新しい音楽を作りだしてピーク
の時期があるというのは、音楽史の中でも稀有な事
なのではないでしょうか?
そこにもレゲエが長く愛し続けられている理由が
ある気がします。

さて長くなってしまいましたが今回のアルバムは、
そのKing JammyのスタジオKing Jammy'sの仕事を
集めた作品の「Vol.1」です。
ネットなどの情報によると85年から89年にかけて
King Jammyのヒット曲全158曲を、CD2枚組セット
で「Vol.1」~「Vol.4」にまとめた作品集の模様です。
いわば「デジタル革命」の全貌がこのアルバムを含めた
4集に集められている作品集です。

書いたように2CDセットなので、「Vol.1」だけでも
かなりのボリュームがあります。
Disc 1が全20曲で収録時間は69分44秒。
Disc 2が全19曲で収録時間は64分23秒。
合計全39曲で収録時間は約134分、聴き終わるのに
2時間ちょっとかかる計算です。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

プロデュースはLloyd 'King Jammy' James。

さて今回のアルバムですが、2CDセットという
かなりの量のアルバムですが、リディムの種類に
よって曲が分かれており、解りやすい構成になって
います。
紹介されていりリディムはDisc 1が(Darkershade
Riddim)、(Tempo Riddim)、(Stalag Riddim)、
(Hypocrites Riddim)、(Denise Riddim)の計5種類。
Disc 2が(Sleng Teng Riddim)、(Big Belly Man Riddim)、
(Father Jungle Rock Riddim)の計3種類。
2枚合わせて計8種類のリディムが紹介されています。
「デジタル革命」を引き起こしたWayne Smithの
「Under Me Sleng Teng」なども網羅されており、
悪い内容ではありません。

このリディムの中でもブームの火付け役になった(Sleng
Teng Riddim)と、King Jammyの師匠であるKing Tubbyの
スタジオKing Tubby'sが弟子King Jammyへのアンサー・
リディムとして作ったと言われる(Tempo Riddim)の
2つのリディムは、この時代を代表するもっとも有名な
リディムです。
そういう意味では、この2つのリディムの入っている
この「Vol.1」はこのシリーズの中でも特に重要な
アルバムかもしれません。

歌手で印象的だったのはNitty Grittyです。
この人は「アウト・オブ・キーの使い手」として
有名な人だったらしいんですが、普通に流し聴きして
いてもこの人の歌のうまさはすごく印象に残るんですね。
34歳という若さで射殺されてしまった人なんですが、
もっと活躍して欲しかった人ですね。

ちなみに「アウト・オブ・キー」とは、わざとキーを
ハズして歌うレゲエ独特の歌唱法だそうです。
この時代になるとどんどん歌唱法などもテクニカルに
なって行くんですが、それが良いか悪いかはビミョ~な
気がします。
ただこの時代はまだコンピューターの自由度が低かった
ので音が薄っぺらになりやすい、それゆえの歌唱法の
工夫だったのかもしれません。
この工夫のせいか80年代の音を聴くと、歌い方が
不思議とセクシーでエロティックになって来る傾向が
あります。

やっぱりこのアルバムの聴きどころとしては、
(Sleng Teng Riddim)ですかね。
この大ヒットリディムでレゲエの世界を一新したという
のは、このKing Jammyの最大の功績だと思います。
一方の名プロデューサーKing Tubbyは、「Tempo」を
作った後に射殺されて亡くなっちゃうんですね。
まだこうした「Tempo」のような曲を生みだせる力がある
のに、とても残念です。
ただその後のレゲエ界をKing Jammyが支えたのは、
間違いが無いと思います。

Disc 1の初めの2曲は(Darkershade Riddim)。
ロックステディ期のSoul Vendorsによるリディム
「Darker Shade Of Black」です。
あのThe Beatlesの有名曲「Norwegian Wood(ノルウェイ
の森)」をパクったと言われているリディムです(笑)。
このダンスホール期を代表するWayne Smithと
Nitty Grittyの曲が収められています。

Nitty Gritty - Draw Mi Mark


Darker Shade Of Black (ダーカー・シェイド・オブ・ブラック)

3~7曲目までは(Tempo Riddim)。
書いたようにKing Tubbyのアンサー・リディムとして
知られていて、オリジナルはAnthiny Red Roseの歌う
「Tempo」なんですが、さすがにKing Jammyの曲ではない
ので、このアルバムには収められていません。
ただ元のメロディが良いせいか名作ぞろいです。

Dennis Brown-The Exit.


Tempo (テンポ)

8~12曲目までが(Stalag Riddim)。
込ん時代にJammy'sとともに人気のあった、Winston Riley
が主催するレーベルTechniquesの代表的なリディムとして
知られているリディムです。

Johnny Osbourne - What A La La


Stalag (スタラグ)

13,14曲目は(Hypocrites Riddim)。
この曲はロックステディ期のThe Wailersのヒット・
リディムです。

Half Pint - Mr. Landlord


Hypocrite (ヒポクリッツ)

15~20曲目までは(Denise Riddim)
子のリディムはレゲエレコード・コムの「リズム特集」
では出て来ませんでした。
どうもPinchersのオリジナル・リディムのようです。

Pinchers - Request To Denise


Disc 2の1~6曲目は(Sleng Teng Riddim)。
言わずと知れたモンスター・リディムです。

Wayne Smith - Under Me Sleng Teng


Sleng Teng (スレンテン)

7~12曲目は(Big Belly Man Riddim)。
このリディムも「第2のスレンテン」と言われた
大ヒット・リディムなんだとか。

Big Belly Man - Admiral Bailey


Big Belly Man/Agony (ビッグ・ベリーマン/アガニー)

13~19曲目までが(Father Jungle Rock Riddim)。
このリディムもネットで調べてみたけれど、誰が元の曲
なのか?出て来ませんでした。

Peter Metro - Police Inna England


こうしてまとめてKing Jammy'sのダンスホール時代の
仕事を聴いてみると、やっぱりその音楽のコンセプトも
作り方もルーツの時代と全く違う作り方をしているん
ですね。
ルーツの時代も音楽を作っていたKing Jammyが、
これだけの大転換を乗り越えて新しい音楽を生み出した
という事は、やはり驚異的な事だと思います。
もちろんこの時代にレゲエがこのコンピューター・
ライズドのサウンド一色になってしまった事は、功罪が
いろいろあるとは思いますが、レゲエがさらなる音楽を
生み出したという事は、評価したいと思います。

アンソロジーとしてはとても充実しているし、悪くない
アルバムだと思います。
機会があれば聴いてみて下さい。


○アーティスト: King Jammy's
○アルバム: Selector's Choice Vol.1
○レーベル: VP
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2006

○King Jammy's「Selector's Choice Vol.1」曲目
Disc 1
(Darkershade Riddim)
1. Ain't No Meaning - Wayne Smith
2. Draw Mi Mark - Nitty Gritty
(Tempo Riddim)
3. People Are You Ready - Johnny Osbourne
4. It A Ring - Tonto Irie
5. In Deh - Pad Anthony
6. Hog In A Minty - Nitty Gritty
7. The Exit - Dennis Brown
(Stalag Riddim)
8. What A La La - Johnny Osbourne
9. Come Along - Wayne Smith
10. False Alarm - Nitty Gritty
11. Good Morning Teacher - Nitty Gritty
12. Stalag Excursion - Dean Fraser
(Hypocrites Riddim)
13. Mr. Landlord - Half Pint
14. It's Magic - Dennis Brown
(Denise Riddim)
15. Nah Look No Wuk - Cocoa Tea
16. Denise - Pinchers
17. Let Off Supum - Leroy Smart
18. Bad Bwoy Gone A Jail - Super Black
19. It's Over - Hugo Barrington
20. Shame To See - Admiral Tibet

Disc 2
(Sleng Teng Riddim)
1. Punpkin Belly - Tenor Saw
2. Call The Police - John Wayne
3. Under Mi Sreng Teng - Wayne Smith
4. Buddy Bye - Johnny Osbourne
5. Original Fat Thing - Echo Minott
6. Eagles Feather - Nicodemus
(Big Belly Man Riddim)
7. Agony - Pinchers
8. Big Belly Man - Admiral Bailey
9. Synthesizer Voice - Pompidoo
10. Must Love Reggae - Shabba Ranks
11. Don't Pirate It - Risto Benji
12. Me Nuh Response - Major Worries
(Father Jungle Rock Riddim)
13. Police Inna England - Peter Metro
14. Girlie Girlie - Tonto Irie
15. Clarks Booty - Little John
16. No Warrior Junior Delgado
17. Warrior - Johnny Osbourne
18. Advantage - Admiral Tibet
19. Material Girl - Dennis Brown

ちなみにこのシリーズは第4集まであります。

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King Jammy's - Selector's Choice Vol.2

king_jammy_08a

King Jammy's - Selector's Choice Vol.3

king_jammy_09a

King Jammy's - Selector's Choice Vol.4