今回はVarious(オムニバス)もののアルバム

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「Studio One Roots」です。

今回のアルバムは2001年にSoul Jazz Records
から出された「Studio Oneシリーズ」の1枚です。
この「Studio Oneシリーズ」は、スカ→ロックステディ
→レゲエと活躍した老舗レーベルStudio Oneに
残された数々の名曲を紹介するシリーズですが、
今回のアルバムはレゲエ創世記のルーツ・レゲエの
楽曲を集めた魅力的なアルバムです。

Studio One (スタジオ・ワン)

全16曲で収録時間は54分24秒。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

ただ多くの楽曲にカッコつきで、演奏を担当した
バンド名が記載されています。
それによるとThe Brentford Rockers、The Sound
Dimension、The All Stars、Drummond Bago &
The Rebel Group、The New Establishment、
The Brentford Disco Setといったバンドがバックを
担当しているようです。
その中でThe Sound Dimensionは、Jackie Mittoo
やLeroy Sibblesなどが参加していた、Studio One
のバック・バンドとして知られているバンドです。
他のバンドも当時バック・バンドとして、活躍して
いたバンドなのだと思います。

さて今回のアルバムですが、このシリーズの中でも
特に聴いておくべきディープな楽曲が詰まった、
貴重なアルバムだと思います。

この初期のレゲエに至るまでのスカやロック
ステディの頃のジャマイカの音楽というのは、
スカがアメリカのブルースやR&Bの影響を
受けて始まったように、常にアメリカ音楽の
影響を受けて発展して来たんですね。
ところがロックステディの時代が終わりレゲエ
が誕生する頃になると、少し風向きが変わって
来るんですね。

ミュージシャンの間にラスタファリズムが浸透
して来るようになって、徐々にアメリカは
悪にまみれた「バビロン」であり、アフリカこそが
ラスタファリアンが帰るべき理想郷「ザイオン」
だという「アフリカ回帰思想」が強くなって
来るんですね。
その影響もあってジャマイカの音楽は、アメリカ
音楽に対する憧れや幻想を捨てて、より自分の
ルーツに根差したアフリカ志向の音楽を作り始める
ようになるんですね。
今の時点から振り返ってみると、もっとも
アフリカ志向の音楽を作ろうとしたのが、この
70年代のルーツ・レゲエの時代だったんですね。

何かを模倣するのではなく、自分の中にある
「ルーツ」に根ざした音楽に立ち返ろうとしたのが
この時代だったんですね。
その目論見は新しい音楽レゲエという形で成功し、
レゲエは世界を席巻する音楽のひとつへと成長して
いきます。
今回のアルバムではそうしたジャマイカの音楽が
「アフリカ志向」に向かう時期をうまく切り取って
いて、今聴いても新鮮な感動を覚える楽曲が揃って
います。
やはりアメリカ音楽とはちょっと違った、土着的
な独特の存在感がこの時代のジャマイカの音楽
にはあります。

今回のアルバムに収められているのはThe Cyclones With
Count Ossie、Cornell Campbell、Freddie Mcgregor、
Bunny & Skitter、Willie Williams、L.Crosdale、
Leroy Wallace、Lennie Hibbert、Alton Ellis、
Winston Jarrett、Devon 'Soul' Russell、The Gaylads、
Black Brothers、Linton Cooper、Sound Dimension、
Zoot Simmsといったアーティストです。
Cornell CampbellやFreddie Mcgregor、Alton Ellisと
いった名前の知られた人達も居ますが、このアルバムで
初めて知ったような名前もあります。
ただ楽曲はどの曲もすごく魅力的です。

1曲目The Cyclones With Count Ossieの「Meditation」
は、初期レゲエの頃に流行ったスキンヘッド・レゲエを
思わせる軽快なオルガンの音に、多くのドラムが絡む
独特の曲です。

2曲目Cornell Campbellの「Natty Don't Go」は、
Cornell Campbellのスウィートなヴォーカルに
レゲエのビターなリズムが映える1曲です。
Cornell Campbellはロックステディの時代にT
he Eternalsのリード・ヴォーカルとして「Stars」の
ヒット曲を持つ人ですが、そのロックステディの時代は
スウィートなメロディにスウィートなヴォーカルという
組み合わせでしたが、このルーツの時代でもビター&
スウィートな組み合わせで見事なヴォーカルを披露して
います。

3曲目Freddie Mcgregorの「Africa Here I Come」は、
バックのThe Sound Dimensionの名リディム「Full Up」
に乗せた1曲です。

4曲目Bunny & Skitterの「Lumumbo」は、これぞ
「ナイヤビンギ!」というドラミングに、無骨なヴォーカル
が味わい深い1曲です。

5曲目Willie Williamsの「Addis A Baba」は、スカの時代の
Don Durummondのキラー・スカ・リディムのリメイクです。

6曲目 L.Crosdaleの「Set Me Free」はこれまたかなり
強烈なルーツ曲です。
まだ見ぬアフリカへの望郷の想いが募る1曲です。

7曲目Leroy Wallaceの「Far Beyond」は、映画「Rockers」
でも知られるドラマーのLeroy 'Horsemouth' Wallaceの曲
です。
曲の冒頭や間でトーク・オーヴァーしているのが、Horsemouth
のようです。
曲自体はメロディカ(Augustus Pabloか?)を中心とした楽曲。

8曲目Lennie Hibbertの「More Creation」は、ヴィブラフォン
奏者であるLennie Hibbertのインスト・ナンバーです。
このLennie HibbertもStudio Oneに、「Creation」などの
素晴らしいアルバムを残しています。

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Lennie Hibbert - Creation

9曲目はAlton Ellisの「Blackish White」です。
スカ→ロックステディ→レゲエと活躍し続けたAlton Ellis
ですが、それだけ長く活躍し続けられたのは、彼が歌手として
しっかりとしたリリックを持っていたからなんですね。
ここでもかなりディープな「黒い歌声」を聴かせています。

10曲目Winston Jarrettの「Fear Not」は、Burning Spear
の「Rocking Time」のリディムです。

11曲目Devon 'Soul' Russellの「Drum Song」は、
Jackie MittooのThe Sound Dimension在籍当時の名曲として
よく知られている曲です。
名ヴォーカリストDevon Russellが、ファルセットなども
使いながら濃く歌い上げています。

12曲目The Gayladsの「Africa」は、タイトル通りかなり
アフリカ色の強い彼らを代表する1曲です。
この時代のアフリカ回帰の空気がよく出た曲だと思います。

13曲目はBlack Brothersの「School Children」、14曲目は
Linton Cooperの「You'll Get Your Pay」とかなりディープな
ルーツ・ナンバーが続きます。
このあたりになるとさすがにネットで探しても情報が少ないの
ですが、そういう曲こそこういうコンピの目玉曲とも言えます。

15曲目はStudio Oneのバック・バンドとして有名な
Sound Dimensionの「Congo Rock」です。
Jackie Mittooをリーダーとし、Leroy SibblesやCedric
'Im' Brooksなどが参加したこのバンドは、ロックステディ
から初期レゲエの時期にかけて数々の名リディムを残して
います。

そしてラスト16曲目がZoot Simmsの「African Challenge」
です。
シメの1曲もかなりアフリカを感じさせるディープな1曲
です。

こうして順番に曲を見ていっても、かなりアフリカ志向を
感じさせるディープな選曲になっています。
この60年代後半から始まったレゲエ、のちに区別のために
ルーツ・レゲエと呼ばれるようになったレゲエは、かなり
アフリカを意識した音楽だった事は間違いありません。
そしてそれは彼らジャマイカの黒人層のアイデンティティー
に向き合う音楽であった事も間違いのない事実です。

その後、自己のアイデンティティーに向き合った音楽レゲエ
は世界的にブレイクし、レゲエは初めて第三世界で初めて
成功した音楽になるんですね。
カリブ海に浮かぶ小国がそれだけの偉業を成し遂げたのは、
奇跡に近い事かもしれません。
しかしアメリカに対する幻想を捨てた、自己のアイデンティティー
に根ざした音楽を目指したという事が大きな成功要因の一つ
だった事は間違いのない事実でしょう。

このアルバムからも彼らの真実を求める「叫び声」のような
ものが聴こえます。
ルーツ・レゲエの好きな人には確実におススメ出来る
アルバムだと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。

Willie Williams - Addis A Baba


Devon Russell - Drum Song



○アーティスト: Various
○アルバム: Studio One Roots
○レーベル: Soul Jazz Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2001

○Various「Studio One Roots」曲目
1. Meditation — The Cyclones With Count Ossie
2. Natty Don't Go — Cornell Campbell (The Brentford Rockers)
3. Africa Here I Come — Freddie Mcgregor (The Sound Dimension)
4. Lumumbo — Bunny & Skitter
5. Addis A Baba — Willie Williams (The All Stars)
6. Set Me Free — L.Crosdale (Drummond Bago & The Rebel Group)
7. Far Beyond — Leroy Wallace (The New Establishment)
8. More Creation — Lennie Hibbert
9. Blackish White — Alton Ellis (The Sound Dimension)
10. Fear Not — Winston Jarrett (The Sound Dimension)
11. Drum Song — Devon 'Soul' Russell
12. Africa — The Gaylads
13. School Children — Black Brothers (The New Establishment)
14. You'll Get Your Pay — Linton Cooper (The Brentford Disco Set)
15. Congo Rock — Sound Dimension
16. African Challenge — Zoot Simms