Jimmy Cliff - Wild World


このJimmy Cliffも歌っている「Wild World」という曲は、
1970年にイギリスのシンガー・ソングライターの
Cat Stevensのアルバム「Tea For The Tillerman」に
収められていた曲です。

cat_stevens_01a
Cat Stevens - Tea For The Tillerman

実はこのアルバム私がまだ10代だった頃に、LPで
購入しています。
この次のアルバム「Teaser And Firecat」の中の曲
「Morning Has Broken(邦題:雨に濡れた朝)」が日本
でもヒットして、Cat Stevensは日本でも人気のあった
人なんですね。
ちなみにジャケットの味のあるイラストも、
Cat Stevens本人が描いていたと思います。

この「Tea For The Tillerman」は日本では「父と子/
キャット・スティーヴンス第2集」というタイトルが
付けられて売られていました。
本来のタイトルはB面の6曲目1分余りの短い曲
「Tea For The Tillerman(邦題:農夫にお茶を)
」だったのですが、おそらく日本のレコード会社の判断
でしょうが、B面5曲目の「Father And Son(父と子)」
をタイトルに変えているんですね。
ちなみにレコード会社はA&Mとなっています。

今回はちょっと趣向を変えて、この「Wild World」という
曲について書いてみたいと思います。

この日本盤のLP「父と子/キャット・スティーヴンス
第2集」には、音楽評論家の小倉エージさんの解説文と
歌詞の英文と英訳が付いています。
歌詞の英訳はクレジットが無いので、この小倉エージさん
が英訳しているのかそれともレコード会社の人が英訳した
のかよく解りません。
ただこのレコードが当時はこうした英訳が付いている事
が多かったのは事実です。
当時はあまり英語が普及していなかったので、少しでも
レコードを売ろうというレコード会社の努力が垣間
見えます。

ちょっとその英文を写してみたいと思います。

●ワイルド・ワールド
今や、僕は君に対して、何もかも失った
君は何か新しい事をしたいと言うが
それは僕の心を粉々にしてしまう
ベイビー僕は悲しい
だけどどうしても行きたいのなら気を付けて
君にたくさんステキなことがあるようにネ
でも、そこでは、たくさんのステキなことが
悪いことに変わってしまう
オオベイビー、ベイビー 何とすさんだ世の中だ
ほほえみを浮べていることさえむずかしい
僕はいつも少女のような君を想い出すヨ

僕は今までに、いろんなことに出会った
それは僕の心を引き裂いている
僕は君の悲しい姿を見たくはないから
悪い娘になって欲しくはないから
だけどどうしても行きたいのなら、
充分に気をつけてネ
そこでステキな友だちに恵まれるように
決して忘れないで欲しいのは、そこにたくさんの
悪いことがあるということ
オオベイビー、ベイビー 何とすさんだ世の中だ
ほほえみを浮べていることさえむずかしい
少女のような君を、想い出すヨ、いつでも

ベイビー、君を愛する
だが君が去りたいのなら気をつけて
きみがそこで、良い友達に恵まれるように
だが悪いことがたくさんあるのを忘れないで
気をつけて
オオベイビー、ベイビー 何とすさんだ世の中だ
ほほえみを浮べていることさえむずかしい
オオベイビー、ベイビー 何とすさんだ世の中だ
僕はいつも少女のような君を想い出すヨ
(LP「父と子/キャット・スティーヴンス第2集」和訳より)

歌詞としては、去って行く恋人に対して世の中は良い事
もあるけれど、それと同じぐらい悪いこともあるよと
諭すように歌っている内容です。
急に「何とすさんだ世の中だ!」という飛躍のあるのが、
ちょっと面白いところです(笑)。
このCat Stevensという人、世の中に懐疑的で悲観的な
傷つきやすくナイーヴな青年といったイメージの人です。
そんな傷つきやすい彼の心情の綴られたこのアルバムは、
フォークのアルバムとしてはなかなか面白いアルバム
だと思います。

特にこの「Wild World」は、アルバムの中でも秀逸な曲で、
Jimmy Cliffだけでなくロック・グループのMr. Bigが
カヴァーしている事でも有名な曲です。

ネットなどで調べると解りますが、このCat Stevensという
人は、ちょっと変わった運命の持ち主なんですね。
彼は若い頃にイギリスでアイドル歌手として人気を博すの
ですが、肺病にかかり死ぬような思いをして1年余りの
休養を余儀なくされます。
そしてフォークのシンガー・ソングライターとして復活して、
出した2枚目のアルバムがこの「Tea For The Tillerman」
なんですね。

キャット・スティーヴンス -Wikipedia

そして次のアルバム「Teaser And The Firecat」で、
ビルボード誌の2位になるなど順調にフォーク・シンガー
としてのキャリアを積んだCat Stevensでしたが、今度は川で
溺れて死にかけるという出来事が起きます。
必死に「神様助けて!」と祈って助かったという経験から、
彼はそこで宗教に目覚めちゃうんですね。
そして宗教について勉強したのちに彼がたどり着いた宗教が
イスラム教でした。
ユスフ・イスラム (Yusuf Islam)と名前を改名し、なんと
音楽を辞めて慈善活動家になっちゃうんですね。
ただのちに音楽活動は再開しています。
一時でも音楽を捨てて別の道に自分から進むというのは
かなり珍しいケースで、このCat Stevensという人の
個性的な側面がよく伺えます。

このCat Stevens改めYusuf Islamさんなんですが、アメリカが
起こした「イラク戦争」の時にはイスラム教というのがどうゆう
宗教なのかテレビで説明したのをきっかけに「危険思想」の
持ち主と認定されて、彼の曲はアメリカでは「放送禁止」にされ
ちゃうんですね。
アメリカでは歌詞ではなく思想で放送禁止にされちゃう傾向が
あるのか、あのJohn Lennonの「Imagine」なんかも放送禁止に
されちゃってます。
「Imagine」の「天国のない世界を想像してごらん」という歌詞が
アメリカでは共産主義的と思われており、それが最後には
John Lennonの暗殺につながった事は間違いがないでしょう。
特にこの同時多発テロ→イラク戦争という時代は、アメリカ
という国自体がある意味集団ヒステリー状態だったんですね。
今冷静に考えればこのCat Stevens改めYusuf IslamやJohn Lennon
が「危険思想」の持ち主だったかは、極めて疑問の残るところです。
そしてその曲を放送禁止にする必要が本当にあったのかも…。
さらにはこのCat Stevens(Yusuf Islam)は、アメリカの入国も
拒否されたという話もあります。

結局アメリカが大義名分とした核兵器などの大量破壊兵器は
見つからず、イラク戦争自体が大義のない戦争だった事に
なってしまいます。
ただ今回のCat Stevensの例からも解るように、当時のアメリカ
やヨーロッパではイスラム教というのは「危険思想」というのが、
一般社会にかなり根付いてしまったのではないでしょうか。
むしろこのCat Stevensという人は、アメリカの「イスラム教は
危険思想」というイメージ作りに利用されたのかもしれません。
実は今の私たち自身も心の中でちょっと「イスラム教は…」
という思いを少し持っていますよね。
その遠因はやはりこのイラク戦争の頃にあったように思います。

今問題になっている「IS」の問題にしても、ヨーロッパなど
ではイスラム名を名乗るだけで就職も出来ないという現実が
あるようです。
そうした社会に不満がある若者が「IS」に参加している
というのは、よく言われる事実であり、問題点です。
結局、イラク戦争で武器を供給して、イスラム教を差別する事で
反発する若者を育てたことで、一番「IS」という組織を育てた
のは実はアメリカという国だったというのは、よく言われる
笑えない真実です。

さて話を戻しますが、もともとはナイーヴな青年のラヴ・ソング
だった「Wild World」ですが、今の私たちにはどう聴こえるの
でしょう?
単なるラヴ・ソングというよりもっと意味のある歌に
聴こえませんか?
特に「何とすさんだ世の中だ」という歌詞には、胸の締め付け
られる思いがするのではないでしょうか?
残念な事にこの曲がよりリアルに心に響くのは、時代が悪い方に
傾いているからかもしれません。
残念な事に私たちは「たくさんのステキなことが悪いことに
変わってしまう」世界に迷い込んでいるようです。

悲しいことですが、時代が悪くなると名曲がより名曲になる
という事実は否定できません。
「Imagine」もこの「Wild World」も、時代がより名曲に
してしまった…。
もしかしたらそれは、すごく残念なことなのでしょう。

ただこの世界を変えるのも、私たち自身である事は
忘れたくないものだと思います。
結局は希望の無い世界を作っているのも私たちであり、
希望の持てる社会に変えるのも私たちであるという事です。
その為には戦争好きの頭のおかしい人を、私たちの
代表に選ばないことです。
どこかの国の犯した過ちからも、学べることはあるんですね。

オオベイビー、ベイビー 何とすさんだ世の中だ
ほほえみを浮べていることさえむずかしい
オオベイビー、ベイビー 何とすさんだ世の中だ
僕はいつも少女のような君を想い出すヨ
(LP「父と子/キャット・スティーヴンス第2集」和訳より)

Cat Stevens "Wild World"


Mr. Big - Wild World ( Official Video )


Maxi Priest - Wild World