今回はKing Tubbyのアルバム

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「100% Of Dub」です。

King Tubbyはレゲエが生み出したもっとも
革命的な音楽ダブをその創世記から作り続けた
人として知られています。
もともとそのダブという音楽を誰が初めに
作ったかは諸説あり、その中にはプロデューサー
のBunny Leeの唱える「偶然の失敗からKing Tubby
が発明した」という説もあるのですが、本当の
ところはよく解っていません。

ただ1973年に最も早い時期のダブ・アルバムが
発売されており、その73年以降はダブが大量に
作られるようになっています。
そしてそのダブという形態を完成させたのはKing
Tubbyだと言われています。

もともと電気技師だったKing Tubbyはあくまで
「職人」としてダブを作り続けた人で、プロデューサー
としてアルバムに名前を載せる事は少なく、あくまで
ダブのミキサーという「職人」として名前を載せる
事の多い人です。

King Tubby (キング・タビー)

今回のアルバムは2003年にSelect Cutsという
レーベルから出された、彼King Tubbyのダブワイズした
代表曲を集めたアンソロジーです。
年代的には70年代のルーツ・レゲエ全盛の頃の音源が
使われているようです。

全20曲で収録時間は70分43秒。

ミュージシャンについては以下の記載があります。

Drums: Sly Dunbar, Carlton Davis, Carlton Barrett
Bass: Robbie Shakespeare, Lloyd Parks, George Fullwood
Lead Guitar: Earl 'Chinna' Smith, Rod Bryan
Organ: Winston Wright, Ansel Collins, Gladstone Amderson, Jackie Mittoo
Rhythm Guitar: Tony Chin, Aston Barrett, Brother Bagga, Brother Morris
Piano: Augustus Pablo, Ossie Hibbert, B. Harvey, J. Clarke
Hornes: Tommy McCook, Roland Alphonso, Lester Sterling, Bobby Ellis

Recorded at King Tubby's Studio
Produced by Fatman, Bunny Lee
Mixed by Osbourne Raddock alias The Dubmaster King Tubby

となっています。

「Osbourne Raddock alias The Dubmaster King Tubby」と
書いてあるので解ると思いますが、Osbourne Raddockがダブ・
マスターKing Tubbyの本名なんですね。

今回のアルバムは彼のベスト盤という内容なので、メンバー
に記載されている名前はおそらく名前の解っている人という
事で、他にも録音に参加した人が居たかもしれません。

プロデュースがFatmanとBunny Leeという事なので、曲の
多くがいわゆる「Bunny Lee音源」だと思われます。
そうなるとバックバンドは、Bunny Leeのハウス・バンド
The Aggrovatorsという事になると思います。

さて今回のアルバムですが、やっぱりKing Tubbyのベスト盤
なので内容は悪くありません。

このダブという音楽は今の時点から見ると、それまでの
音楽の時間軸を変えてしまうような革新的な音楽でした。
それまでの音楽というのは、なるべく生演奏に近い編集
をするのが当たり前だったんですね。
ところがこのダブというのは「加工」を前提とした音楽
なんですね。
「生肉」でなく「加工肉」それがこのダブという音楽
なんですね(笑)。

しかもこのKing Tubbyの凄いのは、あくまで「芸術家」の
視点ではなく、
「職人」の視点でこのダブという音楽を見ている点です。
どういう音楽を作るかを「感覚的」にではなく、「分析的」
に捉えようとしているんですね。
つまり感情が高まってバーストしたから良い曲が出来る
のではなくて、あくまでどこにどうエフェクトをかけたら
一番効果的なのかを計算して音楽を作るというやり方を
しているんですね。
そのあくまでクールな視線が、いかにもこの「ダブ職人」
King Tubbyらしい音作りです。

こうした「加工」を前提とした音楽は、レゲエ以前から
全く無かった訳ではないのですが、音楽ジャンルとして
成立させたのはレゲエの功績の一つではないかと思います。
実は今の時代になると、このKing Tubbyの音の作り方を
していない音楽ってほとんどないくらいなんですよね。
それほど現代の音楽にまで多大な影響を与え続けている
のが、このKing Tubbyの作ったダブという音楽なのです。

1曲目「Flag Dub」はDawn Pennのヒット曲として有名な
「No No No」のリディムです。

5曲目「Real Gone Crazy Dub」はBob Marleyの代表曲の
ひとつ「Crazy Baldhead」のリディムです。
「キチガイ禿げ頭」と題されたこの曲は、黒人層から
搾取する「金持ち」を侮辱した曲ですが、King Tubbyの
ダブワイズでより強力な曲になっています。

7曲目「Better Version」はHorace Andyの大ヒット曲
「Sky Larking」のリディムです。

8曲目「Roots Dub」はCornell Campbellのヒット曲
として知られる「Stars」のリディムです。

14曲目「Declaration Of Dub」はThe Abyssiniansの
ヒット曲として有名な「Declaration Of Rights」の
リディムです。

18曲目「Tribal War」はLittle Royのヒット曲として
よく知られる同名曲「Tribal War」のリディムです。

ざっと挙げただけでも様々な有名曲を、また別の要素を
持った曲に書き換えています。
実はこの「書き換え」こそがダブの面白さなんですね。
それまで1話完結の恋愛話だったものが、同じシーンを
使いながらSF的なストーリーになったり、ホラーに
なったり、全く違うストーリーを楽しめる…。
1話完結だったものが同じ絵を使った別の2話が一対に
なったストーリーになっている、それがダブです。

もともとは一度録音した音源の「使い回し」の発想から
生まれたところがあるんですが、音楽がより複雑化し、
より脳の快楽に直結しているところがスゴく面白いところ
だと思います。
この面白さが解っちゃうと、聴かずにはいられない音楽
ジャンルなんですよね(笑)。

このアルバムはダブという音楽の創世記からダブを作り
続けた「ダブ職人」King Tubbyという人を知るには
最適のアルバムだと思います。
ダブの好きな人、ルーツ・レゲエの好きな人には
おススメのアルバムです。

機会があれば聴いてみてください。

King Tubby - Real Gone Crazy Dub (Crazy Baldhead Dub)



○アーティスト: King Tubby
○アルバム: 100% Of Dub
○レーベル: Select Cuts
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2003

○King Tubby「100% Of Dub」曲目
1. Flag Dub
2. Drumillie Rock
3. Dub Fever
4. Roots Dub
5. Real Gone Crazy Dub
6. Stalawatt Version
7. Better Version
8. Roots Dub
9. Crime Wave
10. Lambs Bread Herb
11. Jah Jah Dub
12. Dubbing May Way
13. Tubbys At The Control
14. Declaration Of Dub
15. Invasion
16. Water Dub
17. Narrow Dub
18. Tribal War
19. Rub A Dub
20. 100% Of Dub

●今までアップしたKing Tubby関連の記事
〇King Tubby & Friends「Dub Gone Crazy: The Evolution Of Dub At King Tubby's 1975-1979」
〇King Tubby & Soul Syndicate「Freedom Sounds In Dub」
〇King Tubby & Friends「Dub Like Dirt 1975-1977」
〇King Tubby & Prince Jammy「Dub Gone 2 Crazy: In Fine Style 1975-1979」
〇King Tubby And The Aggrovators「Shalom Dub」
〇King Tubby, Scientist「Ranking Dread In Dub」
〇King Tubby, Errol Thompson「The Black Foundation In Dub」
〇King Tubby「Dangerous Dub: King Tubby Meets Roots Radics」
〇King Tubby「Dub From The Roots」
〇King Tubby「Fatman Presents: Unleashed Dub Vol.1」
〇King Tubby「King Of Dub」
〇King Tubby「King Tubby Presents The Roots Of Dub」
〇King Tubby「King Tubbys Presents Soundclash Dubplate Style Part 2」
〇King Tubby「Rocker's Almighty Dub」
〇King Tubby「The Fatman Tapes」
〇King Tubby「The Sound Of Channel One: King Tubby Connection」
〇King Tubby's (Scientist)「King Tubby's Answer The Dub」
〇King Tubby's「African Love Dub 1974-1979」
〇King Tubby's「King Tubby's Present Two Big Bull In A One Pen Dubwise」
〇Augustus Pablo「King Tubbys Meets Rockers Uptown (Deluxe Edition)」
〇Augustus Pablo「Rockers Meets King Tubbys In A Fire House」
〇Prince Jammy VS King Tubbys「His Majestys Dub」
〇Tommy McCook & The Agrovators「King Tubby Meets The Agrovators At Dub Station」
〇African Brothers, King Tubby「The African Brothers Meet King Tubby In Dub」
〇Aggrovators「Dubbing At King Tubby's」
〇Bunny Lee & King Tubby Present Tommy McCook And The Aggravators「Brass Rockers」
〇Various (King Tubby & Clancy Eceles All Stars)「Sound System International Dub LP」
〇Various「Firehouse Revolution: King Tubby's Productions In The Digital Era 1985-89」
〇Various「King Tubbys Presents Soundclash Dubplate Style」
〇Various「Once Upon A Time At King Tubbys」
〇Augustus Pablo「Ital Dub」
〇King Tubby's (Prince Jammy) And The Agrovators, (Delroy Wilson)「Dubbing In The Back Yard / (Go Away Dream)」
〇Harry Mudie, King Tubby「Harry Mudie Meets King Tubby's In Dub Conference Volume One」
〇Harry Mudie, King Tubby「Harry Mudie Meet King Tubby In Dub Conference Vol.2」
〇Harry Mudie, King Tubby「Harry Mudie Meet King Tubby In Dub Conference Vol.3」
〇Niney The Observer All Stars At King Tubby's「Dubbing With The Observer」
〇Niney The Observer「At King Tubby's: Dub Plate Special 1973-1975」