今回はKing Tubbyのアルバム

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「Rocker's Almighty Dub」です。

King Tubby(本名:Osbourne Ruddock)は
ルーツの時代から活躍するダブのミキサー
であり、プロデューサーである人です。
もともと電気技師だった彼は、ルーツ・
レゲエの時代からミキサーとして活躍し、
ダブの創成期からダブを作った人として
知られています。

ダブはルーツ・レゲエが誕生した70年代
初め頃から徐々に作られるようになるの
ですが、1973年にダブのアルバムが
一斉にリリースされた事から一気に
ひとつのジャンルとして確立した音楽で、
エコーやリバーヴなどのエフェクトなど
を使用して原曲を全く別の曲に作り変え
てしまう手法を指します。

ダブ - Wikipedia

リミックスの元祖とも言われる音楽で、
誰が初めのダブを考案したかかはハッキリ
とは解っていないのですが、この
King Tubbyがダブという音楽を完成させた
と言われています。

自身のスタジオKing Tubby'sで、助手の
Prince JammyやScientistなどとともに
70年代から80年代にかけて多くのダブ
のミックスを手掛けたのが、この
King Tubbyという人なんですね。
その後も活躍を続けたKing Tubbyでした
が、1989年に自宅前で何者かに射殺
されて亡くなっています。

アーティスト特集 King Tubby (キング・タビー)

今回のアルバムは1979年にUSの
Brad Osbourneが運営するレーベル
Clocktower Recordsからリリースされた
アルバムです。

プロデュースはBrad Osborneで、演奏は
Bunny Leeのハウス・バンド
The Aggrovatorsと思われ、ミックスを
King Tubbyが担当したアルバムのよう
です。
レゲエ本「Roots Rock Reggae」などの
情報によると、77年にリリースされた
「King Of Dub」の続編として作られた
ダブ・アルバムで、全盛期のKing Tubby
のミックスが堪能出来るアルバムとなって
います。

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King Tubby - King Of Dub (1977)

手に入れたのはClocktower Records系列の
カナダのAbrahamというレーベルから
リリースされたCD(中古盤)でした。

なお今回のアルバムはアルバム・タイトル
だけで、アーティスト名の表記がありま
せん。
その為ネットの販売サイトの記述などを
見るとVarious(オムニバス)となって
いたり、King Tubby(King Tubby's)と
なっていたりと表記がまちまちです。
その為ここでは便宜的にKing Tubbyと
しました。

全10曲で収録時間は約32分。

詳細なミュージシャンの表記はありま
せん。

ただネットのDiscogsを見ると詳細な
ミュージシャンの表記があるので、
どうやらもともとはあった情報が削除され
てしまったようです。

それを見るとベースにFamily ManとBagga、
Robbie Shakespeare、ドラムにCarlton
'Santa' DavisとSly Dunbar、リズム・
ギターにAston 'Family Man' Barrettと
Tony Chin、オルガンにOssie Hibbert、
ピアノにAgustis PabloとBernard
'Touter' Harveyなどが参加していたよう
です。
メンバーを見ると、Bunny Leeのハウス・
バンドThe Aggrovatorsが演奏を担当して
いたと思われます。
プロデュースはBrad Osborneで、ミックス
はKing Tubby's StudioとJoe Gibbs
Studio、Bullwackies Studioなどで行わ
れ、Brad OsborneやDouglas Levy、
Ossie Hibbert、Pat Kellyなどがミックス
を行っているようです。
ミックスにある名前を見ると、King Tubby
本人がミックスしたアルバムというよりは
彼のスタジオKing Tubby'sでミックスされ
たアルバムというのが正しいようです。

このClocktowerレーベルのBrad Osbourne
はプロデューサーのBunny Leeとかなり
親交があった人で、今回のアルバムも
Bunny Leeから渡った音源から作られた
アルバムのようです。

さて今回のアルバムですが、この70年代
の後半にダブを量産していたKing Tubby
及びKing Tubby'sの素晴らしさを
あらためて実証するようなアルバムで、
内容はとても良いと思います。

もともとダブというのはエフェクトを多用
する事で、レゲエのミディアム・テンポの
リズムの中にへヴィーなサウンドを実現
した音楽なんですね。
King Tubbyはその第一人者で、曲の陰影を
より強調する事に長けていて、へヴィーで
素晴らしいダブをこの70年代後半に量産
したんですね。

彼King Tubbyのスゴイところはそのダブ
の作り方を体系化し、多くの彼の助手に
その作り方を伝授したところです。
それによりこの70年代後半に彼の
スタジオKing Tubby'sは、膨大な量のダブ
を量産する事が出来たんですね。

このKing Tubbyという人は徹底して合理的
な職人気質の人だったらしく、80年代の
前半にはPrince JammyやScientistなどの
助手にダブの制作を任せて、自分は元々
していた電気技師の仕事をしていたりする
んですね。
他に作る人が居ればその人に作らせる、
そういう発想は芸術家肌の人にはなかなか
できない発想で、そのあたりにKing Tubby
という人のとてもクールな性格がうかがえ
ます。

このKing Tubbyの理性的で職人的な音作り
はその後の音楽にも大きな影響を与え、
「現代の音楽はKing Tubbyから始まった」
という高い評価を受けています。
レゲエという音楽の重要人物のひとりが、
このKing Tubbyである事は間違いのない
ところです。

話を戻しますが、今回のアルバムは
そうしたKing Tubby(King Tubby's)の
全盛期の代表的なダブの1枚と言えると
思います。
このKing Tubbyの全盛期には
プロデューサーのBunny Leeとその
ハウス・バンドThe Aggrovatorsとの
コラボが非常に多いんですね。
(プロデュースがBrad Osbourneとなって
いますが、実質的にはBunny Leeの所有
する音源を使用したものです。)

このバックの演奏をしている
The Aggrovatorsは、70年代のルーツ・
レゲエの時代のChannel Oneの専属バンド
The Revolutionariesと並ぶ人気バンド
で、74年から75年の短期間だけ
ジャマイカで流行した「フライング・
シンバル」というビートやホーンを多用
した演奏などが特徴的なバンドです。
特にフライング・シンバルは、このバンド
の専属ビートと言っていいくらいに
The Aggrovatorsがよく使っているビート
なんですね、

レゲエ - Wikipedia

今回のアルバムでも独特のシャリシャリ
音が印象的な、フライング・シンバルが
いくつかの曲で使われています。

また2曲目の「Dunza Dub」はHorace
Andyの「Money Money」のリディムが使わ
れていますが、こうした70年代の
ルーツ・レゲエの時代のヒット曲が多く
使われているのもこのアルバムの特徴で、
そのあたりもルーツ好きにとってはとても
楽しめるところです。

1曲目は表題曲の「Rocker's Almighty
Dub」です。
リディムはHorace Andyの「Zaion
Gate」。
華々しいホーンのメロディにズシっとした
ベース、Horace Andyの甲高いヴォーカル、
ダブワイズしたホーンにリリカルな
ピアノ…。
ユッタリと溶け込んでいくようなメロディ
の、このルーツ期らしいダブです。

The Aggrovators - Rockers Almighty Dub - 01 - Rockers Almighty Dub


2曲目は「Dunza Dub」です。
リディムはHorace Andyの「Money Money」。
こちらも華やかなホーンセクションに、
Horace Andyの甲高いヴォーカル、ズシっと
したベースにリリカルなピアノ…徐々に
瞑想空間に引きずり込まれて行くような
ダブワイズ…。

King Tubby - Rockers Almighty Dub - Dunza Dub [Money Money Dub][reissue]


3曲目は「Storm & Lighting」です。
華やかなホーンにズシっとしたベース、
リリカルなピアノ、心地良い
パーカッション。

Aggrovators 1979 Rockers Almighty Dub A 3 The Revolutionaries Storm And Lightning


4曲目は「Something Nice Bout Da
Dub」です。
浮遊感のあるキーボードから、ベースを軸
としたド・渋な演奏のダブです。

5曲目は「I & I Land」です。
リディムはDennis Brownの名曲「No Mans
Island」
心地良いギターのメロディにDennis Brown
のヴォーカル、ドスの効いたベースにダブ
ワイズしたギター…。

The Aggrovators - I & I Land


6曲目は「Ten Pieces In One」です。
華やかなホーンとベースのメロディにダブ
ワイズ…。

7曲目は「Freedom Joy Dub」です。
花果なホーン・セクションのオープニング
から、ベースを軸にギター、ホーン、
ピアノなどが絡むダブです。

the aggrovators & the revolutionaries - freedom joy dub.wmv


8曲目は「Upful & Positive Dread」
です。
こちらも華やかなホーンとベース、ギター
のメロディのリズミカルなダブです。

Aggrovators 1979 Rockers Almighty Dub B 3 The Revolutionaries Upful And Positive Dread


9曲目は「Hold This Dub」です。
ぎたーの特徴的なメロディからズシっと
重いベースを軸とした演奏のダブ。

10曲目は「21 Gun Salute To Brother
Marcus」です。
リディムはJohnny Clarkeの「Murcus
Garvey」です。
印象的な雷音にホーンのメロディ、ズシっ
と重いベース、エコーの効いたJohnny
Clarkeのダブワイズしたヴォーカル…。

The Aggrovators - Rockers Almighty Dub - 10 - 21 Gun Salute To Brother Marcus


ざっと追いかけてきましたが、当時の
ルーツ・レゲエのヒット曲を多く使った
ダブで、King Tubbysの作成したダブの中
でも特に完成度が高いダブ・アルバムでは
ないかと思います。
この時代にミックスとダブを量産した
スタジオKing Tubbysの魅力が、よく解る
アルバムに仕上がっていると思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: King Tubby
○アルバム: Rocker's Almighty Dub
○レーベル: Abraham
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1979

○King Tubby「Rocker's Almighty Dub」曲目
1. Rocker's Almighty Dub
2. Dunza Dub
3. Storm & Lighting
4. Something Nice Bout Da Dub
5. I & I Land
6. Ten Pieces In One
7. Freedom Joy Dub
8. Upful & Positive Dread
9. Hold This Dub
10. 21 Gun Salute To Brother Marcus

〈2018年08月10日修正〉

●今までアップしたKing Tubby関連の記事
〇King Tubby & Friends「Dub Gone Crazy: The Evolution Of Dub At King Tubby's 1975-1979」
〇King Tubby & Soul Syndicate「Freedom Sounds In Dub」
〇King Tubby & Friends「Dub Like Dirt 1975-1977」
〇King Tubby & Prince Jammy「Dub Gone 2 Crazy: In Fine Style 1975-1979」
〇King Tubby And The Aggrovators「Shalom Dub」
〇King Tubby, Scientist「Ranking Dread In Dub」
〇King Tubby, Errol Thompson「The Black Foundation In Dub」
〇King Tubby「100% Of Dub」
〇King Tubby「Dangerous Dub: King Tubby Meets Roots Radics」
〇King Tubby「Dub From The Roots」
〇King Tubby「Fatman Presents: Unleashed Dub Vol.1」
〇King Tubby「King Of Dub」
〇King Tubby「King Tubby Presents The Roots Of Dub」
〇King Tubby「King Tubbys Presents Soundclash Dubplate Style Part 2」
〇King Tubby「The Fatman Tapes」
〇King Tubby「The Sound Of Channel One: King Tubby Connection」
〇King Tubby's (Scientist)「King Tubby's Answer The Dub」
〇King Tubby's「African Love Dub 1974-1979」
〇King Tubby's「King Tubby's Present Two Big Bull In A One Pen Dubwise」
〇Augustus Pablo「King Tubbys Meets Rockers Uptown (Deluxe Edition)」
〇Augustus Pablo「Rockers Meets King Tubbys In A Fire House」
〇Prince Jammy VS King Tubbys「His Majestys Dub」
〇Tommy McCook & The Agrovators「King Tubby Meets The Agrovators At Dub Station」
〇African Brothers, King Tubby「The African Brothers Meet King Tubby In Dub」
〇Aggrovators「Dubbing At King Tubby's」
〇Bunny Lee & King Tubby Present Tommy McCook And The Aggravators「Brass Rockers」
〇Various (King Tubby & Clancy Eceles All Stars)「Sound System International Dub LP」
〇Various「Firehouse Revolution: King Tubby's Productions In The Digital Era 1985-89」
〇Various「King Tubbys Presents Soundclash Dubplate Style」
〇Various「Once Upon A Time At King Tubbys」
〇Augustus Pablo「Ital Dub」
〇King Tubby's (Prince Jammy) And The Agrovators, (Delroy Wilson)「Dubbing In The Back Yard / (Go Away Dream)」
〇Harry Mudie, King Tubby「Harry Mudie Meets King Tubby's In Dub Conference Volume One」
〇Harry Mudie, King Tubby「Harry Mudie Meet King Tubby In Dub Conference Vol.2」
〇Harry Mudie, King Tubby「Harry Mudie Meet King Tubby In Dub Conference Vol.3」
〇Niney The Observer All Stars At King Tubby's「Dubbing With The Observer」
〇Niney The Observer「At King Tubby's: Dub Plate Special 1973-1975」