今回はScientistのアルバム

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「Heavy Metal Dub」です。

Scientistはダブ・マスターKing Tubbyの元で
助手としてミックスの勉強をしたのちに独立し、
数々の素晴らしいダブを作った事で知られる
ダブのスペシャリストです。
彼のミックスしたダブ・アルバムとしては、
80年から始まった「漫画ジャケ・シリーズ」が
有名です。

VolcanoレーベルのHenry 'Junjo' Lawesの仕掛け
で始まったこのシリーズは、プロデュースが
Henry 'Junjo' LawesかLinval Thompson、演奏が
Roots Radicsで、ミックスがScientist、ジャケット・
デザインがTony Mcdermott、そしてボクシングや
インヴェーダー・ゲーム、ドラキュラやパックマン
といったギミックがひとつのパッケージに収め
られたシリーズです。

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Scientist - Meets The Space Invaders

その「漫画ジャケ・シリーズ」でScientistは
Roots Radicsとともに、師匠King Tubbyの
ルーツ・レゲエを使ったダブとは違った、当時
流行り始めたダンスホール・レゲエを使った
新しいダブで、レゲエに新風を吹き込んでいく
んですね。

Scientist (サイエンティスト)

まず初めにちょっと残念なことを書かねば
なりません。
今回のアルバムはClocktower Recordsから
出ているCDなのですが、多少音質が悪いです。
ある意味Clocktowerのアルバムとしてはまだ
マシな方なのですが、所々で気になるパリパリ音
が入ります。
このClocktower、良いアルバムを出している
レーベルなんですが、どうもこういう音の処理
がねぇ…というレーベルです(笑)。

さて今回のアルバムは、実はアルバム自体に
まったく情報がありません(苦笑)。
ジャケットも元のジャケットを小さくしちゃって
いるし、なぜか「Heavy Metal Dub」という元の
タイトルも「Heavy Metal Attack」と改題されて
いるし(苦笑)、アーティスト名もありません(苦笑)。
ちなみにタイトルとアーティスト名は、ネットの
表記に合わせました。

ところがネットで調べてみると、プロデューサー
がClocktowerレーベルののBrad Osbourne、ミックス
がScientist、Brad Osbourne、Prince Jammy、Barnabas、
演奏はRoots Radicsでメンバーの名前もしっかりと
ネットには書かれています。
さらにリリースは1982年で、レコーディングは
Channel One Studioという事もネット上には書かれて
いました。
どうやらこのCDを作る時に、何の理由か解りませんが、
そういう情報をスッパリと落としてしまったらしい
んですよね(苦笑)。

ミックスに4人の名前があるので、このアルバムは
正確にはScientistだけがミックスしたアルバム
とは言えないようです。
実際に聴いてみた印象としても、1曲目「Watch
The Sound Of The Metal Dub」あたりは、ちょっと
Jammyっぽいかなぁという気がします。
まあScientistっぽさが出た曲もあるので、Scientist
だと言われるとScientistだと思っちゃうような
ところもあるんですが…(笑)。
正確な言い方をすれば、King Tubby'sのダブという
のが、一番正しいのかもしれません。

全10曲で収録時間は38分28秒。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

さて今回のアルバムですが、いろいろ問題点はある
ものの(笑)、この時代のKing Tubby'sのダブとしては
なかなか悪くないアルバムだと思います。
やはり特徴的なのは、この初期のダンスホール・レゲエ
のリズムなんですね。
この80年代に入って流行り始めた初期のダンスホール・
レゲエというのは、それ以前のルーツ・レゲエ、その後の
デジタルのダンスホール・レゲエと較べると、リズムが
「ワン・ドロップ」という3拍目が強調されたビートで、
かなりスローなリズムなんですね。
その「ワン・ドロップ」を使って、それまでのルーツ・
レゲエと違うダブを作ったのが、Scientistだったんですね。

この初期のダンスホール・レゲエのノリというのは、
ちょっと「学習」が必要なノリです。
私自身も初めはこのScientistのダブって、ちょっと
モッタリしてイマイチだなと思っていた時期が
あります。
ある意味この80年代初めのダンスホール・レゲエの
ノリというのは、レゲエが行き着くところまで行き
着いた、とても高度なノリなんですね。
それが解って来るとこのScientistの作ったダブの
面白さが、解って来るようになります。

少なくとも6年代後半のレゲエの誕生から80年代
半ばのデジタルのダンスホール・レゲエを生み出す
までの間は、レゲエという音楽は常に何か新しい音楽
を生み出そう生み出そうと努力し続けているんですね。
それがカリブ海の小さな島国ジャマイカが、20年
以上にわたって世界に通用する音楽レゲエを作り
続ける事が出来た理由です。

案外意識して聴いていませんが、実はこのダンス
ホール・レゲエというのも、レゲエという音楽が努力
して生み出した「発明品」だった訳です。

さて今回のアルバムですが、この82年にScientist
はHenry 'Junjo' Lawesと組んだ「漫画ジャケ・
シリーズ」で2枚のアルバムを出しています。
そのパッケージングのウマさと較べると、今回の
アルバムはセッティングなどに多少の粗さも
目立ちますが、それでもこの時代の空気感は
このアルバムにもあります。
やはりこの初期のダンスホール・レゲエのスロー
なリズムは一聴の価値があると思います。

5曲目「Conversation With Kahn」は、Slim Smith
で知られるロックステディ時代のコーラス・グループ
The Uniquesの「My Conversation」のリディムを使った
曲です。
今回のアルバムではこうしたレゲエやロックステディの
クラシック・リディムが、何曲か効果的に使われている
のも特徴的なところです。

あまりホーンなどの管楽器を使わずに、シンプルに重い
ベースとスコンと抜けたドラムでリズムを刻んでいく
のも、この時代のダンスホール・レゲエの特徴です。
この心地良さが解って来ると、ハマる音なんですね。

このアルバムはこの82年まで6作作られた「漫画
ジャケ・シリーズ」の人気に目を付けて作られた
アルバムなのかもしれません。
ただ「Heavy Metal Dub」というタイトルのわりには、
ロックなどでイメージするヘビメタ感はないし、
イラストもスペースもののようでありがらよく解らない
イラストだし、どうも設定に粗さが目立ちます(笑)。
まあそこがレゲエらしくてご愛嬌ともいえるのですが、
逆にHenry 'Junjo' Lawesがいかに優れたパッケージを
作って、いかにScientistという人をうまく売りだした
かがよく解る結果にもなっています。

ただダンスホール・レゲエのダブとしては、随所に
面白いところがあります。
イチオシではないけれど聴いて損のないダブ、これが
このアルバムの評価としては妥当なところではない
でしょうか。
この時代のダンスホール・レゲエの好きな人には、
おススメ出来るアルバムだと思います。

機会があれば聴いてみてください。

Scientist - Watch the Sound of the Metal Dub



○アーティスト: Scientist
○アルバム: Heavy Metal Dub
○レーベル: Clocktower
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1982

○Scientist「Heavy Metal Dub」曲目
1. Watch The Sound Of The Metal Dub
2. Having Fun With The Klingons
3. Rocking Time Warp Dub
4. Jah Love All Aliens
5. Conversation With Kahn
6. Queen Of The Iootion
7. Party Time On The Enterprise
8. Dread In A Remulacks Dub
9. Lazer In The Sky Dub
10. Smerf Wak Head Beat

●今までアップしたScientist関連の記事
〇Scientist vs Prince Jammy「Big Showdown」
〇Scientist With Force Of Music「International Heroes Dub」
〇Scientist_ Hempress Sativa「Scientist Meets Hempress Sativa In Dub」
〇Scientist, Roots Radics「Scientist Meets The Roots Radics」
〇Scientist, Prince Jammy「DC Dub Connection」
〇Scientist「...The Dub Album They Didn't Want You To Hear!」
〇Scientist「Dub In The Roots Tradition」
〇Scientist「Dub Landing」
〇Scientist「Encounters Pac-Man At Channel One」
〇Scientist「Heavyweight Dub Champion」
〇Scientist「In Dub Volume 1」
〇Scientist「In The Kingdom Of Dub: The Legendary Original Album From 1980 Plus Nine Previously Unreleased Bonus Tracks」
〇Scientist「Jah Life In Dub」
〇Scientist「Meets The Space Invaders」
〇Scientist「Rids The World Of The Evil Curse Of The Vampires」
〇Scientist「Scientific Dub」
〇Scientist「Wins The World Cup」
〇Scientist「World At War」
〇Various「Rubadub Revolution: Early Dancehall Productions From Bunny Lee」