今回はMad Professorのアルバム

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「The Lost Scrolls Of Moses」です。

Mad Professor(本名:Neil Joseph
Stephen Fraser)は80年代からイギリス
の自分のスタジオAriwaを拠点に活動を
続けるプロデューサーであり、ダブの
クリエイターである人です。
プロデューサーとしてはSandra Cross
など多くのラヴァーズロック・レゲエの
アーティストのプロデュースや、Massive
AttackやJamiroquaiなど他ジャンルの
アーティストのプロデュースまで幅広い
ジャンルのアーティストをプロデュース
しています。
また「Dub Me Crazy」シリーズや
「Black Liberation Dub」シリーズなど
の数多くのダブを作った事でもよく知られ
ています。

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Mad Professor - Dub Me Crazy (1982)

レーベル特集 Ariwa (アリワ)

マッド・プロフェッサー - Wikipedia

今回のアルバムは1993年にUKの
Mad ProfessorのレーベルAriwaから
リリースされた彼のダブ・アルバムです。

この93年にMad Professorは代表作
「Dub Me Crazy」シリーズの最後の12作
目「Dub Maniacs On The Rampage」を
リリースしています。

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Mad Professor ‎– Dub Me Crazy 12: Dub Maniacs On The Rampage (1992)

その翌年の94年には4作作られた
「Black Liberation Dub」シリーズの
1作目が作られているので、その2つの
シリーズの間ぐらいに作られたのが、
今回のアルバムのようです。

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Mad Professor ‎– Black Liberation Dub (1994)

今回もMad Professorらしいクールさの
あるダブで、内容はなかなか悪くないと
思います。

手に入れたのはAriwa Soundsからリリース
されたCDの中古盤でした。

全12曲で収録時間は48分26秒。

ミュージシャンについては以下の記述が
あります。

Produced by Mad Professor
Recorded at Music Works, Kingston, Jamaica,
& Ariwa Studios, London
Mixed by Mad Professor at Ariwa Studios

Drums: Sly Dunbar
Bass: Obeah
Keyboards: Black Steel
Guitars: Black Steel, Gitsy
Brass: Winston Rose, Nile Hailstones
Guest Vocalists: Tinga Stewart, Pepper C., Cassey Man, Princess Sharifa
Design: Teemacdee

Thanks to: Yabby You, King Pin, Sharifa & Audrey, For The Vibes

となっています。

プロデュースはMad Professorで、録音は
ジャマイカのキングストンにある
Music Worksとイギリスのロンドンにある
Ariwa Studiosの2ヵ所で行われ、ミックス
はAriwa StudiosでMad Professor本人が
行っています。

参加しているミュージシャンはドラムに
Sly Dunbar、ベースにObeah、キーボード
にBlack Steel、ギターにBlack Steelと
Gitsy、ブラスにWinston RoseとNile
Hailstones、ゲスト・ヴォーカリストに
Tinga StewartとPepper C.、Cassey Man、
Princess Sharifa、という布陣です。

デザインはTeemacdeeとなっていますが、
これは「Dub Me Crazy」シリーズなどの
デザインを担当したTony McDermottの
事らしいです。
細かいイラストや色遣いなどが、彼の
デザインのようなんですね。

「Thanks to:」としてYabby You、King
Pin、Sharifa & Audrey、For The Vibes
という名前があります。
これらは今回のダブに使われた音源の、
元のアルバムに関わったアーティストでは
ないかと想像されます。
Yabby Youの名前がありますが、彼は
この93年にYabby YouとMad Professor、
Black Steelの共同名義のアルバム
「In Ariwa Studios」をAriwa Studios
からリリースしているんですね。

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Yabby You Meets Mad Professor & Black Steel ‎– In Ariwa Studios (1993)

そうした音源をまたダブに作り直している
ようです。

さて今回のアルバムですが、おそらく
このアルバムの前あたりに「Dub Me
Crazyシリーズ」にひと区切りをつけた
Mad Professorですが、このダブ・
アルバムでも変わらぬテンションを維持
してアルバム作りをしていて、内容は悪く
ないと思います。

「Dub Me Crazyシリーズ」などを聴いて
いても思うのですが、Mad Professorの
場合ダブという音楽が好きでダブ作りを
始めた人だけあって、あんまり精神面の
好不調でアルバムの出来の良し悪しが左右
される事が無いんですね。
この人の場合あんまり感情の起伏に囚われ
た音作りはしていなくて、理知的に音を
分解する作業を楽しんでいる傾向が見受け
られます。

その辺はレコード・コレクターとして
King Tubbyのダブを楽しんでいた時代に、
彼のダブから学んだ部分があるのかも
しれません。
冷静に音を分解してまた音を再構築して
行くような作り方が、意外とKing Tubbyの
ダブの作り方と似ているんですよね。
高いテンションで感情に任せた音作りと
いう作り方はしていなくて、あくまで
ひとつひとつネジをはずして行き、そして
また新し組み合わせに組み立て直すよう
な、丁寧な音作りをしている印象があり
ます。
そのためこの人のダブは、すごく高い
テンションで聴く事は無いのですが、
反面必ず水準以上のダブとして安心して
聴けるんですね。

このMad Professorの場合、ネットの販売
サイトなどの分類ではニュー・ルーツ系の
「デジタル・ダブ」という分類に振り分け
られる事が多いんですが、ネットにあった
この人のインタビュー記事などを読むと、
実はデジタルはあまり好きではなく、
アナログな設備で録音しているんだそう
です。
自分のスタジオAriwaが自分好みの音が
作れるようにセッティングしてあるよう
です。

一見デジタルに聴こえてしまうようでも、
実はかなり音のニュアンスを大事にして
作っているんですね。
そのあたりもKing Tubbyが80年半ば以降
のデジタルのダンスホールの時代に設備が
間に合わず、疑似的なデジタルのサウンド
を作っていたのと似ています。
その当時のKing Tubbyのサウンドは一見
デジタルでも、音に微妙にニュアンスが
あるんですね。
もっともKing Tubbyの場合はデジタルの
設備が間に合わなかったという、現実的な
要素が大きかったようですが…。

そういうひとつひとつの音に綿密に拘って
いる音作りだからこそ、次々にアイディア
が生まれ、飽きる事無く音作りが出来るの
かもしれません。

今回のアルバムでも出だしの2曲1曲目
「African Hebrew Chant」と2曲目
「African Hebrew Dub」あたりは、よく
聴くとジャマイカ録音か何かなのか、
かなり演奏に生音の感じがあります。
そうした音をさらに加工する事で、
Mad Professor独自の世界をうまく作り
上げているのがよく解ります。

このアルバムからはMad Professorという
ダブという音楽に魅了された人の、飽く
なき探求心が感じ取れます。
聴けば聴くほど魅了されるダブ、それが
Mad Professorのダブなんですね。

1曲目は「African Hebrew Chant」
です。
華々しいホーンのメロディに、ちょっと
デジタルがかった心地良いドラミング…。

2曲目は「African Hebrew Dub」です。
1曲目「African Hebrew Chant」のダブ
(?)です。
今回のアルバムではダブワイズした
インスト曲の次に、そのダブが続く曲が
いくつかあるんですね。
デジタル感のあるエフェクトから、さらに
エフェクトが多く加えられたダブ。

3曲目は「Land Of Canaan」です。
ホーンの奏でる情緒的なメロディと、
パーカッションの心地良いリズム、ネズミ
の鳴き声のようなエフェクト…。

4曲目は「Moses In The Bullrushes」
です。
ズシっとしたベース音に、ちょっとかすれ
た女性ヴォーカル…、漂うようなフルート
の音色…。

5曲目は「Jordan Crossing」です。
4曲目「Moses In The Bullrushes」の
ダブ。
漂うようなフルートにホーン、ベース音に
乗せたダブ。

6曲目は「Fire On Mount Sinai」です。
ギターのメロディのリピートから、
デジタルっぽい野太いベース音から
ホーン…。

Mad Professor - Fire On Mt Sinai


7曲目は「Dub On Mount Sinai」です。
6曲目「Fire On Mount Sinai」の
ダブ・ヴァージョン。
こちらはさらにパーカッションやギターが
強調されています。

Mad Professor - Dub On Mount Sinai


8曲目は「Amorites Dub」です。
野太いベースとホーンを中心とした
メロディのダブです。
途中にサックス・ソロあり。

9曲目は「Dead Sea Scrolls」です。
デジタルなベース音とストリングス、
サックスなどで構成されたダブ。

10曲目は「Subversive Literature」
です。
デジタル場ベースとパーカッション音など
の、いかにも電子音的なダブ。

11曲目は「Bogle Soca」です。
金管楽器とギターなどを使ったダブです。
パーカッションやこするようなエフェクト
音などが独特の世界を作り上げています。

12曲目は「Los Lomas」です。
犬や鳥、獣の鳴き声のエフェクトから、
野太いベース音やホーンなどを使ったダブ
です。

ざっと追いかけてきましたが、それまでの
冷笑的だった「Dub Me Crazy」シリーズ
などと較べると、かなりヒューマン(人間
的)な要素が盛り込まれているのが印象的
です。
この後Mad Professorはさらに人間的な
人種差別問題などを取り上げた「Black
Liberation Dub」シリーズを作り始めるの
ですが、このアルバムにはそれに至る予兆
が感じられます。

機会があれば聴いてみてください。


○アーティスト: Mad Professor
○アルバム: The Lost Scrolls Of Moses
○レーベル: Ariwa Sounds
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1993

○Mad Professor「The Lost Scrolls Of Moses」曲目
1. African Hebrew Chant
2. African Hebrew Dub
3. Land Of Canaan
4. Moses In The Bullrushes
5. Jordan Crossing
6. Fire On Mount Sinai
7. Dub On Mount Sinai
8. Amorites Dub
9. Dead Sea Scrolls
10. Subversive Literature
11. Bogle Soca
12. Los Lomas

〈2018年4月8日修正〉

●今までアップしたMad Professor関連の記事
〇Mad Professor & Jah Shaka「New Decade Of Dub +5」
〇Mad Professor / Ariwa Artists「Dub You Crazy With Love」
〇Mad Professor, Jah9「Mad Professor Meets Jah9: In The Midst Of The Storm」
〇Mad Professor「A Caribbean Taste Of Technology」
〇Mad Professor「Afrocentric Dub: Black Liberation Dub Chapter 5」
〇Mad Professor「Anti-Racist Dub Broadcast: Black Liberation Dub Chapter Two」
〇Mad Professor「Beyond The Realms Of Dub: Dub Me Crazy! The Second Chapter」
〇Mad Professor「Black Liberation Dub Chapter One」
〇Mad Professor「Dub Maniacs On The Rampage: Dub Me Crazy 12」
〇Mad Professor「Dub Me Crazy」
〇Mad Professor「Escape To The Asylum Of Dub: Dub Me Crazy 4」
〇Mad Professor「Evolution Of Dub: Black Liberation Dub, Chapter 3」
〇Mad Professor「Experiments Of The Aural Kind: Dub Me Crazy Volume 8」
〇Mad Professor「Hijacked To Jamaica: Dub Me Crazy Part 11」
〇Mad Professor「Psychedelic Dub: Dub Me Crazy 10」
〇Mad Professor「Schizophrenic Dub: Dub Me Crazy Vol.6」
〇Mad Professor「Science And The Witch Doctor: Dub Me Crazy Part 9」
〇Mad Professor「The African Connection: Dub Me Crazy Pt.3」
〇Mad Professor「True Born African Dub」
〇Mad Professor「Who Knows The Secret Of The Master Tape: Dub Me Crazy Part Five」
〇Jah Shaka, Mad Professor「Jah Shaka Meets Mad Professor At Ariwa Sounds」
〇Sandra Cross「Country Life + Dub」
〇Mad Professor「Dub Me Crazy Part 7: The Adventures Of A Dub Sampler」
〇Robotiks「My Computer's Acting Strange」
〇Tony Benjamin & The Sane Inmates「African Rebel」