今回はJimmy Cliffのアルバム

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「Harder Road To Travel: The Collection」です。

Jimmy Cliffはスカの時代から活躍したシンガーで、レゲエの
発展に大きな貢献をした人として知られています。

彼の主演した映画「Harder They Come」は、もっとも有名な
レゲエ映画として知られています。
Jimmy Cliffが演じた主人公アイヴァンはスラム街で育ち、
仕事も歌手の夢もことごとく失敗してついには強盗になり、
スラム街のヒーローになって行くんですね。
このあたりに極貧国であったジャマイカの、特に最下層で
生きる黒人層のやりきれない苦悩が描かれています。
最後は恋人に裏切られ警官隊に銃撃戦でハチの巣にされて
死んでいく、当時のアメリカン・ニュー・シネマ「明日に
向かって撃て!」のジャマイカ版のようなストーリーの
映画でした。

この1972年の映画は、その頃勢いを付けつつあった
レゲエという音楽の追い風になった事は間違いがありません。
多くの人がレゲエという音楽を知るきっかけとなり、
レゲエは世界的にブレイクして行くんですね。
この映画のヒットもあり、Jimmy Cliffは世界的なレゲエ・
スターとして活躍するんですね。

Jimmy Cliff (ジミー・クリフ )

さて今回のアルバムですが、2010年にTrojanからリリース
された彼Jimmy CliffのCD2枚組のベスト盤です。
Disc 1には「King Of Kings 1960-1969」というタイトルで、
1960年から69年というジャマイカの音楽界がスカから
ロックステディの時代の音源が集められており、Disc 2には
「Wonderful World, Beatiful People 1969- 1972」として
69年から72年、初期レゲエからルーツ・レゲエが人気を
得始めた時代の音源が集められています。

Disc 1は「King Of Kings 1960-1969」は全20曲で収録時間
は55分18秒。
Disc 2「Wonderful World, Beatiful People 1969-1972」は
全20曲で収録時間は77分31秒。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

さて今回のアルバムですが、彼Jimmy Cliffの音楽キャリア
最初期の60年に発表された曲「I'm Sorry」から、彼の
初めてのヒット曲69年の「Wonderful World, Beautiful
People」、映画のタイトル曲であり彼のキャリアをアップさせた
72年の「Harder They Come」、さらにはその「Harder They
Come」の元になった71年発表の曲「The Bigger They Come,
They Harder They Fall」など、彼の成功までの軌跡が順番を
追ってすべて解るアルバムになっています。
あの「Harder They Come」を彷彿とさせるイラストも、
なかなか素敵なベスト盤だと思います。

Disc 1の「King Of Kings 1960-1969」は、60年から69年
というジャマイカがスカからロックステディの時代、まだ
レゲエが誕生する以前の曲が集められています。

1曲目「I'm Sorry」は60年の作品で、彼の音楽キャリア
最初期の作品です。
Jimmy Cliffは1948年4月1日(エイプリルフール!)
生まれなので、何と!まだ12歳ぐらいでレコーディングして
いる事になります。

2曲目「Hurricane Hatty」(62年)は、ジャマイカで
大ヒットを記録した曲なんだとか。

3曲目「Miss Jamaica」(62年)は、当時イギリスから
独立したジャマイカを女性になぞらえて讃えた曲なんだ
そうです。
62年まではジャマイカはまだ植民地だったんですね。
後にルーツ期に白人支配、人種差別が多く歌われる下地は、
この時代にあるのかもしれません。

そして6曲目「King Of Kings」(63年)、9曲目
「One Eyed Jacks」(64年)などのスカ・ナンバーを
ヒットさせたJimmy Cliffは、IslandレーベルのChris
Blackwellの求めに応じて若くしてイギリスに渡るん
ですね。

ただこのイギリスでの時代は、色々な出会いはあった
ものの、彼のキャリアの中では苦しい時代だったようです。
18曲目「Waterfall」(67年)は、ブラジルの音楽祭の
エントリー曲。
そういう中でも彼は地道にキャリアを積み重ねていくん
ですね。

Disc 2は「Wonderful World, Beatiful People 1969-1972」
と題されていて、69年から72年までの曲が収められて
います。
この時代のジャマイカは前身のロックステディの中心人物
だったJackie MittooやLynn Taittなどがカナダ移住をして
しまった事をきっかけにロックステディの時代がわずか3年間
ぐらいで終わり、レゲエ(ルーツ・レゲエ)の時代へと
変わって行ったんですね。

一方イギリスで苦労していたJimmy Cliffにもやっと光が
当たるようになります。
Disc 2の1曲目「Wonderful World, Beautiful People」
(69年)がUKチャートでヒットし、やっとクロス・
オーヴァーな成功を手に入れる事が出来ます。

2曲目「Vietnam」(69年)はタイトル通りヴェトナム
戦争を歌ったプロテスト・ソングです。
誰かこの戦争を今止めてくれ!と歌うこの曲は、あの
「フォークの神様」Bob Dylanも絶賛したと言われて
います。

7曲目「Many Rivers To Cross」(69年)では、
「超えるべき河は幾つもあるが、私の進むべき道はいずこ?」
と、人生に悩みならがらも歩みを止めない彼の心情が
歌われています。
彼の曲の中でも名曲中の名曲です。

8曲目「You Can Get It If You Really Want」(70年)も
彼の代表曲のひとつです。
「本気で欲しいなら必ず手に入れられるさ、何度でも何度でも
トライするんだ!」そう歌うこの曲は、悩みぬいた末の
彼の答えだったのかもしれません。

9曲目「A Little Bit Of Soap」はこのアルバムの中で、
唯一の未発表曲のようです。
こういう曲が入っているのもちょっと嬉しいところです。

11曲目「Wild World」(70年)はイギリスのフォーク・
シンガーCat Stevensの名曲です。
この曲もUKチャートの上位に食い込むヒット曲です。

そして14曲目が「Harder They Come」の原曲である
「The Bigger They Come, They Harder They Fall」
(71年)です。
曲を聴いてみるとほぼ「Harder They Come」そのままと
言って良い出来なんですね。
おそらく歌詞とリズムを少し変えて、あの「Harder They
Come」になったものと思います。

15曲「Sitting In Limbo」(71年)も彼の代表曲の
ひとつです。
レジスタンスを諦めてしまった奴ら、だけど俺だけは
この道を貫こう!と歌うこの歌ですが、意外とこのJimmy
Cliffの歌というのは一見ソフトに見えて実はかなり硬派な
心情を歌った歌が多いんですね。

19曲目「Struggling Man」(72年)も彼の代表曲の
ひとつです。
困難に立ち向かう男に無駄な時間は無いと歌うこの歌は、
明るい曲調の中に彼の自信が感じられる1曲です。

そしてラスト20曲目が「Harder They Come」(72年)です。

Jimmy Cliff - The Harder They Come - 1976 - リリック

言わずと知れた彼の代表曲であり、この曲が主題歌の映画の
ヒットがレゲエにもたらした恩恵は計り知れません。

彼Jimmy Cliffは早くから国際的なスターとして活躍した人
ですが、その為にかえって一部のレゲエ好きからは低く
見られがちなところがあります。
ただ彼やBob Marleyのような人が世界を相手に頑張って
くれたお蔭で今のレゲエの隆盛があるんですね。
もしも彼らのような存在が居なかったら、私たちは
レゲエという音楽を知らなくて、「辺境音楽」ぐらいにしか
思っていなかったのかもしれません。
そういう意味では彼Jimmy Cliffは、レゲエにものすごく
貢献している偉大なシンガーなんですよね。

こうして彼の曲を聴いていくと、やはりかなりポップ寄りの
センスで曲が作られている事は否定が出来ません。
その才能ゆえにスカの時代にジャマイカを離れイギリスで
暮らした彼の音楽は、やはりジャマイカ国内でレゲエを体験した
人たちとは違う感覚の部分があるのは致し方ないところだと
思います。
ただ彼の言葉にはやはりジャマイカ人としてのリリックが
存在しているのも、また間違いのない事実です。
それでなければBob Dylanも絶賛するようなプロテスト・
ソングは、けっして作れるものではありません。

そして彼は何よりシンガーとして、素晴らしい才能の持ち主
なんですね。
レゲエうんぬんを抜きにしても、彼の「Many Rivers To Cross」
を聴いて心を打たれない人は居ないと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Jimmy Cliff
○アルバム: Harder Road To Travel: The Collection
○レーベル: Trojan
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2010

○Jimmy Cliff「Harder Road To Travel: The Collection」曲目
Disc 1: King Of Kings 1960-1969
1. I'm Sorry
2. Hurricane Hatty
3. Miss Jamaica
4. I'm Free
5. My Lucky Day
6. King Of Kings
7. The Man (aka Man To Man)
8. Miss Universe
9. One Eyed Jacks
10. You're The One I Need
11. Hey Boy, Hey Girl (Millie Small & Jimmy Cliff)
12. Pride And Passion
13. Aim And Ambition
14. Give A Little Take A Little (aka Give And Take)
15. I've Got A Feeling (And I Can't Stop)
16. That's The Way Life Goes
17. Set Me Free (Jackie Edwards & Jimmy Cliff)
18. Waterfall
19. The Reward
20. Hard Road To Travel

Disc 2: Wonderful World, Beatiful People 1969-1972
1. Wonderful World, Beautiful People
2. Vietnam
3. She Does It Right
4. Sufferin' In The Land
5. Come Into My Life
6. Time Will Tell
7. Many Rivers To Cross
8. You Can Get It If You Really Want
9. A Little Bit Of Soap *
10. Let Your Yeah Be Yeah
11. Wild World
12. Synthetic World
13. Goodbye Yesterday
14. The Bigger They Come, They Harder They Fall
15. Sitting In Limbo
16. Those Good Good Old Days
17. Pack Up Hang Ups
18. Bongo Man (A Come)
19. Struggling Man
20. Harder They Come
* Previously Unreleased

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