今回はVarious(オムニバス)もののアルバム

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「Life Goes In Circles: Sounds From The Talent Corporation
1974 to 1979」です。

今回のアルバムは2006年にレゲエ・リイシュー・レーベル
Pressure Soundsから出されたアルバムです。
副題に「Sounds From The Talent Corporation 1974 to 1979」
とあるように、ジャマイカの音楽史を陰から支えたTommy Cowan
という人の主催するレーベルTalent Corporationの1974年
から79年までの音源を集めたアルバムです。

このTommy Cowanという人、私自身もあんまり耳馴染みのない
人でした。
ただ買ったのは日本盤の中古盤で、その帯には次のような言葉が
書かれていました。

「ボブ・マーリーを始めトップ・レゲエ・アーティスト達を
裏から支えジャマイカ・ミュージックを世界に広めた最重要人物
トミー・コーワン関連作品が遂に初コンパイル!!!最高かつ
貴重な音源を厳選収録!!!再発史に残る最高傑作!!!」

すごく熱の入った文章ですが、実際にアルバムに付いていた
Harry Hawkeという人の文章の、横沢サエさんという方の
日本語の対訳を読むと、このTommy Cowanという人はレゲエの
発展に重要な役割を果たした人のようです。

The Jamaicansというヴォーカル・グループでキャリアを
スタートした彼は、徐々にマネージャーの仕事で才能を発揮
するようになり、自身のレーベルTalent Corporationを設立
するんですね。

その合間にはマネージメントもこなし、Bob Marleyのアルバム
「Natty Dread」に関わったり、Peter Toshのファースト・
アルバム「Legalize It」の制作に関わったり、さらには
Fred Locksの一番有名なアルバム「Black Star Liner」の
制作に関わったりと裏方的な仕事をいろいろしている人
なんですね。

さらにはあの有名なBob Marley & The Wailersが参加した
ジンバブエの独立記念コンサートにも同行しているんですね。
暴動が起き警官が投げ込んだ催涙ガスを避ける為に顔を
濡れたタオルで覆って、まだ子供だったBob Marleyの息子
ジギーを抱きかかえて逃げたんだとか。
さまざまな形でレゲエの発展に貢献したのが、このTommy Cowan
という人らしいです。

全20曲で収録時間は69分04秒。

ミュージシャンについては以下の記述があります。

Produced and Arranged by Tommy Cowan for Talent Corporation Ltd. except
Tracks 5 & 6 Produced and Arranged by Wayne Jobson
Tracks 9 & 10, 15 & 16 Produced and Arranged by A.B.C. Records

Musicians:
Drums: Lowell 'Sly' Dunbar, Max Edwards, Clvin Mckenzie
Bass: George 'Fully' Fullwood, Ian Lewis, Robbie Shakespeare, Mikey Star
Rhythm Guitar: Mikey Chung, Roger Lewis
Lead Guitar: Earl 'Chinna' Smith
Organ: Mikey Chung, Ansel Collins, Franklyn 'Bubbler' Waul
Piano: Mikey Chung, Robert 'Robbie' Lynn, Augustus Pablo
Keyboards: Charles Farquharson, Bernard 'Touter'Harvey
Melodica: Augustus Pablo
Saxophone: Glen DaCosta, Dean 'Youth Sax' Fraser
Trumpet: David Madden
Trombone: Ronald 'Nambo' Robinson
Percussion: Bongo Herman,Uziah 'Sticky' Thompson, Sky Juice, Sydney Wolfe

Recorded at:
Channel One Recording Studio
Recording Engineer: Ernest Hookim
Dynamic Sounds Recording Studio
Recording Engineers: Sid Bucknor 6 Karl Pitterson
Joe Gibbs Recording Studio
Recording Engineers: Errol 'Errol T' Thompson
Harry J Recording Studio
Recording Engineers: Sylvan Morris
King Tubby's Studio
Recording Engineers: Osbourne 'King Tubby' Ruddock

となっています。

Sly & RobbieにChinna、Augustus Pabloなどこの時代の素晴らしい
ミュージシャンの名前が並びます。
見逃せないのがレコーディング・エンジニアで、Ernest Hookimや
Errol Thompsonなどレゲエの歴史を作った人の名前が並びます。
もちろんダブのミックスはKing Tubby。
期待の出来る布陣ですよね。

さて今回のアルバムですが、ルーツ・レゲエが好きな人なら
完全にヤラレちゃうアルバムだと思います。
このPressure Soundsというレゲエ・リイシュー・レーベルは
数々の素晴らしいアルバムを出していますが、その中でも
極め付きのアルバムのひとつだと思います。
それほどルーツ・レゲエ好きだったらハマっちゃう内容なん
ですね(笑)。

とにかく1曲1曲が、重いボディ・ブローを腹にズシッズシッと
浴びているような歯ごたえ聴きごたえのある1枚です。
その音の硬質な感じが、ルーツ好きにはたまらないんですね(笑)。
解説文の対訳などを読むと、このTommy Cowanという人は
ジャマイカ人の持つ独特の音楽性にこだわった人のようですが、
ちょっと重くちょっと暗いルーツ・レゲエでしか聴けない
その音楽性には、やはり魅了されてしまいます。

収録されているアーティストはDevon Irons、Abyssinians、
Jacob Miller、Little Madness、Desi Roots、 Augustus Pablo、
Earl Zero、Circles、King Tubby、Leroy Smart、Dennis Brown、
Two Rasta Man、Talent Crew、Ken Boothe、Roman Stewart、
Dillingerなど、おもにルーツ期に活躍した多彩な顔触れが揃って
います。
その中にはよく知られた名前も見られますが、そのアーティストの
別の一面も引き出しているのもこのアルバムの特徴のひとつです。

1曲目Devon Ironsの「Jerusalem」は、ソウルフルなヴォーカルが
強力なナンバーです。
しかも(Extended Version)でじっくり聴かせます。

2曲目「Love Comes And Goes」と3曲目「Love Comes And Goes」
は、Abyssiniansの曲が続きます。
「Satta Massagana」や「Declaration Of Lights」など宗教色や
政治色が強い歌を得意とする彼らですが、ここでは愛の移ろいの
歌をじっくりと聴かせています。
続くヴァージョンもKing Tubbyのミックスがキマっています。

4曲目Jacob Millerの「Ghetto On Fire」は、銃撃の音の
エフェクトがすごく印象的な曲です。
解説文にもありますが、この録音の時にスタジオにJunior Delgado
が居合わせ、Jacob Millerのテンションが上がって素晴らしい
録音になったんだとか。
Jacob MillerはJunior Delgadoをライバル視していたんですかね。
ともかくも彼のちょっと癖のヴォーカルが、効果を上げた
曲になっています。

5曲目「Mother Country」とそのダブ6曲目「Mother Country
Dub Side」はLittle Madnessの曲です。
ディープなヴォーカルに続いて、切れ味鋭いそのダブには、
やっぱりヤラレちゃいます。

7曲目「School Tonight」はDesi Rootsの曲です。
この人も最近Corn-Fedというレーベルから「Doing It Right」
というCD-Rが再発されましたが、アルバムも少なくかなり
レア化している人です。
このアルバムで聴けるのはかなり貴重だと思います。

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Desi Roots - Doing It Right (1980)

8曲目「The Way」はAugustus Pabloです。
やはりルーツといえばこのPabloのメロディカは欠かせませんが、
ここでは寂寥感のあるメロディを奏でています。

9曲目「City Of The Weak Heart」はEarl Zeroの曲です。
Earl Zeroといえばルーツの名曲「None Shall Escape The
Judgement」の作者としてよく知られている人ですが、ここでも
魅力的な歌声を聴かせてくれています。
10曲目Circles & King Tubbyの「Dub The Weak Heart」は、
そのダブです。
ここでもKing Tubbyの曲の輪郭を際立たせるダブ・ミックスが
光ります。

11曲目「The Road Is Rough」はLeroy Smart。
声を聴いただけで彼と解る歌声はやはり魅力的です。

12曲目タイトル曲の「Life Goes In Circles」はDennis Brown
のヴォーカルが光る1曲です。
明るい曲も得意とする彼ですが、こうしてしっとりと歌う時も
別の魅力があります。

13曲目「False Rumour」はTwo Rasta Manの曲です。
いかにも怪しげな名前ですが(笑)、誰かの別名出演みたいな
ものなのでしょうか?
ちょっと遊び心たっぷりの楽曲が、なかなか面白い1曲です。
14曲目King Tubbyの「False Rumour Version」はその
ヴァージョンです。

15曲目はEarl Zeroの「Please Officer」です。
ちょっと「None Shall Escape…」に似たノリのこの曲は、
彼の個性がよく出ています。
16曲目Talent Crewの「King Tubby's Version」はそのダブ。
King Tubbyの才能のよく解るダブワイズです。

17曲Ken Bootheの「Speak Softly Love」は、あの有名映画の
テーマ曲「ゴッド・ファーザー愛のテーマ」です。
ポピュラー曲として有名なこの曲ですが、「ミスター・
ロックステディ」と呼ばれたKen Bootheのソウルフルな歌唱力
は圧巻です。

18曲目はRoman Stewartの「Hit Song」です。
この曲の歌詞は解説文の中にもたびたび登場していますが、
このTalent Corporationを代表する1曲のようです。

「ヒットソングを歌いたい
しばらく歌ってない
ヒットソングを歌いたいんだ
止めないでくれ」

このアルバムの中でも特にポップで明るい曲です。

19曲目Dillingerの「Natty Sings A Hit Song」は、その
Roman Stewartの「Hit Song」のディージェイ・ヴァージョンです。
陽性なこの曲をDillingerはストイックにかっこよく歌いこなして
います。
そしてラスト20曲目はそのダブ・ヴァージョンDillinger And
King Tubbyの「Dub Songs」です。
さらにストイックさを増したこの曲は、ルーツ時代のダブの極致
とも言える出来です。

こうして曲を順番に追っていくと、これを作ったTommy Cowan
という人の人間性まで浮かび上がってくるから不思議です。
解説文によると、なんでもこの人はマネージメント力はあるものの、
他のプロデューサーと違って金儲けはあまりうまくない人だった
んだそうです。
自分の取り分よりミュージシャンの取り分を優先してしまって、
いつも赤字で苦しんでいたような人だったんだそうです。
その分人の力を引き出すのがうまく、まさにジャマイカの音楽界を
陰から支えた人だったらしいです。
そういう人が居たからこそ、ジャマイカの音楽はブレイクする事が
出来たのかもしれません。
そしてそれを実証するように、ここに収められたサウンドは
キラ星のように美しく輝いています。

ちょっと手に入れづらそうなアルバムなのがちょっと残念なのですが、
機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Various(オムニバス)
○アルバム: Life Goes In Circles: Sounds From The Talent Corporation 1974 to 1979
○レーベル: Pressure Sounds
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2006

○Various「Life Goes In Circles: Sounds From The Talent Corporation 1974 to 1979」曲目
1. Jerusalem - Devon Irons (Extended Version)
2. Love Comes And Goes - Abyssinians
3. Love Comes And Goes Version - Abyssinians & Bongo Herman
4. Ghetto On Fire - Jacob Miller
5. Mother Country - Little Madness
6. Mother Country Dub Side - Little Madness
7. School Tonight - Desi Roots
8. The Way - Augustus Pablo
9. City Of The Weak Heart - Earl Zero
10. Dub The Weak Heart - Circles & King Tubby
11. The Road Is Rough - Leroy Smart
12. Life Goes In Circles - Dennis Brown
13. False Rumour - Two Rasta Man
14. False Rumour Version - King Tubby
15. Please Officer - Earl Zero
16. King Tubby's Version - Talent Crew
17. Speak Softly Love - Ken Boothe
18. Hit Song - Roman Stewart
19. Natty Sings A Hit Song - Dillinger
20. Dub Songs - Dillinger And King Tubby


Pressure Soundsのルーツ・レゲエを集めたアルバムをもう1枚
紹介しておきます。

ルーツ期に原盤が作られずに直接レコード盤に焼き付けられた
曲の中から、Pressure Soundsが厳選した曲を集めたアルバム

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「More Pressure Volume 1」です。
これを聴くといかにルーツ・レゲエの時代に素晴らしい曲が
たくさん作られていたのかがよく解ります。
こちらもディープでズシッと心に響く曲が収められています。
こちらはまだレゲエレコード・コムなどでも販売されているので、
興味のある方はぜひ手に入れてください。
「Volume 2」も出して欲しいと願う1枚です。