今回はJimmy Cliffのアルバム

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「In Concert: The Best Of Jimmy Cliff」です。

Jimmy Cliffは世界的に活躍したレゲエ・シンガーです。
歌手として世界中の人々にレゲエという音楽を広めた他に、
映画「The Harder They Come」では主役を務め、貧困から
強盗になりジャマイカの庶民の英雄になった主人公
アイバンを熱演しています。

Jimmy Cliff (ジミー・クリフ )

今回のアルバムはタイトル通りそのJimmy Cliffの
1976年のコンサートの模様を収めたライヴ盤です。

全10曲で収録時間は47分32秒。

ミュージシャンについては以下の記載があります。

Produced by Andrew Loog Oldham and Jimmy Cliff

Lead Guitar: Ernest Ranglin
Bass: Earl 'Bagga' Walker
Rhythm Guitar: Noel 'Diggles' Bailey
Drums: Carlton 'Santa' Davis
Keyboards: Ernest 'Sterling' Mc Cleod
Vocal & Percussion: Joseph 'Joe' Higgs
Percussion: Uzziah 'Sticky' Thompson

Give Thanks To: Carmine Rubino, Thom Panunzio, Ron Frangipane, Paul Mozaian,
Tom Mohler, Fred J. Halsey, Jr. Lascelles Stone, Courtony 'Duffus Greene'

Photography: Peter Cunningham
Design: Bevery Parker

となっています。

ギターにErnest Ranglin、ドラムにCarlton 'Santa'
Davis、そして彼の師であるJoe Higgsがバンド・リーダー
を兼ねたバック・ヴォーカルとパーカッション、
さらにはパーカッションにUzziah 'Sticky' Thompsonと
当時活躍していたミュージシャンをうまく配した
布陣です。
特にErnest Ranglinは素晴らしいギター・プレイを
披露していて、それが曲の良いアクセントになって
います。

まず初めに書いておきたい事があります。
この70年代のレゲエの時代は国内でレゲエを作り
続けた人と、海外でレゲエを広めた人では「役割」が
違うんですね。
今聴くと国内で作り続けた人の方がディープで良い
レゲエを作っているように見えてしまうけれど、今も
レゲエがこれだけメジャーな音楽として聴かれている
のは、海外にレゲエを広めてくれた人が居たからなん
ですね。
もしそういう人の努力が無ければ、私たちはレゲエ
という音楽とこれほど深く出会う事は無かったのかも
しれません。
そういう事を抜きにして、多少聴き易い音になっている
からといって、その海外で頑張った人を一概には批判
出来ないという事です。

例えば「The Wailersの中で誰が一番好きですか?」
みたいな質問をする人が居るけれど、これは明らかに
「Bunny Wailer」と言わせようという「ひっかけ問題」
みたいなものなんですよね(笑)。
一見The Wailersという事では正しい質問のように
見えるけれど、海外でレゲエを広めるために頑張った
Bob MarleyやPeter Toshと、ジャマイカに引き篭もった
ままだったBunny Wailerと比較すること自体が比較の
対象としては間違いなんですよね。
Bunny Wailerを比較するなら、もっとジャマイカ国内
のアーティストと比較すべきなんですよね。

もちろん今聴くとそういうジャマイカ国内の「濃い
レゲエ」の方が面白い部分もあるけれど、やはりレゲエ
という音楽を世界に教えてくれたのはBob Marleyであり、
今回のJimmy Cliffのような人達の努力があったから
こそなんですよね。
そういう努力した人間に対するリスペクトは、レゲエを
聴く人間としてけっして無くしたくないものだと思い
ます。

さて話を戻すとこのJimmy Cliff、私がレゲエのライヴを
見たアーティストのひとりなんです。
ネットで調べてみたところ、彼Jimmy Cliffの初来日は
「78年3月」だったそうです。
レゲエのアーティストとしては一番早い来日だったよう
です。
おそらくそのライヴだと思うのですが、私は渋谷公会堂
でこのライヴを見ています。

実は当時まだレゲエを聴き始めたばかりで、Jimmy Cliff
については来日前にラジオで「The Harder They Come」が
よくかかっていたぐらいの知識で、彼の曲をほとんど
知らなかったんですよね(笑)。
その時のライヴで初めのうちはあまり声が出ていなかった
Jimmy Cliffなんですが、ヒット曲の「The Harder They
Come」の途中から急に伸びのある声が出始めて、次の曲に
なった時でした。
まるで天から声が降ってくるような感じで、背筋から
冷たいものが全身に入って来て鳥肌が立つような、スゴイ曲
を歌ったんですね、これが…。
何の曲か知らないのに、彼の声、彼の歌にものすごく
打たれてしまったんです。
その感動は今でも忘れられない思い出です。

あのものスゴイ曲は何だったのか?
それが知りたくて買ったのがこのライヴ盤のLPでした。

そしてそれが彼の中でも名曲中の名曲「Many Rivers To
Cross」だと初めて知ったのでした。
それ以来このアルバムはレゲエを聴き始めたばかりの頃の
愛聴盤として、何度も何度も聴いたアルバムになりました。

だから今回紹介しているこのアルバムって、私にとっては
ちょっと特別なアルバムなんですよね。
私に歌の特別な力を教えてくれたのが、あのJimmy Cliffの
渋谷公会堂での来日コンサートであり、その後もあの時の
感動を思い起こさせてくれたのがこのアルバムであると
いう事です。

ただ5,6年前にレゲエを再び聴き始めてからは、不思議と
このアルバムを聴いていなかったです。
再び聴き始めてからは、どうしても今まで聴きそびれていた
ディープなものばかり探していた傾向がありました(笑)。
ただたまにこのアルバム聴いたくなる事があるんですよね。
そこであらためてCDを聴き直してみたという訳です。

今回あらためて聴き返してみたのだけれど、やっぱりこの
アルバム本当に素晴らしいんですね。
おそらく私と同世代ぐらいの人で、初めにこのアルバムか
Bob Marley & The Wailersの「Live」を聴いてレゲエが
好きになった人ってすごく多いと思います。

書いたようにこの二人はレゲエの中でも「メジャーなレゲエ」
を作る事を運命付けられていたので、ジャマイカのレゲエ
よりはより聴き易い音楽作りをしていた部分があります。
特にこのJimmy CliffはBob Marleyより、よりポップな音作り
をしています。
ただ今回のようなライヴ盤を聴くと、やっぱり彼の歌の力って
常人には無い並外れたものがあるんですよね。
それが彼Jimmy Cliffの最大の強みです。

今回久しぶりにLPも引っ張り出してみたんですが、買った
のはWarner Bros. Recordsから出ていた日本盤で、「ベスト・
オブ・ライヴ!」というタイトルで売られていたアルバムです。
中にライナーノーツが付いていて、片面は音楽評論家の中村
とうようさんと写真家吉田ルイ子さんの文章と、山本安見さん
という方の4曲分の訳詞、もう片面には英語の歌詞が載って
いました。

その中の「You Get It If You Really Want」の歌詞を見てみると、

その気になれば、何でも手に入るさ
その気になって頑張れば
欲しいものなら何だって手に入るさ
だから、一生懸命死ぬ気になって頑張ろう
そうすりゃ、勝利はいつか俺たちのもの
きびしい迫害にもじっと耐えていよう
勝っても負けても生きる権利だけは手に入れるんだ
大きな希望を心に抱いていれば
どんなに辛く困難なことでも切り抜けられる
”ローマは一日にして成らず”という諺だってある
何事をやるにも妨害はつきものさ
だけど、知っているかい?きびしい戦いだからこそ
勝利は素晴らしく意味あるものなんだよ
(「You Get It If You Really Want」山本安見さんの訳詞より)

当時のジャマイカで貧困層だった黒人の気持ちが歌われた歌詞
なんですね。
戦いは厳しいがけっして諦めない、今読んでもここに訳された
歌詞には胸を打たれるものがあります。
おそらく当時彼の歌を聴いた多くの人が、彼の歌う歌詞に
民族を超えて共感したんだと思います。
ある意味このリリックこそがレゲエという音楽の本質であり、
世界中の人々の心をとらえ、メジャーな音楽になる原動力に
なったんだと思います。

実はこれだけ堂々と人に訴える歌を歌っているJimmy Cliff
ですが、このツアーを回る前には彼自身が自分のルーツを
見失いかけていたんだそうです。
それを救ったのが彼に歌の基礎を教えた、今回のバンド・
リーダーである彼の師Joe Higgsでした。
Joe HiggsのPressure Soundsから出ている「Life Of Contradiction」
には、Harry Wiseという人の解説文(訳:若鍋匠太)が付いていて、
Joe Higgsのインタビューとともにその時の事が次のように
書かれています。

「『Life Of Contradiction』をリリースした後すぐ、Joeは
ジャマイカを離れ、バンドリーダーとしてJimmy Cliffとともに
USAツアーに出る

Jimmy Cliffはいろんなところを回ったことで、自身のルーツを
見失ってしまったと言うんだ。それを取り戻すために彼は
ジャマイカに戻り、トレンチタウンで俺と会った。そして俺は
このバンドを組織することを頼まれたのさ。彼は本質/ルーツを
求めていたんだ。俺が最も適していると考えてくれていたのは
嬉しかったよ。彼の為に引き受けたんだ。バンドを連れてツアー
に出たんだ。Joe Higgs」
(「Life Of Contradiction」Harry Wiseの解説文、
訳は若鍋匠太さんという方、より)

この話には胸を打たれるものがあります。
当時3年も待たされた挙句にようやく「Life Of Contradiction」
というアルバムをリリースしたばかりのJoe Higgsだったのですが、
自身の成功より教え子の心の悩みの方を優先した、その男気には
やっぱり感動しちゃいますね(笑)。
先にも書きましたがレゲエの成功というのは、海外で頑張った人、
ジャマイカで頑張った人、みんなでつかみ取ったものなのです。
Joe HiggsはBob MarleyやBunny Wailerの師匠だった人でもあり、
そのレゲエの貢献度はその知名度以上のものがある人なんですね。

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Joe Higgs - Life Of Contradiction

ともあれそうした師匠Joe Higgsの力添えもあったお蔭なのか、
このアルバムのJimmy Cliffからはそうした心の陰りは微塵も
感じられません。
むしろ力強くルーツに生きるという事を多くの人に訴えて
います。
この当時の彼の代表曲のほとんどが収められており、
レゲエのライヴ盤としては悪くないアルバムだと思います。

1曲目はオープン曲にふさわしい「You Get It If You Really
Want」。
こういう解りやすいポジティブ思考の曲が、このJimmy Cliff
にはよく似合います。

2曲目はベトナム戦争を歌った「Viet Nam」です。
曲中にアンゴラ、モザンビークなどという国名が登場しますが、
これは当時の紛争地域の名前が列挙されているんですね。
明るい曲調でありながら内容的にはシビア、こういう人達の
活躍で当時の私たちにはそういうレゲエのイメージが刷り
込まれていったんですね。

そして4曲目が超名曲の「Many Rivers To Cross」です。

渡る河は数多くあれど 私の渡るべき河はいづこ?
さまよい、道を見失いつつ ドーヴァーの白き絶壁に
そって私は独りさすらう
この信念だけを支えに 私は今日も生きてゆく
(「Many Rivers To Cross」山本安見さんの訳詞より)

実は生きることの苦悩を歌った歌だったんですね。
この曲を聴くと今でもあの渋谷のライヴが蘇えります。

そして5曲目が彼のファースト・ヒットとなった
「Wonderful World, Beautiful People」です。

7曲目はイギリスの・フォーク・シンガーだった
Cat Stevensの代表曲「Wild World」です。
Cat Stevensはその後イスラム教に改宗し、Yusuf Islam
と改名し布教活動に専心したという変わった人なんですが、
イラク戦争の時に彼がイスラム教徒だという事で、この曲は
アメリカとイギリスで放送禁止になったといういわくつきの
曲なんですね。
ロック・バンドMr. Bigのカヴァーでも知られる曲ですが、
このJimmy Cliffの曲としてもとても愛されている名曲です。

8曲目は彼の代表曲のひとつである「Sitting In Limbo」
です。

リンボに一人座って 時のたつのを指折り数える
この救いようのないリンボの中で
まるで歌を忘れたカナリヤのように…
レジスタンスを諦めてしまった奴ら
でも 俺だけはこの意志を貫こう
(「Sitting In Limbo」山本安見さんの訳詞より)

そしてラスト10曲目が映画の主題歌としてもよく知られて
いる「The Harder They Come」です。
「主役は最後に死ぬものだ!」
映画のの冒頭に映画館でマカロニ・ウエスタンを見ていた
主人公アイバン(Jimmy Cliff)は、暗闇の中でそんな声を
耳にします。
そしてその言葉通りに、ラストで壮絶な最期を遂げます。
この映画「The Harder They Come」は、当時流行っていた
アメリカン・ニュー・シネマ「明日に向かって撃て」の
ジャマイカ版ともいえる内容の映画でした。
反骨心溢れる歌詞はやはりJimmy Cliffを代表する1曲だと
思います。

Jimmy Cliff - The Harder They Come - 1976 - リリック

今回聴いてみてあらためて持ったのは、やっぱり
Jimmy Cliffって素晴らしい歌手なんだなぁという事
でした。
そのポップ性からついつい軽く見ちゃう彼ですが、
歌っている内容はハードだし、素晴らしい魂の持ち主
だという事です。
その魂は師匠であるJoe Higgsから受け継いだものでも
あるのです。

ちょっと元気の出ない時は、こういうアルバムを聴いて
みるのも良いかもしれません。
その気になれば、何でも手に入るさ!
そう彼は歌っています。

機会があればぜひ聴いてみてください。

"The Harder They Come" Jimmy Cliff


Jimmy Cliff performing "Many Rivers To Cross" on KCRW



○アーティスト: Jimmy Cliff
○アルバム: In Concert: The Best Of Jimmy Cliff
○レーベル: Reprise Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1976

○Jimmy Cliff「In Concert: The Best Of Jimmy Cliff」曲目
1. You Get It If You Really Want
2. Viet Nam
3. Fountain Of Life
4. Many Rivers To Cross
5. Wonderful World, Beautiful People
6. Under The Sun, Moon And Stars
7. Wild World
8. Sitting In Limbo
9. Struggling Man
10. The Harder They Come

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〇Jimmy Cliff「Harder Road To Travel: The Collection」