今回はNiney The Observerのアルバム

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「Deep Roots Observer Style」です。

Niney The Observerは70年代のルーツ・レゲエの
時代から活躍するプロデューサーです。
Nineyというのは彼のあだ名で、事故で指を1本
無くしてしまったことから付けられたと言われています。
「Westbound Train」や「Blood & Fire」などルーツ期
の重要な名曲をプロデュースしているのが、この
Niney The Observerという人なんですね。

今回のアルバムは2012年にVPからCD4枚組で
発売された、Niney The Observerのプロデュースした
アルバムを集めたアンソロジーです。

収められているアルバムは次の4枚です。

○Disc 1 - Dennis Brown「Deep Down」
○Disc 2 - I Roy「The Observer Book Of I Roy」
○Disc 3 - The Heptones「Better Days」
○Disc 4 - Page One & The Observers「Observation Of Life Dub」

Disc 2のI Royの「The Observer Book Of I Roy」は、
今回初めてアルバム化されたアルバムだそうです。
その他のアルバムも一度LPなどで発売されている
ものの、かなりレア化しているアルバムが揃っています。
そういう意味ではNiney The ObserverやDennis Brown、
I Roy、The Heptonesが好きな人、ルーツ好きやダブ好き
も注目のアルバムだと思います。

Disc 1は全11曲で収録時間は33分25秒。
Disc 2は全11曲で収録時間は47分30秒。
Disc 3は全15曲で収録時間は62分58秒。
10曲目までがオリジナルで、残りの5曲は別の
アルバム「Deep In Roots」(78年)と「King Of My Town」
(79年)からのセレクションだそうです。
Disc 4は全10曲で収録時間は37分40秒。

残念ながら詳細なミュージシャンの表記はありません。
ほとんどアルバムが「Written, arranged and Produced by
Winston (Niney) Holness」の表記しかないのですが、唯一
Dennis Brownの「Deep Down」には次のような記述があります。

Recorded at: E. T. Recording Studio
Engineer: Errol Thompson
Mixed at: Tubby's Recording Studio
Engineer: Phillip Smart
Produced by: Winston (Niney) Holness
Didtributed by: Observer Records

となっています。

本来はもう少し詳しい事を知りたいところですが、少しでも
情報があったのは良かったと思います。
こういう風にレゲエの70年代ぐらいの音源を調べていると、
その作る時にどれだけ詳しい情報を残しているかで、情報量が
全く違うんですね。
極端な事を言えばほとんどの人は、誰が歌っているか解れば
良いのかもしれませんが、時代が経てばたつほど細かい情報が
貴重になって行くんですね。
そういう意味ではこれからのアルバムでも、細かい情報を
なるべく残してほしいと思います。

さて今回のアルバムですが、Disc 1がDennis Brownのヴォーカル
もの、Disc 2のI Royディージェイもの、Disc 3がThe Heptonesの
コーラスグループもの、そしてDisc 4のPage One & The Observers
のダブワイズと、この70年代のルーツの時代の音楽形態を
うまく網羅したアルバム構成になっています。
いわばこれを聴けばNiney The Observerのルーツ・レゲエにおける
全ての仕事内容が解る、しかもすべてがレアものというアルバム
なんですね。
今回のアルバムは、そういうセレクションの妙が光る
アルバムです。

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Disc 1はDennis Brown「Deep Down」です。
このアルバムは1974年にNineyのレーベルObserverから
リリースされています。
最近LPで再発されていたようですが、Dennis Brownの
アルバムの中ではなかなか手に入れにくくなっていた
1枚です。

Dennis Brown (デニス・ブラウン)

ネットなどの情報を読むと、バックはSoul Syndicateが担当し、
ミックスはKing Tubby'sで行われたアルバムらしいです。
Dennis BrownとNineyの組み合わせというとあの名曲
「Westbound Train」を思い出しますが、やっぱりNineyと組むと、
曲のディープさが倍ぐらい濃くなる感じがあります(笑)。
今回のアルバムは、Dennis Brownのアルバムの中でも特に
ディープな1枚と言えるでしょう。

「So Long Rastafari」や「Travelling Man」、「Tribulation」
などの彼の代表曲と言って良い曲が多く入っています。

3曲目「You're No Good」は、ロックステディ期に人気を博した
Ken Bootheのカヴァー曲です。

やっぱりJoe GibbsのプロデュースしたDennis Brownと較べて
みても、NineyのプロデュースしたDennis Brownの方がちょっと
ディープ感があるんですね。
Joe Gibbsは彼の陽性な一面をよく引き出していますが、Niney
は彼の影のある一面を引き出している感じです。

例えれば月と太陽…。
そういう歌手の違う一面を引き出せるのもプロデューサーの
才能ですが、そういうプロデューサーの要求に応えられるのも
歌手の才能なんですね。

Dennis Brownのアルバムの中でもこの「Deep Down」 は、
なかなか面白い魅力的な1枚だと思います。

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Disc 2はI Roy「The Observer Book Of I Roy」です。
このアルバムは書いたように、今回初めてアルバム化された
アルバムなんだそうです。
この4枚組のアルバムが2012年頃に作られていますから、
その頃に初めてアルバムになったという事らしいです。
ネットの情報によると、76年から77年頃にNiney The
Observerの元で録音された楽曲の中から選ばれた曲で
まとめたベスト盤的なアルバムらしいです。

I Royといえばルーツ・レゲエの時代から10年間以上も
トップ・ディージェイの地位を維持していたという事で
知られるディージェイですが、このNineyのディープな
ルーツ曲でも彼らしい抜群のトースティングを聴かせています。

I Roy (アイ・ロイ)

1曲目「Jah Come Here」は「Here I Come」のリディム、
2曲目「Step On The Dragon」は「Wolf & Leopard」のリディム、
3曲目「Camp Road Skanking」は「No Man's Land」のリディム、
4曲目「Fresh And Clean」は「Take A Trip」のリディムと
ここまでDennis Drownのヒット曲のリディムが使われています。
5曲目「Native Land」はJunior Bylesの「Weeping」という曲の
リディムが使われているようです。
6曲目「Point Blank Observer Style」はJohn Holtの
「Up Park Camp」のリディムです。
7曲目「Sister Maggie Breast」はこれまた「Wolf & Leopard」
のリディムです。
8曲目「Water Rate」はJunior Bylesのの曲らしいんですが、
リディムが特定できませんでした。
ここまでの曲で特徴的なのは多くの曲がダブになっている事
です。
そういうダブでもこのI Royは、滑らかなトースティングで
鮮やかに歌いこなしています。

9曲目以降の3曲は2曲が1曲になったいわゆるディスコ・
ミックス・スタイルの曲が収められています。
9曲目「Jamaican Girl / Observer In Fine Style」は、
前半がI Royのトースティングで後半がインスト・ナンバー。
10曲目「Jah Is My Light / Wicked Eat Dirt」は、前半が
Leroy Smartの歌で後半がI Royのトースティングという
スタイル。
元歌が名曲「Satta Massagana」だけに、いかにもルーツ
らしいしっかりとした味わいのある1曲です。
11曲目「Roots Man / Observer Mix Version」は、前半が
I Royのトースティングで後半がインスト・ナンバーです。
このアルバムの中でもI Royのトースティングが素晴らしい、
ラストを飾るのにふさわしいナンバーになっています。

アルバムを聴いた印象としては、I Royのトースティングを
生かしながらも、しっかりとNiney The Observerらしい
ずっしりとしたルーツ・レゲエの手ごたえを感じさせて
くれるアルバムになっています。
I Royのアルバムの中でもなかなか悪くない内容だと思います。

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Disc 3は1978年に発売されたThe Heptonesのアルバム
「Better Days」です。
The Heptonesというとロックステディの時代にアルバム
「On Top」で、ジャマイカで一番売れたアルバムという
記録を作り、頂点まで登りつめたコーラス・グループと
して知られています。

Heptones (ヘプトーンズ)

その後レゲエの時代になっても数々のヒット曲を残して
いるグループなんですが、このアルバムでは以前の
The Heptonesとは大きな違いがあります。
なんと!リード・ヴォーカルのLeroy Sibblesが脱退して
しまった為に、新しいリード・ヴォーカルとして
Naggo Morrisが加入しているんですね。
その為同じThe Heptonesと名乗っていても、声の違いで
ちょっと印象の違うThe Heptonesになっています。

Naggo MorrisはJoe GibbsのやニューヨークのWackies
でも活躍した実力のあるシンガーなんですが、やはり
Leroy Sibblesの強い印象が残っているThe Heptonesの
リード・ヴォーカルだと、ちょっとイメージが違う
んですね。
結果的にはかなり売上的には苦戦したようです。
ちなみにその後90年代には、Leroy Sibblesがまた
リード・ヴォーカルに復帰したそうです。

ある意味このアルバムはThe Heptonesの、もっとも
苦難の時代のアルバムという事になるようです。
正直なところLeroy Sibblesのヴォーカルのイメージで
このアルバムを聴くと、「ちょっと違うなぁ…。」と
思うところもあるのですが、そういう事を考えないで
聴くと、実は内容はすごくイイんですね。
1曲1曲がしっかりしていていかにもNineyらしい
ディープなサウンドだし、すごく聴き心地の良い
アルバムなんですね。
むしろThe Heptonesというイメージで、かえって
損をしているのかもしれません。

聴き込んでいくと、このNaggo Morrisのちょっと
しゃがれたヴォーカルもすごく魅力的なんですね。
この当時のルーツもののアルバムとしてはすごく良い
アルバムなんですが、あんまり高い評価がされ
なかったとしたらすごく残念です。

あと特筆すべきはバックの演奏です。
他のアルバムもそうですが、このアルバムのバックの
演奏がすごくイイんですね。
おそらくNineyのアルバムという事になるとCnna Smithの
Soul Syndicateアタリが演奏を担当している可能性が高い
のですが、ハッキリと解らないのはちょっと残念です。

1曲目「Suspicious Minds」は、あのElvis Presleyの
ヒット曲として知られている曲です。
3曲目「Land Of Love」は、Studio One時代の彼らの
ヒット曲のリメイクらしいです。

他にも好曲がたくさん入ったアルバムなんですが、
やっぱり以前のThe Heptonesのイメージに囚われて
しまうと、心にスッと入って来ないのかもしれませんね。
いったん「心のカギ」を外して聴けば、このアルバム
は悪くないアルバムなんですが…。

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Disc 4はPage One & The Observersの1980年発表
のアルバム「Observation Of Life Dub」です。
これはDisc 3のThe Heptones「Better Days」をはじめ
とする76年から78年の間にNiney The Observerの
制作した楽曲のダブ・ヴァージョンを集めたアルバム
という事らしいです。
ごく少数だけ販売されたレアなアルバムの、世界初
復刻盤なんだそうです。
ちなみにPage OneというのはNineyの別名だそうです。

実際に曲を聴いた印象としては、ベースを主体とした
シンプルなダブという感じです。
この80年代ぐらいになって来ると、時代も徐々に
ルーツ・レゲエの時代からダンスホール・レゲエの
時代へと変わって行くんですね。
それとともに曲調も変わり、バックもそれまでの
ブラスの入った重厚な演奏から、シンプルでスローな
演奏が多くなって行きますが、今回のアルバムでは
ブラスも無くドラムとベースのシンプルな演奏が多く、
エフェクトも割と控え目な印象です。
ただそれが成功しているかは、正直なところちょっと
微妙です(笑)。
悪くはないけれど、ちょっと地味な印象なんですね。

ただなかなか聴けなくなっていた音源なので、こうして
またアルバムで聴けるのは嬉しいことだと思います。


こうして見ていくとやはりNiney The Observerという
プロデューサーは、特に70年代のルーツ・レゲエの
時代にすごく重要な役割を果たした人だという事がよく
解ります。
彼の作るディープなサウンドは、やっぱりこのルーツ・
レゲエの時代を魅力的にしています。
その事は高く評価されるべきところだと思います。

今回のアルバムはなかなかレアな4枚のアルバムを
集めた面白いセレクションのコンピュレーションだと
思います。
ルーツ・レゲエの好きな人、ダブの好きな人には
ツボのアルバムだと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Niney The Observer
○アルバム: Deep Roots Observer Style
○レーベル: VP
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2012

○Niney The Observer「Deep Roots Observer Style」曲目
Disc 1 - Dennis Brown「Deep Down」
1. So Long Rastafari
2. Travelling Man
3. You're No Good
4. Voice Of My Father
5. Open The Gate
6. Go Now
7. God Bless Our Souls
8. Say Mama Say
9. Shame
10. Tribulation
11. If You're Rich Help The Poor

Disc 2 - I Roy「The Observer Book Of I Roy」
1. Jah Come Here
2. Step On The Dragon
3. Camp Road Skanking
4. Fresh And Clean
5. Native Land
6. Point Blank Observer Style
7. Sister Maggie Breast
8. Water Rate
9. Jamaican Girl / Observer In Fine Style
10. Jah Is My Light / Wicked Eat Dirt - Leroy Smart / I-Roy
11. Roots Man / Observer Mix Version

Disc 3 - The Heptones「Better Days」
1. Suspicious Minds
2. Crystal Blue Persuasion
3. Land Of Love
4. No Bread On My Table
5. Better Days
6. God Bless The Children
7. Ready Ready Baby
8. Every Day Life
9. Mr. Do Over Man Song
10. Key To Her Heart
(CD Bonus Tracks)
11. Temptation, Botheration And Tribulation
12. An African Child
13. Holy Mount Zion
14. Through The Fire I Come
15. Jah Guide

Disc 4 - Page One & The Observers「Observation Of Life Dub」
1. Jah's Children In Style
2. Lover's Dub
3. Ready For It
4. Way Of Life
5. Observer's Style
6. Mind Blowing Dub
7. Persuasion
8. Nuff Bread On Our Table
9. Love In The Land
10. Africa's Time Now

●今までアップしたNiney The Observer関連の記事
〇Niney The Observer All Stars At King Tubby's「Dubbing With The Observer」
〇Niney The Observer Presents「Soul Syndicate Dub Classics」
〇Niney The Observer「At King Tubby's: Dub Plate Special 1973-1975」
〇Niney The Observer「Microphone Attack 1974-78」
〇Niney The Observer「Reggae Anthology: Roots With Quality」
〇Niney The Observer「Sledgehammer Dub: In The Street Of Jamaica」
〇Niney The Observer「Sufferation: The Deep Roots Reggae Of Niney The Observer」
〇Page One(Niney The Obsever)「Rock A Dub」
●今までアップしたDennis Brown関連の記事
〇Dennis Brown「Brown Sugar」
〇Dennis Brown「If I Follow My Heart」
〇Dennis Brown「Joseph's Coat Of Many Colours」
〇Dennis Brown「Just Dennis」
〇Dennis Brown「Love & Hate: The Best Of Dennis Brown」
〇Dennis Brown「Super Reggae & Soul Hits」
〇Dennis Brown「The General」
〇Dennis Brown「Tribulation Times」
〇Dennis Brown「Wolf & Leopards」
〇Dennis Brown「A Little Bit More: Joe Gibbs 12" Selection 1978-83」
〇Derrick Harriott, Dennis Brown, Rudy Mills「Reggae Golden Classics」
〇King Jammy, Dennis Brown, Various「King Jammy Presents Dennis Brown: Tracks Of Life」
〇Dennis Brown「Words Of Wisdom」
〇Ranking Joe With Black Uhuru, Dennis Brown「Zion High」
●今までアップしたI Roy関連の記事
〇I Roy, Clint Eastwood, Jah Stitch「DJ Trilogy」
〇I Roy「Black Man Time」
〇I Roy「Don't Wake Up The Lion: 14 Toasting Classics From The Dancehall Master」
〇I Roy「Gussie Presenting I Roy」
〇I Roy「Heart Of A Lion」
〇I Roy「Musical Shark Attack」
〇I Roy「Sattamassagana」
〇Various「Once Upon A Time At King Tubbys」
〇Various「Can't Stop The Dread」
〇I-Roy「Don't Check Me With No Lightweight Stuff [1972-75]」
〇Niney The Observer「Microphone Attack 1974-78」
〇I Roy「Many Moods Of I Roy」
●今までアップしたHeptones関連の記事
〇Heptones「Meet The Now Generation」
〇Heptones「Night Food」
〇Heptones「On Top」
〇Heptones「Sea Of Love」