今回はPrince Jammyのアルバム

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「Strictly Dub」です。

Prince Jammyはダブ・マスターKing Tubbyの
スタジオでミックスを学んだのちに独立し、
数々のダブや歌手のプロデュースとミックス
を手掛けた人です。
特に彼が人気を博したのは、1980年の半ば
にWayne Smithの「Under Me Sleng Teng」で
デジタル録音初の大ヒットを飛ばし、ジャマイカ
に「コンピューター・ライズド」の大ブームを
起こした頃です。

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Wayne Smith - Under Me Sleng Teng (1985)

これを機に彼はPrince Jammy→King Jammyに
改名し、それまで生録中心だったジャマイカの
音楽界を、デジタルの「打ち込み」中心の録音
に変えてしまうんですね。
これがいわゆる「デジタル革命」です。
このデジタル革命以降、彼King Jammyは常に
ジャマイカのトップ・プロデューサーとして
現在まで君臨し続ける事になるんですね。

Prince Jammy (プリンス・ジャミー)

今回のアルバムですが、まだ彼がPrince Jammy
だった時代の1981年の初期のダンスホール・
レゲエの時代に作られた
ダブ・アルバムです。
当時「Jammys Records」のアルバムとしてUS
(アメリカ)で少数プレスされただけでレア化
していたアルバムらしいです。
2010年にレゲエ・リイシュー・レーベル
Pressure Soundsより、オリジナル10曲に
ボーナス・トラック2曲をプラスしてリイシュー
されたアルバムです。

全12曲で収録時間は40分57秒。
オリジナルは10曲で残りの2曲はCDボーナス・
トラック。

ミュージシャンについては以下の記述があります。

Bass: Robert 'Robbie' Shakespeare
Drums: Lowell 'Sly' Dunbar
Guitar: Winston 'Bo Peep' Bowen, Radcliffe 'Duggie' Bryan
Organ: Ansel 'Pinkie' Collins, Winston 'Brubeck' Wright
Piano: Gladstone 'Gladdy' Anderson
Alto Saxophone: 'Deadly' Hedley Bennett
Trumpet: Bobby Ellis
Percussion: Uziah 'Sticky' Thompson, Noel 'Scully' Simms

Produced & Arranged by Prince Jammy
Remixed at King Tubby's Recording Studio
Mastered at: Hiltongrove Mastering, London, UK
Engineer: David Blackman
Project Co-ordination: Pete Holdsworth
Artwork & Design: Ben Bailey Bubble Design
Photography: Dave Hendley & Harry Hawke

となっています。

Sly & Robbieの他、Roots RadicsやOn U Soundsの
アルバムなどでアルト・サックスを吹いてい
る名プレイヤー'Deadly' Hedley Bennettなどが
参加しています。

Prince Jammyはこの前年の80年に、弟弟子
Scientistとのダブ対決アルバム「Big Showdown」で、
形の上では「敗者」となっています。
ただこれはScientistの売り出しに、当時すでに名前
の通っていたPrince Jammyが協力したのではないか
と思います。

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Scientist VS Prince Jammy - Big Showdown (1980)

この「漫画ジャケ・シリーズ」の1作目「Big Showdown」
で勢いを付けたScientistは、80~82年までの
3年間に計6作の「漫画ジャケ・シリーズ」を作成して
います。
初期のダンスホール・レゲエのミキサーとして、一番
勢いがあったのがScientistだったんですね。
一方敗者を演じたPrince Jammyも、Black Uhuruの
プロデュースやダブ・アルバムを出すなどそれなりに
着々と実績を積み上げていますが、やっぱりのちの
活躍と比較すると、幾分Scientistの後塵を拝している
印象があります。

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Prince Jammy - Destroys The Invaders... (1982)

けっして彼の仕事が悪いという訳ではないのですが、
何故かまだPrince時代のJammyは、何か吹っ切れない
モヤっとした音作りをしている印象があるんですね。
このPrince Jammyにとってこの80年代前半という
のは、まだ「模索期」だったのかもしれません。

さて前置きが長くなりましたが今回のアルバムですが、
これが本当に良いダブなんですね。
この時代のPrince Jammyは何故かモヤっと感が残ると
書きましたが、このアルバムに関して言うとあんまり
そういう感じも無く、スッキリと気持ちのいいダブ
という感じです。
メリハリの付け方や落としどころは、まさに師匠
King Tubbyの教本通りといった内容なんですね。
それでいてエフェクトの付け方などにこの人なりの
個性も感じられるし、かなり魅力的なダブだと
思いました。
内容的にはかなりパーフェクトで、まさに文句の
付けようのない、誰が聴いても納得のダブだと
思います。

ただこの音をPrince Jammy本人が気に入っていたか
は、ちょっと?マークが付くところがあります。
おそらく師匠King Tubbyの教本通りのダブ作りをすれば、
こういうダブが出来る事はこのPrince Jammyは解って
いるんですよね。
そして簡単に自分が弟弟子Scientistを上回れることも…。
あくまで推測ですが、彼Prince Jammyが目指していた
のは師匠King Tubbyですら作れない、究極のPrince Jammy
のダブだったのかもしれません。
この当時の彼のダブに感じる何となくモヤっとした感じも、
おそらく仕事の中での限りない模索の結果だったのかも
しれません。

その成果が現れたのがあの「デジタル革命」の時代で、
この時代にあったモヤっと感が消えて、一気にスッキリ
としたJammy独自のサウンドに変わるんですよね。
おそらくダブという目の前にKing Tubbyという偉大な
先達が居る音楽ではそれを超えなくてはならないけれど、
デジタルという彼独自の世界観が構築できるフィールド
が誕生した事で、才能が一気に開花したのかもしれません。
大きな才能を持った人には、その才能を持った人で
ないと解らない悩みがあるのかもしれませんね(笑)。

このアルバムは60年代や70年代のクラシック・
リディムをうまく使いながら、師匠King Tubbyのダブの
世界観の上に、Prince Jammyのアレンジをうまく加えた
ダブ・アルバムだと思います。
Prince Jammyのダブの中でもその完成度の高さは
秀逸のダブだと思いますが、彼のその事を解っている
と思いますが、彼の目指したものはもっともっと
大きなものだったのかもしれません。

あくまで貪欲に、彼は80年代の半ばに「革命」を
起こします。
そしてこのジャマイカの音楽界そのものを、すべて
Jammys色に塗り替えてしまうんですね。
その出発点に近いところにこういうダブ・アルバム
があったという事は、覚えておきたい記憶だと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。

KING JAMMY'S AT THE CONTROL - LIVE SET @ GARANCE REGGAE FESTIVAL 2011




○アーティスト: Prince Jammy
○アルバム: Strictly Dub
○レーベル: Pressure Sounds
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1981

○Prince Jammy Presents「Strictly Dub」曲目
1. Immigrant Dub
2. Basement Dub
3. Brooklyn Dub
4. B.Q.E. Dub
5. Interboro Dub
6. Old Country Dub
7. 42nd Street Dub
8. 271 Utica Dub
9. Bronx Fashion Dub
10. Strictly Dub
Bonus Tracks
11. Mother Dub
12. Dis Dub Rule

●今までアップしたKing Jammy関連の記事
〇King Jammy「King At The Controls: King Jammy Essential Hits」
〇King Jammy「King Jammys Dancehall 1985-1989 Part 1」
〇King Jammy's Presents「Dubbing With The Crew」
〇King Jammy's「Selector's Choice Vol.1」
〇King Jammy's「Selector's Choice Vol.2」
〇King Jammy's「Selector's Choice Vol.3」
〇King Jammy's「Selector's Choice Vol.4」
〇King Jammy's「The Rhythm King」
〇Various「King Jammys Dancehall 2: Digital Roots & Hard Dancehall 1984-1991」
〇Various「King Jammys Dancehall 3: Hard Dancehall Murderer 1985-1989」
〇Various「King Jammys Dancehall 4: Hard Dancehall Lover 1985-1989」
〇Various「King Tubbys Presents Soundclash Dubplate Style」
〇King Jammy, Dennis Brown, Various「King Jammy Presents Dennis Brown: Tracks Of Life」
〇Various「King Jammy Presents New Sounds Of Freedom」
●今までアップしたPrince Jammy関連の記事
〇Scientist, Prince Jammy「DC Dub Connection」
〇Prince Jammy VS King Tubbys「His Majestys Dub」
〇Prince Jammy,Crucial Bunny「Fatman Presents Prince Jammy VS Crucial Bunny Dub Contest」
〇Prince Jammy「Destroys The Invaders...」
〇Prince Jammy「Prince Jammy's In Lion Dub Style」
〇Prince Jammy「The Crowning Of Prince Jammy」
〇King Tubby, Prince Jammy「Dub Gone 2 Crazy: In Fine Style 1975-1979」
〇King Tubby's (Prince Jammy) And The Agrovators, (Delroy Wilson)「Dubbing In The Back Yard / (Go Away Dream)」